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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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男子中高生の悪ノリ 2

 部活終了後の部室で平和に松葉崩しだの駅弁だのを模擬実践して楽しんでいた三人は、日向に説教され誓約書を書かされたあとようやく解放され、帰途へと着いた。図書館に寄りたいという黒子に、ふたりはつき合った。それではせっかくなので、と謎の理由をつけ、黒子は日本文化史という名のエロ伝統について真面目に考察した大型本の貸し出しの延長手続きをして戻ってきた。また今度一緒に見ような! などと三人で話しながら再び歩き出す。この下級生三人に、日向の言葉は微塵も響いていなかった。
「それにしてもキャプテン、何もあんな怒ることないのになあ……」
「ちょっとした遊びだというのに……生真面目ですね。あんなことでは生きづらいでしょうに」
「えきべんってそんなにまずいことなのか?」
 火神だけ的外れな発言をする。どうやら彼は、駅弁の本当のかたちをわかっていないようだ。あまり現実的な体位ではないので、ピンと来ないのも仕方ないかもしれない。
「あー……火神くんはそのままでいてください」
 知らないなら知らないで問題はないと考え、黒子は適当にあしらっておいた。どうせこのメンツで本物を実践することなどあり得ないのだし。
「なあ黒子、写真、まだあったりする?」
 降旗が好奇心を隠そうともせずわくわくと尋ねる。黒子は得意げに、わずかに口の端を持ち上げた。
「ありますよ。家に帰ればフラッシュメモリにたっぷりと。携帯にも、まだ結構残っています。いろいろフォルダ分けしてありますので。見たいですか?」
「もちろん!」
「見たいな」
 意見は揃った。ならば場所だが、さすがにマジバで騒ぐことはできない。いや、画像を見るだけなら問題ないだろうが、一緒に馬鹿騒ぎをするのが楽しいのだ。興に乗り過ぎたからといって店内でセックスの真似事をするのはいくらなんでもまずい。となると、帝光時代のようにカラオケボックスが無難か……と黒子が思案していると。
「あ、なんなら俺んちで飯食ってく? 必要ならパソコンもあるぜ」
 火神のありがたい申し出が。乗らない手はない。
「え、火神くんのご飯?」
「行く行く! なあ黒子、いいだろ? 火神がいいって言ってくれてるし」
「はい、異論なんてありません。でもいいんですか、火神くん?」
「おう。どうせ大量につくるから、多少人数増えても手間は変わんねえよ。でも、材料揃えにスーパー寄ってくぞ。遅くまで開いてるとこ近所にあるから」
「嬉しいです、火神くんのご飯」
「やったー」
 火神を左右から挟むかたちで歩きながら、黒子と降旗がそれぞれありがとうと礼を言う。
「ちゃんと家に連絡しとけよ。……で、何がいい? 時間掛からないので頼むわ」
「そうですね……オムライスとかどうでしょう? そんなに難しくないですよね?」
「ああ、楽な部類だ。米は鍋で炊いちまえば早いし。降旗はそれでいい?」
「うん、好きだよ」
「じゃあ決まりだ」
 きゃっきゃとはしゃぎながら、三人は火神ご用達のスーパーで買い出しに立ち寄り、アパートへと向かっていった。
 火神が夕飯をつくる間、黒子と降旗はノートパソコンに携帯の例の写真たちを読み込ませ、ある意味食後のデザートとなる娯楽の準備をしていた。写真の大きさは変えられないが、三人で覗き込むには携帯よりはパソコン画面のほうが便利である。途中、降旗は火神の手伝いに行き、黒子はふたりに見せる写真を厳選し、スライドショーを作成していた。
 黒子と降旗がふわとろのオムライスに感嘆の声を上げてはしゃぎ、火神が黙々と山盛りのチキンライスを口に運ぶという食卓のあと、手早く洗い物を終え、いよいよお楽しみの時間となった。パソコンを置いたローテーブルの前で、まずは黒子が正面を陣取ると、ちょいちょいと火神に手招きをする。
「火神くん、せっかくなので背面座位っぽく僕を抱えてください」
「はいめ……? どういうのだ?」
「英語でなんていうのかわかんないんですけど、多分やればああこれかってなると思います。ええと、まずはテーブルとちょっと距離を取って座ってもらって――」
 火神を座らせ開脚させると、そこに乗るような格好で黒子がちょこんと座り、もたれかかる。脚は適当に崩しておく。
「ああー。なるほど、これのことか」
 火神は合点がいったというようにうなずいた。有名というか基本なので、さすがにわかるようだ。日本語の名称で言われるといまいち理解できないというだけで。
「これ好きなんですよ」
「いいなー、俺もやってもらいたいかも」
 黒子の左横に座った降旗が羨ましがる。ふたりとも大きくはないが日本人としては平均的な体格なので、自分より圧倒的に大柄な相手にもたれかかる機会はそうそうない。
「じゃ、あとで交代ということで。火神くん、いいですか?」
「構わねえけど」
「でも、長時間だと火神くんの脚が痺れちゃうと思うので、腰は床に下ろしますね」
 そう言って黒子は床に胡坐をかいた。横からふたりの様子を見ていた降旗は、その体格差に思わず唸る。
「なんか大人と子供みたいだな」
「ふふ、この背徳感がいいでしょう。火神くんと降旗くんでも似たような感じになるでしょうが」
 黒子が楽しそうに答える。降旗が、写真撮っていい? と携帯のカメラを構える。黒子は火神の許可を取った後、わざとらしいくらい脚を開き右手を後ろに回し火神の首に引っ掛けるようなポーズを取ると、さあシャッターを、と促した。その手の撮影に慣れない降旗の撮った写真はいまいちだが、いかにも素人臭さがにじみ出ており、これはこれで悪くないと黒子はコメントした。あとで自分と火神の携帯にもデータを送信してくれるよう頼んだ。
 まずは一発おふざけを終えると、元の位置に戻り、本題に入る。
「それではせっかくなので、キセキ的な馬鹿のはじまりの話をしましょうか」
 と、黒子がエンターキーを押す。スライドショーの最初の写真は、赤司が不敵な笑みを浮かべ、青峰の顎を片手で思い切り掴んでいるシーンだった。優雅に脚組みをしてソファに座る赤司とは対照的に、青峰は隣で重心を崩している。肌の色が濃いのでわかりにくいが、おそらく青ざめていると思われる。
「これは、赤司くんによる制裁が発動されたときの模様です。というか、元々制裁からはじまったんですよね、あの遊び」
「犠牲者は青峰か」
「それと黄瀬くんです」
 と次のスライドを見せる。今度は黄瀬が、一枚前の青峰と同じように赤司に顎を掴まれていた。黄瀬はこの時点ですでに涙を流していた。
「期待を裏切らないメンツだな」
「彼らは、僕たちがこういう馬鹿をやらかすそもそものきっかけになった人たちですから。この写真は、まさにはじめてのときの模様です。なんと懐かしい」
 ほう、と黒子はちょっとうっとりするようにため息をついた。
「何したんだよ、あいつら」
「部室で絡み合ってました。残念ながら写真は残っていませんが、青峰くんがロッカーに押し付けた黄瀬くんに後ろから覆いかぶさって、周囲の部員も一緒に、バック! バック! とかなんとか盛り上がっていました。傍から見ると黄瀬くんいじめですが、黄瀬くんもノリノリで、『ああんもっと! 青峰っちぃ!』とか楽しそうに言っていたので、問題ありません。合意の上での行為です。もちろんふざけてただけですし、その後僕たちが行うようになった割と本格的なセックスごっこに比べればはるかにかわいいものでしたが……場所が悪かったんです」
「部室かー。赤司が黙ってねえだろ」
「むしろ無言のまま殺しに掛かってましたけど。金属バット持って」
「うお、さすが」
「バットってあたりがリアリティあるなー。学校なら普通に調達できそうなグッズだからな」
 ひえ~、と戦慄する火神と降旗だったが、死者が出ていなことは明らかなので、胸中では笑っていた。とはいえ、赤司の怖さは体感済みなので、馬鹿にすることはできない。

 逃げ惑う青峰くん黄瀬くんと、一言も発しない赤司くんとの恐怖の鬼ごっこは十分ほど続きました。なぜ終了したかというと、帰宅時刻を告げるチャイムが鳴ったからです。部活が終わったのに生徒が遅くまで残っているというのは、教師たちへの心証を悪くしかねません。そのへんは理性的というかきっちりわきまえている赤司くんは、ひとまず切り上げることにしたんですね。まあ、これで許されるはずもなかったのですが……。
 帰宅前、赤司くんはキセキのみんなと僕を呼び付け、これからある場所へ行く、黙ってついてこいと命じました。異論など挟めるはずもなく、全員一致で従順についていきました。青峰くんと黄瀬くんは自業自得ですが、ほかの三名はとばっちりです。まあ紫原くんは命じられなくても誘われればついていったでしょうが。緑間くんは上役なのに彼らを止められなかった責を問われる羽目に。彼はああいうのに免疫がないので、部室の外に逃げちゃってたんですね。かわいそうに。僕は囃し立てるようなことはしませんでしたが、堂々と見学していたので、まあやっぱり責められることに。黄瀬くんにリードをつけておかなかったことは反省点です。あ、何も本物のリードをつけるという意味ではないですよ?
 赤司くんは途中でコンビニに立ち寄り、何やら買ってすぐに出てきました。そしてまた何も言わずに歩き出しました。連れて行かれたのは、ぼろいカラオケボックスでした。持ち込みの規制が緩く、料金も安めのところです。平日なので込んでいませんでした。赤司くんが代表になって受付を終え、僕たち六人はまとめてひとつのボックスに入りました。席は十分。しかし歌を歌いたいような雰囲気では到底ありません。上座のソファの中央に腰掛けた赤司くんだけは妙に楽しそうでした。紫原くんはマイペースにお菓子をかじっています。残り四人は、座禅よりもぴっしりと背筋を伸ばし、お見合いよりも緊張しながらソファに座りました。これほどカラオケボックスに似合わない雰囲気もないでしょう。
 コンビニのビニール袋をテーブルに置き、赤司くんが言いました。
「まあそう固くなるな。別にリンチのためにおまえたちを呼んだわけではない。むしろストレスを解消するための場を提供したいと思ってのことだ。部室で風紀を乱すのを看過するわけにはいかないが、思春期の遊び心を真っ向否定する気もない。そこで代替手段を提示するのが妥当だと考えた。よって皆にはここで思う存分楽しんでいってもらいたい」
「は、はあ……」
 要するに、部室で妙なことをしたら殺すが、それ以外の場所なら多少羽目を外してもいいということなのですが、言い回しが難しかったので、多分肝心の青峰くんと黄瀬くんの脳味噌には届かなかったと思います。しかしそんなことはお構いなしに、赤司くんは続けました。
「とはいえ、戸惑う気持ちはわかる。……よし、まずは提案者として、俺が渾身のギャグをかまし、皆の心をほぐすとしよう」
 唐突にギャグをやるとか言い出しました、僕らのキャプテン。嫌な予感しかしませんでした。どんなお寒いネタが飛んで来ても盛り上げなければならないという試練なのかと、僕らは身構えました。
「青峰、こっちへ。黄瀬もだ」
 赤司くんはふたりを招き寄せると、自分の両サイドに座らせました。ふたりはもうカチンコチンに緊張していました。集合写真の最前列の人並みにきちんと腕を伸ばし拳を膝に当てています。彼らの背丈からするといつも最後列でしょうから、不慣れな感じは否めませんでした。赤司くんはまず青峰くんの顎を掴みました。最初に見せた写真がそのときのものです。撮影者は紫原くんです。いつ命じられたのかは知りませんが、ちゃっかりスタンバっていました。僕がそのデータを持っているのは、あとで送信してもらったからです。
「青峰、溜まっているなら、解消させてやろう」
 そう言うと、赤司くんは空いているほうの手で青峰くんのベルトを外し、ズボンのウエストを引っ張って隙間をつくりました。そして、青峰くんの顔を掴んでいる手を放し、それを先ほどのコンビニ袋に突っ込み、中身を取り出しました。出てきたのは鶏卵。ゆで卵のベテランたる僕は、一目でそれが生卵であることを見抜きました。
 赤司くんはテーブルの端で殻にひびをいれると、おもむろにそれを青峰くんのウエストに差し入れ、片手で器用に殻をふたつに割りました。当然の結果として、卵の中身がどろりと重力に従って落ちていき、青峰くんのズボンの中に入りました。何事かとざわめき立つ僕たち。硬直する青峰くん。
 赤司くんは割れた卵の殻を軽く掲げると、勝ち誇ったように言いました。
「受精卵」
 ……。
 …………。
 ………………。
 これはひどい。なんという辱めでしょう。獣姦の暗喩じゃないですかこれ。
 ギャグっていうか、もはや公開処刑ですよね。鶏の生卵を股間に流し入れて、受精卵て。いまだと笑えますが、当時は凍りつくしかありませんでした。そんな中写真を撮り続けた紫原くんの精神は異常だと思います。ギャグ漫画だったら緑間くんのメガネのレンズはぱりーんといい音を立てて割れていたことでしょう。
 一分ほどブリザードが吹き荒れました。やがて、我に返った青峰くんが吼えました。
「ちょ、おま、赤司、何すんだよ! 気持ち悪っ! これめっちゃ気持ち悪っ! 冷てーし!」
「皆、なぜか異様に緊張している様子なのでな、場を和ますための一発芸だ」
「一発芸!?」
「和むだろう?」
「凍るわ!」
「そうだな。正確には現段階では芸が完結しない。というわけで青峰、完成させろ」
「は!?」
「だから、受精卵として成立させろと言っている」
 …………。
 恐ろしい発言が飛び出しました。しかし僕が真っ先に心配したのは、赤司くんの発言の意味が理解できる程度に、青峰くんの頭に理科の第二分野もしくは保健体育の知識が入っているかということでした。
「おまっ……正気か!?」
 心配は杞憂に終わりました。一応理解できたようです。むしろ深刻なのは黄瀬くんで、これから同じ目に遭わされるのがほぼ確定しているというのに、首を傾げてきょとんとするばかりでした。頭の悪い犬のようでかわいいのですが、僕は大分心配になってきました。彼の脳みそが。いえ、本当に心配すべきは緑間くんなんですけどね。賢い彼は言葉の意味は理解できるけれど目の前の現実が理解できないようで、いまにもつむじから黒い煙が立ち上りそうでした。
「もちろん。芸というのは全力で行ってこそエンターテイメント性を発揮する。さあやれ。おまえも溜まっているものを解消できて一石二鳥だ」
 赤司くんはあくまでギャグだと言い張りましたが、どう考えても処刑です。
 こんな感じで青峰くんへの制裁がひとまず終わりました。あ、この一発芸が完成することはありませんでした。青峰くんは年頃の少年らしく健全にエロいだけで、けっして変態ではありませんので。というか、いまだかつて赤司くん発案のこのギャグの完成形を見たことはありません。まあ、ばっさり切ってしまえば生物学的に絶対不可能なので、ホモ・サピエンスである以上この芸を極めることはできないのですが。

 黒子の淡々とした語り口に、降旗と火神は盛大に肩を震わせるしかなかった。
「受精卵! 受精卵て! 赤司の発想に脱帽! さすが天才! 思いついても実行なんて普通できない! やべえ惚れそう!」
 テーブルをばしばし叩く降旗。
「ひでえ! これは青峰に同情する! すっげえ気持ち悪そうだ!」
 火神は黒子の正面に腕を回して反対側の肩を掴み、笑いを堪えるべく肩に顔を埋めていたが、耐えきれなくなって面を上げ、唾をディスプレイに飛ばす勢いで笑った。黒子は平静にスライドを送り、
「はい、青峰くん、あまりの気持ち悪さに半泣きになっていました。精神的ダメージも大きかったことでしょう」
 自分の股間を見つめ涙目になっている青峰の写真を出した。それを見たふたりは、画面を指さして大笑いした。
「しかし、どうやって後始末したんだこれ?」
 生卵って洗濯面倒臭いぞ、と妙に所帯じみた観点で質問をする火神。
「一発芸という名の制裁終了後、トイレでジャージに替えて、水道のところで簡単に手洗いしたそうです。パンツの替えはなかったので、戻って来たとき、裸ジャージで落ち着かないと言っていました」
 ということは、このあとの写真に出てくる青峰は、見た目では分からないがノーパンということか。それを想像し、火神はまた吹き出した。
「お母さんになんて言うんだよ、生卵で汚れた理由」
「青峰くん大雑把ですからね、きれいに洗えていなくて股間のとこ中途半端にドロドロのまま洗濯に出しちゃったみたいで、おうちの人によからぬ疑惑を掛けられ、大変だったらしいです」
「そりゃ大変だ」
「どういうわけか、青峰くんのお母さんから僕のうちにテンパった電話が掛かってきました。ごめんなさいうちの大輝がなんてことをぉぉぉぉ! みたいな」
 何をどうやったらそういう発想に行きつくんでしょうね、と黒子が頬に手を当ててため息をついた。
「おいおいお母さんひどいな! 青峰、加害者だと思われたのか!」
「まああれが被害者になるとは考えにくいだろうしな。だからって黒子を被害者と解釈するのはどうかと思うけど」
「まったくです。ひどい濡れ衣です。ちなみに黄瀬くんにうちにも電話が来たらしいです。黄瀬くんあんまり賢くないので、何のことだかわからず、曖昧な対応をしたみたいで、より一層疑惑を深める結果になりました。というか、あのとき、青峰くんの後、続いて黄瀬くんも制裁を受けて受精卵されてましてね――」
「受精卵されるってどんな日本語だよ! 火神が変な日本語覚えちゃうよ!」
 当たり前のように変な動詞を使う黒子に、降旗が真っ当な突っ込みを入れる。が、黒子は気にせず続ける。
「――電話口で青峰くんのお母さんに向かって、『あ、俺もやられたんでわかるっス。あれほんと気持ち悪いっス。あまりのことにショックで泣いちゃったっス』的な発言をかましまして、事態を悪化させました」
「黄瀬最高だなおい!」
「っつーか黄瀬泣いたのか。やっぱりというかなんというか。まあ、何かされる前からすでに泣いてたみたいだけど」
「やられた直後は放心して床に座り込んでいました。一分くらいして、じわじわ涙が出てきたかと思うと、わんわん泣きだしました。多分、現実が意味不明すぎて彼の脳では処理しきれなかったのでしょう。その前に緑間くんの脳がクラッシュしてましたけど。まあ、ふたり目ということもあり、黄瀬くんについてはこうなるとみんな予測がついていたので、ハンカチやジャージを用意して待ち構えていました。至れり尽くせり。青峰くんのときとは大違いです」
「そこでみんなに気遣われるほうが拷問じゃね?」
「ってか、赤司ほんと怖いな」
「これだけじゃ済みませんでしたよ。実はズボンを洗いに行く許可が出るまでの間に、もうひと波乱ありまして――」
 さらっと述べる黒子の言葉に、そういうのまで許可がいるのか、と火神と降旗は改めて赤司の権力に慄いた。

 かつてないほどブルーモードな青峰くんと、えぐえぐ泣き続ける黄瀬くんに、赤司くんが容赦なく命じました。
「食べ物を粗末にするのは忍びない。青峰、黄瀬、きちんと処理しろ」
「……は?」
「……え?」
 ふたりともきょとん顔です。僕も一瞬きょとんとしましたが、すぐに赤司くんの意図を理解し、震え上がりました。緑間くんはほとんど意識がありませんでした。紫原くんはマイペースでした。
「日本人なら生卵くらい食べられるだろう。調味料はないからそのままになるが」
「え、え、ええ!? 食えって、食えってことか!? この卵を!?」
 僕に遅れること十秒ほど、青峰くんも理解したというか動物の勘的なもので危険を察知しました。
「まさか、な、なななな、舐めろってことっスか!? 無理っス! 俺自分の股に顔がつくほど体柔らかくないっス! 背骨おかしくなっちゃう!」
 これに関しては黄瀬くんのほうが鈍かったです。半分正解、半分不正解です。
 変な解釈をする純情な黄瀬くんの頭を青峰くんがはたきます。
「ちげーよ! そんなビックリ人間みてーな方法のわけねえだろ!」
「ふふ、黄瀬は純粋だな……よし、青峰、おまえが先にやって見本を見せるといい。黄瀬とはそういう仲なんだろう? 部室で外聞もなくいちゃつくくらい?」
 青峰くんの顎を再び掴み、顔を近づけた赤司くんがあやしくささやきました。青峰くんは可能な範囲で首を激しく左右に振り、全力で拒絶を表しました。
「いやだぁぁぁぁぁ! っつーかそれ誤解だし!」
「HAHAHAHAHA、ふたりとも図体でかいのにかわいいなあ。すごくそそる。むしろ俺が食べてしまいたいくらいだ」
 赤司くん、興にノリすぎてキャラが変わっていました。

「……とまあこんな感じで、疑似フェラを強要されていました。青峰くんはアホなりに察しがよかったんですが、黄瀬くんは、馬鹿っていうかアホっていうか……とても純粋でした」
「駄目だ黄瀬おもしろすぎる」
「赤司鬼畜すぎだろー」
 火神と降旗は、腹筋が! 腹筋が死ぬ! カントクのメニューよりきつい! と笑いの中でむせながら、息も絶え絶えに叫んだ。
 ひとしきり笑い転げたあと、火神の脚の間で黒子が首を回し降旗を見た。
「降旗くん、そろそろ交代しますか」
「あ、いいの?」
「どうぞ。あ、どうせなので、四十八手のアレ、試しましょうか」
 黒子が立ち上がりながら提案すると、降旗と火神は声を揃え、
「アレ?」
 同時に首を傾げた。
「まあ、まずはさっさと実践しましょう。言葉で説明するより早いです。火神くんはこうやって、胡坐を崩す感じで座って……降旗くんはこのへんに乗るような気持ちで……そうそう、脚はがばーっと開いちゃいましょう。まあさっき僕がやってたのとほぼ同じわけですが。雅な名前で言うと、絞り芙蓉です。雰囲気づくりのため、火神くん、どちらかの手を降旗くんの股間に添えましょう。そうそういい感じです。愛撫してる感じが出て実にすばらいい」
 てきぱきと指示を出し、ちゃっかり写真用のポーズまでとらせる黒子。傍から見ると弁明しようもなく性的な格好の降旗だが、
「へ~、絞り芙蓉っていうのか。かっこいい名前がついてんだな」
 自分の姿勢には注意を払わず、新たな知識に関心を示していた。
「黒子おまえほんと手際いいな……」
 火神はちょっと呆れ気味だったが、黒子が携帯のカメラを向けると、キメ顔を演じてくれた。今度ハメ撮りプレイやりたいですね~、おもしろそうだな、なんかよくわからんがおもしろいならやってみたいな、なんて呑気に言い合う。
 いい画が撮れてご満悦の黒子は、火神たちの横に座り、パソコンを操作した。
「あ、そうそう。で、青峰くんと黄瀬くんのかわいそうなフェラなんですが……」
 と、数枚スライドを送る。
「これがそのときの写真です。まずは青峰くんが黄瀬くんのをきれいにするところです。とはいえさすがにパンツを下ろすのはまずいので、外に染み出た水分をちょっと舐める程度です。布越しに」
 画面には、黄瀬の股間に鼻先を埋め、眉をしかめつつ舌を伸ばす、ちょっぴり幼めの青峰がいた。
「青峰なんかすげーやけっぱちな顔してる」
「いっそやる気さえ感じられるな」
「開き直っちゃったんでしょうね。色黒なのでコントラストが美しいです。なお、受精卵の気持ち悪さとあまりのショックに萎え萎えで、彼らの息子は完全にしおれきっていました。なのでうっかりたっちゃった、なんて事故は起こりませんでした。赤司くんはここまで計算していたのでしょう」
 エンターキーを一回押すと、同じ状況の別角度と思しき写真が出てきた。青峰を見下ろす黄瀬のアップだ。口元を押さえ、何かを訴える子犬のように瞳をうるうるさせ、顔を真っ赤にして羞恥の涙を流している。
「黄瀬完全に泣いてるよこれ」
「これは泣いていい状況だろ」
 さすがにこれはかわいそうになったのか、火神と降旗の声音が少々神妙になる。
 黒子は平坦な調子で続け、別の写真を提示した。
「こっちは逆バージョン。黄瀬くんが青峰くんにご奉仕です。ウエストから飛び出した白身が泣き顔に掛かり、とってもヤバイことになっています」
 青峰の脚の間で泣きべそをかきながら、控えめに口を開いている黄瀬。その顔には、卵の白身がべっとりとついているらしく、照明の反射でぬらぬら光沢が出ていた。
「うは! これはほんとやばい! 黄瀬やばい!」
「まじで残念なイケメンだよなあいつ……」
「それにしても、初回から飛ばし過ぎだろ赤司」
「まあ制裁ですからね、これくらいはやらないと」
 特に同情するでもない黒子のコメント。
「ふたりとも受精卵がよっぽど堪えたようで、二度と部室でああいった悪ふざけをしないと誓っていました。まあ、反省を促すのが目的であって、赤司くんも本気ではなかったんでしょう、ちゃんと謝罪された時点で許してました。でもまあ、牽制効果は十分で、僕を含め直接受精卵を食らわなかったメンバーも、恐れ慄いて、迂闊に部室でアホなことをしにくくなったのは確かです。受精卵の恐怖は甚大でした」
「受精卵が刑罰の名前みたいになってる……」
 いささかぞっとした様子で降旗が呟く。
「ソフトな処刑に等しいですよあれは。受精卵ほんと気持ち悪いので」
「おまえ食らったことあんの?」
 妙に実感のこもった黒子の言い草に、火神が質問をした。
「いえ、制裁として受けたわけではありません。自宅で賞味期限切れの卵をたまたま見つけたことがあり、好奇心に負けて風呂場で試したことがあります。洗いやすいズボン穿いて」
「よくやるなー」
「それなんてプレイ」
 チャレンジ精神旺盛な黒子に、火神と降旗は呆れを超え尊敬を抱いた。
「そのときの気持ち悪さが忘れられず一週間くらい萎えっぱなしでした。どんなに物理的刺激を加えてもウンともスンとも言いませんでした。受精卵恐るべし。結構深刻に悩みましたねあのときは」
「それは怖い」
「怖いな」
 同じタイミングで同意を示すふたり。
「なお、青峰くんは四日後に復活、黄瀬くんは二週間掛かったそうです」
「黄瀬デリケートだなあ」
「このまま永久に息子が死にっぱなしになるんじゃないかって、すごく落ち込んでましたよ。青峰くんに復活のコツを聞いていました。ひどいセクハラでしたねー、あれは」
 他人事とも言い切れないらしく、黒子が頭痛を堪えるように額を押さえた。

 受精卵を食らってから一週間、悩み抜いた黄瀬くんが青峰くんと僕に相談してきました。息子が! 息子が病気かもしれないんス! と大騒ぎしながら。青峰くんがすでに立ち直ったことを知り、余計にショックを受けた様子で、
「ほんとに復活したんスか? 見栄張って嘘ついてるんじゃないでしょーね!?」
 事実か否か確かめようと、青峰くんの股間に手を触れさせました。もちろんズボン越しです。さすがに直接はやばいです。
「おい、黄瀬、やめろ! 刺激すんな! たったらどうすんだ!」
「あ! ほんとに反応した! なんで!? 俺なんか枯れたサボテンよりも元気ないのに! うわぁぁぁぁぁん! 青峰っちの裏切り者ぉぉぉぉ!」
「ちょ、テツ! こいつを止めろ!」
 もみ合う大男ふたり。僕は被害が及ばぬようこっそり距離を取っていました。
「無理です。体重差考えてください。挟まれて圧死するのは火を見るより明らかです」
「このままじゃ俺が死ぬ! 社会的に死ぬ!」
 青峰くんの頭に「社会的死」という概念があることに驚きました。結局通りかかった紫原くんにお願いして、ふたりの間に割り入ってもらいました。青峰くんと僕で、あとでまいう棒を貢いでおきました。

「おい、そんなことしたら、また赤司に殺されるんじゃねえか」
 火神が当然の疑問を呈するが、黒子はふるりと頭を横に振った。
「いえ、部室ではなく、昼休みに外庭でご飯食べながらの会話です。一応黄瀬くんをなだめてどかしたはいいんですが、青峰くんがすっごいげんなりした顔で、飲みかけの豆乳を無言で僕に寄越してきました。僕だって飲みたくないですよ、あの空気の中、そんな白濁でクセの強い液体。でもバニラシェイクだったら喜んで飲んでいたと思います」
「よりにもよって飯時かよ!」
 ウゲェと言いつつ、最終的には笑う降旗。
「それで、結局黄瀬はどうやって蘇生したんだ?」
 火神の質問に黒子が答える。かすかなしかめっ面で。
「時間経過で治ったそうです。人騒がせな。復活した日、真夜中にハイテンションな報告メールが来て、僕ちょっとキレそうになりました。タイトルは何のひねりもなくダイレクトに『祝・ムスコふっかつー!! むしろ俺がふっかつっス!!』で、極彩色のひどいデコメでした。しかも、三流エロ小説のごとく、まるで医療エッセイのような体裁で、自分の息子がいかに回復していったかについて、詳細なレポートを送ってきたんです。コンクールで賞をもらうレベルの優秀な夏休みの自由研究だってもう少し雑ですよ。うざいことこの上ない」
「それはキレていい」
 と、火神と降旗が同時に言う。
「ほぼ全員無視するか、『死ね』で返信したみたいですが、同じ体験をした青峰くんだけは、律儀にもお祝いメールを返したそうです。泣ける話じゃないですか、まったく。感動しすぎて涙がちょちょ切れるかと思いました」
 反対の感情を堂々と込めながらぼやく黒子。
「受精卵が育んだ友情……」
「なんだろう、感動的な要素なんてまるでないのに、なんか感動的な話みたいに思えてくるぜ……」
「ぷっ……多分あのノリだよな、救命もののドキュメンタリー。『二週間後、そこには元気に走り回る黄瀬くんの姿が!』……ってか!」
 降旗がありがちなたとえを用いる。
「まあ、黄瀬くんの息子は走りませんけどね。たち上がるだけで」
「突っ込みどころそこかよ、黒子」
 火神は火神で冷静に突っ込んだ。
 その後、もう一度同じスライドを鑑賞した。今度は画面の端々に写る緑間の動向を見守る会になった。登場人物的には背景に等しい緑間だったが、赤司のとんでない奇行や命令のたびに百面相を発揮し、後半の写真では何かとグロッキーな姿を披露していた。変人だが生真面目な彼には刺激が強すぎたのだろう。地味に最大の被害を受けていたのは彼かもしれない。そして最大の功労者は混沌極まりない空間でずっと撮影を続けた紫原だろう。なお二度目の鑑賞の間、キー操作は降旗に任せ、黒子は火神の後ろにぴったり張り付き、三連結三連結と小声ながら騒いでいた。火神が後ろ手で黒子の背をぽんぽん叩くと、黒子は彼の広い背中にぎゅうっとしがみついた。……だけならかわいいのだが、股間が擦りつくぎりぎりまでくっつき、こっそり上下運動をして遊んでいた。気づいた降旗が火神の脇の下から振り向いてきた。視線が合ったふたりは、ひっそりと親指を立て合った。いたずらに成功した子供のように。
 ひと粒で二度おいしい写真鑑賞が終わったところで、
「しかし、オムライス食ったあとで聞く話じゃなかったなこれ」
 火神がもっともな意見を述べた。生卵ではないが、半熟でとろりとした卵を乗せたのだ。ちょっと思い出してしまう。
「食べながらよりはましでしょう」
 無表情でしれっと答える黒子。
「おまえもしかして、この話をしたいがためにオムライスリクエストしたのか? ふわとろで」
「ばれましたか」
 黒子はわざとらしくペロッと舌を出して見せた。
「黒子って、Sだよな……」
 降旗が呟く。
「まあ加熱された卵だし、連想して気持ち悪いってことはないけどよ」
「でもしばらく卵かけご飯食べたくなくなるな」
「そうですね、黄瀬くんトラウマで一年くらい生卵食べれなくなったらしいです」
「それはデリケートすぎる」
 最後は黄瀬で締めくくり、けらけらと三人で笑い合った。まったくもっていいデザートであった。
「あ~……笑い過ぎて喉乾いた。茶ぁ持ってくるわ」
 火神が立ち上がってキッチンへ向かう。三人分のコップをトレイに出したあと、麦茶を求め冷蔵庫を開く。と。
「あ」
 火神が短く声を上げる。続いてぼりぼりと頭を掻いた。
「火神くん?」
「どうした火神?」
 黒子と降旗が注目する中、火神が右手に小鉢を持って戻ってきた。
「冷蔵庫の奥に……古い卵があった。賞味期限、五日前の」
 白い食器の中には、卵が三つ、それからパックに同封されていたと思われる賞味期限が印字された小さな紙が入っていた。
「もちろん生卵だ」
 火神が卵を突き出すと、
「え」
「え」
 黒子と降旗は戸惑った声を上げた。
「ちょうど三個あるんだけどよ……」
「えー……トライします? 部活で着たジャージなら僕も降旗くんも持ってますけど……」
「しちゃう?」
「するのか?」
 それぞれうかがうように、顔を見合わせる。経験者の黒子の存在もあり、なかば度胸試しのような心持ちになってくる。
 ここで退いたら男が廃る。……が、黒子の思い出話を聞く限り、強行して男が終わる可能性もある。
 どうするべきか。彼らは無意味なプライドを掛けて牽制し合った。

 

 

おまけ 緑間の後遺症

・高尾が俺を襲わないのだが……

「高尾が一向に俺を襲う気配がないのだが、あいつは俺をどう思っているのだろうか」
「……襲われたいんですか?」
「親しき仲になればそうするものなのだろう」
「はあ。なんていうか、緑間くんの中ではそういうしきたりが成立しているんですね」
「あいつは俺に対しまだ他人行儀だと言うのか? あんなに馴れ馴れしいのに」
「正直コメントに困ります」
「黒子。おまえは火神と、襲ったり襲われたりはないのか?」
「あらかじめ予告した上でそういう遊びをすることはありますが」
「やはりやっているか。くっ……おまえたちに後れを取るとは」
「自分から襲うという選択肢はないんですか?」
「……俺から?」
「やっぱり緑間くんには無理ですよね」
「俺としたことが、すっかり失念していた。別に向こうのアクションを待つ必要はないな。俺が襲ってもいいわけだ」
「ええ!? ちょ、緑間くん!? そこ真に受けちゃうんですか!?」

 

・真ちゃんがおかしいんだけど……

「どうしたの高尾、俺に相談って」
「降旗……おまえンとこの火神と黒子……どっちかがどっちかを襲ったりする? しないよな?」
「え?」
「あ、ごめん。変なこと聞いた。そんなことあるわけないよな。ないない、あり得ないって」
「やっぱ緑間もそういうことするんだ。へ~……そういうの苦手そうなのに」
「……もしかして、誠凛でもそういうのやってんの?」
「全員ってわけじゃないけど、俺たちはやってるかな」
「俺たち!? 一人称複数!? おまえも含まれてんの!?」
「まあ、うち人数少ないから、その分関係は濃くなるのかも? 秀徳さんはどうなの?」
「いや、うちは……っていうか真ちゃ……緑間が、なんか変で」
「変?」
「『おまえは俺を襲う気配がないが、俺たちの間にはまだまだ溝があるということなのか』とか聞いてきて……なんか一気に溝が深まった気がして」
「あー、やっぱあの人襲われ待ちなんだ」
「やっぱって何、やっぱって!? あんた、真ちゃんの何を知ってんだ!?」

 

 


 

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