※火黒はリバです。黒子のほうがネコ指向が強いため火×黒ですることが多いけど、黒×火もたまにやっている感じ。
季節外れ……とは言い切れない扇風機が佇むベッド横。マットレスの上には、全裸で胡座をかき不似合いな小難しい顔で腕組をする火神。一メートル弱先に対面するのは、同じく全裸で正座をし、ぴんと背筋を伸ばす黒子。これまた神妙な顔つきだ。姿勢と雰囲気だけは、大河ドラマで政の密談をしているかのようである。もちろん、話し合いの中身はこの上なくろくでもない内容であるのだが。
数分に渡る沈黙ののち、黒子が大きな目をすっと鋭くした。珍しいその目つきのまま、向かいの火神を見やる。
「ひとに見られている環境で、きみがどうしてもたたないというのなら、僕が火神くんを抱きましょう。それですべては解決します。万時OKです。ナイスアイデアと、褒めてください火神くん。すばらしい発音で」
どうにもならない解決案と、ついでにかわいらしい、けれどもこの状況下では図々しいと思える要求を突きつけた黒子に、火神が唸るような低い声を出す。
「おい……それで何がどう解決するってんだ」
「だって、たたなかったらどうしようもないじゃないですか。火神くんの意気地なし」
「そんな意気地はいらん。俺は見られて興奮するような性質は持ち合わせていない」
事情はこうである。
降旗の依頼を叶えるべく、彼に見せるためのセックスを演じようとした黒子と火神。……が、その意志を持っているのは黒子だけで、火神は断固拒否。黒子が強硬手段に打って出るも、火神が心身ともに拒絶状態なので埒が明かない。このままでは間接的に赤司からの依頼も達成できないことになる。危機感を覚えた黒子は、発想の転換を試みた。その結果ひとつの妙案が膠着した現状に一筋の光として差し込んだ。それは――火神くんが萎えちゃって僕を抱けないなら、僕が火神くんを抱けばいいじゃないですか、というものである。黒子としてはこれ以上ない名代替案だと自負しているのだが、火神の返事は相変わらずつれない。きみの頭でこれ以上のアイデアが浮かぶんですかとジト目になりつつ、黒子が呟く。
「やってもいないうちからそんな……と言いたいところですが、確かにそうでした。デパートのトイレに連れ込んだときも、プールのシャワー室で誘ったときも、青姦をおねだりしたときも、すっごくそわそわして集中してくれませんでしたからね。見た目の印象に反して神経細かすぎです、火神くん」
あんなに乗り気な僕に恥をかかせるなんてひどいです火神くん。理不尽な文句を垂れる黒子に火神が頭痛を感じつつ呻く。
「いや、普通だろ。おまえが神経ずぶとすぎるんだよ」
「僕は火神くんが存在するという、ただそれだけのことで劣情を喚起されるというのに」
「おまえそれ、赤司と言ってること変わんねえから」
いや、話を聞く限り赤司の降旗への要求のほうがマイルドな気がする。なんだあいつほんとに紳士じゃん。一瞬でもそう感じてしまった火神の頭も、きっとたいがい侵されている。
が、指摘された黒子は露骨にむっとする。
「恋人にムラムラするのは自然なことです。むしろしなくなったときのほうがピンチです」
「限度があるわ」
短く切り捨てる火神。しかし黒子は引き下がらない。はあ、とため息をついたあと、降旗に見立てた扇風機を視線で示す。
「でも、降旗くんに見せるだけなら衆人環視というわけじゃありませんよ。ギャラリー一名なんて、知れてますって」
「よりにもよって友達に見せるとかありえねえ」
「うーん、確かに火神くん、気が散ると途端に反応が悪くなりますからねえ……あ、でも、考えようによってはむしろそのほうが好都合かもしれません。降旗くんも反応が悪いということですので、そういう場合にどうやってやればいいのか、きっとすごく参考になりますよ」
現状すら利用しようという、大変ポジティブな思考を繰り広げる黒子に、火神が思わず怯む。
「ちょ、待て……」
「僕は火神くんに抱いてもらうほうが好きなのですが、背に腹は代えられないですからね。僕が火神くんを抱くことですべてがうまくいくのなら、それを選びます」
「代替案を出す前に、まずは諦めるという選択肢を検討しろ」
妥当な意見の火神だが、黒子に本人以上の名案と思わせるアイデアを示さない限り、暴走を止めることはかなわない。黒子は火神の意見などどこ吹く風、着実に話を進めていく。
「火神くんはどっちでも大丈夫ですよね。タチばっかじゃ疲れる、嫌だとか言ってくるくらいですし」
「あ、や、それは……」
「僕に抱かれるの、好きでしょう? 気持ちよさそうですもんね」
「う……」
言いよどむ火神。頻度の差はあるが、結局どちらも同じくらい楽しんでいるのは事実である。
「いつも抱いてもらってばかりでは申し訳ないので、降旗くんへのレクチャーでは僕が火神くんをあまーく抱いて差し上げますね。火神くんが普段僕にしてくれてるみたいに、とっても優しく」
わざとらしいくらいイイ笑顔を見せつける黒子。火神はいよいよ退路を断たれたと感じずにはいられなかった。
「そっ……そんな気遣い、いま発揮してくれなくていい!」
「では、さっそく練習しましょう。タチは得意じゃないので、入念なトレーニングが必要です」
す、と黒子が腰を上げベッドに腕をつくと、獲物に忍び寄る小型肉食獣のように音もなく火神に接近する。
「お、おい、待て……」
火神の制止を聞かず、彼の肩を押して後ろへ倒す。速やかな動作でその胴に跨ると、黒子は楽しげに言った。
「久々のリバですよ~。たまにはいいじゃないですか。楽しみましょう。……ね?」