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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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思い出にかわるまで SS1-8(青峰)

 昼食の後、なぜか三人仲良く並んで歯磨きに勤しむことになった。狭くはないが広くもない洗面所は大柄な男ふたりのせいでひどく窮屈な空間になっていたが、黒子は彼らの間で気にせずブラシを動かしていた。左右の大きな子供が張り合って威勢よくブラシを擦りつけ、ふたり揃って歯茎を軽く出血させているのを見て、馬鹿ですねえと思いつつ黒子は和んだ。
 青峰がにおい消しのガムを鞄から探している傍らで、黒子と火神はブレスケア用のグミを互いの口に放り合っていた。何やってんだおまえら……と脱力する青峰に気づいた黒子が、気が利かなくてすみませんとばかりにグミの袋の開け口をこちらに向けてきた。なんら臆することなく。火神はちょっぴり気まずそうにしていたが、特に弁明することもなく、もう一個くれと袋に手を伸ばした。が、先に黒子の指が袋の中に突っ込まれ、グミをひと粒取ると、火神の唇の押し付けた。火神はさすがに素直に口を開かなかったが、黒子が頑固にも唇にグミを付けてくるのに根負けし、結局食べさせられてやっていた。俺今日来ないほうがよかったんじゃね。青峰が帰りたい気持ちになっていると、火神が口をもごもごと動かしながら、そそくさとキッチンに戻っていった。片付けは自分がするから、黒子と青峰は先に部屋行って話でもしているようにとの指示を残して。黒子が、洗い物は僕の仕事ですと火神を追ったが、客をもてなすのがホストの務めだと諭され、青峰を連れて自室へと向かった。
「適当に座ってください。あとちょっと待っててください。青峰くん情報、確認しますので。……やりかけだったみたいですね」
 部屋に入ると、黒子は机の上に広げられたノートとメモをチェックしはじめた。過去に青峰と会った際に入手した情報や話の概要などを確かめ、会話の準備をしているのだ。そんなことはしなくていいと青峰は思うのだが、黒子は気になるようで、調子が悪くなければこういった努力を怠らない。
 一分ほどでざっと目を通したあと、黒子は椅子の上でぐっと背伸びをし、次いでふにゃりと脱力し、背もたれに沈みこんだ。
「テツ、疲れてるみたいだけど大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。それよりすみませんでした。携帯のメール、いま見るとやりとりした履歴はちゃんと残ってるんですよね。ただ、目印入れておかなかったのでそのまま忘れてしまったようです。すぐ大きなメモに残さないと駄目ですね」
 あまり器用ではない指先でもぞもぞと携帯を操作しながら、黒子が自嘲気味に肩をすくめる。
「なんかそんなことになるような予感はしてたぜ」
「すみません」
「まあ仕方ねえ。お袋さんにもメールしとけばよかったな。おまえじゃ心許ねえもん」
「母より火神くんのがいいかもしれません。意外にしっかりしてるので」
「なんで火神?」
「僕とよくつるんでくれるんです、ありがたいことに」
「つるむ……?」
「まあ、保護者に近い感覚なのかもしれませんが。いまの火神くんからすると、僕は子供っぽく感じられるでしょうから」
「保護者っつーかなんつーか、なあ……」
 あの親密さは明らかに只事ではない。そこはかとなくなんてレベルではない、あからさまに空気が甘い。加えて、両親の留守中に頼まれて泊まりに来るとは、実質一時的に家と黒子を任されていることになる。いまの黒子は長時間ひとりで放置できず、誰かしら見守る必要がある。その役を任されるとは、火神は黒子本人からだけでなく両親からも特別の信頼を寄せられているということだ。親公認のなんとやらか? と青峰が考えていると、黒子がつんつんと二の腕をつついてきた。
「青峰くん、火神くんのいまのアドレス知ってますか?」
「知るわけねえだろ」
「じゃ、あとで許可もらったら登録しておいてください」
「火神のを? うー、なんとなく気が進まねえな」
 しかし黒子に連絡を入れる際に便利だというのなら、聞いておいて損はないかと、渋りつつも拒否はしない。俺も丸くなったもんだと青峰は胸中で苦笑した。
「ところでテツ、携帯変えたのか?」
 別に中身に対して興味はなかったが、黒子の携帯のディスプレイをなんとはなしに覗き込みながら、青峰は尋ねた。機種やデザインはよく覚えていないが、二年ほど前に見たものとは色が違うということはわかった。確か以前はダークグレーだったのが、オフホワイトに変わっている。
「はい。確か何か月か前に機種変更しました。あ、四か月前ですね」
 と、黒子は携帯をひっくり返し、裏面のシールに記載された手書きの日付を確認した。
「どうにもまだ使い勝手が慣れなくて」
「四か月経っていまだに慣れないのか、さすがだぜ。しかしおまえが替えるとは珍しいな。なるべく同じの使っていたいんだろ?」
「そうですが、モノには寿命がありますから。とはいえ、なんで買い換えたのかは覚えていませんが。まだ使えるのに、なくしたとかうっかり水没させたとかという可能性もありますね」
 先代はどれくらい使ってたんでしょう? と黒子は首をひねった。考えたところで思い出せるはずもないのだが。
「割とスペックよさそうだな。おまえなら電話とメール、あとGPSが入ってりゃいいんじゃね? どうせ記録とかスケジュールはアナログにノートや手帳使ってんだろ」
「まあそうですけど……そんなおじいちゃんみたいな携帯は嫌です。僕、高校生なんですよ?」
「あー、はいはい」
「青峰くん、これの使い方わかります?」
「自分で調べず他人に聞いてくるあたりがご年配って感じだな。まあ、おまえが取説読むの苦手なのはわかってっけどよ」
 黒子は物事を手順どおりに組み立てることに困難を示す。それは行動だけではなく、その前段階である思考においても同じようで、取扱説明書の番号通りに進めようとしても、こんがらがってしまい、うまくいかないのだ。だからこそシンプルな機能の器械のほうが向いていると青峰は思うのだが、本人なりのプライドというかこだわりがあるらしい。それに、レコーダーの代わりになる録音や録画などの機能が備わっていたほうが幾分安心なのかもしれない。
 青峰は呆れつつも素直に黒子から携帯を受け取り、操作しはじめた。画面に触れると、ぽんぽんと表示が切り替わる。
「見たことない機種だが……こういうのは適当に触ってりゃ動くもんだぜ」
「その『適当』を毎回試行錯誤しなければならないんですよ、僕は」
「何を知りたいんだ?」
「重要メールにフラグをつける方法と……あと、それを待ち受けに表示する方法があれば知りたいんですが」
「あー?……」
 メールは基本的に読みっぱなしで特に保護などしない青峰にとって、黒子の要求する機能なんて存在するのかどうかもわからなかった。首を傾げつつ、出てきた画面をあてずっぽうにいじる。わかんねーなとぼやきつつ、説明書を求めず勘だけで操作しようとするところが青峰らしくはある。黒子は、もし青峰に教えてもらえるのならちゃんとメモしようと、文房具を手に準備していた。
「フォルダの中身、見ちまってもいいか」
「どうぞ」
「ん……? これ、火神専用フォルダか?」
 上から二つ目のフォルダのアイコンをクリックしたら、火神からのメールがひたすら並んでいた。
「あ、はい、そうだと思います。火神くんとはやりとりが多いと思うので、ほかの人のメールが埋没してしまわないよう、わけていたと思います」
「ふーん……。って、あれ、電話のほうに切り替わっちまった」
 パネルのタッチミスだろう、メール履歴ではなく通話の着信履歴画面が出てきた。特に詮索する気はなかった青峰だが、ディスプレイに表示された名前を見て、もしかしてと思い、スクロールバーを下げた。すると……
「なんじゃこれ!? 着信履歴、火神だらけじゃねえか! なんだこれ、呪いか!?」
 画面の九割を締める『火神大我』の四文字にぞっとし、思わず携帯を取り落とした。何かおぞましいものに触れてしまったかのように。ぶるっとわざとらしく身震いをして見せる。と、横で黒子が耳に掌底を当てて片目を瞑り、
「青峰くん、うるさいです」
 と文句をつける。パフォーマンス的な仕草ではあるが、言っている内容が訴えに近いことはすぐにわかった。黒子はいま音に敏感になっていると火神が言っていたことを思い出し、青峰ははっとして自分の口を手で覆った。
「お、おう、悪ぃ……」
 大丈夫かと尋ねると、黒子はこくんとうなずいた。そして、青峰が取り落とした携帯を拾い上げ、ディスプレイを彼のほうに向ける。やはり見間違えではなく、火神の名前が並んでいる。
「火神くんは家族以外で一番接点が多いので、自然こうなるんです」
「いや、不自然だろ、こんだけ火神だらけなのは」
「そうですか? 僕は交友関係狭いので、どうしてもこんな感じになってしまうんだと思います。火神くんは僕に根気よくつき合ってくれてるみたいですし」
 言いながら、黒子は機嫌良さげにふふっと笑った。
「ったく、しまりのねえツラして……。おら、貸してみろ、まだ操作探ってる途中だ」
 青峰が手の平を上にむけて黒子の前に出す。黒子はお願いしますと言って彼の手に携帯を置いた。
 再び携帯を操作する。他人のメールや写真になど特に興味はないが、触ったことのない機種なので、どんなスペックなのかと少々好奇心を覚え、関係のなさそうなアイコンもタッチして遊んでみる。と、代わり映えのないフォルダの中に入ったアイコンに指が触れたとき、それが展開された。突然、ディスプレイが切り替わる。何やら画面がうごめいていて、音まで聞こえてきた。隅に表示された拡張子を見るに、ムービーファイルだったようだ。ダウンロードファイルではなく、手撮りのようで、画面が細かく揺れている。黒子が撮ったのだろうか。記憶の代わりのファイルだとしたら、下手な操作をしてうっかり消去したらまずいかもしれない。どれが停止ボタンに当たるのかと首を傾げていると、ディスプレイに見慣れた顔が映った。黒子だ。
『あ、映ってます、映ってます。大丈夫そうですね』
 角度からすると自家撮りのようだ。就寝時と思われるラフな服装の黒子がベッドらしいところに腰掛け、のんびりした口調でしゃべっている。
『それでは、え~……○月×日、いまから火神くんとセックスします。気合いはばっちりです。ええと、何回目でしたっけ? 少なくともはじめてではないです。結構体が馴染んでるっぽいので』
(……!?)
 アダルトビデオよろしくそんな口上を述べる黒子に、青峰は固まった。と、次に画面が激しくぶれ、何やら布のような黒い物体が全面に映し出される。そして別の人間の音声が流れてくる。
『ちょ、黒子、てめ、何カメラ回してんだ!』
 火神の声だ。おそらく黒子から携帯を取り上げたのだろう。ということは、画面いっぱいに広がる黒は、火神の服か。
『カメラじゃないです。携帯です』
『携帯についてるカメラなんだから、結局カメラってことだろーが。ったく、携帯新しくしてからこっち、はしゃぎすぎだ。まさかムービー機能目当てで買い換えたんじゃねえだろな』
 携帯を体から離したのか、また画面の内容が変わる。ディスプレイを見下ろす火神の顔が映る。しかめっ面だが、どこか甘やかしを含んだ感がある。
『あ、火神くん、駄目ですよ、勝手にボタンに触っちゃ。せっかく高画質モードで調節してたんですから』
『駄目なのはそっちだ。俺にはハメ撮りプレイの趣味はない』
 また画面が激しくぶれる。しかも何度も。時折壁や天井が写っては消えていく。きっと火神が携帯を頭上に掲げ、取り返そうとした黒子が腕を伸ばしている図が展開されているのだろう。
『僕だってそんな趣味ないですよ。プレイ目的で携帯を構えているわけではありません。ただ純粋に、記録に残したいだけです』
『おまえの意志をできるだけ尊重したいとは思っているが、頼むからそれだけはやめてくれ……』
『きみだけが行為を覚えているなんてずるいです。僕だって、最中の火神くんの裸とか声とか、覚えていたいんです。でも無理だから、せめてあとから見られるようにと』
『鑑賞する気か!?』
『そりゃそうです。そのための録画じゃないですか』
『駄目だ、許可できん』
『なんでですか。僕が個人的に楽しむだけだから、減るようなもんじゃないですよ』
『俺の尊厳が減るわ。あと、恥ずかしいんだよ』
『……? なぜです?』
『なぜって、おまえ……』
 いつの間にか揺れが治まっていた。画面がまた全体的に黒くなる。どちらかの服にディスプレイが当たっているのだろう。その間も黒子と火神の間ではぶっ飛んだ会話が進行する。
『僕、やっている最中は火神くんのこと見ているし、声聞いてますよね』
『そりゃまあ……』
『そこで一回見たり聞いたりしているなら、あとで二回や三回に増えたって同じじゃないですか』
『そういう問題じゃねえ。とにかく駄目だ。おら、切るぞ』
『あ、駄目です、火神くん。確かまだ一回も記録撮れてないんですよ? 今日こそ撮りたいんです。お願いします』
『駄目だ』
 画面が変わる。火神の顔。録画モードを切ろうとしているらしい。
『あ、火神くん、そんなことしちゃ……』
 ディスプレイに一瞬の肌色、そしてまた暗くなる。黒子が携帯を取り返そうとディスプレイを握ったようだ。また画面が揺れる。ふたりで取り合っているらしい。
『黙れ。こら暴れるな、おとなしくしろ』
『ああん、駄目ですって、火神くん、火神くんってば……っんん!』
 ちゅ、と湿った音が一瞬だけ聞こえたかと思うと、それまでのやかましい会話が嘘のように消え、沈黙が落ちる。くちゅ、くちゅ、と水っぽい音だけが流れてくる。もしかしてこれはアレか。
(キス……!?)
 画面はほぼ黒いが、ディスプレイの中では何やらとんでもないシーンが展開されているらしい。別に見たくも聞きたくもないが、完全に硬直した青峰の頭には、停止ボタンを押さねばという考えも浮かばなかった。
 やがて沈黙が終わり、先刻よりも勢いを失った黒子の声がする。
『なんかいままでもこういう感じでごまかされてた気がするんですけど……』
『そうだな、おまえキスでへろへろになるからな』
『う~……』
『カメラ回してる限り、これ以上はしねえぞ』
『……わかりました。切ります。火神くんて絶対毎回、こうやって僕にカメラ切らしてますよね』
『さあな』
 ディスプレイに黒子の不満そうな顔が映った。じっと画面を見つめている。オフにすることに抵抗を示すように。
『ずるいです。僕が火神くんに逆らえないの知ってるでしょう』
『そりゃ俺のが力も健康状態も圧倒的に強いけどよ……おまえを無理やりどうこうなんてしたことねえぞ? 疑ってんのか?』
『違います、そういう意味じゃありません。惚れた弱みってやつですよ。……僕、火神くんのこと……その、大好きなんですから。昔から、ずっと。……あの、ちゃんとお伝えしたことなかったですか?』
『いや……知ってるよ』
『よかった……。あ、ええと、だからですね、僕は火神くんのことが大好きだから、きみが本気で嫌がることをお願いなんてできないんです。だから、きみがどうしても駄目だって言うなら、従うしかないんですよ』
『むくれるなよ。その、嫌がるっていうかな……しょ、しょうがねえだろ、やっぱ恥ずかしいんだからよ』
『まあ、僕だって記憶力がまともだったら、きっときみと同意見でしょうから、ここはきみの意見を尊重します。……万一映像が流出したりしたら、きみの迷惑になる可能性ありますし』
『おまえそんなこと考えてんのかよ』
『僕はいいですよ、社会的地位なんてゼロどころかマイナスですから。でもきみは――』
『よせ。怒るぞ』
 黒子のセリフを遮った火神の声には剣呑な響きがあった。数秒の沈黙のあと、黒子のしょぼんとした声が響く。
『……ごめんなさい。卑屈でした』
『あー……そんなしょげるな。なんかいじめたみたいな気になるだろうが。……まあしょうがないか。おまえ、いまでもそういう気遣いできるんだもんな』
『やっぱり気になりますよ、そういうのは。直接的にも間接的にも、僕は健康な人たちに面倒を見てもらってる立場なので。どうしても気になっちゃうんです。ふふ……多分、こんなふうに、きみとしてるとこ撮りたいって駄々こねるの、何回もやってるんでしょうね。でも絶対、僕折れるでしょう? きみが応じないってわかっててやってるんです、ごめんなさい、性格悪くて。きみとくだらないやりとりで揉めるの、楽しいので。きみがこの程度のことで本気で腹を立てたりしないって思って甘えちゃって……馬鹿みたいに下世話な話をして笑っていられる時間が楽しいんです。その間だけは昔に戻れたみたいで。それでもって、きみが撮影を許すはずないってわかってるから、安心していられるんです。僕の思い出のためだけに、きみにとって醜聞になりかねない映像を撮らしてくれなんて言えませんよ』
『おまえな……』
『あ、すみません。まだオフにしてませんでした。すぐ切りますので、キスもセックスもお願いします。……あっ、火神くん?』
 と、少しだけ遠景になる。黒子と火神、ふたりの横顔が画面に映る。驚いた様子の黒子の真ん前で、火神がカメラに流し目を向けている。
『キスだけならいいぜ。……けど、一瞬だぞ?』
『ふっ……う、んん!』
 火神の宣言通り、一瞬だけだったが、確かに映像として映しだされた。ふたりが唇を合わせる瞬間が。
 そして一秒にも満たない時間の後、今度こそ画面が真っ暗になった。そこで録画がオフにされたらしく、ムービーは途切れ、画像ファイル選択画面に戻った。
 結局最初から最後まで見てしまった青峰は、携帯を手の中に構えたまま、ただただ呆然とするばかりだった。

つづく

 


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