ゆっくりと体を倒し、衝撃がないよう慎重に体の側面をマットにつけてやる。腕で支えているが、黒子の力とバランス感覚ではあまりもたないだろう。ちゅ、ちゅ、と口づけを交わす合間に、仰向けになるよう指示をする。黒子は従順に背をシーツに押し付けた。赤司は黒子の頭頂部に手の平をあて、髪を緩く梳いてやりながら、口内の粘膜を舌でくすぐった。黒子がそれに夢中になっているうちに、開襟タイプのパジャマのボタンの一番下に指を掛け、片手で器用に外していく。完全に開くと、やせた胴体がさらけ出される。照明をつけたままにしてあるので、肌の白さがはっきりわかる。黒子は明るい中で行うことにさして羞恥を示さない。暗がりのほうが怖いからだ。唇を解放した後、首筋を軽く食む。くすぐったいのか、周囲の肌が粟立つ。乱れた呼吸に合わせて上下する胸に手の平を這わせると、指の腹で乳先を軽く押し潰した。上半身に直接積極的に触れる機会は少なかったため、黒子は戸惑ったように身じろいだ。快感と呼べるほどのものはないが、焦れったいくすぐったさを感じる。
「んぁ……」
反らした喉から短い喘ぎが漏れる。右手が所在なさげに虚空を切る。赤司はその手を絡め取り、柔らかくマットに縫い止めた。喉仏を舐めると、ひゅ、と息の漏れる音がした。
「怖がることはない」
「は、い……」
声を掛けてやると、黒子はほっと息を吐き、緊張を緩めた。と、弱い力で押しつけられていた黒子の右手がわずかにばたついた。押さえられるのは怖いのかと、赤司はすぐに解放してやった。すると、黒子が右腕を赤司の服の裾にそろりと伸ばしてきた。意図を読み取った赤司は、ああ、とうなずいてから服を脱いでやった。
黒子の耳をねぶりながら、胸から腹へと右手を下方へ伸ばす。下衣へ手を差し込み、指で包み込むようにして性器の状態を確かめる。すでに吐精したため、すっかり萎えている。擦って刺激を与えると、黒子は鼻に抜ける声を漏らしたが、陰茎の反応は鈍い。今日はもう無理だろう。刺激すれば快感は得られるだろうが、その出口がなくなる。赤司は指を後方へ這わせると会陰を押した。黒子はもどかしそうに、そして期待するように、ばたと脚を揺らした。入り口の輪郭をなぞるように指で何度か円を描いたあと、するりと中へ収める。こちらもすでに一度刺激してあるので、抵抗なく侵入させられた。まだローションの名残があり、まるで濡れてきたような錯覚を受ける。だが、当然ながらそれ以上自然に潤うことはない。
「多めに足す。冷たくはないが、濡れる感触がすると思う」
「はい」
一言断ってから、温感ローションを塗り込めはじめる。
「うぅ……」
生暖かい液体が入り込む感覚は、なんとも言えない奇妙な感じがする。予告通り多く入れられたようで、液体が逆流し外に流れ出るのがわかる。内部の潤みと、ローションが指と内壁に絡んでぐちゅぐちゅと鳴る音が、女の子みたいで恥ずかしい。内壁をくすぐられると、淡い快感が喚起される。前立腺のあたりを時折弱い力で押されると、ぞくりと期待感が生まれる。ここが快楽をもたらすことを、体は知っていた。
「は……あ、ん……」
熱っぽい息を吐き出す。つながるためではなかったが、一度解してあるので、違和感は少ないようだ。特に予告せず指を増やしたが、驚いたような反応はなかった。ゆっくりと時間を掛けて慣らしているうちに、太腿の内側はこぼれ出たローションで濡れていた。
「ちょっと強く押す」
言われて、黒子は了解の合図のように赤司の手をきゅっと握る。
「あ、あ……」
まだ大きな波ではないが、確かに気持ちよい。深呼吸をすると、その動きに合わせて内部の指圧に強弱がつけられ、小さな波がいくつも押し寄せた。快楽が細かな泡となり、寄せてぶつかっては消えていく。しかしけっして強くない。もどかしさを感じる。
「あ、あかし、くん……」
「いいか?」
「はい」
そろりと指が抜けていく。空白を埋めようとしてか、思わずきゅっと内部が締まった。少し間が置かれ、気配が離れる。準備しているのだろう。黒子はどうしていたらいいものかと思案に暮れながら、たいして長くもない時間を、しかし焦れるような気持ちで待った。やがて、膝裏に手が掛けられた。
「腰を浮かすことになるが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だと、思い、ます……」
へそから下が浮く。宙をぶらつく脚が頼りないが、怖いというほどでもなかった。ただ、不安にはなる。黒子は少しでも安定感を得ようと、肩甲骨付近を完全にマットにつけ、後頭部も下げた。その間に、ぐ、と下から押されるのがわかった。
「ふ……っ」
実際の圧迫感よりも、いままさに挿入されつつあるという想像が、苦しさを煽る。脱力を試みるがうまくいかない。
「無理に力を抜こうとしなくていい。きちんと呼吸することに集中しろ」
息を吸って、吐いて……と意識的に繰り返しているうちに、内壁が広げられる圧迫が襲ってきた。痛みより異物感が苦しい。
「あっ……んっ……」
「痛いか?」
「す、少し。でも、大丈夫です」
注意されていたものの、苦しさに呼吸が浅くなる。違和感をやり過ごそうと、固く目を閉じ奥歯を噛む。ゆるゆると、侵入が深くなる。
「っ……!」
突然びくんと体が揺れた。まるで痙攣のように。痛みや衝撃に対してではない。得体の知れない恐ろしさがじわりと背筋を昇ってきた。パニックに陥るほどではない。しかし、なぜか急に怖くなった。反射的に逃れるように、脚をばたばたと動かす。
「テツヤ、目は開けてろ。僕だから」
腰を引いた赤司が、覆いかぶさるようにして腕を伸ばし、黒子の目元に触れ開眼を促した。
「あ……す、すみませ……僕……」
「大丈夫だよ」
何が、とは示されなかったが、その言葉が魔法のように安堵をくれた。ほうっと息を吐くと、力が抜けた。これで少しは楽になるかと思い、この先を待っていたが、赤司はそれ以上は進めず、黒子の肩を軽く叩いた。
「体勢を換えよう。右側を下に、横になれそうか?」
「あ、はい」
浅くつながったままだが、動きはそれほど制限されない。黒子は寝返りを打つように背を浮かし、側臥した。その動作に合わせ、赤司も結合部に無理が掛からないよう移動し、黒子の背後に回った。背中を赤司の体に支えられるかたちで寝そべることになり、腰が浮いていたときよりも安定した。赤司の腕に引っ掛かるような格好で宙ぶらりんになっていた脚を、膝を曲げるかたちで下ろされる。挿入は相変わらず浅いままだが、角度の違いで当たりどころが変わる。圧迫感はあるが、指のような骨の硬質さがない分、気持ちの上では楽だった。まだ異物感に慣れないが、ふいにいいところに当たったのか、びくりと脚が跳ねた。
「んっ……」
快感の到来に、緩やかながら脳髄が痺れる。軽く内部を擦られると、甘い声が断続的にこぼれた。
気持ちいい。でも、足りない。
ぼうっとする頭でそう思う。無意識のうちに、片手が自分の下半身に伸びた。もっと刺激がほしい。しかし、その手は陰茎に触れる前に阻まれた。
「え……?」
少し驚きながら黒子が赤司のほうを振り返る。赤司は黒子の手首を掴んだまま、子供に言い聞かせるようにゆるゆると首を横に振って見せた。
「テツヤ、ここは触らないほうがいい」
「え? で、でも……」
困惑の声が上がる。いじわるで言っているわけでないというのは察せられる。けれども意図がわからない。ここを刺激しないと、先へと進めない。
赤司は黒子の手を上へと戻しながら、
「さっき一度出したから、無理だと思う」
「そ、そうですね……」
反応のない黒子の性器を目線で示す。思わず見下ろしてしまった黒子は、わずかにぎょっとした。かなり気持ちよさを感じていたのに、妙に元気がない。すでに記憶から失せつつあるが、赤司の言うとおり、少なくとも一度は達しているだろう。自分の体力を考慮すれば、はいもう一回、と簡単にいかないのは理解できる。しかし、だとしたら。
「ええと……どうすればいいんでしょうか。い、いきたいんです、けど……」
「ああ……だろうな。いきたいのはわかる」
もしかしてこれ以上快楽のやり場がないのだろうかとあたふたする黒子。赤司は少し逡巡した後、
「驚かせることになるかもしれないが……」
独り事のように呟いてから、ちゅ、となだめるように一度、黒子のこめかみにキスを落とした。そして、黒子の下腹部に手を当てる。性器には一切触れないようにして。
「ここの感覚、覚えてるだろう?」
ぐ、と手の平で軽く押す。内部の圧が少し変わり、黒子がヒッと息を詰めた。
「は、はい。わかります」
「脚を少し伸ばせ」
「こうですか。……あ、んっ!」
素直に従い、曲げていた左脚の膝を伸展させようとしたが、途中で電流のような痺れが腰を掛け抜け、動きが止まった。
「大丈夫か」
「うぅ……い、いきたい……」
うわごとのように呟きながら、黒子はまたしても腕を下へやり、自ら刺激を加えようとした。だがやはり赤司に制止される。
「無理だ。そこまで回復していない。下手に刺激すると余計苦しいし、強くしすぎると痛みが生じる。やめておけ」
「でも」
「駄目」
有無を言わせない短い禁止の後、赤司は黒子の両の手首をまとめて握った。目に見える胸側で緩く拘束されているだけなので、黒子としても恐怖感はなかった。ただ、指示には従わなければという気になる。でも、出口の見えない快楽にこのまま呑まれ続けることを考えるとぞっとする。
「赤司くん……」
訴えるような目で見上げる黒子に、赤司はさらに指示を出す。
「下腹部に力、入れられるか。軽くでいい。というか軽くにしてくれ。僕がつらいから」
「え、えと……」
「足を内側に閉じるような感じで」
戸惑いながらも赤司の言葉通り、膝の内側を合わせてぎゅっと閉じる。内壁が狭まるのがわかった。と。
「ひゃっ……!?」
突かれたわけでもないのに、唐突に強い快感が内部を襲った。一瞬の強烈な刺激の後、余韻がゆるゆると続く。内腿がびくびく震えた。
「感じたか」
「あ、あの……いまの……」
困惑しきった瞳で赤司を見る。いまの感覚はなんだったのか。
赤司は冷静に指示を続ける。
「もう一回」
「え?」
「もう一回、同じようにしてみろ」
「ん……」
疑問を呈する暇もなく、黒子は言われるがままに同じ動作を再現する。脚を閉じて、下腹にきゅっと力を込めて、締める感じで……。
「あっ……あっ……!?」
先ほどより強い快感の波が押し寄せる。しかも退くのが遅い。太腿の小刻みな痙攣が続く。その動きがさらに小さな新しい刺激の呼び水となり、なかなか治まらない。呼吸が乱れる。生暖かい水が頬を伝う。
「大丈夫か?」
赤司が珍しく心配そうな顔で、常にない反応を示す黒子を覗き込む。黒子は、未知の何かを発見したような子供のようにわたわたしながら、
「あっ、あのっ……なんかぞわっていうか、ぞくぞくっていうか、ふわっていうか……むずむずした何かがぶわって来て、ぞぞってして、なんかわけわからない感じでびくってきて……」
擬音語満載の説明で、自分が感じている状態を必死に伝達しようとしていた。丸っきり小さな子だ。さすがの赤司もちょっぴりいたたまれなくなった。が、顔には出さず言葉を続ける。
「落ち着け、小学生か。まあ、言いたいことはだいたい伝わってくるが」
「な、何かが、こう、ぞわって、来るような感じが……」
「それでいい。もう一度試してみろ。今度は意識を集中させて、その感覚を追ってみるといい」
「追う……?」
黒子は疑問符を浮かべるが、赤司はそれ以上のヒントは出さず、ただ促すように下腹部を軽く押した。
言われたとおり、下半身を少し力ませ、全体を内側に締めるような気持ちで縮こまる。黒子自身が形容したとおり、ぞわっとした悪寒に似た快感が生じた。その感覚自体は知っている気がしたが、刺激の強さにひるみかける。それに耐え、快感の出口を探るように意識の上で追い掛けてみる。と、びりびりと弱い電流が走ったみたいに脚が緊張し、つま先がピンと伸びた。
「……あっ、んっ……んっ!」
「コツ、わかったみたいだな」
赤司の言葉に、黒子は答えられなかった。数秒間、足の指をぐっと握り込み、激しい快楽をやり過ごすと、すっかり上がった呼吸の中、涙目で訴える。
「ん、ぁ……や、いやっ、こ、これ、つ、つらいです……なんか、ますます、いきたく、なって……」
「そうは言っても……いけないと思うが」
からかうでもなく、赤司が平坦な口調で言いながら、黒子の下半身を指さす。黒子が視線をやると、脚の間にはいまだ回復の兆しをみせない自身があった。
「な、なんで……」
こんなに気持ちがいいのに、反応がないなんて。確かに刺激の種類は違うけれど……。自分はどこか悪いのだろうかと不安になり、すがるような目線を赤司に送る。
「慌てるな。短時間で何度も射精するのは人体として無理なんだ。いまの状態は自然なことだ、心配はいらない。まあなんというか……疲れているだけだな」
疲労は黒子も自覚するところだし、赤司の説明も理解できる。だが、それで現状が解決されるわけではない。吐き出せなくて苦しいのに、吐き出す方法がないなんて。
「ふぇ……ど、どうしたらいいんですか?」
「もう少し、このままがんばってみようか」
黒子は一瞬表情を失った後、いやいやと必死に頭を横に振った。これ以上こんな感覚に見舞われ続けるのは耐えられないし、さりとてここでやめてもこの切なさは変わらないだろう。
「む、無理です! もう限界……いきたい……い、いかせてください……」
「そう言わず。多分、あと少しだから」
「そんな……無茶言わないでください……ほんともう、つらくて……」
赤司が、駄々っ子のように無理だと繰り返す黒子の髪を梳く。
「でも、気持ちいいだろう?」
「確かにそうですけど、これ以上行き場がないというのがきついんです」
「あと少しだ。とにかくがんばってみろ」
「うー……」
「大丈夫だ、協力はしよう」
と言ったかと思うと、急に内部を軽く突かれる。激しい動きではないが、油断していたので、予期せぬ刺激に体が大きく跳ねる。
「ひゃぅっ! や、ゃん……!」
それが引き金となったのか、いままでにない強烈な快楽が断続的に襲ってきた。やんわりと手首を拘束している赤司の手を振りほどき、助けを求めるように腕をばたつかせる。脚がびくんと長めの間隔で震え、波打つ。
「あ、やっ……は、はぁっ……ん、んん!……あ、ああっ……はっ、ふ、ぅ……っ、あ、あ……あぁっ」
生理的な涙がじわじわと滲み、目尻から少しずつ落ちていく。激しい反応に、このあたりで打ち止めかと判断した赤司は、
「テツヤ、このあたりでやめるよ」
聞こえていないとわかりつつそう声を掛けてから、ずるりと黒子の内部から抜け出ていった。なかを満たすものがなくなり、入り口がひくりと収縮する。だが一度興奮した神経はすぐには治まらないようで、黒子はなおもぶるぶると体を震わせ、快楽の波に酔っていた。
「は……あっ、ぁん……や、やぁっ……ふっ、あ、は……くっ、ぅん……んっ、あっ、は……あっ、あっ……あぁぁぁっ!」
一際高く大きな、これまでに聞いたことのないような喘ぎが迸る。地声が小さいのでたいして響かなかったが、本人の感覚では絶叫に近いものがあった。吐息に混じった音声が消失する頃、黒子は息も絶え絶えになりながら、ぐったりとベッドに突っ伏した。
「はあ、はあ……」
「……いけたか?」
肩で息をしながら黒子は考える。いましがた感じたあの強すぎる快感はなんだったのか。確かに、いった、と思った。ただ、射精した感じはなく、感覚自体、別種の快感のような気がした。ひとつわかるのは、とんでもなく気持ちよかったということだ。
いったい何が起こったのだろうと目を白黒させながら、黒子がのろのろと首を持ち上げた。
「い、いった?……んでしょうか? なんだか、ちょっと……違ったような……」
「深いことは気にするな。気持ちよかったんだろう?」
ごまかすように、赤司が黒子の頭をぽんぽんと撫でる。
「は、はい。すごく、気持ちよかったです。なんだったんでしょう、あれ……」
「ちょっと種類は違うが、とにかく望んだとおりいけたんだ。よかったじゃないか」
「は、はい……。なんといいますか、すごく満足感があります。ありがとうございました」
まだ少し、快楽の余韻が残っている。だが微弱なものなので、これ以上の性感を呼ぶようなものではないだろう。心地よさにほっと息をつくと、急速に眠気が襲ってきた。呼吸が落ち着くに従い、うとうとしはじめる。しどけない格好のまま。
「テツヤ、寝る前にちゃんと衣服を整えろ。明日の朝びっくりするのはおまえだぞ」
「あ、はい」
赤司に下着や寝間着を渡され、黒子は手伝われながら緩慢な動きでそれらを身につけた。黒子がぼんやりしている間に、赤司はすっかり身なりを整えていたようだった。不器用な動きでパジャマのボタンを留め終わったところで、黒子がはたと気づく。
「あの……赤司くんは……?」
自分が快感を追うのに夢中で、結局赤司に何もできなかった気がする。そもそもなぜ彼とこんなことをしていたのだろうと薄れかけた記憶に問い掛けるのは、無駄なのでやめた。いま気になるのは、気持ちよかったのは自分ばかりで、彼は少しもよくなかったのではないかということだ。
申し訳ない気持ちを胸に、黒子がそろそろと赤司を窺う。が、彼は涼しい顔で答えた。
「ああ、僕も満足したよ」
「え? そ、そうなんですか?」
「そうだ。テツヤの貴重な姿を見られたことだしな。さあ、そろそろ疲れただろう。というか僕が疲れた。今日はもう終わりにしよう」
「はい」
「このまま寝てていい。あとは僕がしておくから」
赤司がタオルケットを引き上げ、ベッドに座る黒子の脚に掛ける。そして、テーブルの上から手に取った睡眠薬とペットボトルを渡す。
「疲れを明日に持ち越すのはよくない。これを飲んで、早く寝るといい。服薬記録はあとで僕がつけておこう」
「でも」
「テツヤ、言うことを聞くんだ。どうせろくに動けないんだから」
「はい……」
小学校の先生が低学年の生徒に言い聞かせるように、赤司はじっと黒子の目を見て命じた。静かな迫力を感じ、黒子は薬を服用すると、おずおずとタオルケットの下に潜った。目を閉じてしばらくすると、心地よい疲労感の中、睡魔が舞い降りてきた。
黒子の小さな寝息が聞こえてくる。赤司は、あやすようにしばらく黒子の背を撫でていた。今日の反応を思い出す。相当丁寧に扱ったつもりだが、やはり少し怖がっていた。セックスと結びついた恐怖心が、まだ完全に断ち切れていないのだろう。これは骨が折れそうだ、と肩をすくめるしかなかった。
ベッドの縁に座り胡坐を掻いていた赤司だったが、部屋の主がすっかり寝静まるのを感じ取ると、手近に置いておいた自分の鞄に手を伸ばす。携帯を取り出し、ま行を検索。緑間の携帯番号を呼び出し、通話ボタンを押す。四コール目のなかばでつながった。赤司はテンションの低い、疲労の滲む声音を隠そうともせず話し出した。
「……真太郎? いま時間あるか?……いや、テツヤの件じゃない。彼は関係ない。僕の個人的な用事だ。ちょっと頼み事があってな。少々つき合ってほしい。用件だが……単刀直入に聞くが、真太郎、おまえテレフォンセックスの経験はあるか?……おい、待て、切るな。いい加減にするのだよじゃない。こっちは深刻なんだ――」
このあとふたりの間でセクハラじみた実にくだらないやりとりがなされることになった。無論、被害者は一方的に緑間である。