忍者ブログ

倉庫

『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

彼は僕の性欲を刺激してやまない 7

赤降が性的にいちゃついています。



 起こした上半身をやや強引にひねって後方を振り返り、降旗くんは右腕をばたつかせました。何かに縋りたがっている様子です。
「やー、やー! せいくん、それこわい……! やめてぇっ!」
 僕の位置から見えるのは降旗くんの横顔なので確証はありませんが、おそらく眉根を寄せていることと思われます。苦悶を表す表情で彼はいやいやと小さく首を左右に振っています。しかし、やめてと訴えてはいるものの、現在赤司くんが何かしているようには見えません。目撃の直後はすでに合体済みかと思ったのですが、いまの両者の位置関係や体勢から、それはないとわかりました。ただ、降旗くんの腰骨周辺の肌色が丸見えですので、下着を下ろしていることは明白です。一方赤司くんはシャツのボタンが外れてはいますが、概ねこの部屋に入ったときのままの着衣を保っています。彼はなだめるように降旗くんの手を握ろうとしましたが、降旗くんは多少パニックに陥っているのか、赤司くんの手が触れた瞬間びくりと腕を引っ込めてしまいました。
「落ち着け。悪かった」
「やあっ、やあっ……!」
「光樹、もう何もしていない」
 赤司くんは両手を降旗くんの前に掲げて見せました。右手の指が室内灯の白い光を反射してぬらりとした光沢を放っています。ローションで濡れているのでしょう。……ということは、指を挿れる前後までは進んでいたのでしょう。赤司くんの、もう何もしていない、との言い方から、直前まで何かしていたと思われます。まあ、指で慣らしていたということでしょうけれど。
 降旗くんは一瞬、赤司くんのふたつの手を見てきょとんとしました。
「ふぇ? え? だ、だって……まだぞくぞくして……な、なんか来そう……」
 風邪にひきはじめの悪寒に耐えるように彼は目をつむりぶるりと体を震わせました。
「せ、征くん……やぁっ……なんか変……」
「大丈夫だ。大丈夫だから」
 何かを恐れぐずぐずといまにも泣き出しそうな降旗くんを、赤司くんが優しく抱き寄せ、自分の肩に彼の顔を埋めさせました。玄関の外に出ていたことでここまでの流れが途切れてしまいいまいち把握できないので現状からの推測になりますが、多分降旗くんは強すぎる快感に恐怖を覚えて思わず声を上げ制止したのではないかと思われます。自分で散々触れて高めていたところにやっと赤司くんの指でいいところを探ってもらえたという心理的な高揚も手伝い、思わぬ強さの快感が走り、怖くなってしまったのではないかと。ひょっとしたらドライオーガズムに近いところまで達していたのかもしれません。とてつもない大きさの快楽ゆえに恐れを抱くというのもわからない話ではありません。
 赤司くんに柔らかく抱き締められた降旗くんもまた、おずおずと相手に腕を回し、きゅっと彼の背を抱きました。赤司くんはマットレスの隅で皺くちゃになっているタオルケットを掴んで引き寄せると、降旗くんの肩に掛けました。特に冷えるのを気にするような季節ではないのですが、妙な甲斐性を見せるものです。あるいは、僕たちに降旗くんの裸を見せまいとしてでしょうか。こちらには一瞥も寄越さない赤司くんではありますが、僕らの存在を完全に失念しているということはないでしょうから、牽制の意味合いがあるのかもしれません。いえ、僕たちは降旗くんに性欲を刺激されたりしませんけど。
 降旗くんの後頭部の髪の毛に指を差し込みしばらくの間梳くように撫でていた赤司くんでしたが、やがてちょんちょんと耳のあたりを叩いて降旗くんの注意を引きました。
「少し落ち着いたか?」
「ん……ごめんね、大きい声出して」
 もぞり、と緩慢に首を持ち上げて赤司くんを上目遣いに見る降旗くん。完全にふたりの世界です。赤司くんはともかくとして、降旗くんの頭からはすでに僕たちというか火神くんが存在した件は飛んでいるようです。涙の跡の残る降旗くんの目尻に赤司くんはキスをひとつ落としました。
「怖かったのか」
 端的に尋ねられた降旗くんは、ばつが悪そうに視線をせわしなくさまよわせながら、ためらいがちに口を開きました。
「う……うん。その、少し。あ……で、でも、嫌なわけじゃないよ? ただちょっと、その……びっくりしちゃって。……すっごく気持ちよかったから。よすぎておかしくなっちゃいそうで、それで怖くなっちゃって……」
 やはり降旗くんは過度の快感に恐れをなしてつい悲鳴を上げてしまったようです。制止のために拒絶のような言葉を放ってしまったことを後悔してか、非常に申し訳なさそうなまなざしを赤司くんに向けています。赤司くんはそれに微苦笑で応えたかと思うと、
「大分敏感になっているようだ。今日はもう触らないでおこうか」
 いまの降旗くんが一番恐れているであろう提案をしてしまいました。
 こっ、このニブチン! なんでこう肝心なところで気が利かないんですかっ。いえ、本人的には降旗くんに気を遣ってのことでしょうし、実際相手の反応によってはこのような申し出をすることが配慮であり優しさである場合は存在するでしょう。ただ、いまの状況でこれを口にするのは大不正解というものです。降旗くんは現在進行でそれはもう物欲しそうな態度全開なんですよ? 続けてほしいに決まっているじゃないですか。ていうかそのためにテレフォンセックスを経てなお呼び出されたんでしょうが。互いに望みながらこれまで最後まで至ることができなかったのは、降旗くんがびびるたびに赤司くんがあっさり退いてしまうことが一因だったのではないでしょうか。性欲を刺激されたという無茶苦茶な理由で降旗くんに性交渉を迫るような常人離れした強引さをもっているくせに、なんで最後の一線を越えるのはこうウダウダしちゃうんでしょうね、このひとは。
 赤司くんに恐ろしい提案をされた降旗くんの顔には一瞬にして失望と焦燥の色が広がりました。
「え? や、やだ……触って?」
「光樹」
 赤司くんがちょっと強めの口調で降旗くんの名前を呼びました。子供に言い聞かせる親のようなトーンですが、人差し指の先でちょんと降旗くんの唇に触れる仕草はなんとも甘やかです。降旗くんはその赤司くんの手を掴むと、自分の頬に押し当てました。
「ごめん……あんなんじゃきみもびっくりしちゃうよね。ほんとごめんね、俺、こんなで……。で、でも、きみとセックスしたいのはほんとだから……!」
「わかっている。きみの気持ちを嬉しく思う」
「ん……」
 赤司くんがちゅっと音を立てて降旗くんの額に口づけます。降旗くんはうっとりと目を閉じると、気持ちよさそうな表情のまま、くったりと赤司くんに体重を預けました。互いに崩れた姿勢のまま、ちゅぱちゅぱと唾液が粘膜を打つ音を響かせながら唇を貪り合うふたり。乱れていく呼吸の中で降旗くんが熱っぽい吐息とともにねだります。
「ね、征くん、もっかい触って……?」
 タオルケットの内側で身じろいだようで、降旗くんを包む布が小刻みに揺れました。赤司くんは小さくうなずくと、降旗くんの求めに応じて腕を動かし、手をシーツの上に這わせました。と、ふいに赤司くんの腕の動きが止まります。
「シーツ、湿ってる……?」
 やや疑問調の赤司くんの言葉に、降旗くんが気まずそうに口をぱくぱくさせました。
「う……あ、あの……電話切ったあともひとりでいじってて、ローション足したりしてたから……そ、その、こぼれてきちゃったんだと思う。あっちもぐちょぐちょになっちゃってた……よね?」
 わかりきったこととはいえ自ら音声に乗せて相手に報告するのは周知を感じるのでしょう、降旗くんは目元をさっと紅潮させました。
「ああ。よく濡れていて、すぐに指が入った」
「うん……入るよ。いっぱいいじっちゃったから。ね、征くん、ゆっくりなら大丈夫だと思うから……い、挿れて?」
 ああ! ついに降旗くんがダイレクトにおねだりしました!
 よくがんばりましたね降旗くん。さあ赤司くん、降旗くんが勇気と度胸を見せたのですから、ここで応えなかったら男じゃないですよ。
「その前に、もうちょっとほかのところを楽しみたい」
 この期に及んでまだ焦らす気ですかきみは。そりゃ前戯は大事ですよ? ことによったら本番よりウェイト高いですよ? でもラブホに移動する前にいちゃつき、降旗くんはその後ひとりで自分を高め、さらにはテレフォンセックスで遠隔的ににゃんにゃんしたんですから、もう十分じゃないですか。早く挿れてあげましょうよ。
 赤司くんは宣言通り、さっそくほかのところを楽しみはじめるつもりのようで、降旗くんの首筋にちゅっと吸い付きました。数時間前に自らがつけたキスマークを上からなぞるように。降旗くんがくすぐったさに目を閉じ身を震わせ、顎を持ち上げました。
「んんっ……。嬉しいけど……でも早く触ってほしいな」
「善処はしよう」
 降旗くんの首から胸に向かい、ぬらぬらと光を反射する痕跡が徐々に伸ばされていきます。舌や唇、前歯で乳首を刺激されているのでしょう、たまらないというように降旗くんが肩を上下させます。胸元に来た赤司くんの頭を掻き抱き、降旗くんが陶然とした声を上げました。
「んっ……きもちいい……。征くん、本物だぁ……」
 理由のわからないまま赤司くんが去ってしまったことで焦れに焦れていたであろう降旗くんは、やっと触れ合うことができた喜びと安堵をうっとりと吐息に乗せました。その呼吸は赤司くんによって柔らかく奪われます。軽いキスのあと、赤司くんが落ち着いた低い声で言いました。
「ああ、僕だ。ここにいる」
「征くん帰っちゃって、でもきみに触りたくて、触ってもらいたくて……もうほんと、たまらなかったんだよ?」
「きみをこんな状態にして帰ってしまってすまなかった。つらかっただろう」
「うん、うん、つらかった……。体が疼いて寂しくて、きみのことしか考えられなかった。やっと触ってもらえて、俺、すごい嬉しい」
「僕もきみに触れることができて嬉しい」
「せいくん……」
 口づけを交わし合いながら、降旗くんは膝立ちになって腰を浮かしました。そして赤司くんの手首を掴むと、
「もうっ……さ、触って……なかまで。挿れて?……こ、ここ」
 よく見えませんが、どうやら足の間に彼の手を持っていったようです。よほど焦れているのでしょう、恥じらいを残した表情で、けれども必死にねだります。
「まだ中からローションがこぼれてくる。大分入れたのか?」
「うん……入れちゃった。ぬ、濡れてるみたいになっちゃったかも……」
「確かに濡れている」
 くちゅり、とほんの小さな水音が聞こえました。と同時に、
「あんっ……」
 降旗くんがいままでになく艶っぽい声で鳴きました。指を差し込まれたっぽいです。タオルケットがナイスモザイクとしていい働きをしていますので、具体的な状況は僕にはわかりません。
「はっ……あっ、あっ……あぁ……。せ、せいくん、きもちぃ……」
 膝立ちの降旗くんは、いまにもくずおれそうに脚を震わせ、なんとか体重を支えるべく赤司くんの肩に縋るように腕を回しています。二分ほど、降旗くんの控えめな喘ぎ声が断続的に室内に響きました。粘質な音とともに。と、赤司くんの腕が引かれるような動きが見えたかと思うと、
「や、まだ抜かないでぇ……」
 降旗くんが不安定に腰を揺らしました。抜かれようとする赤司くんの指を留めようとしているか、あるいはすでに出ていってしまった赤司くんの指を追いかけて再び呑み込もうとしているのでしょう。いずれにしても大変官能的な仕草です。きっとあそこ、すごくひくひくしているのではないかと。この誘い方が有効であることは実証済みです。僕がこのように仕掛けた場合火神くんはふらふらのくらくらになりますし、逆もまた然りです。
「征くん、あんまり焦らさないで。俺、我慢できないよ。早くきみがほしい……」
「きみこそ……あまり煽らないでほしい。抑えられなくなりそうだ」
「我慢なんてしないで。俺、きみがほしくてたまらないんだ。征くん、挿れて? 俺に挿れてよ……」
 ああぁぁぁぁぁ……降旗くんがエロい! どうしちゃったんでしょうか彼は。いつもの、どこにでもいる庶民的な好青年っぷりはどこに行ってしまったというのか、すっかりエロスという言葉の体現者になってしまっています。普段との姿のギャップが激しいだけに、現在の艶溢れる姿の強烈さもまたひとしおです。赤司くん、この一年の間にいったいどれだけ降旗くんを調教したというのですか。
 引き続き赤司くんに指で触られて喘いでいる降旗くんの声をバックに、僕が変わり果てた友人の姿に衝撃を受け困惑していると、これまで必死に存在感を殺しあのふたりの意識下に入らないよう息を潜めていた火神くんが腕を引っ張って来ました。
「(黒子、帰るぞ。ギャラリーがいていい雰囲気じゃない。多分大丈夫だろ、赤司、欲情はしてるが夕方に比べると落ち着いてるっぽいし。むしろ俺らがエロい降旗目撃しちまったほうが、あとから怖そうだ)」
「(その可能性はあり得なくはないですが……でも、やっぱり心配です。赤司くん、いままでこれでもかと降旗くんを焦らしまくってるんですよ? 今日も最後までやってあげないのではないかと心配で心配で)」
 そうです、僕がこうしていままで彼らの行動を見守っていたのは、何も高校生的な出歯亀の心をくすぐられたからではありません。彼らがきちんとお互いの望みを叶え合うことができるか心配だったからです。特に赤司くんの動向が気がかりです。このひと、降旗くんの身を案じるあまりどこまでもしつこいくらい遠慮という名の焦らしプレイを実行する気っぽいですから。ここまできたら完遂するところをこの目で確かめたいと思う僕の肩を火神くんが掴みます。
「(ここまで来たらやるだろ、男なら。これ以上は野暮にもほどがある。帰るぞ)」
「(赤司くんに人間の男の基準を当てはめるのは無意味だと思います。ふたりが合体するところまで見届けなければ安心できません)」
 僕たちがささやき声に未満たない気息で言い合っている間に、降旗くんはいよいよ我慢できなくなってきたようで、
「征くん、はやく、はやく」
「光樹、落ち着け」
「ちゃ、ちゃんと先にフェラするよ? 俺だけいっぱい触ってもらったら悪いもん」
「いいから少し落ち着こうか」
「や……征くん、俺もうこれ以上待てないよ……」
 赤司くんのスラックスの留め具を外そうを両手を掛けています。さすがの赤司くんも、常ならぬ降旗くんの積極的な態度にたじろいでいます。降旗くん、ほしいという気持ちを少しも隠していません。その余裕もないのだと思いますが。
「(黒子……)」
 なんですか火神くん、ここからが大切なところだというのに。
 脇腹をつんつんとつついてくる火神くんを肩越しに振り返ると、
「(黒子……俺、セックスしたくなっちまったんだけど。もちろんおまえとだぞ)」
 色香の漂う声で、大変あざとい誘惑をしてきました。魂胆丸見えの火神くんの台詞ですが、場の雰囲気にあてられて久しい僕は、わかっていながらもグッときてしまいました。男ってそういうものですよね。しかし、誘惑と欲望にただちに無条件降伏するわけにはいきません。ここは抗って見せましょう。
「(火神くん……帰りたいがための方便ですね?)」
「(半分はそうだけど、もう半分はおまえとセックスしたくなったからだ。でもさすがにここじゃできねえ。やりたくねえ。……けど、なんかそういうの、どうでもよくなってきちまったかも。……黒子)」
 唇の端に生暖かさとぬめり。なんと狡猾な手段を……! 僕がきみにどれだけ弱いかわかりきった上でやってるんでしょう。ずるい、ずるすぎます。
「(か、火神くん……)」
「(な? いいだろ? なんかもう我慢できなくなりそうだけど……せっかくなら帰ってからゆっくりしようぜ? な? いいだろ?)」
「(くっ……そのエロボイスは卑怯です。そんなこと言われたら帰るしかなくなるじゃないですかっ)」
 火神くんの舌が口内に侵入してきたところで僕は白旗を上げました。抗えるわけありませんでした。僕は彼にめろめろなのですから。
 そういうわけで、半日ほどおつき合いし続けたバカップルにはこのあたりでさよならし、僕たちはようやく家路につくことになりました。その後のことを語るのはそれこそ野暮であり蛇足というものでしょう。赤司くんと降旗くんの行く末はやっぱりちょっと気がかりでしたが、降旗くんが一生に一度ではないかというくらいの、かつてない押せ押せモードでしたので、無事に致せたことと信じましょう。……え? 僕と火神くんですか? それはもう語るまでもないですよね。互いに積もりに積もったフラストレーションを発散し合ったとだけ言っておきましょう。僕までハーレクインモードになったら大惨事ですから、これ以上はお口チャックということで。

*****

 ややけたたましい響きの電子音が心地良い眠りを無遠慮に妨げてきました。あれ、これ、目覚まし時計の音じゃないですよね……携帯のアラーム? いや、音の感覚がちょっと違うような……第一アラームは掛けていませんし。火神くんの携帯? いや、これは……。
「僕の携帯……?」
 寝起きのかすれた声で呟きながら、僕はだるさの覆う体をのっそりと持ち上げ、ベッドのマットレスに腕をついて緩慢に首を回し音源を探しました。その間にも音は鳴り続けています。僕の携帯のコール音だと思われます。火神くんもデフォルトの似たような音を使用していますが、機種が異なるため若干の違いがあります。その差異を把握する程度には、彼の携帯の音は耳に慣れています。携帯はゆうべ脱ぎ散らかしたパーカーのポケットに突っ込んだままでしたので、下のほう、すなわち床からコール音が鳴り響いています。僕は起立性の低血圧に気をつけながらのろのろとベッドから立ち上がりパーカーを拾い上げました。と、そこでコールは終了しました。電話に出ようとするとしばしばこうなるのはお約束というものです。まだ頭に眠気が残っていましたしゆうべの疲労も色濃かったので、このままベッドに逆戻りしようかと考えましたが、一応相手を確認しておこうと携帯を取り出しディスプレイを確認しました。シールによって明度を抑えた液晶画面に表示された名前は――
『赤司征十郎』
 ………………。
 朝っぱらから嫌な名前を見てしまいました。別に縁を切りたいとは思っていませんが、向こう一ヶ月くらいはお声をお聞かせいただくのをご遠慮願いたい相手です。なんかもう、名前を見るだけで昨日の諸々の出来事を思い出してしまうんですよ……特にあの無差別爆撃を。
 しかし、だからといって電話があったのに無視をするのはあまりに恐ろしい相手です。すでにコールは途絶えてしまいましたが、気づかなかったという理由でスルーしたところで、もはや気になってしまって二度寝どころではありません。無意味に連絡を寄越すようなひとではないので、なんらかの用事があってのことでしょう。先延ばしにしたところでどのみちいつかは電話に応じなければならなくなります。ならさっさと済ませてしまったほうが……と思ったのですが、親指がぶるりと震えてしまい、着信履歴から即座にコールを返すことができませんでした。ゆうべは結局、赤司くんから与えられた任務を途中放棄して帰宅してしまいましたから、負い目はあるわけです。多分これ、お咎めの電話ですよね……。いや、もしかしたら……ともうひとつの可能性が頭をよぎり僕はぞっと背中を震わせました。まさか赤司くん、降旗くんとの一夜を報告というかたちで語りだす気では……!? そ、それはやばい、やばすぎる。お咎めよりよっぽど恐ろしい。連日あんなものを聞かされたら本気で精神が侵されてしまいます。
 床に座り込みパーカーを抱えたまま僕が嫌な想像にぞくぞくしていると、ぱっとディスプレイが明るくなり、一瞬遅れてコール音が鳴りました。画面に表示された名前は、もちろん『赤司征十郎』。びくんっ! と全身が硬直しかけましたが、二度目のコールにも応じないといよいよ怖いことになるのではないかとの予感に突き動かされ、指が勝手に通話ボタンを押していました。
「あ、赤司くん?」
 震えそうに成る声をどうにか抑えながら、僕は電話口に出ました。すると、赤司くんの平坦な声が届きました。
『そうだ。おはよう』
 まったくもっていつもどおりです。何の余韻も感じさせません。いえ、エロスの残り香を漂わされても嫌なんですが。
「お、おはようございます。ゆうべは、その……すみませんでした。勝手に帰ってしまった』
 僕が先んじて謝罪をすると、
『いや、いい。結果論だがこちらは大事に至らずに済んだから。おまえも火神も大分性欲を煽られていたようだからな。あのあと無事帰ってセックスできたか』
 赤司くんはあっさりと答え、僕と火神くんの性欲を心配してきました。巨大なお世話です。
「は……はい。セックスしました」
『それはよかった。ところでテツヤ、いま時間は大丈夫か』
「え……ええ、大丈夫ですが」
 な、なんですかこの切り出し方は。これ、どう考えても、時間の掛かる用件があるということですよね……。い、嫌な予感しかしません。ゆうべ事なきを得たとはいえ、任務放棄したことについてはやはり何らかのお咎めがあるということでしょうか。
 が、続く赤司くんの声は僕の単純な予想を外すものでした。
『降旗の様子がおかしくて困っている』
「降旗くんが……? 何があったんです? あ、あの、僕らが帰ったあと、やっぱり何かやっちゃったんですか……!?」
『セックスした』
 そうですか、おめでとうございます。
 ……と素直にお祝いできないのが悲しいです。だって赤司くんの言う『セックス』って、意味が広いんですもん。性欲を感じた状態で降旗くんと接触すればなんでもセックスになるんでしょう、このひとの感覚だと。
「ええと……挿れてあげましたか?」
 すかさず確認する僕に、
『性器は挿入していない』
 ある意味予想通りの回答が飛んできました。ああぁぁぁぁ、やっぱり! なんで挿れてあげなかったんですか!? あれだけ直接的に求められ、言葉でも要求されていたというのに。
「い、挿れてないですか? ほんとに?」
『彼が性的興奮を覚えていたことは間違いないだろう。が、体のほうの反応は相変わらず鈍かった』
「そ、そうですか……」
『やはり僕には性的魅力が足りないようだ』
「えー……」
 どれだけ残念な思考回路と感性をしてるんですかこのひとは。あの状況までいってもたたない降旗くんにも問題はあるとは思いますが……それをもって彼が赤司くんに性的魅力を感じていないと判断するのはどうなんでしょう。ただの憶測ですが、降旗くんは体が変な癖というか学習をしちゃってるんじゃないでしょうか、赤司くんとのセックスでは反応しないと。もちろん意図的なものではなく、赤司くんに求められた最初の頃は心身ともに乗り気にはなっていなかったでしょうから、その頃についてしまった癖が体から抜けないのではないかと。それプラス、赤司くんに惚れているがゆえの緊張が合併しているようなかたちでしょうか。ただ、理性での認識はともかくとして、彼の心はすでに赤司くんを慕い求めているのですから、赤司くんはもう彼を抱いてしまっていい、いや、むしろ抱くべきところまで来ていると思います。もしかして赤司くんは無意識下で焦らしプレイ大好きなタイプだったりするのでしょうか。
「あの……ゆうべの降旗くんの電話ですと、いけなくて困っているという訴えだったと思ったんですけど……」
『問題ない。その点についてはすでに解決した。ベストではないがベターな方法ではあっただろう』
「といいますと?」
『気は進まなかったが、ドライオーガズムのほうでいってもらった』
「あ、降旗くん、やっぱりそっちいけるんですね……」
 ゆうべの反応から、いけるんじゃないかなー、とは思っていましたが、当たりだったようです。
「指でいかせてあげたんですか?」
『ああ。泣いて怖がることがあるからあまりそちらは刺激したくなかったのだが』
「確かにゆうべはそんな感じでしたが……それよがってるんですよ。降旗くんの性格だから極端に怖がっちゃうだけで」
『怖がっているのに続けるのは合意の欠如要因になりかねない』
「いやー……立派な思いやりだとは思いますが、常にそれが正解とは限らないのでは」
 赤司くん、恋愛とセックスに関しては間違いが多すぎますよ。『すべてに勝つ僕はすべて正しい(※但し恋愛と性愛を除く)』って恥ずかしい但し書きをつけられる勢いです。
『そのあと彼は疲れたのか泥のように眠ってしまい、』
「気絶したんじゃないですか?」
『朝まで目を覚まさなかった。さすがに今朝になって起きだしたんだが、そこからが問題で……』
「いったい何があったんです?」
『ゆうべのことを聞かれたので答えたら、』
「ちょ、待ってください。なんて答えたんですか?」
 なんか嫌な予感しかしないんですけど!?
『事実をそのまま伝えただけだ。おまえ及び火神と××区のラブホテルで話をしていたと』
 うわぁぁぁぁぁぁ! やっぱり! なんで正直に言っちゃうんですか!?
「場所情報いりましたかねそれ!? せめてラブは省略しましょうよ!」
『状況と事情を掻い摘んで話したのだが、どういうわけか彼はみるみる青ざめ、そのうち泣きだしてしまった』
 掻い摘んでって、どういうふうに掻い摘んだんでしょうか……。なんか中途半端に、服を脱いだだのシャワーを浴びただの、いらん情報を伝えている気がしてなりません。
「そりゃ泣きますよ……」
 好きなひとがほかの相手とラブホに行っていたとか、めちゃくちゃショックですよ。降旗くんが、僕や火神くんと赤司くんがどうこうなると頭から信じ込むかは疑わしいですが、いきなりそんなことを聞かされたら動揺するでしょう。しかも、最後までしなかったとはいえ、セックスをしたすぐ翌朝に報告されたら。
『不可解なことに、泣きながら僕に謝るんだ、ごめんねごめんねと繰り返しながら。昨夜も電話で僕を呼び出したことについて散々謝られたので、それが再燃したのかと思ったのだが……事情を聞くとその件ではなかった』
「え、ええと……」
 あの……それって……。
 たらり、と額や背中に冷や汗が浮かぶのをまざまざと感じました。
『彼は、おまえ及び火神とセックスをしたというようなことを言っていて、そのことで泣きじゃくりながらひたすら僕に謝ってきているのだが……どういうことだ?』
 うわあぁぁぁぁぁぁ! なんか一番恐れていた事態が発生している!?
 ふ、降旗くん、どういう話し方したんですか!? 『セックスした』って完遂になっちゃってますよ!? 未遂なんですけど!
 ……いえ、赤司くんの思考では、性的な接触をした時点で全部セックス扱いにされそうなので、その意味では間違いとは言い切れないのですが……しかし赤司くんの解釈における大前提「降旗くんに性欲を感じて」という条件が満たされていないので、屁理屈をごねればあれはセックスとは呼べないことになります。降旗くんに性欲を感じていなかったことについて、僕は天に誓うことができます。
「あのー、えーと……と、とりあえず、事実関係の正確な把握からしませんか?」
 おそらく、降旗くんは赤司くんの話にショックを受けたあまりまともに話せる状態ではなく、泣きながら断片的に途切れ途切れに話した結果、中途半端に情報が伝わってしまい、恐るべき誤解が生じた、という流れではないでしょうか。だからここですべきことは、まずは赤司くんに正確な情報を把握してもらうことです。昨日の出来事のバックグラウンドと出来事の詳細を伝える必要があります。そう考え、僕は口を開きかけたのですが、
『では第一の疑問から尋ねよう。おまえたちは彼とセックスしたのか』
 先ほどと変わらない赤司くんの声に、不気味なほどの迫力を感じてしまい、言葉が喉の奥に引っ込んでしまいました。ええと……こういうときは下手に前置きをして回答を先延ばしにするよりも……
「いえ、あの……は、半分正解で半分誤りです。よ、よく聞いてください、赤司くん、誤解なきように――僕は降旗くんとセックスしましたが、火神くんはしていません! 降旗くんとしたのは僕だけです!」
 とりあえずもっとも重要と思われる点について伝達しました。この言い方もまた半分正解で半分誤りですが、とりあえず後半部分を赤司くんに理解してもらうことが先決だと判断しました。僕の計画に起因する問題なのですから、火神くんは降旗くんになんら悪さをしてはいないということを押さえてもらわなければ……! ただでさえ赤司くんは無実の火神くんに対して明後日な嫉妬心を燃やして殺気を飛ばしていたのです、誤解をされたままだと比喩抜きで火神くんの生命健康が危険に晒されます。それだけは避けなければ。
『……そうか。わかった。テツヤ、詳しい話を聞きたい。いま自宅にいるか?』
「は、はい……」
 嘘は怖いのでここは正直に答えておきます。逃亡可能な相手ではないですし、ここはしっかりと情報伝達を行い話し合うのがせめてもの安全策だと思います。ゆうべのラブホのような密室ではなく、ある程度利用者のいる店が望ましいです。できれば昼間の明るい時間帯、そして警察署か交番が近いロケーションで。
 僕が頭の中で場所及び赤司くんの誘導をシミュレーションしていると、赤司くんが質問を重ねてきました。
『火神は?』
「……一緒にいます」
『そうか。では玄関を開けろ』
「……へ?」
『いまおまえたちの部屋の前にいる。無駄足にならなくてよかった』
 なにそれ怖い。
 サァーっと血の気の引く音が体内に響くのをはっきりと感じました。
「え、えと……うちの玄関の前にいらっしゃるんで?」
『ああ。早く開けろ』
 との言葉の直後、玄関のほうからコンコンと乾いた音が短く響いてきました。ひえぇぇぇぇ……嘘だと言ってください!
『聞こえたか。ノックはしたぞ』
「は、はい……ただいま参ります」
 さっそくおでましですか! お仕置き人が自らお越しくださいましたか!
 もはや時間稼ぎをする余裕さえありません。待たせればそれだけ彼の機嫌の低下要因になるでしょう。扉を開ける以外、僕に選択肢はありません。火神くんを起こす間もなく、僕は玄関に向かいドアの前に立ちました。この扉一枚先に、赤司くんがいる……! なんですかこれ、なんのホラーですか。
 あのひと絶対、経済制裁すっ飛ばして武力制裁に踏み切ってきますよね……。あのノックは通牒の代わりでしょう。罪状はさしずめ、僕が降旗くんと赤司くんの平和をうっかり脅かしてしまったことについてでしょうか。彼らの関係の不安定化が目的だったわけではないですし、イレギュラー要素もてんこ盛りだったわけですが、罪状については確かに僕も悪いことというか浅はかなことをしてしまったと後悔し反省しています。けれどもこれだけは言わせてください――元はと言えば赤司くん、全部きみの行動が発端なんですからね!? きみが恋愛感情と性欲をごっちゃにして降旗くんにいきなり性交渉を迫ったことが、そもそもの間違いだったんです! 初っ端から歯車が狂っちゃってたんです! きみが最初に降旗くんの平穏を乱したんですよ、わかっていますか。
 ……ああ、火神くんへの愛の言葉とは掛け離れたものが遺言になってしまうなんて。無念です……。

 

 

 


 

PR

× CLOSE

× CLOSE

Copyright © 倉庫 : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]