赤司による大変気持ちの悪いハーレクインもどきが展開されているのでお気をつけください。
「口づけそのものはさして激しいものではなかったが、すでに呼吸の上がりかけていた彼はじきに苦しげに喉を逸らして顎を上げた。酸素を求める仕草だ。それも仕方ない。先刻、僕が彼の唇を思うままに激しく貪っていたのだから。言い訳にしか聞こえないだろうが、普段はこちらのペースを一方的に押し付けるような真似はしない。呼吸の間は取るようにしている。しかし先程の行為は彼からすれば息を奪われるようなキスだったのだから、苦しくなるのも当然だ。僕が顔を離すと、彼は長らく水の中に潜ったあと水面の上に飛び出したかのように、気流が狭い空間を通過する際に立つ音に呼吸音を上げ、息を吐き、そして大きく吸い込んだ。何度も繰り返す。肺に酸素を行き渡らせるように。
『あ、はぁはぁ……せ、せいくん……ちょ、ちょっとだけ、息、させて……?』
彼の両目は生理的な涙が滲んでおり、左目からはいまにも雫がこぼれ落ちそうになっていた。目尻から頬にかけて朱に染まっており、すでに流れた涙の筋がこめかみに向かって幾重にも伸びていた。冬の日に窓の結露が重力に引かれて流れ落ちるかのごとく。彼がただ息苦しさに喘いでいるだけなのは見て取れる。しかしその姿は非常に扇情的で、僕の性欲をさらに刺激するものだった。彼の呼吸が整うのを待たねばならない。そう判断する一方で、すぐにでもまた彼の唇を味わいたいという衝動が背筋に走り、またたく間に僕を支配した。彼の唇がほしい。突き動かされるように、僕はみたび彼に顔を寄せた。互いの鼻先がぶつかろうというところで、彼が顎を引いた。すかさず僕は追おうとした。多分本能的な行動だ。犬が逃げる人間を追いかけてしまうようなものだろう。唇が触れる寸前、いまだ肩で息をしていた彼が困惑した声で尋ねた。
『ど、どうしちゃったの……? なんか、いつもと違うけど……何かあった?』
言葉を切ると同時に、彼はなだめるように僕の唇に触れるだけのキスを与えてきた。幼児のような動作だ。いや、どちらかというと、大人が幼児に親愛の情を伝えるための行為といったほうがいいか。普段は少年くささを感じさせる彼だが、このときは僕のほうが聞き分けのない子供のようだったに違いない。
『すまない、苦しかったか』
『ちょっと……』
そう答えたものの、実際のところはかなり苦しかったのだろう、しばらくの間、彼は肩や胸を大きく上下させ続けていた。時折、喘鳴に似た音を漏らしながら。ただ呼吸をしているだけだ。理解はしていたのだが、乱れた着衣と相俟ってその視覚的刺激の度合いは強烈だった。鼓膜を揺らし内耳に響く不規則な呼吸音もまた僕を煽る。すでにいままでにないほど性欲を刺激されている。これより上があるというのだろうか。認めよう、僕は怖くなった。その先にある扉が開くのか否か確かめる勇気が出ず、しかしこのままでは否が応にも進んでしまうような気がして、僕は目を閉じ彼から顔を背けた。
『僕は、いったい……』
しかし、視覚を閉ざしたことで今度は嗅覚が鋭敏になった。そう、あの不可解なにおいが再び意識に上ってきた。おまえたちの家のにおい、石鹸の香りだ。そのことを思い出したとき、どくん、と一際大きく心臓が鳴った。痛みさえよぎった気がした。循環器系の病気を発症してしまったのだろうか。しかしそのときはそんな心配をする余裕もなかった。わずかに平静が戻りかけたと思ったが、彼から発せられる、物理的にはごく少ないであろう熱やにおいが、僕の内に燻る情欲を再度燃え上がらせようとしていた。彼はどこまで僕の性欲を刺激するのだろう。この近さがいけない。とにかく身体的な距離を離すべきだ。錆びたネジのごとく鈍った思考回路はそんな単純なことしか思いつかなかった。僕は深く考えることもなく、彼の太腿の上で身動ぎ、後退しようとした。しかしあろうことか彼は僕の左腕を右手で掴み、僕がそれ以上後ろへ行くことを拒むかのように、わずかに自分のほうへ引き寄せる力を加えてきた。彼が己の意志によって触れてきた場所がひどく熱かった。真夏の直射日光が肌を灼くときのようなじりじりとした鈍い痛みを伴う熱。思わず振り払いたくなるような激しい痛みではないが、疼きに似た鈍痛が落ち着かない。それでいてもっと触れてほしいと思ってしまう。結局僕はその場から動けなくなった。
『だ、大丈夫だよ。俺の息の仕方が下手だっただけだから。征くんのキス、気持ちよかったから。も、もっかいしよ?』
彼は、僕が体をどかせたことを自分のせいだと感じたらしい。彼は臆病で自信に欠け、それでいてよくないところで自意識過剰というべきか、僕の些細な言動の変化を敏感にとらえては、その原因が自分にあるのではないかと考えてしまうらしい。いや、これは実際間違ってはいない。彼を目の前にすると、僕は普段の自分を保てなくなり、いささからしくない行動を取ってしまうことがしばしばある。そう、再三に渡り繰り返していることだが、彼は僕の性欲を刺激するのだ。性欲を刺激されれば、生き物は冷静を保てない。理性の蓋の下から、情欲という本能が煮立った泡のようにこぼれ出ようとする。それは僕の心に平生感じさせることのない焦燥を呼ぶ。焦燥は楽しいものではないが、しかし彼によって呼び覚まされるその感覚には確かな愉悦を伴う。だからけっしてネガティブなものではない。僕は彼に駆り立てられることをきっと喜んでさえいる。だがこの感覚をうまく言語化する術がなく、彼に伝えることができない。彼がある種の責任を感じて落ち込んでしまうのを防げずにいる。というより、彼に性欲を刺激されている間、僕は自分自身をコントロールすることに精一杯なので、彼への対応が疎かになりがちだ。何がもっとも困るかというと、僕たちが一緒にいる間、程度の差はあれど、彼が常時僕の性欲を刺激してくるということだ。彼と同じ空間にいるときの僕は、いつだって平静ではない。それはこのときも同じだった。いや、これまでの経験と比較しても、かなり落ち着きを欠いていた。もう一回とキスを与えてくれようとする彼に引き寄せられそうになるが、このままでは本当に自分を見失ってしまうのではと恐怖が湧き、僕は力なく頭を左右に振った。
『しかし、僕はいま……どういうことなのか……んっ!』
自分の心身の劇的な変化、いや高揚の原因が何であるのかわからず、僕はごちるように意味もなくその疑問を口にしようとした。しかしその言葉は途中で遮られた。そのことに気づいたのは、唇に生温かいぬめりを感じたときだった。彼が僕の唇を塞いだのだ。自らの唇で。これは大変珍しい行動だった。彼が強引に迫ったりねだったりすることはまずない。それはそうだ、情けなくも僕はセックスアピールが足りないようで、彼の性欲を刺激するに十分な魅力を出せずにいるのだから。思慮深く思いやりに長ける彼は、緊張の合間にときどき、気持ちがいい、嬉しい、といった感想を告げることがあるが、彼の肉体はあまり反応しない。つまり彼が無理をして言っているのは明らかで、このようなリップサービスを真に受けるほど僕は愚かではない。だから、もう一度、と口づけを求める彼の行動も、僕の強引な行為をフォローしようという配慮に基づいてのことであるのは明白だ。それはわかっている。わかっているはずなのだが……そのときの彼の匂い立つ性的魅力は僕にとってたまらないものだった。またもや性欲を刺激される。キスをしたい。唇を吸いたい。いや、彼は気を遣ってくれているだけなのだ。これ以上無理をさせるべきではない。原初からある欲求と、それを制止しようとするなけなしの理性が交互に波のように寄せてせめぎ合い、僕はただその場でうろたえることしかできなかった。
『こ、こうき?』
『征くん……キスしたい。……しよう?』
僕の前腕をとらえていた彼の右手が、今度は二の腕まで上ってきた。くい、と明確な力をもって引かれる。鼻と鼻が擦れるほど接近する。もう焦点も合わない。
『光樹……』
『征くん……』
呼吸が交じり合う。互いの唇はすでにどちらのものとも区別できない唾液にまみれ濡れていた。それがさらに融け合っていく。体温とともに。最初彼は上体を起こしていたが、いつの間にかマットに逆戻りしていた。あとで気づいたことだが、僕たちはずっと畳の上にいた。彼が身を預けていたマットレスはベッドのそれではなく、客用の折りたたみ式のものだ。宿泊の都度出したり仕舞ったりがが面倒という彼の意向により、マットと掛け布団一式が出しっぱなしにされていることが多い。すでに古くなった畳はとうにイ草のにおいを失っているが、存在するだけで独特の和の香りがほのかに感じられる。普段はきちんと寝床を用意してから至るのだが、情欲に支配された僕にそのような準備をしようなどという発想があったはずもなく、部屋の隅に折りたたまれたマットの上に、彼の上半身を寝かせていた。脚は畳に投げ出されている。ほんの少しだけいつもと違うシチュエーションもまた、欲情を駆り立てる隠し味であったのかもしれない。
『ん……気持ちいい……』
息継ぎのためにわずかに唇を離したとき、彼がうっとりとした声音でそう漏らした。
『ああ……僕も気持ちいい。きみとのキスは、たまらなく気持ちがいい』
『うん、俺も征くんとキスすると、すごく気持ちいいよ』
思い返せばこの感想は彼の思いやりであったのだと思う。しかしそのときの僕に冷静な思考も判断力もあろうはずがなく、代わりにずくりと腹の奥が重くなり、そして熱くなった。言葉ひとつでなぜここまで彼は僕の性欲を刺激できるのか。不思議でならない。彼の声も言葉も常に僕に興奮を与えるが、こと情事の波間において、彼から発せられるあらゆる音声は魔術的なまでに僕を支配した。平生、僕は人を従える能力をもって生まれたと自負している。自慢ではない、ただの事実としてとらえている。しかし彼と体を触れさせている間は、その力はまやかしのように感じられてならない。僕は抗えないのだ。彼が与えてくる無数の刺激に。そのどれもが性欲を波立たせる。
『しかし、キスだけでは足りない。……触りたい。もっと。きみに』
音もなく腕を伸ばし彼の剥き出しの胸に触れる。視線は彼の顔に固定したまま、指の腹を胸に這わせた。小さな障害物にぶつかる。控えめに、しかし確かに膨れた乳先の弾力が指先に伝わる。たったそれだけのことにも新たな興奮が呼び起こされる。ぐに、と音が聞こえたわけではないが、そのような感覚を覚えながら、僕は彼の乳首を指の先で遊ばせた。彼が鼻に抜ける声が彼から漏れる。
『あ、ん……征くん……。うん、触って……触ってよ、征くん。……俺もきみに触れたい』
彼の手が僕のワイシャツの脇に伸び、引っ張り上げる。スラックスのウエストから裾が飛び出たことが、胴回りに感じた布の緩みからわかった。
『ああ、そうしてくれ』
僕が答えると、彼はもぞもぞとシャツのボタンを片手で外しはじめたが、緊張でもたつき、うまくいかない。これはいつものことだ。僕は僕で彼のパーカーを脱がしに掛かっていたが、寝たままでは袖を抜きにくい。性急である自覚はあった。しかし一刻も早く彼の肌にじかに、そしてもっと多くの場所に触れたい。僕たちは向い合って座り、互いの衣服を脱がしあった。まずは僕が彼のパーカーを完全に剥ぎ取ると、彼は自ら両手を緩く上げ、Tシャツを脱がされる姿勢をとった。すでに胸元までめくれ上がっていたので、ひと思いに腕と首からシャツを抜いた。インナーとともに。あらわになった上半身の、かすかな筋肉の隆起を指の腹でなぞる。どうということはない人間の肌。体温。感触。しかしたとえようもなく僕の性欲を刺激する。左手で脇腹を、右手で鎖骨を、羽が掠める程度のごく弱い力で撫でた。彼は僕のワイシャツのボタンを戦慄く両手で外していたが、僕の手の感触にときどき、あ、と母音を発し、その都度手が離れた。彼が最後のボタンを外すのと、僕が彼の乳首を指できゅっと摘むのはほぼ同時だった。ああっ、と短く高い声が彼の喉を走る。彼はそこで僕の服を脱がすのをやめ、両腕を広げたかと思うと、僕の首の後まで伸ばして回した。互いに脱衣させ合う機会はそれなりにあるのだが、彼はたいてい途中で放棄してしまう。僕の体は彼にとってそれほどまでに魅力がないということだろうか。僕はこんなにも彼に性欲を刺激されるというのに。彼は征くん征くんと呼びながら、僕の頭を胸に抱え込んだ。鎖骨の硬さを額で感じた。近すぎて目の前の肌色さえ近くできず、視界は黒っぽかった。かすかに立つ彼の汗のにおいが鼻孔を侵す。頭の中に閃光が走ったかと思うと、それはまたたく間に広がり、やがて真っ白になった。
気がつくと、彼の湿っぽい喘ぎ声と、キッチンの換気扇の音だけが響いていた。左頬に温かな人肌がべったりと接触している。心地良い。僕は彼の胸に顔を預けていたようだ。自分がそのような体勢になるまでの記憶に靄が掛かっている。まただ。自分は何をしていた? 僕はぞっとした。肌の熱と湿り気から離れるのに名残惜しさを感じつつ、体を起こす。と、僕は何かが脇腹を掠るのを感じた。視線をやると、彼の手が僕のインナーの下からずるりと抜け出てきた。彼もまた僕の体に触っていたようだ。そういえば、背や脇を温かく心地よい感触が這っていたような気がする。あれは僕の肌を撫でる彼の手だったのだろう。そう思い当たったとき、実際に触れられていたときよりもずっと、彼の手の軌跡が熱く感じられた。それに伴い性欲が刺激されたことは言うまでもない。
彼はすっかり顔を上気させ、熱に浮かされた子供のように目を閉じ、皮膚に汗を滲ませていた。はっ、はっ……と浅い呼吸が繰り返されている。苦しさからくる表情だと理解はしているが、僕の目に、彼の寄せられた眉や閉ざされたまぶたはひどく悩ましげに映った。なんと性欲を刺激する姿であることか。自分の喉の奥からおかしな声が上がりそうな気がして、僕はとっさに口を押さえた。息を殺しながら彼を見下ろす。平均的な日本人の肌色が広がっている。日焼けしていない分、顔や腕などに比べると色が薄い。下はまだハーフパンツをつけていたが、腰骨の頭がのぞくくらいにウエストがずり下げられていた。脚は左右に広げられ膝が軽く降り曲がっている。僕は彼の足の間に膝をついていた。すでに裸の上半身は、いたるところがぬらぬらと光を反射していた。僕の唾液の跡だった。胸には、大部分の肌の色とは異なるふたつの部位、すなわち乳首が、普段の薄い赤茶色よりも幾分濃くなっていた。充血し赤みを増しているだけでなく、唾液にしっとりと濡れ、蛍光灯の明かりの元で時折光っていた。また、なだらかに膨れたいびつな円形の中央は、ぷくりと出張っている。右のほうが赤みが強く、また尖っていた。周囲にまで軽い充血が及んでいたが、それは吸われたためだと思われた。痕が残るほどではないが、少しの時間、熟れたような色のままだろう。口の中に彼の汗の味が残っている気がした。僕が離れた気配を察知したのか、彼がのろのろと目を開けた。緩慢な動作で手招きをする。導かれるがまま、僕はまた彼に覆いかぶさった。
『あ……征、くん……』
『光樹……』
『キスしたい……んんっ』
口づけ、というより口吸いと表現したほうがよさそうな深いキスを交わした。彼からもらう唾液すら快感を呼ぶ。まるで催淫作用でもあるかのように、僕の性欲を刺激する。彼の唇には飽きない。いつまでも貪っていたいほどだ。しばらくの間、キスに没頭していた。舌がまるで別の生き物のように蠢き、口腔の粘膜をくすぐる。彼は僕の頭髪に指を差し込み、やわやわと撫でてきた。優しい触れ方で、それ自体に大きな刺激はない。しかしその程度の接触にすら、僕は興奮を増幅された。彼からの接触は、それだけで僕の性欲を刺激するに十分だ。やがて僕は唇以外にも絶え間なくキスを落としていった。頬、額、こめかみ、眉尻、耳朶……鼻の頭を彼の横髪に埋めたとき、首筋から立ち上る彼の汗のにおいがじわりと鼻の奥に染み渡った。と同時に、忘れかけていた違和感が蘇る。一度思い出すともはや無視することはできなかった。僕はついさっきまで口づけしていたことなど吹き飛び、今度は鼻でせわしなく息を吸い込んだ。彼から香るにおいとともに。僕の唐突な行動の変化に驚いたのか、彼が慌てたように首を振った。くすぐったさもあったのかもしれないが。
『せっ……征くん、な、なに? そういえばさっきも玄関のとこで、こうしてたけど……。人前でひっつくなんて、珍しいような……』
『ああ、悪かった。どうしても気になったから』
僕は彼の耳元に口を寄せたまま、ささやくように答えを吹き込んだ。彼はその感触にびくんと体を揺らしながらも、質問を重ねた。
『な、何が?』
『におい』
『え? におい?』
『風呂……どこかで入ったのか?』
僕は体を起こし、彼の顔をのぞき込みながら尋ねた。普段はあまり意識しないのだが、どうやら僕は彼が家で使っているシャンプーやボディソープの香りを記憶しているようで、別の種類の香りがすると気づくらしい。彼にはプールやジムに通う習慣はないし、帰宅時の服装や荷物からしてもそんな感じではなかった。銭湯などに行くにしては時間帯が不自然だ。いったい何の事情があって外部で入浴が必要になったのか、不思議だった。そしてそれ以上に、なぜ自分が彼の香りが異なることにこんなに落ち着かない気分になるのか、不可解で仕方なかった。そのときの僕はどんな表情を浮かべていたのだろうか、彼は露骨にびくんと肩を上下させた。
『え? あ、う、うん……黒子のとこで……。黒子と遊んでて、ちょっとその、汗掻いちゃったから、シャワー借りたんだ』
『ああ……それでか』
『なに?』
『火神と同じにおいがした』
自分がこう言った瞬間、なぜか胸の底にもやもやした何か……こんがらがって解けなくなった細い糸のようなものがわだかまるのを感じた。
『ああ、火神も一緒に住んでるもんな。ソープ適当に使わせてもらったから、そりゃ同じにおいになるだろうなー。でもよくわかったね。俺ふたりとちょくちょく一緒に遊ぶけど、全然気づかないなあ。征くん鼻いいの? 前もなんか、火神のうちのにおいが気になるって言ってたような……』
『常に気になるわけではないのだが、あのときと……今日は、どうしてだろう、非常に鼻につく』
僕は彼の鎖骨の間に鼻を押し付けると、嗅覚依存の動物のようにしきりに彼の体のにおいを嗅いだ。彼の体臭を肺いっぱいに取り込むと、それだけでくらくらする。心地のよい目眩はじくじくと性欲を刺激する。しかし、いつもとは受ける印象が異なった。ひたすら気持ちがよいだけではなく、ざわざわと毛根を緊張させるような違和感があった。テツヤの指摘したとおり、不快感というのが近いかもしれない。が、感覚として近いというだけで、不快そのものではなかったと思う。もし不愉快であるばかりなら、あれほど性欲が刺激されるのは奇妙な話だ。そう、僕は心を掻き乱す不穏が大きくなるのを察しながらも、それに比例するように自分の中の性欲が増大するのを感じていた。彼のにおいや熱に心地よさを得ているときと同様に。
『え、く、くさい?』
彼はしつこくにおいを嗅ぎ回る僕に不安を煽られたようで、自分の腕を持ち上げると、慌ててにおいを確かめだした。個人の体臭をどう感じるかはそれこそ個人による。少なくとも僕にとって彼の体臭はどんな芳香よりも気持ちがよく、ずっと包まれていたいとさえ思うほどだ。彼のにおいは交感神経を興奮させるのだが、他方、性欲が過ぎ去ったあと吸い込むと、ひどく落ち着く。すなわち鎮静作用がある。アロマテラピーにおけるリラックス効果のような。なぜ同じにおいがこのような真逆の働きをするのか非常に興味深いところではある。彼は僕の性欲を刺激する一方で、僕の心身に安寧をもたらす。
『いや、そういうわけではない。きみのにおいは心地よいし、石鹸の香り自体は普通だ。心配しなくてもいい。異臭や悪臭とは程遠い。清潔な芳香だと思う。しかし……』
彼のにおいは僕にとって不快どころか快感だし、彼の体から発せられるほのかな人工の香りもまた清らかなものだった。だが、その石鹸の香りがどうにも鼻についた。いったいなぜ。僕は正中を辿るように鼻先を下方へ移動させていった。もちろんにおいを嗅ぎながら。
『な、なに?』
『どういうわけかよい香りに感じない。なんだか落ち着かない……』
『征くん……? このにおい、好きじゃない? なんならお風呂入ってこようか?』
『いや、それよりも……』
僕の態度は彼の気を病ませてしまったようで、彼は仰向けのままずり上がるようにわずかに僕から距離を取った。これ以上においを嗅がれるのを拒むように。いや、僕の行為を拒否したわけではなく、僕に不快感を与えないようにという配慮だろう。だが、どういうわけかその仕草はひどく僕をざわめかせた。ほんの小さな動きだったにもかかわらず、やはり性欲を刺激されるのを避けることはできなかった。本気で入浴に向かう様子ではなかったが、僕は彼がそれ以上動かないよう、右膝で彼の左の太腿を押さえた。左膝を床に立て、マットに上半身を預けている彼を見下ろした。僕の影が彼の体の上に落ちる。彼は数秒きょとんとしていたが、じきに背中をマットにつけた。それを合図にしたわけではないが、彼のその動きを見届けたあと、僕は上半身を屈め、彼の頭の横に手をついた。唇の表面を一度だけ掠めとってから、鼻先が触れ合う寸前の距離でささやきを落とす。
『光樹、セックスしたい』
彼はぴくんと体を跳ねさせた。僕がセックスを要求すると、彼はたいていこんな反応を返す。拒絶はしないし嫌悪を示すこともないが、緊張が常につき纏っている印象だ。彼は返事の前にまずは子供のようなキスで応えた。
『征くん……。うん……でも、珍しいね、いきなりこんなことするなんて。ちょっとびっくりしちゃったよ』
その言葉にはっとした。何かと緊張しやすく、わずかな異変であってもびくつく彼に対しこのような行動を取ってしまったのだから、彼は非常に困惑したに違いないと。しかし、このときの彼はそこまで緊張してはいない様子だった。むしろいつもより弛緩しているように見えた。訝しく思いながらも、僕は彼に刺激され続けた性欲の発露を求めるのを堪えられなかった。
『すまなかった、自分でも驚いている。でも自制が効かない。きみとセックスしたい。いますぐにでも。光樹、きみがほしい』
『ん……俺も……』
すでに唇はほとんど触れ合うくらいの位置にあったので、そのままお互い舌を突き出し、つつき合った。もう何度目になるかわからない口づけだが、単調だとも新鮮味がないとも感じない。彼の口を吸い、また彼に唇をついばまれ舌を招き入れられるたびに、ぞくぞくとした快感が背筋を上り、古い脳を絶え間なく揺さぶる。つまり数えきれないほど性欲を刺激される――」
き・も・ち・わ・る・い!
ひえぇぇぇぇぇ、なんですかこれ!? ものすっご気色悪いんですけど!? ディベートで冷静に反駁するかのようなクソ真面目な顔して、センス最悪のハーレクイン・ロマンスのバッタモンを語りまくってくるんですけどこのひと!? しかもパンツ一枚で! もしかしてこれもマスターベーション!? そりゃ写経よりは理解可能な手段ですけれど……でも拝見する限り股間はお静かな模様です。降旗くん本体が近くにいないせいでしょうか。
いやー、それにしてもこれはひどい。ひどすぎる。抑揚のない声で淡々と語っているくせに、なんで降旗くんの喘ぎ声的なところだけ本人の声真似で再現するんですか。しかも無駄にうまい。どこでそんな気持ちの悪い演技を練習したんですか。いえ、降旗くんが喘ぐ姿を想像すると気持ち悪いという意味ではなく、そんな演技を口以外ぴくりともしない無表情で大真面目にする赤司くんが気持ち悪いんです。僭越ながら本日試させてもらったときの様子から、降旗くんが泣く、いえ、鳴くところはなかなかかわいらしかったです。きっと赤司くんも彼を心底かわいいと感じているのでしょう。でなかったら、あんな迫真の演技できませんよ。あれは愛情がなせる技だと思います。……赤司くんってば降旗くんにときめくあまりそんなところまで余さず伝えずにはいられないのでしょうか。なんて迷惑な。回想の中の赤司くんは快感でぞくぞくしていたみたいですが、こっちは本気の悪寒でぞくぞくしっぱなしでした。火神くんなんて「SWATを、SWATを呼んでくれ……!」とかうわ言みたいに言いながら途中で泡吹いて気絶しちゃいましたからね、あまりの気持ち悪さに耐え切れなくなって。実に羨ましい。僕も意識を手放したかったです。これで本当に倒れたら、本日三回目になるのでさすがに許してもらえませんでしたが……。
結局赤司くんのハーレクイン語りを止めることはできませんでした。無念です。自分の無力を痛感してなりません。しかし本当にひどいですね、赤司くんの文才。同じフレーズを使いすぎです。合計何回性欲を刺激するだのされるだのといった類のことを言ったのでしょうか。十回目くらいまではカウントしていたのですが、それ以降は放棄しました。だって世界一無駄な努力じゃないでしょうか、気色の悪い自作ハーレクイン、それもノンフィクションの朗読を聞かされながら、『性欲』が出現する回数を数えるなんて。
突っ込みどころ満載というか、突っ込まずに済むところを探したほうが早い勢いの赤司くん語りですが、ひとつ厄介なことが判明しました。赤司くんは自分が降旗くんに性欲を刺激されることばかりに注目し、自分もまた彼の性欲を刺激しているという自覚がないみたいです。いまの話を聞いても、降旗くん本人の話を聞いても、降旗くんが赤司くんに性的行為を求めているのは確定的明らかというやつだと思うのですが、こと恋愛方面においては古代の遺跡から発掘された装飾用の青銅の刀よりも切れが悪くなるらしい赤司くんの脳みそは、それを察することができないようです。百科事典並みに厚い赤司くんのフィルター越しのお話なのですべてを鵜呑みにしてはいけないでしょうし、赤司くんの「彼がこんな反応をしてくれたらいいのだが……(わくわく)」という願望が妄想化されている可能性も排除できませんが、いま伝聞を受けた感じからすると、降旗くんも十分ノっていたように感じられます。赤司くんのシャツを脱がせたり、服の下に手を突っ込んだり……うん、やる気ありますよね。ていうか想像していたより積極的な印象です。もっとこう、死後硬直まっただ中のマグロみたいにガチガチに固まっているかと思っていたので。しかし降旗くん、よく今日のうちに赤司くんとセックスする気になれたものだと驚きました。僕が性的な行為を施して少々怖がらせてしまったあとなので、その後平和的に和解し一種の笑い話状態になったとはいえ、さすがに今日明日だと体に緊張や恐怖が残るのでは懸念していたのですが、思いのほか積極的です。降旗くんは降旗くんで赤司くんのフェロモンだか何だかにやられてぐずぐずになり、まともな思考や判断ができなかったのかもしれません。赤司くんは今日の降旗くんの常にない色香にそれはもう惑わされ異様な興奮状態に陥っていたようなので、降旗くんがそれを感知したとしたら、彼のほうもまたいつもより興奮していたのではないでしょうか。……え? なんでこの状況でセックスに至らなかったんですかこのひとたち? 僕と火神くんだったら完徹で励んでいるシチュエーションですよ。体力の差を考慮し、まずは僕が火神くんにとことんかわいがってもらったあと、疲れた火神くんが甘えてくると思うので、今度は僕が火神くんをかわいがる……というコースになることでしょう。残念ながら今夜は無理そうですが。僕はバカップルの世話で疲労困憊ですし、火神くんは赤司くんの気持ち悪いセックスレポにノックアウトされちゃいましたし。
それにしても、一体全体何の必要性があってこのような気色悪さ満点のセックスルポタージュを当事者の片割れから口頭で受けているのでしょうか。こちらにもそのときの状況を知りたいという心積もりはありますが、こんなに詳細に語ってくれる意味はゼロだと思います。というか、もう胸焼けしそうです。やめてほしいです。僕があれこれ考えている間も、赤司くんのマシンガントークはノンストップです。いえ、聞き手の反応をまるっと無視しているので、トークというよりスピーチです。むしろエア朗読のような。彼の頭にはすでに自作のセンス最悪な官能小説が出来上がっているのかもしれません。
「彼の手が僕のワイシャツの下に侵入してきた。脱ぐように、という無言の合図だ。僕は右の袖を自分で抜き、左側は彼に引っ張らせた。彼はいつも僕が服をずっと着ていると気にする素振りを見せるのだが、それでいて、自ら僕を脱がせることを遠慮する。控えめに、脱いでほしいというサインを送ってくるだけだ。そのとおりにするときもあれば、今日のように彼に多少手伝わせることもある。僕の手引きによるとはいえ、彼に衣類を脱がされることを意識すると、それだけで性欲を刺激される。それはいつものことなのだが、今日はワイシャツを取り払ったあと、彼の手が自発的に僕のインナーをめくってきた。ほんのわずかだが。しかし、その普段より積極的な行動が僕の性欲を一層刺激しないなどという馬鹿げたことがあるだろうか、いやない。口づけを交わし合いながら、僕は遠慮がちに小さく動くだけの彼の手首を掴むと、インナーの中に入れさせ、胸へと導いた――」
「あの、赤司くん……きみが降旗くんのことを大変気に掛けていることは嫌というほど伝わって来ましたので、そろそろ本題に移ってはもらえないでしょうか。というか、本題が何であるのかよくわからないのですが……」
「――彼の指の腹を乳首に触れさせた瞬間、僕の口腔内をくすぐっていた彼の舌が怯えたように引っ込もうとした。しかし僕はそれを許さず、彼の舌を強めに吸った。びくりと全身を震わせる彼。当然指先も萎縮する。それは同時に、彼が自分の体を動かすことを忘れてしまったということでもある。僕は彼の手の甲を上から包み込むように掴むと、指先で楕円を描くように乳首をこねさせた――」
「いえ、だからそのへんはもういいので……」
「――押しつぶされたり左右に翻弄されることによって自分の乳首が次第に立ち上がってくるのを知覚した。彼の指はなおもびくついていたが、一瞬だけ、僕の力によらない彼自身の意志で、クッと小さく乳首を押してきた。『あ……』思わず僕の喉から吐息に混じって声が漏れた」
うわぁぁぁぁぁ! き、気持ち悪い! 降旗くんのみならず、自分の乳首についてまでついに描写しはじめちゃいましたよこの駄目ライター! あまりの気持ち悪さに僕は文字通り頭を抱え、テーブルに向かって額をガンガンぶつけました。痛かったです。
そういうのはほんと勘弁してください。しかも赤司くんはいまパンイチですから上半身まる出しです。当然乳首も完全に露出しています。いえ、男性だから別におかしくはないんですけど、そういう話をされると、「ああ、赤司くんのこの乳首は何時間か前に降旗くんにいじられていたんだなあ」って、生々しいこと意識しちゃうじゃないですか。真顔でこんなこと語る赤司くんもたいがい気持ち悪いですが、そういうふうな目で見てしまう自分が一番気持ち悪い。いまのは大ダメージでした。キスはまだ耐えられましたが、ペッティングは上半身だけですでに精神への甚大な殺傷能力を秘めています。これで下半身まで進んだ暁には、僕の意識は二度と戻らなくなるかもしれません。むしろ戻りたくなくなるかもしれません。なんということでしょう。火神くんを置いて先立つわけにはいかないのに。
「赤司くん、赤司くん! お願いですから、もうやめてください!」
僕は精一杯声を張ってそう懇願しました。しかし赤司くんは、
「僕は彼の脇腹を撫でていた手をゆっくりと下ろしていった。ふとした障害にぶつかる。まだ身につけたままのハーフパンツのウエストが進行を阻んだ。僕はまず、布越しに彼の腰をゆるゆるとさすった。それほど緊張した様子はない。僕は彼の背中のくぼみをなぞりながらウエストに指の先を侵入させた。そして空いている手で彼の手首を掴むと、僕のスラックスへと伸ばさせた。金具を触らせると、数秒ためらいがあったが、やがて細いベルトの上下を掴んだ」
やはり滔々と語り続けます。僕が少々悶絶していた間に、場面が進んだようで、いつの間にか下半身の触り合いっこがはじまっていました。甘く見ていてすいませんでした、思った以上にやってしまっていたようです。というかもうこれはセックスしたのでは……?
そう考えたとき、僕ははっとしました。降旗くんは今日、僕に後ろを触れられた、というか解されました。結構入念に。常識的なサイズのものであれば挿入できてしまうくらいには。そこまでやったのですから、少なくともこの話の時点ではまだ柔らかかったと思います。不自然なほど。降旗くんの体を幾度となくいじっているであろう赤司くんなら即座に気づいて当然なくらい。これが何を意味するか、意味するか……いみする、か?
…………。
これはまずいです。やばいです。事の発端をつくった片割れたる依頼者は赤司くん自身ですので、きちんと落ち着いた状況で僕から理路整然とお話して報告するのであれば、彼は一応聞く耳を持ってくれたと思いますが、このような状況で降旗くんが彼以外の誰かに体を触られたことが発覚するのは大変まずいです。赤司くんは自覚こそありませんが、降旗くんに惚れているのです。すでに体の関係もあります。そんな相手が他人と関係を持ったかもしれない……。心穏やかでいられるわけはありません。しかも赤司くんです。過去の所業について枚挙に暇がない赤司くんです。えーと……。
ふ、降旗くん! 降旗くんは無事だったんですか!?
いえ、このあと無事な姿を火神くんに見せ、なおかつ自ら赤司くんを求めていたようなので、そんな大惨事にはならなかったはずなのですが……電話越しに聞こえてきたそのときの降旗くんの声も台詞も、何かおかしかったです。いつもの彼とは明らかに違っていました。情欲に浮かされていたことが、離れていても声だけで伝わってきたといいますか。……ということは、身も心もぐずぐずのめろめろになるくらい、赤司くんに体をいじられたとか、なんかそういうことがあったのでしょうか。ひょっとして……お仕置きでお預けプレイを決行したとか……? だとすると、赤司くんはやはり現在、ものすごーく怒ってらっしゃるのでしょうか。彼に対しても……僕たちに対しても。
ま、まずい。もし赤司くんが降旗くん帰宅時の状況から変な誤解をしているとしたら、火神くんに被害が……! い、いったいどこまで真相を知っているんですか赤司くんは!? 知るならいっそすべて正確に把握していただきたいです。中途半端が一番怖いです。でも火神くんに嫉妬丸出しだったところからすると、やはりおかしな妄想が形成されている可能性が高いような……。
「(か、火神くん、起きて! 起きてください! いま赤司くんの前で無防備をさらすのは危険極まりないです!)」
せめて防衛行動は取れるようにと、僕は火神くんの体を揺すり、覚醒を促しました。火神くんはなおもうなされており、スワットやら911やらを呟いています。僕が慌てふためいている一方で、赤司くんが何をしていたかというと……
「弾性の高いゴムのウエストをやや強く下に引っ張ると、彼は自ら腰を浮かした。だが僕はそれ以上ハーフパンツを下ろすことはせず、下着の内側で手を移動させた。ほかの部分よりも硬い体毛の感触を得る。その根元を毛羽立たせるように少し荒らしながら、段々と指先を下ろしていく。彼はいまだ僕のベルトを外せず、もたもたと手を動かしていた。そのことに意識をとられているようで、僕の手の動きにはほとんど気づいていないようだった。脅かすつもりはなかったが、そろそろこちらにも気づいたらどうかと、僕は人差し指と中指の側面で彼の陰茎を軽く挟み――」
マイペースにハーレクイン全開でした。僕の妙な行動など路傍の石ほどにも目に留まらないとばかりに、自身の語りに集中しています。しかし、そろそろやばいです。このままでは官能小説風ではなくただのエロレポートになってしまいます。それは嫌です、嫌すぎます。いえ、僕だっていい年をした大人で、火神くんとめくるめくエロスを経験してきた身ですから、他人のエロ話そのものが恥ずかしいということはありません。ただ……語り手が赤司くんですからね。ここまで超絶気色悪い表現力を遺憾なく発揮してきた人ですからね。この先、どれだけ気持ち悪い語りが待ち受けていることか……。もしかして、これこそが彼の怒りの発露なのでしょうか。僕たちに対するお仕置きなのでしょうか。確かに火神くんはすでに大ダメージを受けていますし、僕も話を聞いているだけなのにカントクにしごかれた日の夕方よりも疲弊しきっています。このまま僕たちの聴覚野やら言語野やらを侵し尽くし廃人に追い込むことが狙いなのでしょうか。お、恐ろしい……!
僕が恐怖と気持ち悪さに床に転がってのた打ち回りたい衝動に駆られている中、赤司くんは再生ボタン以外の一切の機能が故障したDVDデッキのごとく、当時の状況を垂れ流し続けます。迷惑にも三流官能小説のような気色悪い味付けを加えて。
「僕が与える軽い圧に、彼はびくびくしながらも、熱い吐息をこぼした。
『あ……あ、せ、せい、くん……』
『悪いようにはしない。きみはそのまま続けてくれ。僕もそろそろきみに触れてほしい』
『う、うん……』
僕が少しだけ手を休めると、彼は一生懸命僕のベルトを外そうと指を働かせた。やっと留め具からベルトの片端が抜けたところで、彼がほっと息を吐いた。そのタイミングで僕が彼の陰茎をきゅっと握ると、彼は高く鳴いた――」
なんか台詞に臨場感が出てきました! うわぁぁぁぁぁぁぁ、気持ち悪さ倍増です!
ああぁぁぁぁぁ、ごめんなさい! 僕が悪うございました、浅はかでした! だからもう勘弁してくださいお願いします! 友人ふたりのレポートがハーレクイン系の十八禁とかほんと耐えられません! お願い火神くん、赤司くんを止めて! ひとりで夢の世界とかずるすぎます! どんな悪夢を見ていようとも、赤司くんのセックスレポよりはましです絶対!