忍者ブログ

倉庫

『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

思い出にかわるまで SS2-4(赤司)

 左手をベッドのマットレスについて上半身を支え、右手で口元を覆いながら、黒子は目の前の光景に頭がくらくらしてきた。
 赤司が、あの赤司が、床に膝をついている。それどころか、黒子の脚の間に頭を埋め、手と口を使って慰めを与えている。
 もしかしなくても明白にとんでもない事態だ。自分は友人に何をさせているのだろう。しようか、という赤司の問いの意味がわからないわけではなかったのに。……? なぜわかったのだろう?
 それはともかくとして、理解したのに断らなかったとは何事だ。もしかして期待していたのだろうか。自分以外の誰かに処理してもらうことを。確かに自分は簡単に誰かを誘える身ではない。この先一生無理かもしれない。でも、手足はそれなりに自由に動くし、多少の狂いはあるが感覚も概ね正常だ。自分でどうとでもできる。肉体的にはそれで困らない。……それなのに。
 自分は何か、そういう態度を取っていたのだろうか。見かねた友人が体を貸してくれるくらいに?
 直接的な快楽に呑まれそうになりながらも、黒子は混乱と罪悪感とともにぐるぐると回る思考を止められずにいた。
「――ヤ、テツヤ」
 ふいに波が退いたかと思うと、名前を呼ばれていることに気づいた。反射的にそちらを見やると、赤司が心配そうに見上げていた。こんな行為をしているのに、彼にはまるで性的な雰囲気がない。黒子にはそれがかえって背徳的に感じられた。
「あ、あかし、くん……」
 こんなことをさせていい相手ではない。止めるべきだと思ったが、乱れた呼吸が言葉を邪魔する。あるいは、息の荒さに責任をなすりつけたのか。
「口を押さえるのは構わないが、呼吸に支障がないよう気をつけろ。別に声を出しても構わない。揶揄するつもりはないから」
「は、はい……」
 赤司の忠告は事務的であると同時に、配慮を感じるものであった。彼にとって、仕方なしに行っている作業という空気ではないし、悪意もないように思う。しかし、ただの善意にしてはいびつすぎる。なぜ彼はこんなことをしている? そしてなぜ自分は彼にこんなことをさせている? 一言やめてと言えば済むのに。拒絶を表した人間にこういった行為を強要するほど、彼は愚かではないはずだ。それがわかっていて拒否を示さない自分は、やはりこれを望んでいるということだろうか。
「ふっ、う……ん……」
 じゅ、と吸い上げられる音と刺激が思考にノイズをかける。白くなりそうな頭を何度か左右に振ると、黒子は口を押さえる手を緩めた。
「あ、あの……赤司くん」
「痛かったか?」
「いえ、そんなことは……。あの、こういうことしてもらうの、はじめてではないですよね? 覚えてませんが、なんか、そんな気がして……」
「そうかもな」
 口の動きを止めた代わりに、親指で先端を押される。また別の種類の刺激が神経を走り抜ける。ほんの少し痛かったが、それ以上の肉体的な愉悦があった。
「ぅ……んっ! あ、あの、本当に……どういうつもりです? セックスボランティア、とかいうやつですか?」
 うろ覚えの単語を用いて聞いてみる。挑発的に響いただろうか。
 赤司は手の中で擦りながら、目線を落とした。黒子からは彼の表情は見えない。
「奉仕の精神は確かに尊いものだと認める。……が、僕はもう少し打算的な人間だよ。知っているだろう」
 打算。この行為が何らかの損得勘定によるものだということか。しかし、赤司にとってメリットがあるとは思えない。あとで何か要求されるのか? それも考えにくい。いまの黒子の能力が常人よりはるかに低いことを、赤司は知っているのだから。だが単純な善意とか同情と解釈するよりは、打算が存在すると考えたほうが自然に思えた。
「ええ、知っています。簡単に憐みを見せるような人でないことも」
「よくわかっている……」
 再び生暖かい粘膜の感触が与えられる。前歯が皮膚を柔らかく掠め、弾力のある舌が纏わりつく。黒子はびくりと全身を震わせた。
「ふっ、あっ……あ、ん……。あ、赤司くん……その、そろそろ放していただけませんか」
 答えるために赤司が口を遠ざける。見上げてきた彼の唇がぬらぬらと光っているのが恐ろしいほどに淫靡だ。からかうでも馬鹿にするでもなく、ただの意見として言ってくる。
「このままでも構わないが?」
「いえ……僕が構いますので」
「そうか」
 あっさりと了承してくれたかと思うと、代わりに手指で何度か強めの刺激を与えられる。黒子の控え目な呻きとともに、熱が放たれる。赤司がうまく手の中で受け止めてくれたので、周囲にあまり被害が及ばなかった。
「お疲れ」
 何もしていないのに労われ、奇妙な心地がする。快感の波がまだ退かない黒子がぼんやりしている間に、赤司はティッシュペーパーできれいに後始末をした。終わった、と声をかけられ、黒子はのろりと腰を上げ、下半身の衣服を整えた。
「あの……ありがとうございました」
「構わないよ」
「えと……ウェットティッシュ、あったと思います。箪笥の上……」
 黒子が箪笥のほうを指さす。円柱型のウェットティッシュの箱だ。朝どうしても起き上がれず、自室で多少でも朝食を掻き込むときに、衛生のために利用する品だ。次から使いにくくなる気がしたが、きっと忘れてしまうので問題ないだろう。
「ああ。もらおう」
 赤司は立ち上がると、箪笥の前まで移動し、ボックスの蓋を開けて一枚引っ張り出した。
「何枚か使っていただいて構いません。一応消毒液仕様ですので、しっかりどうぞ」
「別に汚いとは思っていないが」
「きれいなものでもないですよ」
 薄い消毒液で手の表面に冷気を覚えたところで、赤司はボックスの蓋を新しいウェットティッシュで拭いた。そして先ほどのティッシュを捨てたゴミ箱にまとめて放り、設置された袋の口を縛ると、新しい袋に取り換えた。メモに残さなくても、丸くなったゴミ袋を見れば黒子も捨てることを思いつくだろう。
「疲れたか?」
 赤司は、ベッドの縁に座り目をとろんとさせている黒子の目尻に指を触れさせた。
「少し。すみません、何もしていないのに」
「疲労を感じるのは当然だ。しかし、時間が中途半端だな……まだ寝ないほうがいい。多少早く就寝してもいいだろうが、夕飯は抜くなよ。季節を考えると、入浴もしたほうがいい」
 赤司の忠告に、黒子は素直にうなずいた。
「はい、がんばって起きています」
「ああ、そうしろ。日も沈んだことだし、僕はそろそろ帰るよ」
 赤司は当たり前のようにお茶請けのトレイを片付けると、荷物と一緒に持って扉へと向かった。
「次はもう少し、遅い時間帯にするようにしようか。寝る前とか」
「え」
「またな」
 提案に対する黒子の返事を聞かないまま、赤司は部屋から出ていった。
 黒子は一瞬目が冴えたが、すぐにまた眠気が襲ってきたので、睡魔と闘うのに精一杯で、考える余裕もなく記憶が消えてゆくのに任せるしかなかった。

*****

 夏季休暇がはじまる頃、赤司は緑間のアパートを訪ねた。将棋でも指すかと誘おうとしたが、部屋の主が連日のレポートによる睡眠不足で疲弊していたため、自重することにした。もっとも、赤司の近況報告は緑間にとって十分すぎるほどの覚醒効果があったのだが。
「赤司……何をやっているのだよ」
 濃い目に淹れたコーヒーと、赤司が土産に持ってきたそれなりに品質のよいインスタントのおしるこを前に、漫画のように眼鏡の片側をずらしていた。
「説明したとおりだ。テツヤの処理を少しばかり介助している」
 しれっと言う赤司に、緑間は頭痛を覚えた。睡眠が足りていないせいばかりではないだろう。
「あのな……黒子はもう、そのような介助が必要な身ではないだろう。確かに体に不自由さは残っているが、十分動ける。入院中は仕方ない面があったと思うし、おまえがそういう役割をしていたことを非難する気はないが……」
「弁明する気はない。僕がしたいと思ったから、している」
「開き直りにもほどがあるのだよ」
 黒子の長期入院、すなわち事故で病院に運び込まれてから自宅療養に切り替わるまでの約半年の間、赤司がたまに黒子に対し性的な処理をしてやっていたことは、すでに緑間も知るところだった。黒子にはもちろんそんな記憶は残らないので、緑間に告げたのは赤司のほうだった。無論驚きはしたが、黒子の年齢や身体の状態、生殖機能への直接的ダメージがないことを考慮すれば、必要な処置だと解釈した。ひとによっては異性の手を借りるより心理的抵抗が少ないことも。だが、自宅療養に移った現在は自力で処理が可能なはずだ。確かにいつ行ったのかは覚えていないだろうが、したいと思ったときにできないほど体の動きが制限されているわけではない。
 こうして自分に報告してきたことを含めて、赤司の行動を理解しがたく感じた緑間は、はぐらかされるだろうと予想しつつも尋ねた。
「おまえに限って自分の欲でそういうことはするまい。何か考えがあるのか」
「いや別に」
 ごまかすにしては直球だ。本当に何も考えていないのかと一瞬信じかけたが、そんなことはあり得ないとすぐに思い直す。この男が衝動だけで動くはずがない。
「おまえがそんなに短絡的だとは思えないが」
「たいていは自分で事足りるだろうが、たまには他人の感触を知るのも悪くはないだろう。娯楽の少ない身だろうし」
「身体のケアのつもりか?」
 緑間の指摘に、赤司は珍しく目をぱちくりさせた後、
「ああ……そういう見方もできるのか」
 納得したように顎を少し引いた。緑間は、そんなところまで気を回す必要はないのだよ、と前置きをしてから言った。
「おまえはあいつに何もできることがないと言うが、俺たちの間で一番役に立っているのはどう考えてもおまえではないか。法律、行政関係だけではなく、入院中の看護やリハビリにもかなりつき合っただろう。遠隔住まいだったというのに」
 赤司はコメントを考えるように少し逡巡していたが、パフォーマンスだろうと緑間は思った。
「では、それを少しこじらせたかな?」
「こじらせすぎなのだよ。さっさと正気に戻れ」
「正気とは何だ?」
「おまえと哲学問答をする気にはなれん」
 真顔で問うてくる赤司に、緑間は面倒くさそうに手を振った。うっとうしい相手を追い払うように。
 こく、と甘い汁で喉を潤す。土産のおしるこがインスタントにしては例外なほど美味なことには感謝しつつ、すっと目を細め眼鏡の位置を正す。
「赤司……黒子の後遺症のことで無力感を感じるのはわかる。俺もそうだからだ。その上でなお、何かしたいと思う気持ちも。だがおまえは少々行き過ぎているのだよ。壊れてしまった黒子の心身をどうすることもできないというのは――語弊のある表現だとは思うが――おまえにとって味わったことのない挫折感だろう。あいつに何もできないことで、おまえは自分への激しい失望と自己嫌悪を抱いている。そして、自分自身が悪いわけではないことも、おまえは理解しているだろう。事故の相手はいるが、被害の少ないほうが一方的に悪いという状況でもない。はっきりと糾弾できる人間がいない。責任の所在を求められない。ある意味で非常に苦しい状態だ。だがおまえは逃げ出すほど弱くはない。……おまえは一見ひどくあいつに対して献身的だ。おまえを知る人間が見たら卒倒するくらい。だが俺は、おまえらしいと思う。結局そこにはエゴがある。無力感が己を支配しようとすることへの抵抗だ。赤司征十郎という男は、本来支配する側の人間だ。自分にままならぬ状況は耐えがたいだろう」
 自らの分析が独断と偏見に満ちていることを自覚しつつも、緑間は断定的な口調で語った。赤司は苛ついた様子は見せないが、いまいち興味が惹かれないという意味でおもしろくはなさそうな表情で、先を促した。
「話が冗長だ。結論は?」
「おまえは自分の無力を否定するための代償行為として、黒子に尽くしたがっているのだよ」
「それがおまえの見解か」
 赤司の目が細められる。怒りや不機嫌とは違うが、剣呑な光が一瞬きらめいた気がした。緑間はぎくりとする。
「すまん、穿ち過ぎた」
「いや。第三者の意見は聞くべきだと思う。だからおまえに話したのさ、真太郎」
 赤司はまた元の無表情に戻っていた。音もなくコーヒーで口を湿らせる。相変わらず優雅な動作だ、と緑間はなんとはなしに思った。
「話したいなら話せ。聞き役くらいにはなる。だが、相手は選べ。くれぐれも黄瀬には言うなよ? ただでさえ黒子関連では参っているのだから」
「言われるまでもない。涼太に告げるなんて、間接的な自殺教唆に等しい行為だ」
 ふふ、と苦笑めいた声をこぼすが、発言内容が誇張でも比喩でもないことは、ふたりの間では明白だった。
 その後、手元の飲み物がなくなるまでの時間、黒子に関わること以外の近況を伝え合ったり、最近のニュースについて語ったりした。緑間があくびを噛み殺したところで、赤司がそろそろ休んだらどうだと声を掛けてきた。ああ、そうしようか、と今度は遠慮せずあくびをしながらカップを片しはじめる。と、ふいに赤司に呼び止められる。
「真太郎」
「なんだ」
 振り返らないまま水場に向かう。
「臨床心理士の資格も取れるんじゃないか?」
「医師免許で概ね足りるのだよ」
「まあそうだな。勉学に励んでくれ」
 気のない激励とともに、赤司はカーペットに寝転がった。帰る気はないらしい。きっと自分が休むまでは居座るつもりだと推測した緑間は、エアコンの設定温度を一度上げてから眼鏡を外し、タオルケットも掛けずにベッドに転がった。連日の疲れもあり、すぐに心地よい睡魔が訪れた。
 目を覚ますと、体の上にはご丁寧にタオルケットが掛けられていた。起き上がるとローテーブルの前で食事中の赤司と目が合った。意外と行儀悪く、崩れた胡坐を組んでいる。すっかりリラックスモードだ。まあそう見えるだけで、実際はいつもどおりなのかもしれないが。
「ずいぶん眠っていたな。先に食べている。勝手に食材を漁らせてもらった。おまえの分は冷蔵庫だ」
 テーブルの上には、名前のわからない料理が三品並んでいた。プラス、白米と澄まし汁。おそらく賞味期限が切れたかぎりぎりの食材を掻き集め、適当に調理したらこうなったのだろう。とりあえず礼を言ってから遅い夕食を摂る。まずくはないがやけに薄味だった。関西の味付けだとしても薄すぎる気がした。病院食に近い。健康のためなのだろうか、と訝っていると、
「調味料を切らし過ぎだ。味噌もないとは呆れたものだ。明日の朝食も味噌汁なしにならざるを得ないじゃないか。その上しるこ缶は向こう一ヶ月分あると来た。忙しいのはわかるが、食事の管理はきちんと行え。明日買い出しに行くぞ。寝過ごすなよ」
 真顔で勝手に宿泊宣言をされた。よくよく見ると髪が少し湿っている上、なんだか服装がだらしないと思ったら、家主のTシャツとハーフパンツを着ていた。身長の違いからいってサイズが合うはずもなく、あちこち布が余っているせいでだらしなく見えたのだ。知らない間に風呂まで済ませたようだ。ふと、洗濯機が回る音まで聞こえてきた。いや、この音は風乾燥か。視線を動かすと、部屋の隅に客用の(主に家族が遊びに来たとき用の)蒲団が一式用意されていた。完全に居座る気である、翌日まで。寝る前に自分が語った分析はまったくの的外れで、実はこいつは単にちょっと駄目な人間の世話を焼くのが好きなだけではないのか。だとしたら死ぬほど恥ずかしいのだが……。
 やっぱり寝る前にさっさと帰せばよかった。
 せっかく休息をとったはずなのに、緑間は頭痛が再燃するのを感じずにはいられなかった。

つづく

 

PR

× CLOSE

× CLOSE

Copyright © 倉庫 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]