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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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ランナーズ 16

 卓上カレンダーの十一月のページ、その最初の日曜日には太ペンで赤丸がつけられている。この日他県で行われる市民マラソンに、俺は赤司の伴走者として参加することになっている。土曜日に移動し現地で一泊して臨む予定で、出場決定後すぐに宿の手配をしアクセスの確認もしたので、前日当日の準備はすでにできている。あとはいくらかの必要な品を持って自分たちの体を移動させればいいだけだ。金曜日の夜、赤司と翌日の打ち合わせ電話を終えたあと、俺は逸る気持ちで荷詰めの最終確認を行いながら、改めてここ数ヶ月のカレンダーやスケジュール帳を振り返った。予定のほか目標、ときどき反省などが殴り書きに近い汚い文字で綴られている。レースに向けての準備の軌跡。特にここ一ヶ月は練習メニューだけでなく食事や体重の記録も残してある。といってもすべての日にきっちりではなく、抜けもちらほらある。それでも実感としていままでで一番意識的に自己管理をし、また計画的に減量できたと思う。おかげで体調はばっちりだ。伴走というかたちでフルマラソンに参加するのははじめてなので不安や緊張は当然あるが、それ以上に、数ヶ月をかけてトレーニングその他もろもろの準備の成果を発揮する舞台がやって来たことを楽しみに感じる。わくわくする、とはこのことを言うのだろう。チキン全開の俺にしてはずいぶん気の大きい、というかのんびりした心境だ。しかしそれは今回のレースにおける目標――完走すること――のハードルを低く見ているからではない。これまでの経験から、練習は嘘をつかないということを知っているからだ。どんな競技でもそうであろうが、こと長距離走はそれが如実に現れる。本番には不確定要素が付き物で、かつ今回はペアを組んで初のレースなので自信満々とはいかないが、自分たちが目標達成に必要な練習を積んできたという自負はある。この一ヶ月は距離走を中心に、本番に近い感覚で走るようなトレーニングを多く行った。レースはそれまでの積み重ねを試す場であり、また自分自身にそれを披露する場だ。並んで走るのさえ覚束なかった春からどれだけ成長したのか、それを記録に残る場で知る。成果という名の実りを実感できるのはやはり嬉しいものだ。そして俺は、俺たちは、その果実が確実に存在していることがわかっている。それくらいの練習はしてきたのだから。いよいよか、とカレンダーの赤丸と数字を指先で撫でる。ふと、誕生日が近いことを思い出したが、家族にさえ祝われなくなって久しいその日付は、自分の中ではもっぱら書類における身分証明事項の基本項目が第一意義となっており、これといった感慨は湧かなかった。男の誕生日なんてそんなものだろう。
 下手に早寝をすると深夜や早朝に目が覚めて逆に睡眠不足に成るかと思い、いつもどおり、日付が変わるか変わらないかの時刻に就寝した。若干寝付くまでに時間はかかったが、翌朝の目覚めは普段と変わらなかった。ホテルのチェックインの時間もあるので、あまり早く現地に到着しても荷物を持て余すだけだ。朝はそこそこのんびり過ごし、少しの間家を開けることを考え、水回りに除菌スプレーを撒いておいた。火の元と戸締りを確認し、スポーツバッグを肩から掛けアパートを出ると、バスに乗って集合場所に選んだ駅に向かい、赤司と落ち合った。彼もまたスポーツバッグを肩に掛け、右手に白杖を持っていた。移動の利便性を優先し、嵩張る荷物は事前にホテルに送る手配をしておいた。二人分をひとつのパックにまとめたので、ちょっぴり料金を浮かせることができた。鉄道を利用して現地まで移動する。宿泊先のビジネスホテルではツインの部屋を予約しておいた。シングル二部屋にしなかったのはツインのほうが一人あたりの料金が安いことと、はじめて入る空間は視力の低い赤司にとって過ごしにくいことが理由だ。ただ、宿を取るにあたって後者はあまり意識しなかった。というのも、練習の関係で互いの部屋に泊まるのが習慣化していたので、ホテルでの宿泊でわざわざ割高な別部屋にしようとは思わなかったのだ。
 フロントでチェックインの手続きを済ませルームキーを受け取り三階の部屋に入った。室内にはすでに事前配送しておいた手荷物が運び込まれていた。秋分をとっくに過ぎたいまの時期、日の入りは早い。最後の練習というか確認程度の調整はしておきたいので、部屋の内部を赤司に案内するのは後回しにし、さっそくトレーニングウェアに着替え、最寄りの公園に練習に向かった。会場周辺の施設の中ではもっとも気軽に練習場所として利用できるため、俺たちが公園に到着したときにはすでに参加者と思しきランナーたちの姿があった。その中には俺たちと同じように、伴走ロープを握り合って並走するペアも少数ながら見られた。木陰に荷物と上着を置き、ロープの確認をしてから練習に移ろうと準備体操をする傍ら、公園内をきょろきょろと見回す。
「おー。俺たちの仲間というかライバルというか、な人たちもちらほらいる」
「年齢はまちまちか?」
「そうだね。組んでる人同士は比較的年近そうだけど。男女で組んでる人もいる。女性のほうがブラインドランナー……でいいのかな?」
 公園の内周を走る男女のペアが近くを通過していった。隣合う側の手には輪になったロープ。男女ともサングラスや帽子は身に着けておらず、ぱっと見ではどちらがブラインドランナーかわからない。女性が男性ランナーの伴走を務めるのは体力的に厳しいだろうという推測と、こちらにやって来るときに見えたふたりの走り方の違いから、男性のほうが伴走であるように思われた。
「多分そうだと思うが、訓練を積んだ女性は初心者の男より往々にして速いから、一概に女性が男性の伴走をするのが不可能だとは言えないな。年齢も関係あるし」
「きみは女の人と組んだことある?」
「練習でならある。初心者の頃は本当に遅かったんだ。まあ、走力以前の問題だったんだが。あの頃を思うと、ずいぶん速くなったものだ」
 言いながら、赤司は伴走ロープの強度を確認するように両手でピンと張った。さあ僕たちも走ろうか。合図とともに公園内の舗装された通路に移動する。あくまで最後のチェック程度の走りだが、体が軽く、また腕の振り、足の運びも自然に同調し、よいリズムを刻むことができた。
 日が傾きはじめ引き上げる前に、ストレッチに移る前段階として慣らしのような緩いペースでの走行中、右側を走る彼に話し掛けた。
「調子はどう?」
「いい感じだ。早くレースで走りたい。明日が楽しみだ」
「明日の今頃はきっとぐったりしてるんだろうなあ」
「だろうな。でも、走り終えてぐったりしている自分を思い描くのは嫌じゃない」
「そうだね、むしろ楽しみだよ」
 いまいち緊張感に欠ける会話を交わしながら最終調整を終え、宿に引き上げた。赤司にバスルームや家具の位置などを案内し、少し休んでから夕食へと出かけた。早めに就寝するために、夕飯の時刻も普段より前倒しにする必要がある。事前に調べておいた周辺の飲食店のひとつに入る。まだ時間が早いせいか店内は空いていた。レース前日の食事では炭水化物をしっかりと摂取したい。生物揚げ物は避けて、できれば豚肉がおかずにあるといいかな……と考え、メニューから豚の生姜焼き定食を選んだ。メニューを読み上げようかと申し出た俺に、赤司はきみと同じものを頼む、と言ったので、生姜焼きのセットを二人前注文した。俺の家では食器や配膳の傾向に慣れたのか普通のペースで食事をするようになっていた彼だが、やはり外食では気を遣うようで、少しばかりゆっくり時間を掛けて箸を運んでいた。
 会計を済ませると、スーパーに立ち寄り明日の朝食を購入する。ホテルの部屋に電子レンジはないが、各階の廊下に一台ずつ用意されているので、温めることができる。インスタントの白米と味噌汁はレース中や直前に摂るための補給食とともに荷物に詰めて持参したので、買うのはちょっとしたおかずと納豆くらいだ。ホテルに戻りしばらく休憩を入れてから順番に入浴を終え、翌日会場へスムーズに出立できるよう荷物を整える。なんとなくつけておいたテレビから、各時間帯の合間に放映されるようなニュース番組が流れてくる。地元テレビ局のもののようだ。この番組の最後に天気予報が扱われるだろう。が、気になりだすとすぐに知りたくなってしまい、俺は携帯を取り出しウェブから情報を得た。
「明日、天気よさそうだよ。よかった。もうちょっと気温低いほうが走りやすいけど、まあこれは季節の問題だから」
 俺が伝えると、赤司はそれはよかったとうなずいた。と、ニュースの最初の項目が終わり画面が切り替わる。昼間の街の景色が流れたかと思うと、録画映像に合わせ、女性アナウンサーの訓練された聞き取りやすい声が原稿を読み上げる。内容は事件や事故ではなく、イベントだった。
「あ、これ、俺たちが出る大会だ」
 音声よりも表示されたテロップに反応する。画面の右下には、俺たちが明日出場するレースの名称が表示されていた。市民ランナーと思われる三十歳前後の男性が、まだ年若い女性レポーターのインタビューを受けている。美形とは方向性が違うが、なかなかかっこいい顔立ちの男性だ。体型は長距離ランナーらしく、一見やせている。鍛えられている筋肉が主に持久力のためのものだから、いわゆるマッチョな体型にならずわかりにくいが、かなりの筋肉質であることは俺の目には明白だった。
「ローカル放送なら市民マラソンでも多少は取り扱うだろうな。中継なんてしないだろうが」
「インタビュー受けてるの、地元のランナーみたいだ。明日会場のどこかで会うかも? あ、でもサブスリー達成者かあ。じゃあ結構速いね。レース中は無理だろうな。俺たちは集団には合流しないほうがいいし」
 素人然とした男性ランナーの回答を、プロのレポーターがはっきりとした発音でまとめの情報として伝えてくれる。男性はランナーとしては俺と同じような経歴の人物で、地元の市民ランナーの中では有望な選手のようだった。自分のベッドで足の裏を合わせひとり軽いストレッチを行なっていた赤司がふいに尋ねてくる。
「きみより速い?」
「いや……自己ベストは俺のが速いかな。ロードレースはコースと気象条件がバラバラだから一概に比較はできないけど」
 紹介された男性ランナーのベストタイムと比べると、俺の自己ベストのほうが少し短い。その少しを縮めるのに多大な労力が必要であることは経験者として知っているけれど。ただ、赤司への回答のとおり、条件を一様にしにくい競技であるので、ひとつのタイムをもって安易に実力の上下は判断できない。もちろん、タイムの差が歴然としていればこの限りではないが。
「きみはインタビューを受けたことはないのか?」
 赤司からの質問に、俺は手振りとともに否定の返事をした。俺がインタビューなんてまさかそんな。
「ないない。こんな地味なランナーにインタビューしても空気記事にしかならないって。特別ポテンシャルがあるわけでも、何かドラマ性があるわけでもないんだし」
「いまさっき出ていた男性ランナーも、きみみたいなタイプのランナーのようだけど?」
 ならきみにもいつかそういう機会があるんじゃないか? なぜかちょっと楽しそうに、ともするとどこか嬉しそうな調子で赤司が聞いてくる。しかし、そんなことを言われても俺にはピンと来ない話だった。だって俺だぜ? 特徴のなさが特徴みたいな平凡な男だ。報道機関がインタビューしたいなんて動機を刺激されるとは到底思えない。
「うーん……か、顔がイケメンだったから、とか?」
 さっきのランナー、ルックスよかったんだよ、と人の容姿を確認することのできない赤司に説明する。もちろんきみには負けるけどね、なんて妙なことを付け足しかけた自分の口を慌てて閉じた。俺にルックスを褒められても特に嬉しくはないだろう。俺の適当な答えに、赤司は口の端をふふっとわずかにつり上げた。
「なるほど、番組責任者が女性だったらあり得そうな動機だな」
「女の人が聞いたら怒りそうだよそれ」
 彼が意外と俗っぽい受け答えをすることはここ数ヶ月のつき合いでわかっていたので、特に驚くこともなく、適当に相槌を打つ。大会前夜のレポートは短いもので、俺たちが会話を交している間に次のニュースに移っていた。
「ブラインドランナー関連のことはやらなかったね。ちょっとでも取り上げてくれたら、伴走に興味もつひとももっと出てきそうなのに。まあ、視聴率取りのためにその手の特集を組むってのも歓迎できる動機じゃないだろうけど」
「競技人口が少ないからな、地元選手でインタビュー向きのひとがいなかったのかもしれない。敦みたいな答え方をされても、なんというか、期待はずれきわまりないだろう」
 いつぞや赤司に朗読を頼まれたアメリカのバスケ雑誌に載っていた紫原のフリーダムなインタビュー記事を思い出す。質問と回答というやりとりが成立しているのか不安になるようなインタビューは確かに扱いにくいだろう。演出担当者や編集が頭を捻り、テロップで括弧付きの心の声という名の想像の産物を入れまくることになりそうだ。
「障害者スポーツはまだ福祉色が強いからなあ。扱いも小さいし。競技人口の増加も見込みにくいし、どうしたってマイナーなのはしょうがないんだけど」
「関心が低いのは仕方ない。差別意識云々と言い出すとややこしくなるが、それよりも、単純に興味を惹かれないんだろう。より速く、より高く、より強く。大衆はシンプルでわかりやすいパフォーマンスを好むものだ。それを実現するには――例外はあるかもしれないが――やはりできるだけ健康体であることが条件になってくるだろう」
 見ることができないテレビ画面をじっと見つめながら彼が平坦な調子で言う。いつの間にかストレッチは終えていたようだ。
「健常者が障害のあるアスリートに尊敬の念を抱くことはあるだろうが、憧憬を抱くことはまずない。競技に打ち込む姿勢に憧れることはあるかもしれないが、その姿そのままに、ああなりたいと思うことは、普通ない」
 と、彼は自分の目元に触れながら俺のほうを振り向いた。かすかな微笑をたたえた口元が言葉を続ける。
「僕のようになりたいとは思うまい。目が見えなくなったら嫌だろう?」
 一瞬、呼吸を忘れた。これは俺への問いなのか? それとも彼自身の意見の表明なのか? 彼の感情は相変わらず読めない。発言の真意も。ただ、言葉通り俺への問いかけだとしたら、その答えは肯定だ。目が見えなくなるのは――実用的な視力を失うのは――恐ろしい。彼の言葉は、少なくとも俺の心理においてまったく正しい。高校生の頃、俺は彼の圧倒的な実力とセンスに憧れた。あまりに卓越しすぎていて、彼のようになれるとは思わなかったけれど、あんなふうに自在にゲームを組み立て技術を駆使できたらいいなと夢想はした。現在の彼に対しては、それがない。競技のカテゴリが異なるという意識があるし、自分が彼の立場で走ることを想像はすれど夢想はしない。仮に自分が失明したとして、彼のようになれたらと思うことはあるけれど、いまの自分の立場のままで、彼のようなランナーになりたいと文字通りの意味では思わない。それは晴眼者としてごく自然な感覚だろう。もしここで、そんなことはないと取り繕ったらそっちのほうが嘘くさい。でも、はっきりと答えを口にすることもはばかられた。いまの彼を否定しているみたいに響いてしまう気がして。彼が俺の発言をそこまで悪意的に解釈するとは思わないけれど、自分の胸中に何かもやのようなものが渦巻き、言葉が出てこなかった。
「赤司……」
 かろうじてそれだけ言ったものの、結局先が続かない。すると、赤司はちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「レース前に振るような話題じゃなかったね。まあ、あくまで一般論の話だよ」
 彼は二台のベッドの間にあるナイトテーブルに置かれたリモコンを手探りで掴むと、テレビの電源を消した。俺がはっとした気配を察してか、もう天気予報も終わったことだし、と彼が説明した。
「もう寝るか? 睡眠はしっかり取っておいたほうがいいだろう」
「うん……そうするよ」
 彼のほうはどうかわからないが、俺のほうは話を続けるのが苦しい心境になっていたので、彼の提案に素直にうなずき、いつもより大分早い就寝を決めた。ナイトテーブルに備え付けられたデジタル時計の目覚ましを合わせ、さらに念のために携帯のアラームもセットする。すでに寝る準備は整っていたので、早々に照明を落としベッドに潜り込んだ。じゃあおやすみ。互いに就寝の挨拶をしてから布団を引き上げる。
 寝付きは悪いほうではないのだが、普段ならまだ起きて部屋の中で何らかの活動している時刻のためか、なかなか眠れなかった。床につく前に交わした赤司との会話が意図せず脳内で反芻され、幾分悶々としてしまう。伴走というかたちで彼と走ること、そして競技の練習を中心に彼と関わっている現状を俺は楽しんでいる。でも、それは彼の目が不自由になったから生じた状況であり、そうでなかったらこんな機会は絶対に訪れなかった。これは喜ばしいことなのだろうか。すでに何度も自問し、最近はあまり考えなくなっていた疑問がにわかに再燃してきた。やめよう、レース前にうだうだ考えるようなことじゃない。いまは明日のことに集中すべきだ。そう思うが、時間外れに活発化しはじめた思考はやみそうになかった。
 知らず、短い間隔で何度も寝返りを打っていたようだ、ふいに隣から声が掛かる。
「寝付けない?」
 はっとして隣のベッドを向くと、窓の外から漏れる明かりによってかすかな明度の保たれる視界の中、薄い掛け布団にくるまった赤司がこちらを見ていることに気づいた。
「ご……ごめん、ごそごそしちゃって」
「変な話をしてしまったかな。眠れなくなりそうか?」
「だ、大丈夫だと思う」
 反射的にそう返事をしたが、正直寝付ける気がしなかった。でも、彼の発言が気になってしまって眠れないなんてダイレクトに告げるような大胆さは持ち合わせていないので、こう答えるしかなかった。と、彼が急に上体を起こした。
「なんなら添い寝しようか? ちょっと狭いが、きみが寝付くまでに限れば大丈夫だろう」
 そう提案するが早いか、彼は自分のベッドを降り、俺の布団をめくってこちらのベッドに潜り込もうとしてきた。俺の体の位置や向きを確認しようとしてか、手に平をそろりと這わせてくる。その感触にぞわりとしたものを覚え、俺はつい声を高くした。
「い、いいよ、そんな気を回してくれなくても! 心配しないで、すぐ寝るから。レースのための遠征? みたいなのにはそれなりに慣れてるから、大丈夫」
「そうか? 大分落ち着かないみたいだけど」
「いや、それは……」
 あなたのいま現在の行動のせいですよ! 心の中でそう叫ぶ。間近で見つめ合うかたちで彼の顔があるせいか、妙にどぎまぎしてしまう。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫だから……。だからきみも自分のベッドで寝て? 明日はきみが主役なんだしさ」
 彼はなおもじぃっと俺の顔を見つめたあと、ひとり納得したようにふっと小さく笑い、体を起こして布団から出ていった。ほっと一息ついた俺の頭に軽い圧力がかかった。彼の手の平が側頭部に乗せられている。
「じゃ、おやすみ。ちゃんと寝なよ」
 それだけ言うと、彼は自分のベッドに戻って布団をかぶった。俺はしばらくどきどきしていたが、彼がどいてくれたことにほっとして気が抜けたのか、少し前までもやもやしていたことなど忘れたかのように出現した睡魔に誘われ、程なくして寝入りのリズムが訪れた。

*****

 翌朝、レースまでの時間を考慮しながら、事前に用意しておいた朝食を部屋でとった。余裕をもって会場に移動し手続きを終え、控え室に入る。簡単な講習会の会場みたいに長机と椅子が用意されており、すでに何組かが入室していた。アナウンスに従い必要な品を受け取りに行く。
「はい、ビブスもらってきた。こっちがきみの。ナンバーカードはすでについてるから、そのまま着てもらって大丈夫だよ。あ、こっち側が表ね」
 通常のランナーと違い、視覚障害者及び伴走者は自分たちを含めレース参加者の安全のため、それとわかるような目印をつけておかなければならない。具体的には、『視覚障害』、『伴走』と大きな文字で書かれた鮮やかな目立つ色のビブスを着用する。このような目印について統一的な決まりがあるわけではないようだが、たいていはこのようなアイテムが用いられるようだ。この大会では運営側がビブスを貸し出してくれるので、それを使用する。手元にある二枚のうち、オレンジ色のほうを赤司に渡した。
「ありがとう。色は……オレンジか?」
 目の前にビブスを掲げて彼が尋ねる。
「うん。このへんに『視覚障害』ってでっかく書いてある。俺のは『伴走』ってでかでかと書いてある。色、ショッキングピンクだよ……。まあ目立つ色ってことが大事なんだろうけど」
 ふたりしてもぞもぞとビブスを身につける。赤司の背側の布がめくれていたので直してやっていると、ふいに彼がくすりと笑った。
「ビブスか……懐かしくなってしまうな」
「え?」
「いや、バスケの練習で使っていたから」
「あ、そうだね。言われてみれば懐かしい」
 デザインや手触りは異なるが、言われてみればこんなようなものをつけて練習していたなと懐かしく感じる。
「当時もランニングはそれなりにやったものだが、競技として走っていたわけではないから、この視力であってもいまのほうが速いだろうな、長距離に関しては。そもそも高校生の時点ではフルマラソンなんて走れなかっただろうし」
「まあ、陸上部でも十代のうちはそこまで長い距離やらないからね。やらせてもらえないのかもしれないけど」
「そうだな、きっと体を壊してしまう」
 レース前、レース中の食べ物を手元に残し荷物を整理する。開始まであと一時間というところで補食として手軽なクッキーを食べ、直前にエネルギーゼリーを摂取する。競技場に移動し、スタート地点につく。といってもロードレースのスタート地点は人だかりになる。予想タイムを事前に申告して位置を取るけれど、レーンのようなはっきりしたポイントはない。俺たちの位置は真ん中より少し後方で、そこに立ってスタートの合図を待った。
「そろそろだね」
「ああ。……あまり緊張していないようだな?」
 サングラスの下で赤司が目を細めるのがわかった。それは俺の小心を揶揄してのことですか、なんて穿ったことを考えてしまった。
「まあね。ある程度慣れてるし、それにマラソンのスタートってスプリントみたいな緊張感ないから。後方にいると競技場から公道に出るまでに時間かかるからさ、最初はもたもたしちゃうんだよなー。混み具合からくるもたつきに焦るって意味では緊張するけど」
 マラソンの中継を見たことのあるひとならすぐ想像がつくだろうが、ロードレースのスタートは一部のトップを除いて緊迫感に欠ける。競技場の出入り口の大きさに対し参加者数が多すぎるため、ボトルネック状態になり、なかなか全員が外に出られないのだ。出口に至るまでのろのろ徒歩で移動、なんてこともざらだ。初参加した大会ではさすがにスタート前は緊張で軽く足が震えていたが、いざ合図とともにスタートすると、一定方向に流れる人ごみに紛れるような感じで歩くことになり、考えてみればそりゃこうなるよなあ……と妙な感慨に耽りながら周囲に合わせて徒歩で進んだものだ。
 この日のスタートも案の定その例を踏襲し、俺たちの立つ場所が前に進めるようになるまで、開始の合図から少々のラグがあった。すぐに競技場から出られないのはお互いわかっているので、転んだりほかの参加者に接触したりしないように気をつけようと言いながら、出口まで歩くことになった。伴走を組んでいる場合、三人分ほどの幅をとってしまうし、接触への対応も単独での走行より難しいので、ほかのランナーとはある程度距離を置きたい。公道に出てからしばらくすると集団がばらけはじめ、そこでようやく自分たちの走りやすい位置取りを意識することができた。このあたりは練習にはなかったことなので、やっと空間的な余裕を得られたことにとりあえずほっとした。最初の数キロは、前方を走るランナーたちを追い越すことが多く、これがなかなか忙しかった。自分ひとりなら接触しない間隔を見繕って前に行かせてもらうのだが、伴走では彼との並走になる上、コースのガイドをしつつ前方のランナーまでの距離や追い越しのタイミングを彼に伝え、場合によっては前のランナーに対し、道を譲ってもらえるようお願いの声掛けをする。大学の伴走会のメンバーに協力してもらいこういった練習もしていたが、伴走者としての初レースなので、『本番で揉まれる』という感覚をこれでもかと味わうことになった。序盤は不慣れなこともありかなり気を遣いながらの走りだったのでペースはリハーサル時より遅い。十キロ付近までに結構なタイムロスが生じてしまった。十二キロあたりで赤司が「少しペースを上げたい」と言った。彼は常に時計を確認することはできないが、普段より遅いことは当然体感としてわかっていただろう。俺は申し訳なさを感じつつ、言い訳や謝罪を並べる余裕があったら走るエネルギーに回すべきだと考え、彼の要求に合わせペースを上げた。前半はなだらかな下りが続き、ペースを上げたこともあり多少の貯金ができた。これはつまり競技場に戻るときには上り坂が待ち受けていることを意味する。後半は確実にペースダウンする覚悟をもっておかなければならない。
「よし! 折り返し地点突破!」
「しばらくすると上りになるか?」
「うん。勾配はたいしたことないけど、長いから大変だと思う」
「前半の下りからするとそうだろうな」
 時折、呼吸の合間に短い会話を交わす。走行の効率を考えるとマイナス要素だが、ふたりで走る必要がある以上、一次的な情報伝達のほかにもコミュニケーションは重要だ。ひとりで走っているときにはなかった責任感や義務感が生じる一方で、このひとと一緒に走りたい、ゴールを目指したいという欲求が生まれ、それが疲労の蓄積する足を一歩また一歩と前に進める動力のひとつになる。腿の裏側が張り可動域が狭くなるような錯覚を覚える。脹脛に鉛の塊でも入っているかのような重さを感じる。自らは伸縮しない肺を動かす胸郭が鈍い痛みを訴え出す。かすかな空腹の気配が見え隠れしはじめる。隣を走る彼は態度にこそ出さないが、その表情には持続的な強度の運動によってもたらされる疲労への苦痛がわずかに滲んでいる。お互いに苦しい。これまでと同じくらいの時間、この苦しさは続く。まだ走れる。まだ俺の足は前へと踏み出せる。彼の歩調に合わせて。このまま競技場を、ゴールを目指したい。レースを走るものにとって当然の目的であり欲求。それがいままでより強く感じられた。彼と一緒に、という付加要素があるためだろうか。
 二十五キロを通過する。そろそろ給水に加えて給食が必要だ。赤司に告げてから、ポケットの飴を左手で取り出し、捻りによって閉じられた包みを開き口の中に放る。これも事前にシミュレーションし練習した。彼もまた同じように飴玉を口に入れた。この間、少しペースを落とすことになったがこれは仕方ない。補給を終え、三十キロ付近から長い上り坂がはじまった。三十二キロ前後に勾配の大きい坂があり、ここが一番の難所だった。一・五キロほど続くこの坂はランナーへの試練のようで、溜まりに溜まった疲労が捌け口を求めていまにも爆発しそうだった。足を攣ったのか苦痛にゆがむ表情でしゃがむ者、小股でのろのろと歩く者(競歩はこれが許されないのだから恐ろしい)、脇腹を押さえ苦悶を押し殺しながらほとんど歩くくらいのペースでなんとか走り続ける者……多くのランナーが苦しんでいた。俺たちもまた苦痛に喘いだ。単独でのレースに比べるとタイムは明らかに遅いが、ガイドという仕事を負う分、疲労が激しい。彼もまた効かない視界の中、俺の案内を頼りに走るのだから、青眼ランナーよりも消耗するはずだ。リズムは保っているもののひとつひとつの呼吸が荒い。時折聞こえる喘ぎがどちらのものなのかもわからない。この坂は本当に余裕がなく、俺は必要最小限の情報をなんとか彼に伝えるだけだった。相手に聞こえる程度の音声を紡ぐだけで、呼吸の乱れと相俟って気道だけでなく内蔵全体に軋むような痛みが生じた。正直休みたかった。後半の苦しさの中、俺なんで走ってるんだろ、何か得するわけでも褒められるわけでもないのに体を痛めつけて、馬鹿じゃねえの? といった投げやりな心境になるのはいつものことなのだが、今日は疲労がきつく、ことさらそう感じた。けれども、ここで走るのをやめたら彼もまた先に進めなくなってしまう。そうなったらこの半年強の間に行った彼との練習が、彼との時間が水泡に帰す。ある種の使命感と、最後まで彼と走り通したい、彼と一緒にゴールラインを越えたいという自己の願望が、疲労困憊の体を前進させた。
 三十五キロ地点に差し掛かろうかというところで、ようやく坂道にさよならをし、フラットな道になった。足を前に押し出しても押し出しても進んでいる気がしない坂から解放され、精神的にはほんの少し楽になった。身体は勾配で蓄積した疲労が伸し掛かりきつくてたまらなかったけれど。ゼリー飲料を補給していわゆる三十五キロの壁に備える。三十五キロを通過したあたりで沿道の声援が少しずつ大きくなってきた。ゴールに近づいている。そう感じる瞬間だ。と、赤司がわずかにこちらに首を回した。
「光樹、スパートを掛けたい。いいか」
「え? もう?」
 彼がスパートに強いことは知っているが、もう少し、せめて残り五キロまで我慢したほうがいいのではないか。これだけの文さえ音声に乗せる余裕がなく、俺は目線だけで訴えた。しかしサングラスの下の、見えないはずの彼の瞳は強い光をたたえている。
「走りたい。走れる気がする。いまなら」
「え?……う、うん、わかった」
 俺の返事を待つか待たないかというタイミングで彼がペースアップをはじめた。徐々に加速し長距離走としてのトップスピードに乗る。やはり速い。気を抜いたら振り落とされそうな錯覚さえある。風の穏やかなマラソン日和だが、自らのスピードがつくり出す推進力によって風を感じる。気持ちがよい。いや、いまも苦痛は続いている。けれどもそれが軽減され、経験した者だけがわかるあの気持ちよさが訪れる。爽快感と高揚。ああ、この感覚だ。長い距離を全力で走った末にやって来るこの感覚。踏み出すたびに肋骨が軋み脚がストライキを訴えていたのが嘘みたいに、前へ前へと進める。彼もいま同じような感覚を味わいながら風を切って走っているのだろうか。いま本人に確認することはできないけれど、そうだったらいいなと思う。彼は俺のガイドに相槌を返す以外は何も言わず、ひたすら前を見て足を踏み出している。わずかな視力と限られた視野の中、それでもいまこのとき、彼が見据えているもの、彼に見えているものがあるのだろうか。
 残り三キロ。ここまで来たら間違いない、完走できる。目標達成までもう少しだ。それを喜ぶ反面、ちょっぴり寂しさも覚える。あと少しでレースが終わってしまう。苦しい時間のほうが長かったけれど、いまこうして風を感じながら彼とともに走るのはとても気持ちがよく、幸福感があった。彼と走るこの時間が終わってしまう。それが残念でならない。もっともっと彼と走っていたいのに。嬉しいのか切ないのかわからなくなり、ほんのちょっとだけれど涙がこぼれそうになった。やだな……何が琴線に触れちゃったんだろう。左手でぞんざいに目元を拭い、いよいよラストスパートに入る。
 競技場が見える。あと少し。本当に、あと少しだ!
 ぐんぐんとスピードが出る。ここまで来たらペース配分を考える必要もない。ゴールまで走り切ることだけを考えろ。忘れかけていた脇腹の痛みが再燃しかけるが、無視して前へと駆けていく。疲労にぼろぼろの体でできる限りの全力疾走をする。競技場に入りトラックを周り、最後の直走路に入る。
「まっすぐ! この直線が最後! 残り五十メートル!」
 これが最後のガイドだった。あとは直進するだけ。最後は本当についていくだけで精一杯というくらい、彼は速かった。純粋に、すごい……と思いながらゴールラインを通過する。
「よし! ゴール!」
 ラインから二、三歩進んだところで喜びとともに声を張り上げ彼にフィニッシュを伝えた。そこから勢いのまま数メートル前進したところで俺たちはようやく、42.195キロの道のりを経て足を止めた。
「赤司……! やった、ゴールした!」
 俺は伴走ロープを持ったまま感極まった声音で言った。一方赤司は不思議そうに聞いてきた。
「ゴールしたのか……?」
「うん、うん! 俺たち、完走したんだよ!」
 俺は彼の体を抱き寄せると、やったねとばかりにぽんぽんと背中を叩いた。
「そうか、ここがゴール……」
 自分の目でここが競技場内部であることを確かめられない彼はまだ実感が湧かないのか、どこか現実感がなさそうにぐるりと周囲を見回していた。彼はぼんやりしているだけで、クールに振舞っているわけではないのだが、自分だけがはしゃいでいるみたいでちょっと恥ずかしくなり、慌てて取り繕った。
「えと……足とか大丈夫? 水分摂ったらクーリングダウンしないとな。ケア怠ると大変だもん。ええと、給水は……あ、あそこだ」
 給水所を見つけ、とりあえず補給すべく足を向ける。ロープを離し、彼の右手を俺の左腕に掴ませる。そのまま給水所へ進もうとするが、反対方向への力をわずかに感じ振り返る。彼がその場に立ったままついて来ようとしないのだ
「赤司……? 大丈夫?」
「ああ……」
「足痛い? どっか痛めた?」
 かすかだが上半身が揺れている気がして、彼の両の二の腕に手を添えた。スパートであれだけのスピードを出したのだ、体が悲鳴を上げるのも当然だ。なんだかぼんやりした様子の彼が心配でのぞき込む。と、彼がすっと右腕を持ち上げた。少しだけさまよったあと、その手の平が俺の左頬に添えられる。
「光樹、僕は、僕たちは、ゴールしたんだな?」
「う、うん、そうだよ。もうスタジアムに戻ってきてる」
「そうか、走れたか。光樹……ありが……とう……」
「赤司……?」
 ぶつ切れの単語がかろうじて最後まで発せられた直後、彼の音声は止まった。そんかと思ったら、顔の左側を彼の手と腕が掠めていく。
「え……?」
 違和感を感じたと同時に、体全体にずっしりと重みを感じた。赤司の体が前方に傾き、俺へ寄りかかってきたのだ。
「あ……あかし?」
 長距離の走行で俺の足もまたガタついており、自分と同体格の人間がもたれかかってきたことにバランスを崩しかけた。後方に右足を一歩引き、なんとか立位を保つ。荷物を支えるような感覚で反射的に彼の体をぎゅっと抱く。なんだこれは? どういうことだ?
 俺はまだ事態を掴めないまま、震える声で何度か彼の名前を呼んだ。反応はない。ぐったりと俺にもたれかかったまま、腕をだらりと下ろしている。足は自分の体を支えるような姿勢をとっていない。
「あ、赤司!? 赤司!?」
 慌てふためきながら俺は彼の顔を確認しようとその場で身じろいだが、下手に体勢を変えると一緒に倒れるか彼の体を地面に放ってしまいそうだった。どうすればいい。一瞬頭が真っ白になった。膝が震えるのに従い彼を正面に抱きかかえたまま地面にへたり込む。体重を預ける先が生まれたことで体の負担が減る。彼の脚を地面に伸ばさせ、肩に腕を回し上半身を抱える。首の座らない乳児みたいに喉がのけ反り喉仏の隆起が浮かんだ。慌てて後頭部を手の平で支えた。彼は軽く目を閉じ、うっすらと口を開いていた。まるで眠っているかのように。
「大丈夫か!? 赤司!? 赤司!?」
 大声で呼びかけても揺さぶっても、彼は目を開けなかった。呼吸を確認するとか脈を取るとか、ほかにやることもあっただろうが、すっかり動転していた俺は、ただただ彼の名前を叫ぶことしかできなかった。ゴールから十メートルほどのトラック内でにわかに騒ぎ出した俺に、完走後のランナーや運営関係者たちも異常を察知し近づいてきた。
「だ、誰か!」
 接近する気配を察知し、俺はあたりを見回しながら助けを求めた。大丈夫ですか、どうしたんですか。見知らぬ誰かが話しかけてくれたが、完全に平静を失っていた俺は何ひとつまともに答えられなかった。
「あ、赤司! お、お願い、返事して! 赤司、赤司、赤司っ!」
 衝撃のあまりきっと俺は泣いていたことだろう。脱力して四肢を放り出した彼は、どれだけ呼んでも応えず、瞳をのぞかせないままだった。救護班のスタッフがやって来て、彼はなかば俺から引き剥がされるようにしてその場に寝かされた。スタッフが彼の腕に触れたり、バイタルの確認か、メーターのようなものを取り付けている。
 なんでこんなことになった? 彼はどうしてしまったんだ? どこか悪いのか? 無理をさせてしまったのか? レース中、何か異常のサインがあったのではないか?
 つい数分前までの達成感や喜びなど吹っ飛び、後悔と自分への疑念が胸裏をぐるぐると巡る。
 担架に乗せられ競技場の建物の内部に搬送される彼を、俺はその場でくずおれたまま、呆然と見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

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