忍者ブログ

倉庫

『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ボノボる魔法使いたち

*ご注意*
直接的な描写はありませんが、いろいろ下品です。
赤と黒が爛れているほか、回想でキセキのメンツが乱交していたりと、めちゃくちゃです。






 俺のリラックス魔法の暴発により、リラックスとは真逆の絶叫と興奮の渦を引き起こしてから数日、俺は赤司を自室に入れず、家のほかの場所でも極力顔をあわせないよう部屋に引きこもった生活を送っていた。あの事故以来、自身の魔法の暴発が怖くて、修行に関しては委員会から支給された教科書を読むだけの机上の勉強ばかりで、実技からは遠ざかっている。使わなきゃいつまで経っても使えるようになりませんよ、との黒子の弁は正論だろう。しかし、人間生まれ人間育ちで最近魔法使いとして覚醒したばかりの俺は、いままでどおり日本で生活するにおいて魔法が使えなくて困ることなんてない。それはそうだ、魔法など使えないほうが当たり前なのだから。人間、必要に迫られれば嫌でも技術を身につけ、特に必要がなければモチベーションが上がらず習得がはかどらないものだ。一般に日本人が英語が苦手なのは、国内で生活するには日本語だけで十分で、使う機会も聞く機会も限局され、差し迫った必要性がまったくないからだろう。だからといって他言語が在来言語を圧迫するような文化侵略的な状況は歓迎したくないが。
 赤司は就寝の頃になると、俺の部屋の前にやってきて、中に入れてとばかりにみぃみぃ鳴き、カリカリと戸を引っ掻く。あんな痴漢行為を食らったあとでは、いかに廊下が寒くとも、絶対に入れてやるもんかとの意志は崩れない。赤司は断続的に甘ったるい、それでいて寂しそうな猫の鳴き声をしばらく立て続け、それでも俺が戸を開けないのを理解すると、諦めて自分の部屋に帰るようで、いつしか声も足音も消えている。立ち去る前、みぃ……とそれはもう悲しそうな鳴き声を出すのを聞くと、中身はセクハラ親父の精神をもったイケメンだと知っていながら、あの愛らしい黒猫アカシのしょんぼりした後ろ姿がイメージとして脳裏に浮かび上がり、言い知れぬ罪悪感に見舞われる。俺、何も悪くないのに。釈然としない気持ちとともにしょぼくれた黒猫の姿を振り払うべくぶるぶると頭を左右に小刻みに揺らしたあと、俺は自分の布団に潜るのだった。意味もなく、赤司が潜って寝ていたスペースを空けて。
 そんな生活を続けていたある日、夕食の後、俺は黒子と一緒に居間の炬燵に座って翌日の予習をしていたのだが、
「降旗くん……あの」
 黒子が数学の問題集を解く手を休めて俺に話しかけた。黒子はすでに何度も高校生活を満喫しているとのことなので、経験年数からして学校の勉強など必要ないと思うのだが、俺に合わせてか、はたまた学生らしさを追求したいという本人の趣味なのか、こうして俺と教科書や参考書を並べることが珍しくない。俺が台所で黒子から食器洗いの魔法という、ファンタジー欠如にもほどがあるが実用性はトップクラスという家事魔法のひとつを実践で見せてもらったあと勉強道具を持参して居間に戻ると、赤司の姿はなかった。普段猫の赤司にも人間と同じ部屋が与えられているので、そちらへ引っ込んだようだ。最近俺が露骨に避けているから、いい加減察してくれたのかもしれない。黒猫の赤司は相変わらずかわいくて、つい正体を忘れて構いたくなってしまうので、姿を見ずに済むことはありがたい。あいつ、ただそこにいるだけでとんでもない誘惑の塊だからな……。猫ってずるい。
 赤司の不在で予習がはかどっていたが、ふいに掛けられた黒子の声のトーンから、なんとなく次に出される話題の察しがついた。
「最近赤司くんとちょっとぎくしゃくしちゃってますけど……赤司くん、心配していましたよ」
 俺は化学の問題集の解答から視線を上げ、右手の赤ペンをくるりと回した。
「向こうが一方的に無茶な要求突きつけてきたくせに、何が心配なんだか……」
 性欲が迸って仕方ないから股を貸せとか……一介の男子高生にするような要求か? しかもこっちの反応お構いなしに勝手に俺の太腿に変なもん押し付けて擦ったり上下運動したりさながら擬似的なセックスのような……やめよう、思い出すだけでぞっとする。
「いえ、それについては特に何も。時が解決するとかなんとかのたまって、平然としていました」
 黒子はシャーペンのノックボタンで軽く右頬に窪みをつくりながら、困ったように眉を下げる。
「それはそれでむかつくな」
 あいつ、全然反省してないじゃん。俺がどれだけショックだったと思ってんだよ。いまだに赤司の心底気持ちよさそうな喘ぎ声が耳の奥に残っているような錯覚が生じることさえある。なんで生まれてはじめて生で聞いた嬌声が野郎の声帯振動によるものなんだよ……。
 うう、思い出すだけでメランコリーが落ちてくる。いらつきの代償として赤ペンのノックを押す親指が止まらない。うつむいてしまった俺に、黒子が少々申し訳なさそうに、うかがうような声音で言った。
「赤司くんが心配していたのはその……きみがきちんと処理できていないのでは、ということです」
「は……?」
 黒子の言葉は幾分曖昧で、俺は即座には意味を掴めず、疑問符とともに顔を上げた。
「ええと、まあ……つまりはオナニーです。この家に来てからつい最近まで、きみは夜寝るとき、ほとんどずっと赤司くんと一緒だったでしょう? 赤司くんの報告では、降旗くんは少なくとも彼の確認できた範囲では自室で一度もオナニーをしていないということです。一緒に寝なくなってからも外で気配を探っていたようですが、それらしい声や物音はなかったと。十六歳の性欲盛んな少年が大丈夫なのだろうかと、いたく心配をしておいででした」
 あの痴漢猫、立ち去るふりをしてそんなことしてたのかよ……。最低だ、と思うと同時に、間違っても気の緩みから自室でオナニーしなくてよかったと思った。しかし、それにしたってなんであいつに、なんであいつに……
「なんであいつにオナニーの心配されなきゃなんないの!? セクハラ!?」
「彼の無礼は僕から謝っておきます。すみません」
 座ったまま、黒子が深々と頭を下げる。額が卓袱台の表面にくっつきそうなほど。
「いや、黒子のせいじゃないし……謝られても」
 非のない黒子に謝られると、まるで俺のほうが悪いことをしたみたいな気持ちになってしまう。こちらは消費者として会社の責任者に文句をつけたいのに、クレーム対応で平謝りしてくれたのが末端の社員だったときのような居心地の悪さを覚える。
「赤司くんは見た目を裏切り中身が見事なおっさんなので、セクハラ発言をすることに迷いがありません。ただ、すべてが相手の羞恥心を煽ることを目的とした言葉かというとそういうわけでもなく……割と真剣なことも多々あります」
「真剣にオナニーの手伝いを他人に迫ってたらなお悪くないか?」
 悪ふざけのセクハラは不愉快だが、それがマジモンだったら不快を通り越して恐怖である。実際、赤司に股間を擦り付けられた体験は俺の中でまごうことなき恐怖の記憶だ。何が怖いって俺に欲情していたことが。いや、性欲自体は驚くべき長期間の禁欲が原因らしいので俺が直接の誘引ということはないのだろうが、そうだとしても男の俺が男の赤司にとってそういう対象になり得たという事実は、なんというかショッキングなのだ。男の性欲の視線がいかに不気味で恐ろしいものなのか俺ははじめて理解した気がする。男を蔑む女性の気持ちももっともかもしれない。
「そうですね、きみの価値観、及びそれを形成した生育環境、社会環境を鑑みれば、きみの言い分はまったくもってそのとおりです。僕も二十一世紀の日本社会で生活をしている身として、その見解を支持します。それは間違いありません。……ただ、ひとつお話しておいたほうがいいと思われることがありますので、勉強中に恐縮ですが、少し時間をいただいても?」
「な、なんだよ……?」
 黒子の改まった物言いに、俺は座布団の上でわずかに身じろいだ。感情の読みづらい黒子の雰囲気が急に変化したのを肌で感じる。いったい何の話がはじまるのか。身構える俺の向かいで、黒子がシャーペンをノートの上に置き、俺をまっすぐとらえた。
「降旗くん……実は我々魔法使いは部分的にではありますが、ヒトよりボノボに近い性質を持っているんです」
「ぼのぼ?」
 ってなんだっけ。なんかどこかで聞いたような……?
「ええ。ご存知でしょうか。類人猿の一種です。ピグミーチンパンジーともいいます。チンパンジーよりちょっと華奢な体つきで、知能は同等かそれ以上とされています」
「あー……なんか聞いたことあるような」
 確か性的に奔放で(これは人間の主観による偏見だろうが)、人間みたいに生殖に関わらない性行為が普通に行われ、脈絡もなく唐突にセックスのような行動を取り、そして唐突に終わる……みたいな映像をドキュメンタリーか何かで見たことがあったような。正常位でしたり、同性同士でも普通にやったり(しかも多い)と、何かとびっくりな生態をもつ不思議な種……だったような。
 そこまで記憶の扉が開いたところで俺ははたと止まる。
「ええと……それって」
「おそらくお察しのとおりかと」
 黒子は炬燵に突っ込んでいた脚を畳んでお行儀よく正座すると、口元に軽く握った拳を当て、はじまりの合図のようにこほんと咳払いをした。
「変身が解けたときの赤司くんの行動を我々の生態から説明しますと、彼は長年猫であることに心身が慣れているため、突然前触れもなしに人間に戻ったことにより強いストレスを感じたのだと思います。ここでいうストレスとは広義の、すなわち何らかの刺激によって生体に生じるゆがみのことだと思ってください。僕たち人間型の魔法使いは、魔力を持ち魔法を行使したり非常に長寿だったりしますが、肉体の基本構造は交雑可能な程度に人間に近く、また諸々の身体、知的能力も同程度です。実際には魔法と長寿のため魔法使い側にアドバンテージが生まれることが多いのですが。ただ、生殖行動については多分文化レベルではない、生物レベルでの差異があります」
 黒子はそこで一旦長台詞を切ると、もったいぶるように、あるいはこちらが心構えを整える猶予を与えるように、数秒の空白を置くと、
「僕たち、乱交なんです」
「ら、らんこう……」
 えっらい単語が飛び出した。
「あ、もちろん人間社会で生活している間はそれぞれの社会の文化や倫理観に沿って行動することが推奨されますので、きみのご両親は現代日本のマジョリティ的な文脈によって結婚しきみをもうけたのだと思います。だからご自分の出生に思い悩むことはありませんよ」
「いや、悩むよこれ……」
 お母さんは人間だから多分大丈夫だとして、おとんは魔法使いだから……。
「あの……それってもしかしたら俺が知らないだけで、ものすっごく年上のきょうだいがいたりするのかな?」
 父の魔法使いとしての年齢は知らないのだが、もし黒子や赤司みたいに戦国時代から生きています、なご長寿さんだとしたら、可能性としては現代に至るまでに子孫がわんさかいたとしても不思議ではないのではないか。仮に明治生まれの兄ちゃんがひとりいますとかだったとしても、そんなのは俺の母どころか母の祖母すら生きていたかどうかなレベルだから、浮気でもなんでもないのだが……子供としては複雑なものがある。
「さあ、それはなんとも。僕が知っているのは現在の降旗くんの家庭事情だけなので、お父さんの以前の動向についてはわかりません。魔法使いは寿命に合わせて生殖サイクルも長いので、あまりぽんぽん子供は生まれませんけど。でないと人口爆発が起きてしまいます」
 この件に関しては俺の家族事情であり、黒子が関与する分野ではないので、ここで黒子に質問を浴びせたところで一般論が返ってくるだけだろう。あとで親に聞いてみようか、いや、でも、別に知らなくてもいいことなのかも? 黒子の話とは別の方向へ意識がそれかけると、黒子がもう一度わざとらしい咳払いをして俺の注意を引いた。ちょっと申し訳なさそうな顔をしながら。
「ええと、話を続けさせてもらいますね。ヒトは生殖を目的とせず性行為を行いますが、魔法使いもそれについては同様です。しかしその程度、頻度はヒトよりも上です。ヒトと同じく快楽の追求のためにセックスすることもありますが、これに加えて――きみたちの感覚だとちょっと聞こえが悪いかもしれませんが――ストレス解消を目的としたセックスを行います。簡単にいうと、集団内の不和や緊張といった秩序を乱しかねない状況が発生したとき、それを緩和するために性的な行動を取ります。そしてこの行為は性別関係なく行われます。目的が繁殖ではなく秩序の維持なんですから、雌雄で接合しなければならない理由はないですよね。人間も、快楽追求が目的なら異性愛にこだわる理由なんてないと思うんですが、彼らはなぜか生殖を目的としない性行為にまで異性愛を持ち込みたがります、不思議なことに。血統管理を目的とするなら、むしろ生殖が必要なとき以外は同性間行為を推奨したほうがリスクが低い気がするのですが……繁殖欲の強さが原因なんでしょうかね」
 黒子の口ぶりから推察するに、魔法使いの間では性愛に性別の垣根はあまりないようだ。生殖を目的としないセックスをするなら同性間のほうが合理的じゃね?……とはなんとも極論だが、妙な説得力を感じてしまうのはなぜだろう。まさか俺の体をつくっている遺伝子がざわめいているのか? なんか……怖いんだけど。
「ええと……要するに魔法使いにとっては、こないだの赤司の暴挙は当たり前ってこと?」
 魔法使いってそんな生き物なの? いまにはじまったことじゃないけど、ファンタジーどこ行った。いや、ある意味ものすごくファンタジーな生態なのかもしれないが。
「いえ、あれはいささか配慮に欠けた行動だったと思います。降旗くんはすでに魔法使いにカテゴリ分けされますけど、まだまだ入り口にたったばかりであり、メンタリティはヒトとまったく同じです。加えてこの国の法律上、保護される立場に年齢です。十代なかばの少年に手を出すのはよろしくありません」
「な、なあ……いまの話からすると、少なくとも身内とか仲間内であれば、男女問わずセックスするのが、魔界じゃ常識ってこと……なのか?」
 だから赤司は男の俺に迷いもなくセックス(素股)を迫ったと?
「ええ、そのとおり。年齢もほとんど関係ありません。もちろん小さな子供の体を傷つけるようなことは我々の間でも悪とみなされますが。しかし、ちょっと刺激したり舐めたりというのは普通に行われます。とはいえやるほうもヒトが思うような性的興奮を原動力にしているわけではなく、子供をあやすみたいな感覚です。実際全然エロっぽくないですよ? お母さんが赤ちゃんのお世話の一環でおしっこを飲む習慣を持つ民族がいたりするでしょう? それと同様というとさすがに語弊がありますけど、少なくとも人間の小児性愛者とは全然次元が違います。ああいうのは我々の感覚でも異常だと感じます」
「そ、そんな感覚なんだ……」
 正常と異常の基準はもともとはっきり線引きができるものではないだろうが、それにしても俺の頭に混迷をもたらす話ではある。
「もちろん降旗くんのお父さんは降旗くんにそんなことはしていないと思いますが。人間社会だと下手したら虐待になっちゃいますから」
「さ、されてないと思うぜ?」
 少なくともそのような記憶はない。物心付く前は……なかったと信じよう。それが自分の精神衛生のためだ。
 黒子からもたらされた魔法使いのとんでもない真相に俺は青ざめながらうなだれた。なんか俺、とんでもない生き物の仲間入りをしちゃったんじゃ……?
 と、ふいにひとつの疑問がいずこからか降ってくるのを感じ、俺は上目遣いで黒子を見ながらおずおずと口を開いた。
「あの……ちょっと思ったんだけど……」
「ご質問ですか? なんでもどうぞ。僕に答えられることなら」
「黒子って、赤司と旧知なんだよな? 五百年程度は。ってことは、おまえと赤司って……」
 俺がもごもごと歯切れ悪く語尾を濁らせると、
「セックスしたことあるかと聞きたいんですか?」
 黒子があっさりとこちらの意図を汲んで質問内容を明確にした。天気予報の確認でもするかような淡白さに、俺のほうが恐縮してしまう。
「ご、ごめん……」
「いえ、気にしないので大丈夫です。もちろんありますよ。といってもペッティング程度ですけど。セックスセックスって言ってますけど、いわゆる法律上の性行為を行うことは少ないです。扱きあったり互いにオーラルをしたり……まあソフトな表現をするなら、触りっこってやつですかね」」
「さ、触りっこ……したの? あの、猫のあいつをナデナデした……とか?」
 まさか黒猫の体を撫でるだけでペッティングと見なされるのか? そうだとしたら俺はすでに赤司に……。思い当たった可能性に俺が戦慄していると、テーブルの対面で黒子がすぅっと目を細め、
「きみはエロい気持ちで動物をナデナデするんですか? 動物園で欲情するんですか? アニマル番組を見ているとオナニーの衝動に駆られるんですか? 猫の赤司くんを懐に入れてへらへらしつつ下半身は荒ぶっていたんですかそうなんですか?」
 矢継ぎ早に質問を投げつけてきた。な、なんか怖い。これは触れてはならない領域だったということだろうか。まあそりゃそうだよな。同種の間であれこれ致すのと獣姦では、まったく次元が違う問題だろう。
「……ごめん、愚かな質問でした」
 しゅんとうなだれながら俺が即座に謝ると、黒子はジト目を解消し、やれやれと肩をすくめた。
「猫の赤司くんとどうこうなんてことはないですよ。彼と最後にセックスしたのは五世紀以上前のことです。あの頃はいまよりずっと若かったこともあり、みんな元気でしたねえ……」
 懐かしそうに呟いていた黒子だが、ふと右手を持ち上げたかと思うと、人差し指を俺のほうへ向けた。え? 魔法? 俺が対象? 黒子が俺に悪意ある魔法を掛けることはないと信頼しているのでびびったりはしないが、いったい何の魔法なのかと気にはなる。何のつもりだと奇行としたそのとき……
――赤司くん、ちょっと握力弱いです。もうちょっと強く。
――あまり力を入れすぎるのはよくないぞ? 強い圧力に慣れてしまうと、反応が鈍くなる。
――でもこれじゃ物足りません。もうちょっと。
――仕方ないな。少しだけだぞ?
 突如として映像が出現した。いや、目の前に現れたのではなく、頭の中にイメージとして浮かび上がった。それも音声付きで。
 薄暗い空間で、大河ドラマに出てきそうな襦袢をもっと生活感溢れる勢いでみすぼらしくしたような服装の人間がふたり。現実の視覚ではなくイメージであるためか、周囲の暗さに反して人物はやけに鮮明で、髪の色で判別がつく。赤司と黒子だ。彼らは互いの襦袢のあわせに手を突っ込み、はあはあ呼吸を荒げつつも平坦な声で世間話みたいに会話をしている。な、なんだこれ。もしかして黒子と赤司のセックスシーン? いや、セックスっていうか扱き合いって感じだけど……。服装からすると赤司が人間だった頃……五百年前かそれ以上? もしかしてこれ、黒子の思い出……?
 脳内で昔の赤司と黒子があんあん声を上げるのを必死で無視しながら、俺は説明を求めて黒子を見た。すると黒子はなぜか誇らしげにこくんとうなずくと、指を鳴らすような仕草をした。黒子の親指と人差し指は皮膚を擦る音しか奏でなかったが、それを合図として俺の頭の中に流れる映像が切り替わる。
 日本人にしてはやけに濃い色の肌をした長身の男が白い襦袢姿で板の間に寝そべり、その上には肩の布がずり落ちるようにして脱げた黒子が馬乗りのかっこうで跨っている。そして黒子の襦袢から膝下には、やけに脚の長い男がダッコちゃんを横倒しにしたような体勢でしがみついている。色黒の男の頭側では、巨人の子供かと疑いたくなるような大男が足を投げ出して座り、その大男を座椅子のようにしてくつろいだポーズを取る赤髪のイケメン。これは赤司に違いない。ちょっぴり楽しそうな表情の赤司は、両足を前方に伸展させている。そのつま先にはまた別の人間の体。座椅子コンビと向かい合うかたちで、これまた背の高そうな男が控えめに脚を開いている。ええと……もしかして足コキ?
 いったい何の図だよこれ。デッサンの上級素材か?
 プツ、とまるでテレビの液晶画面が消えるかのように謎の光景が闇に消えたかと思うと、今度は先ほどの色黒くんがつまらなそうな表情で足長くんの胸を両手で押している。足長くんもまた不服そうに唇を尖らせている。続いて現れたのは、さっき足コキされていた男に組み付くようにして脚を絡める赤司の姿。いわゆる対面座位である。……う、最近の悪夢が……。
 どうも不特定多数ならぬ特定多数のようで、出現するメンバーはだいたい一緒だ。おそらく全員男。しかも過半数が長身で体格がよい。彼らが代わる代わるシックスナインや座位で出現したり、駅弁を試みて失敗したりという光景が次々に頭の中に流れ込んでくる。ご丁寧に音声再生サービスまでつけてくれちゃって。たまに喘ぎ声も聞こえてくるが、大半は普通の会話っぽい言葉だ。みんな全体的に表情が薄いというか、談話でもしているかのような何気なさでセックスをしている。励んでいるという表現とは対極、なんか適当にやってハイ終わり、みたいな淡白な印象だ。
 ……まあ、やってることは全部性行為の範疇に収まるものなんですが。
「ちょっ……え? ちょっ? な、なななななな、なに!? いまのイメージなに!?」
 脳内に強制的に映し出された謎のエロ(?)シーンの数々に俺が悲鳴を上げると、黒子がお粗末さまでしたというようにぺこりとお辞儀をした。
「僕の記憶の一部を降旗くんの脳内に映像として再構成して投射したんです。一種のテレパシーみたいなものだと思っていただければ」
「いや、魔法の種類を聞いたんじゃなくて! なんなのいまの映像!? ゲイビ!?」
 慌てふためく俺とは対照的に、黒子はいつもどおり平静な口調で答える。
「いえ、僕の交友関係の一端です。昔の友達というか仲間というか。僕を含め赤司くんの仲間たちですから、すなわち全員犯罪者です、恥ずかしいことに」
「恥ずかしいのそこ……?」
 もっと別のことを恥じるべきではないだろうか。
「びっくりしたかもしれませんが、僕たちにとってあれは普通です。日常のコミュニケーションに過ぎません。悪い意味でなく、恋愛感情はありません。駄弁るような感覚でセックスの真似事をします。それだけのことです」
 そういう感覚なら恋愛感情がないのはむしろ自然なのかもしれないが……。
「じ、人生最大のカルチャーショックだ……」
 俺は衝撃に文字通り撃沈した。なんなの魔法使いって。フリーセックスの先駆者? ヒッピーの先輩? ファンタジー文学に励む人間を嘲笑うかのような魔法使いたちのぶっ飛んだ生態と習性に俺はなんだかよくわからないがめった刺しにされた気分になった。
「いまは衝撃に打ちひしがれるのも致し方ありませんが、きみも魔法使いなんですから、もし今後魔界で生活する機会があれば、周囲の魔法使いにああいったことを求められますから、一応その心構えはしておいたほうがいいでしょう」
 ていうことは何か、魔界ではマジであれが普通なのか。むしろ挨拶代わりだったりするのか!? 
「む、無理! 絶対魔界なんて行かない!」
 まさに魔界だよ。俺からしたら魔が渦巻いてる世界だよ。
「それがですね、修行プログラムの一環でどうしても魔界に一時滞在するカリキュラムが組まれているんです。実習みたいな感じで。まだ先のことですけど」
 なにそれ初耳なんだけど!?
「う、嘘だぁ……」
 もはや大声を出す気力もなく、蚊の泣くような声で俺が呟くと、
「はい、嘘です」
 真顔で断言する黒子。
「へ?」
「すみません、降旗くんがあまりに赤司くんのセクハラ行動に怯えてらしたので、それらしい理由づけを無理矢理ひねり出してみたんですか……いささか無茶があったかと」
 黒子は額を指で押さえながら、ううむ、と考え込むジェスチャーをして見せたあと、
「もしかして信じました?」
 苦笑とともにそう言った。
「ちょ……黒子!」
「それはよかった。信じていただけたなら何よりです」
「えっ?」
 なに、どういうこと? 嘘って、何が嘘? 何がよかったっていうんだ?
 黒子のリアクションもその意図も読めず困惑する俺に、黒子が芝居がかった動きでポンと両手の平を合わせた。
「あ、そうそう、降旗くん、最初の話に戻りますが……オナニーのほうは大丈夫ですか? 最近していないのでは?」
「い、いいよ、その話はもう……」
 なんかもう性的は話題はしばらくしたくないです、な心境の俺を無視し、黒子が話を続ける。
「実はですね、赤司くんから『若い降旗くんが溜まっているのに吐き出せなかったらかわいそうだから、おまえが手伝ってやれ、テツヤ』と命じられていまして」
「ええぇぇぇぇぇぇ……」
 何なの、気遣い? 余計なお世話? それとも俺が最近部屋に入れてやらないことへのあてこすりなのか?
「どうします? 降旗くんがお望みならお手伝いしますよ? 手か口になりますが」
 黒子は右手を顔の高さに掲げると、見えない何かを握るように指のかたちを整え、意味ありげな上下運動を披露した。
「結構です!」
「ならいいですが……ほんとに大丈夫ですか? オナニーできてます?」
「ふ……風呂場でしてます! あ……ちゃ、ちゃんとバスタブの外に出てやってるし、シャワーで流してるからな?」
 こんなこと告白するのは御免だったが、オナニーの心配が不要なことを具体的に示さないと納得してくれそうになかったので、なかば捨鉢な気持ちで叫んだ。と、そのとき。
「そうか、やはり最近風呂場から漂ってきていたにおいは、きみの精液だったのか。テツヤのにおいじゃなかったから、まあまず間違いなく降旗くんだろうと思ってはいたが」
 炬燵布団と胡座をかいた俺の脚の間から、にゅっと黒い毛玉が飛び出した。
「うわ!? 赤司!?」
「こんばんは、降旗くん」
 炬燵布団から首から先をちょこんと出した赤司が、いつものかわいい顔で挨拶してくる。悔しいが、見てくれがいいことだけは認めよう。……う、駄目だ、あんま見てると撫でたくなる。黒猫の魅惑やばい。
「お、おま……いつから?」
「赤司くん……どっから入ってきたんですか」
 てっきり赤司は自室でおっさんモードだとばかり思っていたのだが。
「最初からいたが。おまえら好き勝手に脚を突っ込んでくるから、避けるのが大変だったぞ。あと酸素少なくて苦しかった」
「それはまたアホなことをしてましたね……」
 俺たちが洗い物をしている間に炬燵に潜伏したらしい赤司は、盗み聞きしていたのか寝こけていたのかは知らないが、ずっと俺たちの足元に存在していたようだ。
「降旗くん、重ね重ね、この間はすまなかったね。現代日本で暮らしているとはいえ、僕は外界との直接的な接触が少ないから、いまいちこちらの常識がピンと来ないところがあって。あのときは突然の事態で混乱しているわ、五百年間の性衝動に駆られるわで、つい理性のネジが緩んでしまったんだ」
「は、はあ……」
 そう語る赤司の口調は冷静で、確かにあのときは一時的にどうかしていたんだろうなと信じさせるだけの説得力は持っている。が、そう感じたのも束の間――
「お詫びと言ってはなんだが、この間は僕が一方的に世話になってしまったから、今日は恩返ししたいと思う」
 黒猫の頭が俺の股間に突撃してきた。しかも、ズボン越しにではあるが、その下の大事な器官に柔らかい何かが這う感触が……。
「おい!? 何すんだよ!?」
「フェラチオを。……さ、降旗くん、ズボン下ろそうか」
 と、顔を起こした赤司の右前脚が俺の穿くジャージのウエストに掛けられる。
「ちょっ……!?」
「犬と違って猫の舌はざらついているから、バター犬的な気持ちよさはないかもしれないが……スリリング度合いではこちらが上だ。大丈夫、怪我をさせたりはしない、おとなしくしていてくれれば」
「きょ、脅迫……! それ脅迫!」
 赤司に手指や顔を舐められた経験はあるので、彼の舌の表面が毛羽立っていることは知っている。加えてネコ科は肉食獣の中でも動物食性が強い生き物。獲物を捕らえるための爪や牙は鋭い。そんなもので股間を狙われるとか恐怖以外の何ものでもない。
「大丈夫、爪は立てないしくわえることもしない。ただ舐めるだけだ」
 猫のフェラも十分怖い! というか別の次元の恐ろしさがある。そこはひととして超えちゃいけないラインだろうと。
「黒子! おい、こいつなんとかしてくれよ!」
「えーと……日本の法律って、動物は基本的にモノ扱いですから、犯罪者にはなり得ないんですよね……」
 黒子の行動が鈍い。もしかして、人間の姿だとアウトな行為も、猫なら許されるとかいう滅茶苦茶な法律の穴が存在するのか? 魔界の立法機関は本気で改革に取り組んだほうがいいぞ。
「いや、飼育者の責任は問われるからな!?」
「僕はテツヤのペットではないぞ」
 ちょっぴり不服そうに断りを入れたあと、黒猫の前脚がウエストの内側に突っ込まれた。
「ぎゃ――――――――っ!? 痴漢!?」
 俺は大慌てで赤司の首根っこを掴むと、乱暴なのは承知で汚物を手放すかのようにペッと宙に放り投げた。さすがネコ科、すばらしい運動神経と柔軟性で難なく畳の上に着地した。警戒する俺をよそに、赤司は黒子のほうへと歩いて行った。
「まったく仕方のない子だな。……よし、テツヤ、おまえちょっとズボン下ろせ」
 また唐突にとんでもない要求を繰り出す赤司だったが、
「何のために?」
 黒子は少しの動揺も見せない。それだけつき合いが長いということか。
「まずおまえでデモンストレーションをして、何も問題ないことを証明すれば、降旗くんも安心できるだろう」
「それで彼が安心できるかは甚だ疑問ですが……まあいいですよ。ズボン下ろすくらい。でも、爪とか牙とか立てないでくださいよ、絶対」
 黒子はあっさりうなずくと、膝立ちになってズボンのウエストに指を引っ掛けた。
「ちょっ……黒子!?」
 おまえまでそっちの世界に行っちゃうの!? いや、最初からそっちの世界の住人だったってこと!?
「大丈夫だ降旗くん。きみも魔法使いなんだから、性行動の原則は僕たちと同じ。すなわち、いま心が乱れているきみも、性行為を行えば心が安らぐはずだ。人間社会の規範は捨て、その身に流れる魔法使いの血に従えば自ずとなすべきことが見えてくるはずだ。僕のことはリラクゼーションサロンの店員だとでも思って気楽にしているといい」
「むしろピンサロじゃね!?」
 俺、この先こんな連中と一緒に生活していかなきゃなんないの? むしろ俺がこいつらの仲間入り?
 冗談じゃないんだけど! 助けてお母さんお父さん!
 ……あ、おとんも魔法使いだっけ。
 どうしよう、俺もいずれあんなふうになっちゃうの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PR

× CLOSE

× CLOSE

Copyright © 倉庫 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]