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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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番外編・たまにはこんなチャレンジを 4

 視界を閉ざして口内をくすぐる他者の熱と動きを追うのが心地よい。お互い唇を食み合い、舌を絡ませ、口腔内の温かな粘膜を舐め、歯茎の境目の凹凸をなぞる。む、んむ、と呼気とともに鼻音を漏らしながら、体温を交換し合ううちに、降旗の涙腺はすっかり落ち着きを取り戻していた。ちゅ、と未練がましい音を立てつつ顔を離すと、赤司が間近で降旗に微笑みかけていた。
「落ち着いたか?」
「うん、ごめんね。なんか気が高ぶっちゃったみたい」
「泣き虫だな」
「……お恥ずかしい限りです」
 赤司の手がこめかみから側頭部を撫でてくる。その柔らかで温かい接触が気持ちよくて、降旗は頭を撫でられる子犬さながらに軽く目を閉じた。額にひとつキスをもらうと、それだけで幸せな心地がする。と。
「さっきの質問だが」
「へ?」
 唐突に切り出した赤司に、降旗はまぶたを持ち上げたあと、改めてまばたきをした。さっきの質問? なんだっけ?
「苦痛がゼロと言ったら嘘になるが、気持ちよさのほうがずっと大きい」
 続く彼の言葉に、降旗はああと合点がいった。どういうわけか生来の涙もろさが全開になり、ぼろぼろ涙を彼の体の上に落としながら、自分を抱くのは痛いのかと尋ねたのだった。本気に気になったというより、感情の流れのままに口を突いて出た質問に過ぎないのだが、赤司は律儀に答えを寄越した。
「そ、そう、なんだ……」
 フォローなのかな? と疑わないでもなかったが、
「きみのなかはとても気持ちがいい、光樹」
 ふふ、と小さな笑みをたたえる彼の表情の艶っぽさに、細かいことはどうでもよくなってしまった。彼がそういうのなら、大丈夫だろうと感じる。
「お、俺も、きみにしてもらうとすっごく気持ちいい。あ、も、もちろん、いまも気持ちいよ」
 慌てて付け足したときようやく、自分たちがいまだつながっていることに意識がいった。体が馴染んできたのか、先刻より圧迫感が下がった気がする。苦しさより心地よさが勝りつつある。
「僕もちょっと気持ちよくなってきた。きみがここにいると思うと、それだけで気分が高揚する」
 と、赤司が自分の下腹部に手を置き、ゆるりと撫でる。その感覚が直接伝わるわけはないのだが、降旗はずくんと体の奥が熱くなるのを知覚した。
「征くん……」
「多少余裕が出てきたか、お互い」
「だといいけど……」
 互いに小さく笑い合うと、赤司が降旗の右手を軽く掴み、
「光樹、手を……」
「て……?」
「そろそろこっちも触ってほしい」
 自分の股間へと導いた。わずかながらに反応している性器を包ませるように降旗の手を当てる。降旗ははっとして一瞬止まってから、まずは労るように優しく撫でた。
「あ、うん……ごめん、気が回らなくて」
「ふふ……じゃ、僕も」
 赤司のほうは、伸ばした右腕を降旗の胸にぺたりと置くと、手の平でマッサージでもするように緩く円を描いた。のろのろと皮膚の上を移動する手は、やがて左の乳首を摘むに至った。
「あんっ……」
 予告されていたからその刺激は突然ではないが、その分期待に高まっており、乳輪を巻き込むように数回親指の腹でこねられただけで、ぷくりとたち上がった。
「あっ……せ、征くん……」
「ん……光樹……気持ちいい……」
 絶え間ない湿った呼吸音のところどころに混ざる控えめな嬌声は、もはやどちらのものともつかなくなっていった。結合部の隙間からはやや粘性の高いローションがじわじわとにじんで少量ずつ排出される。ふいに、それまで詰まった感じがしていた内部で、するっと自身が滑るような錯覚があった。彼がわずかに脱力した拍子にタイミングよく埋まったようだ。
「あ……は、はいった……? 全部」
 降旗は思わずつながっている部分を見下ろした。根本まで自身を収めた入り口の縁がひくんひくんと小さく収縮のを目の当たりにしたとき、その視覚刺激の強さに文字通りくらりと来た。本当にここに俺が入ってるんだよな……? なかば信じがたい気持ちで降旗は彼の皮膚と粘膜の境目に指を触れさせた。
「あぅっ……! あ……やぁぁっ!」
「ご、ごめん!」
 彼のひときわ高い声が内耳に響くと同時に、反射的に手を引っ込める。他意はなかったが、さすがに無遠慮だったと反省する。自分も挿入されているときにこの部分を触られるのは苦手だった。ただし降旗の場合は……
――やぁ、あん、そ、そこ……あ、あんまり触らないで……。
――すまない、痛むか。
――ん、違……い、痛くないよ、ほんとだよ。気持ちいいよ。ただ、あの……。
――変な感じがするのか。
――いや……っていうか、その……は、恥ずかしくて。
――……? いまさらではないのか?
――そうだけど……この状態でそこなぞられると、あの、わかっちゃって。……ひ、拡がってるんだなって。
 ああぁぁぁぁ、思い出すだけで恥ずかしい!
 彼を呑み込んでいるその場所の輪郭を指で辿られると、入り口が相手の性器のかたちに伸ばされ、びっくりするくらい拡がっているという事実が否応なく知覚されてしまい、とんでもなく恥ずかしい気分になるのだ。確かに彼の言うとおりいまさらなのだが、まだ理性の残る意識にそのような知覚が上るというのは、別の羞恥を呼び起こすものなのだ。彼が自分と同じような感性をもっているのかはあやしいところだが、感情以前に、この状態で結合部が敏感になっているという感覚はよくわかるので、彼の悲鳴に近い声には納得がいった。そこに潜む甘い響きに拍動を促進されるのを自覚しながらも、びくびくと小さく痙攣する彼の体に不安を駆られ、そろりと顔をうかがった。
「せ、せいくん……大丈夫? く、苦しいよね?」
 赤司はぜいぜいと肩を上下させながら、しばらく無言で呼吸を整えていた。返事はなくとも回答は明白だった。苦しくないわけがない。何度も彼を迎えている降旗だって毎回どうしても身体的な苦しみは感じるのだから。本来あり得ない方向から内部を圧迫される感覚は、快感とは別枠なのだ。自分の中が彼でいっぱいに満たされていると考えると、精神的な快楽が押し寄せてくるのだけれど。
「ん……さすがに苦しい……。少し待て」
「う、うん。ええと……こっちのほう、触るのは大丈夫?」
 額から目元にかけ手の甲を当てて寝そべる赤司に、降旗が遠慮がちに尋ねた。羽が掠める程度の弱さでそっと彼の性器に指を這わせながら。
「ああ、頼む」
 赤司がこくりとうなずくのを確認してから、降旗はそこをやわやわと握った。刺激を強くすると、彼の体が小さく跳ねた。それに合わせて、内壁がぴくぴくと小刻みに蠕動し、締め付けられる感覚に降旗もまた身を震わせた。動きたい。本能的にそう感じたとき、
「ちょっと動いてくれ」
「い、いいの?」
「ああ」
 こちらの欲求を察したかのようなタイミングで赤司が言ってきた。が、いざ求められると戸惑ってしまう。
「え、ええと……」
 ほんとにいいんだよね、と彼に目配せすると、薄い微笑が返された。彼にリードされていることを実感すると胸に安堵が広がった。動くといっても、根本まで挿入したこの状態でできることといったら、後退することくらいなので、降旗は彼の太腿を手で押さえながら自分は腰を引いた。
「あ……あぁっ!」
 抜き掛けた途端に上がった彼の短い悲鳴に降旗がびくっと固まった。結局わずかに抜いただけで、性器の大部分はいまだ彼の内部に収まったままだ。
「せ、征くん? 大丈夫?」
「……だ、大丈夫だ。出ていくときの感覚、すごいな」
 はあ……と大きく息を吐きながら赤司がしみじみと呟く。潤んだ瞳と紅潮した目元が艶やかで、降旗は小さく唾を飲み込んだ。やばい征くん色っぽい。そして、彼にそんな表情をさせる快感を思い起こし、今日はまだ触れられていないあの場所がずくずくと疼くのを感じた。いっぱいに埋まったものが引き抜かれるときの、名状しがたい解放感はたまらない。
「う、うん……わかるよ。気持ちいいよね。……あの、このまま抜いちゃおうか? 入ってくる感覚って、やっぱ怖いだろ?」
「きみはいつも怖いと思っていたのか?」
 赤司がふいに真顔になる。あ、まずい、心配させちゃった。降旗は慌てて首を横に振った。
「そ、そういうわけじゃ。……あの、怖いっていうか、緊張する、かな。でもそれ以上に……う、嬉しい、かな。入ってくるのがわかると、抱いてもらってるんだなあって感じて。逆に、抜かれちゃうときは、なんだろ、解放感があって気持ちいいんだけど、なんか寂しい気がする」
 狭い場所を押し開いて異物が体内に侵入してくることに対して身構えてしまうのは仕方がなく、慣れたいまでも多少の恐怖はある。だが、彼に求められることへの喜びと、自分のなか彼で満たされることへの期待感のほうが圧倒的に大きい。ああ、このひとに抱いてもらっているんだ。体の中でまざまざとそれを感じるとき、どうしようもない幸福感が込み上げる。
 抜かれるときは抜かれるときで別の怖さがある。ゆっくりと引かれるのであれば平気だが、勢いよく引き抜かれると、彼に絡みついた自分の内壁まで一緒に引きずり出されそうな錯覚があり、恐怖に惑乱して泣きだしてしまったことさえある。
――や――――っ! や、やだっ、怖い! それ怖い! やめて!
――すまない。……どうした?
――うえぇぇぇ……な、なんか、おなかのなか、もってかれそう……。お願い、それやめて……。
――止めるのは構わないが……ずっとこうしているわけにもいかないぞ。
――う、うん……。あの、ちょ、ちょっとだけ休ませて?
――わかった。……ゆっくりなら大丈夫そうか?
――多分。……あっ、やっ、やっぱ怖い。も、もうちょっとそーっと……や、やさしく……。そーっとだよ?
――このくらいか?
――あっ、んんっ……! これなら、なんとか――っああぁぁっ!? やっぱりだめぇ! ふぇぇぇぇ……こわいぃ……。
 あの頃は一回収めて引き抜くだけで大仕事だったなあ、まあもっぱら俺が怖がりなせいなんだけど。
 いまとなっては笑い話のようだが、当時はあの感覚をどう処理してよいのかわからず、戸惑うばかりだった。それでいて、気を遣った彼が挿入なしでセックスを終わらせようとすると、彼をほしがり、最後までしてとねだったものだ。こうして当時を回顧すると、俺ほんとめんどくせぇやつだな、よく征くん投げ出さずにつき合ってくれたよな、と赤司の偉大さを拝みたくさえなる。それでも、いつの頃からか快感を追う術を覚え、楽しむ余裕が生まれた。挿れられるときと同様、抜かれるのもいまではとても気持ちがいい。異物感が後退することへの期待は確かにあり、抜かれていくときに内壁を擦られる感覚と相俟って、大きな快感が生まれる。その一方で、まだ彼とつながっていたい、出て行かないでほしい、自分のなかに留まっていてほしいと、恋しさを感じずにはいられない。それはきっと恋慕に似ている。自身の内壁が縋るように収縮する切なさといったらない。……そう思ったら、やっぱり後ろがひくんと動いた。彼がほしいと訴えるように。
「確かに、抱かれているときのきみはとても気持ちよさそうだ」
「うん、すっごく気持ちいいんだ。征くんに抱いてもらうと」
「きみは僕にそれを味わわせてくれないのか?」
「え……」
「そろそろもう少し動いていい。というか、動いてほしい」
「う……うん」
 赤司に求められるまま、降旗は慎重に腰を退いた。半分ほど陰茎が現れたところで、再び彼のなかに収める。その動作をゆっくりと反復するうち、もう少し早く激しく動きたい衝動を覚えた。ああ、俺男なんだと実感する。しかし、彼を見下ろしながら腰を動かしている間も、自分が彼の下で足を開いて鳴いているビジョンが浮かび、それに羞恥を覚えるより先に、ただひたすら、やっぱり抱いてほしい、と願ってしまう。体の奥が、彼を包みたいと叫んでいる。
 お互い役を交代するのははじめてということで、結局激しい動きはできず、緩慢に腰を打ち付けるに留まった。降旗は、久々に味わう男としてのわかりやすい快感に時折ぶるっと体を震わせたくなる一方で、別の場所に物足りなさを感じていた。赤司のほうはというと、体が慣れてきたらしく、表情から苦痛の色が軽減し、喘ぐでもなく、ときどき熱っぽい吐息をこぼしていた。
「征くん……やっぱ気持ちよくない? ごめんね、下手で……」
「いや、気持ちいいのは確かだ。ただ、ちょっと刺激が弱いというか。もっと動いてもらって構わないが……きみは遠慮してしまうのだろうな。……光樹、ちょっと後ろに体を倒せるか?」
「え? こう?」
 突然なんだろうと訝りつつ、降旗は赤司に言われたとおり、上半身を少し後方へ逸らし重心を移動させた。と、その瞬間を見計らうように、腹部を赤司の手が強く押してきた。体重移動の最中だったので、外部からの力に弱く、押されるまま後ろへ倒れた。
「うわ!?」
「あうっ……!」
 視界がぐるんと縦に回転し、天井が見えたと思ったら、彼の押し殺した嬌声がわずかに聞こえた。
「え? え?」
 降旗は目をぱちくりさせた。見慣れた輪っかの蛍光灯がやけに眩しい。あれ、なんで電気が見えてるんだ? さっきまで征くんの顔見てたのに。
 そう思ったとき、視界に影が差し、いままさに頭に浮かんでいた人物の顔がぬっと現れる。つい先程まで見下ろしていたはずの彼の顔が、いまは自分を見下ろしている。いったい何が。疑問符を浮かべる降旗に、赤司が苦笑を落とした。
「すまないが、僕のほうが物足りなくなってきた」
 これは……もしかしなくても騎乗位というやつですか。
 彼の顔を見上げながら体の真ん中あたりに重みを感じたとき、やっと事態を把握した。赤司が自分の体の上に跨っている。自分を体内に収めたまま。
「ごめん……俺、下手だった?」
「いや。きみにされるのはとても気持ちよかった。ただ、もうちょっと強い刺激がほしくなった。でもきみは僕を気遣ってしまう。まあ、僕もその気持ちは理解できるから、不満はないんだがね」
「うん……征くんがなかなか俺を抱こうとしなかったの、わかった気がした。征くん、いっぱい俺に気を遣ってくれてたんだね。大事にしてくれてたんだね。俺……嬉しいよ」
「また泣きそうな顔をして」
「これはいいんだよ。嬉し涙だから」
 降旗は仰向けのまま、へにゃりと緩んだ笑みを向けた。その様子に赤司が目を細める。
「それに……きみは僕にリードされるほうが好きだろう?」
「う……うん。好き……」
「動いていいか?」
「いいよ」
「腰、支えて」
「は、はい」
 赤司は降旗の胴体の両脇に膝をつき、左手を降旗の腹部に、右手を左の太腿に置くと、上半身を軽く後ろへ傾けた。降旗はその腰をおっかなびっくりの手つきで支えた。添える程度の力しか入っていないが、注意は飛んで来なかった。最初はゆったりとしていた振動が徐々に速く激しくなる。赤司は顎をやや上げて喉を反らせると、抑え気味の喘ぎを断続的に漏らした。降旗は自分の体の上で揺れ動く凄艶な彼の姿に息を呑み、視線を反らせなかった。エ、エロい……。それでいて下品にならないのはなぜだろう。視覚情報が脳を興奮させる。しかし、にもかかわらずどこか安心感を覚えた。ちょっと不思議に感じたが、彼の顔と天井から吊るされた照明を見上げたとき、合点がいった。ああ、征くんに抱かれているみたいに感じるんだ……。
 手の位置や体の傾きを変え好きに動いていた赤司だったが、ふいにちょいちょいと降旗に向けて手招きをした。
「光樹、上半身を起こせるか? 向かい合いたい」
「う、うん……」
 彼は降旗の二の腕を引っ張って手伝いながら、上体を起こさせた。
「重いか?」
「いや、大丈夫だよ」
 赤司が降旗の胴を脚で挟むような格好で、太腿の上に乗る。腿の高さの分、赤司のほうが視線が高い。彼を上目遣いで見上げながら、降旗が遠慮がちに言う。
「あの……征くん、キス……したい」
「ん」
 求められるが早いか、赤司はすぐに降旗の唇に噛み付いてきた。
「むっ……ん、むっ……」
「んん……」
 少しだけご無沙汰だった口の中が満たされるのが心地よい。互いに夢中で貪り合っていたが、ふいに赤司が身動いだ。どうしたのかと降旗が止まる。どちらからともなく顔を離したとき、赤司がうつむいて視線を下げた。
「これ……気持ちいい」
「え?」
「きみのおなかに擦れて、気持ちがいい」
 ふたりが見下ろした先では、赤司の性器が降旗の腹部にぺたりと当たっていた。降旗が目で確認したのを見届けると、赤司がわざとらしく腰を揺らし、陰茎を擦り当てた。
「う、うわ……」
「ん……気持ちいい」
 赤司は降旗の首に腕を回して抱き込むように捕まると、自ら動いて降旗の腹部を擦った。降旗としては、彼のその行動から受ける身体的刺激は小さなもので、くすぐったさを感じる程度だったが、彼がそんなふうに自分に擦りつけているという事実に固まっていた。
――あー、あーっ……。気持ちいい……征くん、これ気持ちーよー……。
 自分も向かい合いで座位を取るとこんなことしてるなあ、と他人ごとのように思い出す。
――このほうが気持ちいいのでは?
――あんっ! や、やあっ……征くん、いきなりはやめて……。
 擦り付けるだけで満足していると、赤司が降旗の陰茎を握りこんでくる。思い切りではないが、擦るのとは明らかに違う力の加わり方と強さに降旗は当然鳴くのだった。
 俺も征くんの握ったほうがいいのかな。でもいきなり触ったらびっくりさせちゃうよね……。どうしよ……。聞いたほうがいいかな。
 やはり自発性を発揮する勇気のない降旗は、許可を取ったほうが安心だと判断し、おずおずと顔を上げた。と、赤司が自分の肩越しに首を伸ばしていることに気づく。首に回っていたと思っていた腕の片方は、いつの間にか脇の下をくぐっていた。
「あの、征くん……?」
「ちょっと期待してるだろう――ここ」
 と、赤司が背後で腕を動かしたことを気配で感知すると、
「ひゃっ!?」
 突然、思いがけないところに知り慣れた刺激を感じ、頓狂な悲鳴が降旗の喉を走った。
「少し緩んでいる」
「う、あ……」
 くにくにと入り口を押される。どの指かはわからないが、彼の指の腹がくぼみに押し当てられ、力を加えてくる。降旗は数瞬驚いたものの、その次には強い期待と歓喜が胸に押し寄せた。爪の先がつぷりと入り込んでくるのがわかった。
「はっ……あ、あぁ……」
「触ってほしいか?」
「う……うん。触って……」
 うっとりとねだる。ずっと待ち侘びていた刺激がもらえることへの喜びを隠せない。
「少しだけだ。濡らしていないからな」
「……ああっ。や、やぁっ……」
 手の平で双丘を広げるように押さえながら、彼が指の侵入を少しだけ深める。まだ少しも潤されていないそこは摩擦が強く、慣れていても抵抗を感じる。下手をすれば傷がつくだろう。赤司は無理をせず、浅い場所で粘膜を擦るに留めた。しかしすでに期待に溢れ自ら高ぶっていたその場所は、小さな刺激も拾うようで、降旗がぶるりと体を震わせる。
「や、やめ……それ、やばい、かも……」
「どうした」
「あ、あっちもこっちも気持ちよくて、どうかなっちゃいそう……」
「そうか」
 赤司はあっさりと指を引き抜いた。降旗は慌てて口を開いた。
「あ、や、やだ、やめないで」
「どっちを希望しているんだ」
「えと……さ、触って?」
「この体勢だと、きみの好きなところは触れないと思うが」
「い、いいよ。その……そっちも触ってもらってると思うだけで、なんていうか……嬉しいから」
「わかった。……光樹、代わりを要求するわけではないが、僕のほうも触ってくれないか。擦るだけじゃ物足りない」
「あ……う、うん」
 降旗は赤司の性器に右手を伸ばすと、柔らかく握って上下にしごいた。
「んっ、あ……」
「あー、やー、きもちいい……」
 赤司のなかに自分を埋めつつ彼の性器に触り、自分は後ろを彼にいじってもらう。種類の違う快感を同時に味わう贅沢に降旗は胸いっぱいになった。
「こ……光樹、手、きつい……」
「え? あ、あっ……ごめん」
 赤司が少し苦しげな声で訴える。降旗は、自分の右手につい力が入っていたことに気づき、慌てて緩めた。
「あ、あぁ……光樹、気持ちいい……」
「あっ、んぁっ……はぁっ……せ、征くん、もっとそこ触って……気持ちいい……」
 双方とも次第に呼吸が荒くなる。
「せ、征くん……あの、そ、そろそろ……」
「構わない。そのままで」
「で、でも……」
「ちゃんとゴムはつけてあるんだろう、問題ない」
「い、いいの?」
「ああ」
「んんっ……」
 抜かずに射精してよいということだったので、甘えることにした。きゅう、と彼が締め付けてくれたので、そのまま快楽の波を追う。出口のある快感なので恐れることなく高めることができる。程なくして、明確な絶頂が見えた。
「んっ……!」
「あ……」
「はあ……」
 あ、終わった。
 そう思ったら一気に脱力した。男の生理としてこれは仕方がない。彼に手取り足取り任せっぱなしの上、先にいかせてもらって申し訳ない気持ちはもちろんあるが、襲い来る疲労感は抗いがたいものがある。と、赤司が腕を斜め後ろにつき、体を少し後方へ傾けていた。彼は自分の下腹部を見下ろしながら、手の平で緩く撫でていた。
「あ、あの……」
 ひょっとしてコンドームが破れていたとかいうオチでは、と降旗が青ざめかけると、赤司が顔を上げてふっと笑った。
「ちょっと温かい感じがする」
「え、あ、あー……」
 はい、わかります。そんな感じがします。あまつさえ、ゴムなしで出してもらえたらなあ、なんて愚かなことまでちょっぴり考えていたりします。
 そんなことまで考えてしまった自分が気まずくて、降旗は逃げるようにうつむいた。と、まだ萎えていない彼の性器が視界に映る。
「ご、ごめん、征くんまだだよね……。え、ええと……く、口でするよ!」
「それは嬉しいが……まずはそろそろ離れるか」
「う、うん……」
 お互いゆっくりと腰を引いて離れる。ずる、と彼のなかから薄い人工の皮膜に包まれた自身が出てくる。膜越しとはいえ、彼のなかに出したのだという感慨がいまさらながら実感として湧いてきて、降旗はさっと頬を赤らめた。
 めいめいに後始末をしてから、マットレスの上に横向きで互いに向き合う格好で転がった。すでに達した降旗は疲労感の中で眠気に襲われていたが、中途半端な状態が続いている赤司のことが気になり、そわそわして落ち着かなかった。つい下半身のほうに視線が行きかけるのを自制していると、赤司に声を掛けられた。
「どうだった? 抱くほうも悪くはなかったと思うが」
「うん……あの、いつもとは違う感じで……よ、よかった。ああいう感覚なんだね……新鮮だった」
「楽しめたか? 僕は気持ちよかった」
「う、うん。俺も気持ちよかった。ありがとう。でも……」
 と、降旗はころんと仰向けになり、赤司の肘を掴んで自分のほうへ引き寄せた。上体を起こされた赤司が、降旗の脇に腕をつく。彼に見下されながら、降旗はちょっぴり照れつつ言った。
「俺はやっぱり、抱いてもらうほうが好きかな。征くんに抱いてもらってるんだって思うと、なんか安心するんだ。も、もちろん、征くん抱くのも、すっごくよかったよ?」
 赤司はふっと微苦笑を漏らすと、
「きみはこっちが気に入っているか」
 上体を屈め首を伸ばして降旗の唇にキスを落とした。
「うん……。きみに触ってもらえると、すごく気持ちいい。……ね、征くん、いままで無理してた? 俺を抱くの、嫌だった? 逆のがよかった?」
 畳み掛けるように質問する降旗を安心させるように、赤司は彼の額や頬にキスをしていった。
「いや。きみとするのならどちらでも構わない。どちらも気持ちがいい。きみがこちらが好きなら、いままでのままで大丈夫だ。……でも、たまには抱いてほしい。今日の、すごく気持ちよかったから」
「ん……。征くん……」
「光樹」
「う、んん……」
 深く口づけを交わす。先程までも散々キスはしていたが、いまのこれは、まさしく彼が自分を抱くときのキスそのものだ。それが嬉しくて、降旗は彼から与えられるぬくもりに没頭した。と。
「あっ!? あ、ああっ!?」
 唐突な強い刺激に、一瞬でキスのことなんて忘れ、色気も何もない悲鳴が飛び出す。この感覚はもちろん知っている。今日彼のなかで味わったあの快感よりもよく。そっと視線を下半身に落とすと、彼の腕が自分の脚の間に伸びていた。見えないが、すでに指先が体内に埋められていることは、その場所からの感覚でわかった。
「好きなんだろう?――こっち」
 曲げられた指が内壁をやや強めに押す。ぐちゅりと音が立っているところから、すでにローションを纏っているようだ。いつの間に……。まったくもって抜かりのないことだ。
「あうっ……! せ、せいくん……そんな急に……」
 降旗が困ったように眉をひそめるが、その声に非難の響きはなく、代わりに期待感が満ち満ちていた。ずっと欲していたものが与えられようとしている。期待せずにいられるものか。
「僕を抱いている間も、ずっとこちらが疼いている様子だった」
「う、うん……挿れてほしくなっちゃって」
「でも、射精して疲れただろう? 今日はやめておくか?」
「……征くんのいじわる」
「無理なら本当にしないつもりだが?」
「し……して?」
「わかった」
 赤司はあっさりうなずくと、指を付け根まで埋め込み、すぐさま勢いをつけて第二関節あたりまで引いた。手首の関節を回し、曲げた指先の当たりどころを変えてやると、降旗が甘ったるい声を上げた。
「あっ……んん! ね、征くん……今日まだいってないよね。ごめんね、俺、下手で……」
「気持ちよかったよ」
「ん……でも……。うあっ!?……せ、せいくん……あんっ、やぁ……そこ気持ちいい……」
「ここか」
 すでに心得て久しい降旗の好む場所を指の腹で押さえてやる。降旗は脚をばたつかせ、喉を逸らして喘いだ。心身ともに気が抜けてしまっていたので、多少なりとも抑えようという気力が湧かず、迸るまま遠慮せず鳴いた。
「あー、あーっ……。ああっ、やっ、そ、そこ、すっごく気持ちいい……いきそう……。あ、でも……先に挿れてほしい、かも。ね……さっきは口でするって言ったけど、あの、きみがよかったら、挿れてくれないかな」
「指のほうが気持ちいいんだろう? 僕としてもこちらのほうがコントロールしやすい」
 彼の言うとおり、いいところを指で的確に刺激されるのが一番楽に身体的なオーガズムを得る方法だ。しかし、実際に体をつなげたほうが満足感は大きい。いま降旗の胸には、彼に抱いてほしい、自分のなかを彼で満たされたい、自分のなかで彼に気持ちよくなってほしいという欲求が溢れていた。
「そうだけど……きみにも気持ちよくなってほしいし……それに、挿れてもらったほうが、なんか嬉しいから……」
「きみはどうしていちいち僕を刺激するかな」
 なんでもないような顔でため息をつく赤司の指は、しかし降旗に余さず快感を与えるような動きをした。
「ああぁぁぁっ!? ふぁっ……あ、ああっ……やっ、せ、征くん、あ、あんまりそこ触らないで! まだ駄目……きみにも気持ちよくなってもらわないと……やっ!? きゃぅっ……あ、ああぁぁぁぁ! だ、だめ、いきそう……」
 いっちゃう前に早く来て。
 降旗が視線でそう訴えると、赤司がすっと顔を近づけ、唇が触れ合う寸前の距離でささやいた。
「期待していいのか?」
「ん……がんばる……」
 うっとりした声でそう答えると、降旗は飢えを満たすかのように彼の唇を食んだ。


以下、おまけというかオチというか↓




 

 えー、みなさん、黒子です。おはようございますこんにちはこんばんは。いかがお過ごしでしょうか。
 僕はいま、自宅にいます。なぜか赤司くんと差し向かいで、彼がおみやげで持ってきてくれたマジバのバニラシェイクを飲んでいます。おいしいはずの好物が、いまは異常に甘く感じられてなりません。なんですかこれ、グラニュー糖一キロ入ってるんじゃないですか。口の中でざりざり言っている気がするんですけど。いえ、それ以前に僕が一時間以上に渡り最初の一口しか飲めていないことのほうが問題です。駄目です、しばらくバニラシェイク飲めなくなってしまったかもしれません。
 本日、またしても相談があるといってやって来た赤司くん(連絡の段階で嫌な予感しかしませんでしたが、断るという選択肢などあろうはずもありません)は、例によってオブラート一枚ほども包み隠さず、現在の悩みを告げてきました。その内容というのが……
「テツヤ、降旗が僕を抱くことについていまいち気が進まない様子なのだが、何が原因だと思う?」
 知りませんよそんなこと。
 ……と最初に言えたらどんなによかったことか。
 すったもんだの末に両者念願のセックスにこぎつけ、その後はバカップルの片割れたる降旗くんと魅惑のセックスライフを満喫してらっしゃる赤司くんですが、やっぱり悩みは尽きないようです。現在のお悩みは、タチウケの比率が極端に偏っていることだそうです。僕と火神くんも割と偏ってるんですけどね? これは個人の好みや性質、ふたりの相性といった問題がありますので、偏るのも仕方がないのですが、彼らの場合、いまのところ一回しか降旗くんがタチをやったことがないそうです。しかも結局その後ご褒美というか労りの意味を込めて、赤司くんが降旗くんを抱いてあげたということですから、赤司くんの降旗くんに対する甘さといったら、ゲロ吐きものです。でもまあそうなるでしょうね……。僕の見立てでは、降旗くんは僕を超えるネコですので。女の子とつき合っていた頃は彼も普通に男の子としてセックスしていたみたいですが、同性の赤司くんと体の関係を持ってからは、降旗くんの中に眠っていたネコが完全に開花してしまったようです。彼もう、女の子とセックスできないんじゃないですかね。するにしても、『抱いて!』ってなるんじゃないでしょうか。僕もひとのことは言えませんが。赤司くんにお話をうかがう限り、降旗くんはこの先ネコとして生きていくよりほかない気がします。概ねきみのせいなんですから、自分もネコやりたいとか贅沢言ってないで、降旗くんをかわいがってあげてください。
 ……ええ、そうです。僕今日赤司くんに聞かされてたんですよ、降旗くんとのセックスの詳細を。上記の相談を受けて程なくしてはじまっちゃったんですよ、例のアレが……。
 みなさんは降旗くん視点寄りの三人称で彼らのセックスをご覧になったのでしょうが、僕は赤司くん本人の口から、彼の一人称ハーレクインもどきという、悪趣味きわまりない語り口でもって聞くところとなりました。最悪です。何の拷問ですかこれ。もちろん言うまでもなく「性欲を刺激される」をアホみたいに連発していました。語っている間、赤司くんは例によって真顔で超ノリノリでした。降旗くんとの初リバがよっぽど嬉しかったようです。相談という名目にかこつけて、降旗くんのタチがいかにかわいかったか自慢したかっただけじゃないんですかこのひと。サブカルのテンプレ表現を使うなら、僕の光樹かわいいよはあはあ、といった心境だったのだと思います。ただ彼の頭にはそのような語彙が存在したとしても適切な使用法は理解されていませんので、そういった諸々の胸キュンをすべて「性欲を刺激される」に変換しているに違いありません。台無しですね。
「テツヤ、聞いているのか」
「ああ、はいはい、聞いてますよ。とりあえず一回は降旗くんが抱いてくれて、すっごくよかったということは嫌というほどわかりました」
「ああ、あれはすばらしい体験だった。彼の欲を自らの体内で受けることにあれほどの満足感があるとは知らなかった。もちろん最低限の安全性は確保しているが。しかし、彼の遠慮がちな性格はなんとかならないものか。僕のなかに陰茎を埋めた状態で、限界まで膨張しているにもかかわらず、彼は僕の身体的満足が不十分だと感じていたようで、必死に射精感に耐え、本当にこのまま達していいのかと不安げに尋ねてきたんだ」
 ちょっと待ってください、そのへんのエピソードは先ほど聞きました。なんで表現を変えてまで繰り返そうとしているんですか。どれだけ萌えたんですか、そのときの降旗くんの愛らしさに。いえ、赤司くんの場合は性欲を刺激されたということになるんでしょうが。
「確かに僕はその時点ではオーガズムらしいものを得ておらず、彼が気を遣いたくなる気持ちも理解しないではない。お互い、逆の立場で性交渉を試みるのはあれがはじめてだったのだから、不慣れなのは仕方がなかった。だが、僕ははじめて感じる彼自身の熱やかたちにすでに十分興奮しており、精神的な充足感はかつてないほど高かった。彼に挿入されてからというもの、僕は体のなかに彼の存在を感じているという現実を意識するだけで、恐ろしいほど性欲を刺激された。彼を身の内に感じている間、ずっとだ。特に、射精直前に彼が縋るように僕の胴に回した腕の力を強めたとき、その充足感は緩やかな幸福感へと昇華し、僕の全身を柔らかく包み込んだ。彼を抱いているとき、絶頂に近い彼がひときわきつく締め付けてくることがあるのだが、あれがまったく意図的な動きでないことを僕はあの日はじめて実感として理解した。すなわち、彼の高まりきった熱を体内でまざまざと感じた僕は、自らの内側が不随意に――」
 ぎょえぇぇぇぇぇぇ! き、ききききき、気持ち悪い! ネコ体験の詳細とかマジ勘弁なんですけど! なまじ自分も同じ立場ですから、共感しちゃうんですよ! こんなに気持ち悪いのに!
 もうイヤです……僕何回このひとに言語野レイプされなきゃいけないんですか……。
 助けて火神くん。この苦しみを分かち合ってくださいよ……。

 

 

 

 


 

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