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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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赤司くんの伝わらない善意

「降旗くんのちょっとした非日常」の続きです。


 夕刻、黒子がダレながらも数学の課題をこなしていると、鞄に仕舞いっぱなしにしてあった携帯に着信があった。コール音からすると、火神およびバスケ部メンバー以外からの電話だ。誰だろうと鞄を探ると、ディスプレイには比較的珍しい、けれどもよく知る人物の名前が表示されていた。無視するのは恐ろしいし、現状、これといって出られない理由もないので、特にためらわず通話ボタンを押す。
「赤司くん?」
「テツヤ。幾分久しぶりだ」
 間違いない、赤司の声だ。驚くほどではないが、そうそう電話で話すような仲でもないので、意外に感じる。そして、いったい何の用かと訝る。雑談でもしたいという理由で電話をしてくるような人物ではない。
「珍しいですね。どうしたんですか」
「誠凛バスケ部について質問がある。いや、なに、探りを入れているわけじゃない。バスケとは直接関係のないことだ。バスケ部に、おまえと同程度の背格好をした茶髪の男子はいるか。多分同級生だ」
 挨拶もそこそこ、いきなり本題に入る。説明もなしに。不気味に感じつつ、黒子は素直に応じる。積極的に口応えしたい相手ではない。また、意図はわからずとも、少なくとも卑怯な手段で危害を加えてくることはないと信じている。やるときは堂々とやる人なので。
「茶髪で僕くらいの体格ですか……。髪は短いですか?」
「長くはないが、特別短くもない。おまえと似たり寄ったりだろう。いまのおまえの正確な髪型は把握していないが」
「降旗くん……でしょうか。彼が何か?」
 情報が少ないし、確定したわけではないが、その特徴をもつバスケ部の同級生というと消去法で降旗になる。しかし、なぜ赤司が降旗について聞いてくるのか。接点は特にない……と思いかけた黒子だが、あったあったと思い出す。降旗にとっては恐怖の象徴になったであろう、仰天シーンを。
「降旗くんがどうしたんですか」
「今日、そのふりはた?……くんと思しき生徒に会った」
「あれ、上京してたんですか。でも、なんで降旗くんに会ったんですか?」
「偶然だ」
 それしか答えてくれない。どんな偶然があればあのふたりが遭遇することになるのかは想像もつかないが、とりあえず偶然赤司と降旗(らしい人)が会ったという情報だけは把握した。しかし、そんな報告をされても……と黒子は戸惑った。おそらくこのあと、何かしらの情報が加えられるのだろうが。
 赤司は数秒間を空けてから、またしても唐突に聞いてきた。
「少しデリケートな質問になるのだが、もしかして彼は心の病を患っているのだろうか?」
「は、はい?」
 脈絡がないにもほどがある質問だ。心の病なんて、降旗には程遠いと黒子は思った。むしろ患っているのは赤司くんのほうじゃ、とすぐさま思ったが、声に出すほど愚かではない。相手の言葉を待つ。
「いや、そんなたいそうなものではないと思うんだが……こう、あがり症が過ぎるとか、極度の対人恐怖症とか、軽いパニック障害とか、そういう兆候はないだろうか」
「え、え、ええっ?……いや、降旗くんはごく普通ですよ? そんなすごい元気なわけでもないですが、暗くもなく、よく気が利いて仲間思いで、普通に普通のいいひとです。なんでそんな疑いを持つんですか?」
 黒子が怪訝な面持ちで聞き返す。
「今日会ったとき、尋常でなく緊張していたんだ。妙にびくびく震えていてあと一歩で過呼吸でも起こすのではないかと思えるくらいだった。初対面の人間に対して常にあんな調子だとしたら、試合はもちろん普段の生活に差し支えているのではないかと、少々気になった。いや、向こうは僕をいくらか知っている様子だったが、双方的な面識は今日がはじめてのはずだ」
「はあ」
 それは初対面の人間に緊張したんじゃなくて、単に赤司くんが怖かっただけなのでは。どれだけ第一印象悪かったと思ってるんですか……。きみは覚えていないっぽいですが。
 胸中でそう突っ込むと同時に、黒子は不安になる。そんな拒否反応に近いアレルギー状態の降旗が、赤司と出会ったなんて。無事に済んだのだろうか。というかいま現在、降旗の身は安全なのか。
「あの、いったいどういう状況だったんですか? いまの話だけじゃ、何をどうコメントすればいいのかさっぱりなんですが……あの、降旗くんに何かあったんでしょうか?」
 焦燥感に駆られつつ、うっかり妙な発言をして相手の機嫌を損ねたくなかったので、黒子はつとめて冷静に質問をした。
「あったといえばあったが、無事解決した。問題ない」
「そうですか……。でも、きみが初対面の人間のことをそこまで気に掛ける理由がわからないのですが。バスケ絡みでもないんですよね?」
「ああ。彼に関してちょっとした事件というか事故があったので、その後の無事が気がかりでな」
「え、じ、事故?」
 不穏な単語が飛び出した。事故? もしかして大変なことが起きたのか?
「案ずることはない。大事なく済んだ。が、幾分特殊な状況だったので、気になるんだ。変な別れ方になってしまったし」
「はあ……。なんか抽象的すぎて、いまいち事態が掴めないんですが……ともかく、降旗くんと思しき人物は無事だということでいいんですね」
「だと思う。が、帰宅の無事は確かめていないので、あとでおまえから確認してほしい」
「わかりました。でも、わけもわからず無事ですかと聞いても、彼が混乱するんじゃないかと思います。話を切り出すためにも、多少僕にも情報をくれませんか」
「いいだろう。が、彼の名誉のために、第三者にあまり詳しく話すのは控えようと思う。掻い摘んで話すことにする。多少婉曲でわかりにくいかと思うが、想像力で補え」
「は、はい……?」
 なんだかさっぱり事態が呑み込めない。黒子の頭の中は疑問符だらけだ。しかし赤司は構わず、説明をはじめた。
「今日の午後、ゆえあってある店で降旗くんらしい男子と出会い、そこでしばらく会話をしていた。諸事情により会話のほとんどはトイレの個室で行った。彼は……なんというか、体調がちょっとよくなかった。用を足す的な意味ではないのだが。それでまあ、僕が介抱しようということになったのだが、彼は遠慮の限りを尽くして断ってきた。遠慮深い性格なのだろう。他人に気を遣いすぎる性質なのかもしれない。奥ゆかしいことだ。しかし放置できる状況でもなかったので、なかば強引に手を貸すことにした。すごい拒否っぷりだったが、本当に、放置はできなかったんだ。誰が居合わせたとしてもおそらくそう判断するだろう。そんなわけで本人の意志を少々犠牲にするかたちになってしまったが、僕としてはより妥当であると考えられる選択をした結果、彼に助力することにした。喚いたり暴れたりは多少あったが、とりあえず丸く収まった。このあたりは彼にとって楽しい話ではないだろうから、あまり話さないでおこう。とにかく何事もなく問題解決に至ったと思ってくれればいい。しかしその後緊張の糸が切れたようで、彼は泣き出してしまった。子供のように、わんわんと。高校生とは思えなかった。どうやら、嫌がる彼の意志に反した行動を僕が取ったことがショックだったらしい。嫌だの怖いだのと喚いていたからな……。しかしあの場面ではああする以外なかったのだが。弱い拳で僕の肩あたりをぽかすか殴ってきたが、同時に抱きついてもくるというアンビバレンツな行動を取っており、相当混乱しているとわかった。八つ当たりだと感じたが、助けたことに対し別に感謝しろとか恩着せがましく言うつもりはないし、尋常ならざる事態に混乱し興奮していたことを考慮すれば、そのような反応になるのも致し方ない。とにかく落ち着かせようと、トイレから連れ出そうとしたのだが、彼はそれなりの時間にわたり無理な姿勢を続けていたため、足腰が立たなくなってしまっていた。仕方ないのでその場で泣きやむのを待った。どのみち動かそうにも、自力では歩けなかったからな。多少落ち着いたところで、彼をその場で休ませ、その間に僕が近くのしまむらで一番安い服を買ってきた。というのは、やむを得ない事情により彼の腰回りがぐっしょり濡れていたからだ。夏なら自然乾燥でいいだろうが、いまの時期だと体を冷やすからな。あまり清潔な状態でもなかったし。可及的速やかに買い物を済ませ戻ったはいいものの、彼はやっぱり腰が立たないので僕がほぼ着替えさせた。案の定、ものすごく遠慮されたがな。具合が悪いときくらい素直に甘えていいと思うのだが。幾分抵抗され暴れられたので、つい技を仕掛けてしまった。無論、怪我はさせていないが、危うく泣かれるところだった。その後歩ける程度に回復したので、駐輪場に行った。そこで彼はありがとうごめんなさいと五十回くらい繰り返した後、服の代金と諸々の経費ということで僕に一方的に五千円札を押し付け、逃げるように自転車に乗ってその場から去ってしまった。その段階でも結構ふらついていたから、事故を起こしていないか少々気がかりだ」
 少しばかり冗長な説明だ。時系列は多分きちんとしている。前後関係もだいたい理解できる。しかし全体としてわけがわからないと黒子は感じた。なんというか、随所に突っ込みどころがありすぎる。赤司の宣言通り、あえて迂遠な言い回しにされているせいもあるだろうが、とりあえずこの話だけでは状況が掴めない。わかるのは、降旗と赤司の間に何かがあり、その結果降旗が泣いたらしいということだ。
「ちょ、え、あ、ああああ、赤司くん!? いったい何をしたんですか!? 泣かせたんですか!?」
「別に悪いことは何もしていない。泣いたのは彼の勝手だ。まあ、少し驚かせてしまったのかもしれないが」
「驚かせた? 脅した、じゃないですよね?」
「まさか。唇を合わせただけだ。あれが一番効いたようで、それまで喚きどおしだった彼を数秒沈黙させることに成功した。不意打ちとはこうやって使うものだと、改めて感じた。その後、予定通りうまく事を運べた。衝撃にびくついていたが、まあちゃんと抜けたし、結果オーライと言えるだろう」
 なんかすごい爆弾落としてきましたよこの人! 唇合わせたって……まさかキス!? 事を進めたってどういうことですか。人工呼吸とかいうオチじゃないですよね。いや、むしろそうあってほしいんですが。でも、だとしたら降旗くんの容態がやばいということに。自転車で帰れたくらいだから、呼吸停止なんて起きたとは思えないけれど……。
「く、唇って……」
「いや……しかしこの件では特に大きな文句はなかったな。必要な措置であったと彼もわかってくれたのだろう。錯乱していただろうに、理解力があってよかった」
「さ、錯乱した相手に何を!? 赤司くん、どれだけ降旗くんをびびらせたんですか!?」
「びびって……いたのだろうか? 確かに終始緊張していたとは思うが、別に脅かすような真似はしていないぞ」
 赤司は心底不思議そうに言った。黒子に尋ねるというより、自問なのだろうが。
「話を聞く限り、怯えきっていたとしか」
 黒子とて判断材料は赤司の話だけだが、どう控えめに解釈しても、降旗は赤司の一挙手一投足に緊張し、恐怖を覚えていたとしか思えない。
「僕は彼に何かまずいことをしただろうか」
「むしろ、まずくないことのほうが少ないのではないかと思えるのですが……」
 しばし沈黙が落ちる。自分の言動を振り返っているのだろうか。
「では……あれがまずかっただろうか?」
「あれ……?」
 何を聞いても恐ろしい話しか出てきそうにないので尋ねたくはなかったが、さりとてスルーするほどの勇気もない。黒子は、練習よりも試合よりも心拍数が上がっているのを感じた。
「いやなに、たいしたことではないのだが、やむを得ず短時間だが拘束した。それが本人的には嫌だったようだ。解放してしばらくしてから、また泣き出してしまった。僕をして予測困難な行動を取るタイプの人間だと思い、感心してしまった」
「こっ、こっ……拘束!?」
 まさかの不穏な単語に驚くと同時に、そんなことをしたら泣かれるだろうことくらい簡単に予測できるでしょうに、と思う。いや、赤司に一般的な感覚を求めても無駄なのだろうが。
「仕方なかったんだ。放っておくと這ってでも逃げ出しそうだったから」
「逃げたくなるようなことを……!?」
「それとも……下着を無理やり脱がせ……あ、いや、これは詳しく話さないでおこう。彼に失礼だ。十代の男子にとって、誇れることではないだろうから」
 聞けば聞くほど恐ろしい情報が洪水のごとく流れてくる。中途半端に放出しては肝心なところで止めるので、余計に不安を煽られる。黒子の脳内にはもう、降旗を被害者とする物騒な妄想が出来上がりつつあった。
「はあぁぁぁぁぁぁ!? ちょ、あ、あああああ、赤司くん、まじで何やってんですか!? 名前も知らない相手に、そっ、そんなことを!?」
 思わずちょっとばかり言葉使いが乱れる黒子。問いただそうとするも、赤司は、
「彼の名誉のため、詳細は話せない」
 としか言わない。
「話せないようなことしたんですか!? どんな名誉に関わるようなことしちゃったんです!? ちゃ、ちゃんと合意だったんでしょうね!?」
「彼が同意するのを待っていたら埒が明かないと思ったので、概ね強引に事を進めた。緊急事態だったからな、不可抗力というものだ」
「え、え、ええぇぇぇぇぇ……」
「事後処理は僕がうまくやっておいたから気にすることはない。金銭上の心配もいらない。ただ、彼があのあとちゃんと帰れたのか少し心配だった。終始ふらついていたから。僕は連絡先を知らないから、おまえのほうからそれとなく無事を確認してくれ。それから、痛めたというほどではないだろうが、二、三日は腰痛が出るだろう。部活の際は注意してやれ」
「よ、腰痛……」
「あと、渡された金についてだが、しまむらで服を調達したくらいでは五千円には届かない。釣りを返したいのだが――」
 黒子は電話口でぽかんとするしかなかった。携帯の向こうで、赤司がその後の降旗の様子について報告の連絡を寄越すようにと告げてから通話を切ったが、黒子の脳に彼の言葉は届かなかった。

*****

 赤司からのとんでもない電話から数十分。
 黒子はずっと悶々としてしまい、まったく課題に手がつかずにいた。降旗にメールなり電話なりしなければと思い、携帯を握り締めるのだが、どう切り出していいのかわからず、メール本文の作成画面を開いてぽちぽち何十字か打ってはクリアボタンを押し、また降旗の番号を表示したまま通話ボタンを押せずに固まるということを繰り返していた。
 いったいトイレでどんな話をし、何をしていたというんですか。嫌がったとか泣かされたとか腰が痛いとかズボンが濡れたとか拘束したとか脱がせたとか……降旗くんに一体何が。赤司くんはいったい彼に何をしてしまったのか。
 決定的な部分をぼかされたまま、変なところで詳しく語られたので、無駄に想像力が刺激されてしまう。いっそひと思いに電話で単刀直入に聞いてしまえばいいだろうか。いや、万一降旗の精神が落ち着いていないとしたら、大変なことになりかねない。時間ばかりが過ぎていく中、ふいに携帯が鳴った。先ほどと着信音が異なる。ディスプレイを確認するまでもなく火神だとわかった。
「火神くん? どうしました」
 動揺に声が震えないよう、いつもよりややゆっくりめに応答した。不自然なほどではないだろう。すると、電話口の火神が妙に元気のない声でぼそっと言った。
「黒子……少し前に降旗が俺のうちに来たんだが」
 いまのいままで思考の中心にいた人物の名前が出され黒子はどきりとした。降旗が火神の家に。ということは、赤司と別れた後、火神宅を訪れたことになるのか。
「降旗くんが? 何かあったんですか?」
「それが……なんか妙にふらふらしてて……憔悴した様子だったんだよ……」
「え」
 火神が不安そうにそろそろと告げてくる。
「ビニール袋の中に服入れて持ってて、何かと思ったら、ズボンの腰回りがこう……ぐっしょり濡れてて……多分どっかで着替えたんじゃないかと思うんだが。下着も入ってて、やっぱり濡れてた……絞った形跡はあったけど」
「ええっ」
 驚きつつ、赤司の語っていた内容と照合し、一致しそうだと感じる。とはいえ、なぜ衣類が濡れることになったのかについては聞かされていないので、わかることといったらせいぜい、赤司と一緒にいる時間に降旗のズボンと下着が濡れたのではないかということくらいだ。
「何があったんだって聞いたんだけど、降旗のやつ、へらへら笑いながら、覚えてないっつーんだよ」
「覚えてない?」
「どうも、嘘吐いてるとかごまかしてる感じじゃなくて、ほんとに覚えてないっぽいんだ。ただ、記憶が抜けてるのは本人もわかるみたいで、どっかの店行ってトイレ入って、そっからよくわからなくなって、気づいたら自転車でそのへん走ってたんだと。ズボン濡れてる理由もわからないみたいだ。自転車漕いでたらなんか変にだるくなって漕げなくなったらしい。偶然俺の家の近くに来てたみたいで、訪ねてみたってことだ。なんかあんま具合よくねえみたいで……いまうちで休ませてる。家には連絡させといた」
 黒子は背筋がひやりとした。記憶が脱落するなんて、尋常ではない。火神の話からすると、降旗は自分が赤司と会ったことを言っていないらしい。意図的に言わないのか、その部分の記憶がすっぽり消えているせいで話しようがないのかは判断できないが。
「そ、そのときの降旗くんの様子は? その、取り乱してたとかあります?」
「いや、むしろ落ち着いてた感じ。なんでこんなわけのわからないことになってるんだ? って不思議そうにはしてたけど。その割にへらへらしてた。あ、ただ……」
「ただ?」
「なんか……腰が痛いっつってたんだけどよ……」
「こ、腰ですか」
 これも赤司が言っていた。しばらく腰痛が出るかもしれないと。
「風邪ひいて関節が痛いって感じじゃなかった。理由は本人もわかんねーみたいだし、なんか追及もしづらいから、とりあえず深入りはやめておいた」
 火神からの報告に、黒子は十数秒頭を抱えた後、ぼそりと言った。
「覚えていないって、それ、アレじゃないですかね。解離症状」
「かいり?」
「ショッキングな体験をしたときに、その間の記憶が抜け落ちてしまう現象です」
 多少飛躍しているかもしれないが、赤司と一緒にいた時間と降旗の消えた記憶の時間帯は一致しているような気がする。だとすると、元凶はやはりあの人物か。しかし、いかんせん情報が少なく断定はできない。下手に火神に推測を話せば、混乱した火神が降旗に妙なことを言ってしまう可能性がある。黒子はあえて赤司の名は出さないことにした。
「や、やっぱりなんかやばいことあったのかな、降旗……」
「さ、さあ……あんまり考えたくありませんが」
「あんましつこく聞かないほうがいいよな……」
「そうですね。気にはなりますが……」
 寝た子を起こすな。あるいは、触らぬ神に祟りなし。
 黒子と火神は、現状では降旗にあれこれ詰問するような真似はせず、ただ動向を見守ろうということで合意した。
 翌日、部活にやってきた降旗はいつもどおりのテンションで、特に異常な点は見られなかった。ただ、やはり腰痛を訴えており、リコもそれを認め、練習は早めに切り上げさせられていた。心配ではらはらする黒子と火神をよそに、降旗本人は、なんで腰痛いんだろう? とただ不思議そうにするばかりだった。

 

 

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