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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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思い出にかわるまで SS2-9(赤司)

 年が明け、黒子の誕生日が過ぎた。またひとつ、肉体の年齢が重なった。彼の心を置き去りにして。
 赤司は春期休暇中、夏と同じく黒子への訪問の頻度を増やすことができた。暦上の春が来て、寒さはかすかに和らぎを見せたが、まだまだ人工の暖は必要だ。冬の名残が色濃い外界から切り離された室内は、しっかりと空調が管理されていて快適だった。
「んっ、あ……」
 エアコンの機械音に混じり、小さな喘ぎが響く。黒子はベッドに寝そべり、右半身を下にして胎児のように丸まっていた。座ったままより楽だから、という赤司の指示に従ってのことだが、確かに負担が少なく、バランスが崩れないので安心できた。脚を閉じていられることも、多少羞恥が紛れるので、ありがたかった。
 黒子の曲げた脚元で赤司は膝をついて座り、少し腰を浮かせて体を接近させ、黒子の腹側から左手を伸ばし、性器を刺激していた。緩く握っているので、反応は鈍い。しかし急に強い感覚を与えると、驚きが怯えや苦痛に変わりかねないので、徐々に刺激を強くしてやったほうがよい。黒子は視線をさまよわせ緊張していたが、体が揺れにくい分、多少は落ち着いていた。
 黒子の反応を窺いながら、赤司は暇をしていた右手をそっと持ち上げ、軽く臀部を撫でた。鈍感な部位なので、黒子ははっきりと気づいていないようだった。と、局面上につっと指の腹を走らせ、
「テツヤ、ここ、触るけど」
 一言入れてから、窪んだ部分に触れた。
「え……?」
 黒子は一瞬意味がわからず、疑問符を浮かべながら顔を上げた。しかし次の瞬間、指でくっと押し込まれる感覚が伝わり、ぎょっとする。
「あ、あ、赤司くん……!?」
 慌てて腕をマットにつき、上体を起こしかけるが、腰回りを押さえられているので完全に起き上がることはかなわない。上半身をひねり、信じられないという顔を赤司に向ける。赤司は黒子の下半身に視線を落としたまま、淡々と尋ねてくる。
「怖いか?」
「や、やっ……」
「嫌な感じがするんじゃないか? このあたり、触られると」
 小指の爪が隠れる程度に押すと、黒子はびくっと身を震わせた後、肘が折れて再びマットに伏すことになった。いったい何が起きているのかと、白くなりかけた頭で考えていると、皮膚と粘膜の境目をくすぐられる。
「あっ……あぅっ……ひっ……」
 痛みはないし、大きな違和感もない。しかし得体の知れない恐怖感に襲われる。
「あっ、やっ……」
 かろうじてそれだけは声に出たが、硬直した体はまるで言うことを聞いてくれない。唯一力を込められるのは、シーツを握り締める指先だけだ。
「あまり緊張するな。痛くはしないから」
 ぬるり、と濡れた感触がする。ジェルか何かだろう。あまり冷たくない。体温に近い。いつの間にそんなものを、と疑問に思う間もなく、指が浅く入り込んでくるのがわかり、息を詰めた。内壁に圧が加えられる。痛いというほどではないが、通常感じることのない感覚にひどく戸惑う。そして、まったく動けないでいる自分にも。
 こんなことをされれば驚くのは当たり前だが、なぜこれほどまでに体が震えて動かない? なぜこんなにも恐怖を感じる? やめてと制止するくらいはできていいはずだ。なのにまともに声が出ない。体が強張って動けない。呼吸が浅くなる。苦しい。痛い? 痛くはない。でも苦しい。怖い。怖い。……なんで? なんでこんなに怖い? 押さえつけられているわけじゃない。拘束されているわけでもない。口だって自由だ。動けるはずじゃないか。でも駄目だ。動けない。体が言うことを聞かない。怖い。なんでこんなに怖い? わからない。怖い。怖い。やめて。やめて。でも声が出ない。
 脳裏に何かが見える。天井? 見覚えがない。いや、ある? 自分の部屋じゃない。病院の天井でもない。見たことのない照明。体が浮く感覚。怖い。痛い。いまは体が浮いてもいなければ痛くもないはず。でも怖い、痛い。動けない。なんで。なんで。
「あ、あ……」
 恐怖にすくみ上がり、黒子は身動きが取れずにいた。シーツを固く握り締め、きつく目を瞑り浅い呼吸を繰り返して震えている。と、ふいに頬に何かが触れた。びく、とやはり肩がはねたが、この接触には不思議と恐怖が湧いてこなかった。
「テツヤ、テツヤ」
 名前を呼ばれて、はっとする。恐る恐る目を開け、顔を上げると、赤司の真剣そうな顔が視界に入った。
「テツヤ、僕がわかるか」
 焦点の合うぎりぎりの近さにある彼の顔を見て、黒子はひゅっと喉を鳴らした。
「あかし、くん……」
 見知った顔を目にしたことで、頭の中を覆っていた不穏な暗雲が霧散するのを感じた。現状を理解することはできないが、少しだけ安堵する。
「そうだ。僕だ。怖いか?」
「はい……。怖かった、です。な、なんで、こんな……」
 わずかに落ち着きを取り戻すと、次に、なぜ彼がこんなことをするのかという疑問が湧く。なぜあんな恐ろしいことを。……恐ろしい? 何が? 確かに驚くようなことだったが、なぜあんなにも怖かった? 別に強い力を加えられたわけでもなければ、自由を奪われたわけでもなかったのに。びっくりしすぎて動けなかった? 違う。怖かったからだ。でも、何がそんなに……?
 恐怖を認めたものの、その理由がわからず黒子は困惑した。
「僕が怖い?」
「いえ……」
 赤司が怖かった? いや、あのとき赤司のことなんて頭になかった。誰に触れられているのかなんて気にもしていなかった。それに、赤司は間違いなく威圧感を備えた人間だが、不可抗力的に弱者となったいまの黒子に脅威を与えたりはしない。それは黒子にもわかった。だから怖いのは赤司ではない。では誰が? 何が?
「テツヤ、何が怖い?」
「わ、わかりません」
「ここにいるのは僕だ。おまえを傷つけることはしない」
「はい……」
「少し、待とう」
 と、赤司はベッドの足元にたわんでいたブランケットを引き寄せ、黒子の体に掛けた。なだめるように黒子の頭を撫でながら、静かな声音でぽつりと言う。
「多分、おまえには意味がわからないと思う。どうしてこんなことをするのか。……なぜ、あれほど怖いと感じるのか」
 びく、と黒子は一瞬肩を震わせ、身を守るように体を縮めた。
「あまり考えなくていい。というより、考えるな」
 縮こまっていると肩が凝るぞ、と指摘され、黒子は固まっていた自分の体がようやく意思のままに動かせることに気づいた。確かに少し凝っている気がする。いまここでなら、より無防備をさらしても大丈夫だろうと感じ、そろそろとブランケットの下で仰向けになった。ようやく緊張が遠のき、ほっと息を吐く。赤司は、かすかに安堵の表情を浮かべる黒子の頬を手の甲で撫でた。
「無意味にこんなことをしているわけじゃないんだが……おまえには、うまく説明ができない。だから戸惑わせていると思う。ただ、僕はおまえを傷つけたりしない。おまえを侮辱しようと思ってのことじゃない。そこは信じていい。信じるかはおまえが決めることだが」
「はい」
 幾分しっかりした声音で黒子は答えた。疑問はなんら晴れない。けれども彼の言葉は信じてもいい気がした。彼が自分を傷つけないのはわかる。
 五分ほど経過すると、ふいにブランケットの表面が小さく波打った。布の下で、赤司が黒子のへそのあたりから下に向けて手を這わせたのだ。
「続けても?」
 問われて、黒子は小さくうなずいた。その答えを受け、赤司は下方へ少し移動した。
「恥ずかしいかもしれないが、視界は閉ざさないほうがいい。からかったりはしないから。気まずいなら視線を逸らしていろ」
「はい」
「このまま脚を開いたほうが体勢としては楽なんだが……布団を掛けていたとしても、さすがに恥ずかしいだろう? さっきみたいに横向きになるか?」
「……は、はい」
 気を遣ってくれているのはわかるが、改めて指示されるととてつもない羞恥が起こる。だが、彼はそれをおもしろがったりはしないだろうと感じ、黒子はためらいつつも先ほどと同じように右半身を下に側位になった。赤司もまた、先刻までの位置に戻ると、まずは黒子の下腹部を指の腹で撫で、次第に性器のほうへ移動させていった。刺激は緩いが、強すぎないそれはもどかしくもなく、心地よかった。
 やがて、もうひとつの手が後ろのほうへ触れてきたのがわかった。
「痛くはないと思うが」
 簡潔な断りの後、ぬめりを帯びた指先がくっと粘膜の端を押した。やはり体がびくりと跳ねる。だが、少し前に感じた圧倒的な恐怖感はない。大丈夫、危害を与えられることはない。そう反芻しながら、黒子はゆっくりと呼吸をした。粘性のある液体が内部に染みる感覚が少し嫌だったが、気持ち悪いというほどでもなかった。ただ、なるべく音を立てないようにしてくれているのだろうが、内側から響いてくるぐちぐちという小さな水音に、まるでそこが自ら潤んでいるような錯覚を覚え、羞恥を煽られた。異物感は否めないが、指一本程度なら痛みはなく、それほど圧迫感もない。内部であまり動かすことはせず、そこに何かが入り込んでいる感覚に慣らしているようだった。しばらくすると、少しだけ奥に進められた。浅い場所を撫でるように指が往復している。
「少し、びっくりさせるかもしれないが……痛いわけじゃないから」
 ぐ、ぐ、と指の腹で押すような動きに変わる。圧を加えながら、少しずつ内壁を移動していくのが感じ取れた。と、次第にぞわりとした奇妙な感覚が走り出した。鈍痛のような、けれども痛みとは違うような。
「んぁ……っ」
 名状しがたいその刺激に、黒子は息を吐こうとして、同時に声が漏れた。すると、圧迫が軽減された。しかしまだ疼痛に似た何かがが燻っている。
「痛みや不快感は?」
「だ、だいじょうぶ、ですけど……なんか、変な感じ……」
「深呼吸できそうか?」
「やってみます」
 呼吸に合わせ、押されたり、戻されたりする。圧迫されるたびに奇妙な感覚が走る。段々とぞわぞわした感じが強くなる。不快ではないが、いままで感じたことない感覚で、なんとラベリングしてよいのかわからない。何度も繰り返されているうち、やがてそれは消え、圧の強弱だけを感じるようになった。得体の知れない感覚が消えたことにほっとする。と、内部の動きが止まった。
「少し休もうか」
 赤司はそう提案したものの、何もかもがそのままの状態だ。
「あ、あの……ゆび……」
「しばらくこのままで。いきなり何かしたりしないから、びくびくしなくていい」
 ほんの少し指が引かれるが、出ていくことはなく、粘膜の境目に近いあたりで留まっていた。数分が経ち、再び侵入が深くなる。とはいえ浅い位置を滑っているだけなのだが。
「また変な感じがするかもしれない。……いいか?」
「は……はい」
 返事をすると、若干強めに押し込まれる。おそらく先ほどと同じ部分だ。
「痛い?」
「いえ……」
 再び不思議な感覚がやってくる。ぞくぞくする。快感と呼んでいいのだろうか。押す力がわずかに強くなったためか、経験したことのない感覚が次第に強くなる。ぞわ、と一際強い刺激が駆け抜ける。
「ん……あ! あ、ぁ……」
 思わず声が上がる。その感覚の名前がわからない。未知の何かが訪れるようで、恐怖とは違う、心細さのようなものを感じてなぜか切なくなる。はあはあと浅く呼吸を繰り返していると、赤司が動きを止めた。
「痛かったか?」
「え?」
 心配そうな声音にきょとんとする。痛くはないし、そういった反応はしなかったと思うのだが……。と、赤司が空いている手で目尻に触れてきた。
「涙」
「へ……?」
 指摘され、自分の目元に触れると、確かに濡れていた。それも滲んでいるのを超えて、明らかに何粒かこぼれ落ちたとわかる程度に。泣いたつもりはまったくなかったので、黒子は驚いた。
「え、えと……」
 泣いているわけではないと弁明しようとするが、うまく言葉が紡げない。すると赤司は察したのか、手を引っ込め、
「ああ、気にするな。ただの身体的な反応だろう。揶揄したわけじゃない。それより、こっちも触るが」
 そのまま下へと戻し、陰茎を軽く握った。
「あっ……」
 何度か擦られたあと、先端を摘ままれる。内部と違い、こちらはよく知る刺激だ。慣れた快感を与えられたことにほっとする。後ろで感じたむずむずが紛れる気がした。体のほかの部位に触れられて性感が高められた影響か、そう時間が経たないうちに十分に反応した。
「そろそろもどかしいだろう。焦らす気はないから。……いいよ」
「んっ……」
 あの奇妙な感覚のせいでおかしなフラストレーションを感じていたので、わかりやすい快感はありがたく、遠慮なく吐精させてもらった。ようやく出口の見えた解放感がたまらなく気持ちよかった。
 少し速い呼吸を繰り返す黒子の中からようやく指を引き抜くと、赤司は手慣れた様子で後始末をはじめた。黒子の下半身を清潔にし、自分の手指も拭ってから、衣服を元に戻してやる。
「気分は悪くないか」
「はい……あの……気持ちいいと、思いました」
「そうか。よかった」
 それだけ返すと、赤司は黒子の体の上にブランケットと掛け布団を引き上げた。このまま眠っていいというように。疲労感に包まれた黒子は、それに甘えるようにして目を閉じた。髪を撫でられる感触を心地よく感じながら。

*****

 季節はまた巡り、過ごしやすい時期はあっという間に終わりを迎えた。日に日に湿度が高くなる。そろそろ梅雨入りだろう。その先には、うだるような気温と不快感に満ちた、亜熱帯に似た夏が待っている。
 時期的には少し早いが、冷房をつけた。熱くなるのはわかりきっていたから。夜といえど、湿気で空気がよどんでいる。
「あっ、あっ……」
 黒子の控え目な嬌声が響く。あの不可解な刺激にもすっかり慣れた様子だ。それが快感だと理解したのはいつのことだったか。本人は覚えていないだろう。わざわざ記憶する必要もないことだが。
 頻度は低いながら、黒子と赤司の間では相変わらずこの奇妙な関係が続いていた。黒子の性的な接触に対する恐怖感は次第に薄れ、奔放とはいかないまでも、いまは素直に快楽を追えるようになっていた。それでもふとしたはずみに恐怖が蘇るのは抑えられないようで、時折小さな怯えを見せた。本人の意識にもそれは上るようで、回避的な反応をしたあとは、申し訳なさそうにすみませんと言う。そのあと何か言葉を続けようと口をぱくぱくさせるが、それが音声として発せられることはない。おそらく告げようか迷っているのだろう、あのあやふやな、けれども強いショックを伴った記憶について。口述させたことはないので程度はわからないが、暴行に関する記憶はやはり完全には消えていないようだった。ただ、その恐怖が性的な事柄と直結して激しい反応を起こすことはなくなった。アクシデント的な拒否反応は多少残っているが、安全だと感じる相手には深く触れられても怯えなかった。
 いまだつながったことはないが、体を拓くことへの羞恥は幾分薄れたようで、負担の少ない体勢として脚を多少広げても、それほど抵抗は示さない。
「んっ……」
 熱を吐き出す。そしてくったりと沈み込む。いつもの流れだ。赤司は習慣化した手順で先に黒子の身なりを整えてから、使用したローションなどを手早く片付けにかかった――と、移動しようと動いたのとは逆方向に力が加わるのを感じた。振り返ると、疲れがありありと窺える黒子が、赤司の服の裾を指先で摘まんで引っ張っていた。
「テツヤ?」
「あの、赤司くん……」
「どうした。気分が悪いのか」
 問い掛けると、黒子はふるふると首を横に振った。そしてそのままうつむいてしまう。赤司は首を傾げ、どこか痛かったのかと尋ねた。黒子はまたしても首を横に振った。
「あの」
 と、黒子が顔を上げる。白い顔が紅潮しているのがありありとわかった。黒子は目線をさまよさわせ、かなりの逡巡ののち、もごもごと言いにくそうにしながら言葉を紡いだ。
「もし……迷惑でなければ、その……していただけませんか。最後まで」
 赤司は困ったように微笑んだ。
「テツヤ、気を遣うことはない。そういう意図はないんだ」
「わかっています。きみはそんなもの求めないし、必要もないでしょう。ただ、僕が……」
 黒子は言いかけたが、思い直すように頭を振ると、
「すみません、おかしなことを頼みました。撤回します」
 そう言って小さく頭を下げた。羞恥といたたまれなさと気まずさに委縮している。
「本当、すみませんでした。忘れてくだ――」
「テツヤ」
 黒子の言葉を遮り、赤司が手を伸ばす。頭の横に添えると、少し伸びた横髪を耳の後ろへと流してやる。そのまま手の平を後頭部へあて、すっと自分のほうへ引き寄せる。鼻と鼻がぶつかるぎりぎりのところまで顔を接近させると、ほとんど呼気のようなささやき声で言った。
「しようか」
「……ありがとうございます」
 呼吸の距離がゼロになる。唇から伝わる互いの体温。貪るのではなく、与え合う。腕を相手の背に回そうと、黒子がおずおずと片手を上げる。と、その手は目標にたどり着く前に、赤司の手に捕まえられた。指と指を絡めて握り合う。その間にも、くち、くち、と水っぽい音は響き続けた。やがてゆっくりと、体がベッドに沈んでいった。

つづく
 

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