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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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恋の空回り 2

 ――僕は彼に恋をしているのだろうか。
 赤司くんの口から飛び出た質問は僕と火神くんの時間を止めたといっても過言ではありませんでした。赤司くんと降旗くんの関係について最初にお話を聞かされたときから、彼らが互いに好き合っていることはすでに明々白々な事実ではありましたが、いざ当事者の片方が恋という単語をダイレクトに用いたことは、ことによればゆうべのジェノサイド的破壊力を秘めたハーレクイン爆撃よりも強烈に僕たちの脳みそを揺さぶりました。だってあの赤司くんが、降旗くんへのときめきをすべて性欲として解釈していたあの赤司くんが、自ら恋という言葉を使ったのです。赤司くんが降旗くんに恋をしているというのは、極めて単純な事実にすぎないのですが、宇宙人じみた赤司くんの脳がこの結論を出したかと思うと逆に思考回路が発狂花火を散らしてしまったのではないかと心配になります。衝撃のあまり真っ白になった頭がかろうじて再稼働をはじめたとき、これまでの整合性のまるでないトチ狂った話の流れからどうしてこんな質問が発生したのかと訝るより先に、まずは自分の耳を疑いました。だって信じられませんよ。恋愛に関してはひとつもまともに脳内の歯車が回らない赤司くんの口から、恋をしているのだろうか、なんて言葉が紡がれたなんて。
「あ、赤司くん……いま、なんて……」
 ようやく現実に返った僕が最初に尋ねたのは、先ほど耳にした赤司くんの言葉の確認でした。動揺のあまり声が震えて途中までしか文をつくれませんでしたが、赤司くんは僕の催促を理解してくれたようで、
「僕は降旗に恋をしているのだろうか、と聞いた」
 まったく同じ質問を再度提示しました。付加情報をまったくくれず自らの言葉をオウム返しするところが実に彼らしいです。
「この質問に対するおまえたちの見解を聞きたい。率直な印象で構わない」
「ええと……きみが降旗くんのことが好きかどうか、ですか……。えっと、それって他人に聞くようなことでしょうか」
 一応、この手の質問にありがちな応答をしてみましたが、
「質問が漠然とし過ぎていることは理解している。聞くべきは、おまえから見て僕は何か降旗のことが好きだと思わせるような行動を取っているかどうか、なのだろうが……おまえは僕が彼と行動しているときの様子を知らないだろう。だからそれについて聞かれても答えられないと思った。そのためこのような漠然とした尋ね方しかできないというわけだ」
 まあ赤司くんだったらそう返してきますよね。いつものことですが、彼の表情も超えの調子も真剣そのもので、ややきつい印象のまなざしには難問の解明に全身全霊を捧げる学者のような真摯な光がきらめいています。茶化したりはぐらかしたりする気ははじめからありませんが、学校の先生みたいに、「まずは自分で考えてみましょう」という対応はここでは間違いでしょう。赤司くんが自分で考えなかったはずがないのです。斜め上どころか別次元を空高く舞い上がっているような思考回路ではありますが、労力そのものは払ったと思われます。考えに考えた末にそれでもわからないから、こうしてある意味で僕たちを頼ってきたのでしょう。彼は単独でも図抜けた能力をもったひとですが、その最大の強みは必要に応じて他人の助力を要請することを厭わない合理性でしょう。……まあ、その割にこの件に関しては僕らまで巻き込んで大暴走していますけどね。無理ですよ、このひとの舵取りをするのは。いっそひとりで異次元の我が道を突っ走ってくれていたらありがたかったかもしれません。いや、それだと降旗くんにあらぬ不幸ないし凶運が降りかかりそうなので(すでに一部は降りかかっているでしょうか)、結局干渉せざるを得なかったと思われます。実に遺憾。「テツヤ、おまえはどう思う」
 内心に次々湧き上がる徒労のため息に気をとられ沈黙に陥っている僕に赤司くんが促します。下手に誘導を試みて脱線事故を起こしたら大事ですので、いささか直截すぎますが、ここはもうストレートに結論を述べてしまうことにします。
「ええと……赤司くん及び降旗くんの話をそれぞれから聞いた感じでお答えしますと……きみは降旗くんのことが好きでしょう。ここで言う好きとはもちろん恋愛感情のことです。きみは降旗くんに恋をしている。僕はそう思います」
 僕の言葉に赤司くんはたっぷり十秒ほど黙り込んだあと、
「……そうなのか?」
 眉間に思い切り皺を寄せ、それはもう怪訝そうというか、納得がいかなそうな顔で尋ねてきました。この反応……自覚したのとは少し違うのでしょうか。まだ降旗くんへの感情をいまいち意識できていないように見えます。
「自分で思い当たる節、全然ないんですか?」
「わからないから質問している」
 そりゃそうなんでしょうけど、心当たりがまるでないなんて。赤司くんは当然、この一年の自己の行動を振り返って分析したことと思われます。きっと僕たち常人が想像するよりはるかに深く長く熟考したのでしょう。問題は、どれほど長大に考え込もうとも、切り口が鈍いどころかてんで別方向を向いていたらまったくの無意味だということです。彼のことですから、インダス文字の解析に分度器を用いるくらい明後日な思考を展開していたのではないでしょうか。
 ここはもう高齢者向けパソコン教室のインストラクターの心構えで、赤司くんの降旗くんに対する態度のどこに彼を大切にしたいという気持ちが現れているのかひとつひとつ具体的に説明しなければならないかもしれません。でも、彼らが両思いであることを確信してはいるものの、その根拠は概ね彼ら自身が語った話ですから、説得材料としては弱いと思われます。彼らが一緒にいるところを直接目撃したのは、ゆうべのセックス未遂のときだけですので。まあそのときの接し方だけ見ても、甘すぎて吐きたくなるくらいの愛情を感じたわけですが。
 どうやったら赤司くんのエイリアンじみた脳みそに染み渡るように説明できるのかと僕が考えあぐねていると、
「火神、おまえの意見は?」
「お、俺か? ええと……黒子と一緒だけど」
「僕は降旗に恋をしていると?」
「お、おう……」
「第三者としての距離がより遠いおまえから見てもそう感じられるのか」
 火神くんからも僕と同様の意見をもらった赤司くんが、やはり納得できない、理解不能だというように、小難しい表情で目を閉じ、いまにも唸り声が聞こえてきそうなほど眉間の皺を深くしました。赤司くんの問いに答えた火神くんは、僕の横で音なき大きなため息をつきました。赤司くんは誤解も甚だしいことに火神くんをライバルになる可能性のあるオスとして認識していますので、火神くんが下手に親切心を出して赤司くんと降旗くんの間で行われた行動を恋愛的観点で分析してみせれば、火神くんが降旗くんをよく見ていたというただそれだけの理由で激しい嫉妬を買いかねません。とりあえず突っ込んだ質問をされなかったことに安堵したのか、火神くんは背を丸めあからさまに緊張からの一時的な解放感に浸っています。
 赤司くんはやはり厳しい顔で目を瞑り考え込んでいます。山積する問題に取り組もうとして入口からしてつまずいているわが国の政治家のようです。まあ、政治分野であれば彼はその頭脳とカリスマを遺憾なく発揮できると思いますけれど。天は二物を与えずの延長線で、彼はさまざまな能力に秀でる代償として脳の恋愛部分がデフォルトで壊滅的な状態になっているのかもしれません。
 このままでは膠着状態が続くだけだと判断した僕は、
「赤司くん、基本的なところからいいですか? 恋ってどんなものだと思います?」
 基本事項の確認から取り掛かることにしました。というのも、赤司くんの辞書にある『恋』が僕たち一般人の思い浮かべるそれと同義であるとは限らないからです。まあ、僕にしたって「恋とは何か」と面と向かって尋ねられたら言葉に困りますけれど。概念を言語化するのは難しいですから。しかし、彼はこれに関してはほとんど即答しました。
「性的関係を維持するための絶え間ない努力を指すのだと考える」
 ……ああ、うん……なんかそういう方向性だと思った。
 結局セックスのようです。多分、恋愛≒性愛という式が念頭にあるのだと思います。別に間違っちゃいないんですけど……ここまで清々しく性欲と直結しているところを見せられるとこちらとしても対応に困ります。だって性欲から離れてくれない限り、赤司くんは降旗くんへの想いを全部性欲に変換して解釈するんですから。
「……あの、これまで恋をした経験はありますか? その、降旗くん以外というか以前というか」
 これまでの会話から答えはノーだと簡単に推測できますが、赤司くんの主観として現時点から振り返って過去に『恋』と呼べる感情が存在したかどうか考えてもらおうと思っての質問でした。
「他人に性欲を刺激されたのは彼がはじめてだ」
 じゃあきみはいままで何に性欲を感じていたのですか。彼も身体的には一応ヒトのオスのようですので、思春期以降は性欲に悩まされることもあったはずです。男子の思春期はまさに自己の性衝動との闘いの連続なのです。
 中学時代の記憶を呼び起こし、その時期の男子に特有のくだらないエロ話の思い出を検索してみますが……どうでしたっけ。ズリネタの会話については青峰くんの健康的なおっぱい話ばかりが思い浮かびます。赤司くんが具体的に何か話していたかどうか、すぐには記憶が出てきません。彼はエロトークにつき合える程度の知恵と甲斐性は持ち合わせていたので、何かしら語ったことはあったと思うのですが。まあ如才ないひとですので、それすら対人用にあらかじめ用意された会話ストックのひとつに過ぎなかったかもしれません。
「赤司くん的には、性欲を感じればそれは恋なのでしょうか」
「いや、そこまで単純化はできまい。単に性欲を感じるだけでは恋ではないと思う」
 意外にも、彼は首を横に振りました。性欲と恋愛が直結の関係であるわけではないとの認識ではあるようです。しかし続く彼の言葉はというと……
「極端なたとえになるかもしれないが、身近なサンプル、すなわちおまえと火神から抽出したデータを元に解釈すると、昼夜も場所も問わず、恥も外聞もなく、年中発情期の動物のように互いの性欲を交わし合うような関係、及びそこに存在する両者の思考、感情、行動を総称した幅広い概念を便宜的に恋愛感情を呼ぶのではないだろうか」
「いやー……清々しいまでに予想通りの回答ですね」
 正確には、こんな言葉だけ難しくてその実ほとんど無意味な内容など予想しようがないのですが、だいたいこんなような方向性で攻めてくるだろうなという予測と一致したという意味において、予想通りの回答です。
 なんかさりげなくディスられた気がしますが、この際不問にします。このひと相手に僕たちの関係を語るのは、朝顔にお経を聞かせるよりもなお不毛に思われてなりません。
「何か間違っているのか」
「何かが間違っているというより、何もかもが狂っているとしか……とにかく突っ込みどころが多すぎます。やっぱり性欲から離れられないんですね……」
 呆れるのを通り越してただただ脱力感を覚え、僕は魂が細長く口から這い出てきそうなため息をつきました。火神くんは右手で目元を押さえ、全身で「駄目だこりゃ」と語っています。そうですよね、駄目ですよね。そして無駄です。赤司くんとの会話は、穴の開いたボートに乗り浸水する海水を手で掻き出すかのような徒労感があります。
 しかし、このような天文学的確率でしか生まれそうにない朴念仁が、どうして自分は恋をしているかもしれないなんて思ったのでしょうか。ただの思いつきにしては悩みが深遠そうですなので、彼なりに思考プロセスを踏んだ結果だとは思うのですが……。
「ところで、いったいどんな心境の変化があって、降旗くんに恋してるって自覚するに至ったんですか?」
 ダイレクトに尋ねる僕を、赤司くんは膝に肘をつき少し前のめりになりながらまっすぐ見つめてきました。
「自覚したわけではない。僕としてはいまだ確信を得ておらず結論は出ていない。他人にこのような質問したということは、僕の中でこの件は確定ではなく保留ということだ」
「でも、降旗くんのことを恋愛的な意味で好きなのかも、とは自分で思ってるから、こんな質問を僕たちにしてきたんでしょう?」
「違う。可能性について中立だからこその質問だ。つまり――さっきも言ったことだが――わからないから質問をした」
 赤司くんは自分に芽生えた恋愛感情に対して著しく懐疑的な様子です。
「でも、まったくわからなかったら、そもそもあのような疑問自体発生しないのではないかと思えるのですが。存在しない概念に対して疑問を生じさせることは不可能ではないでしょうか。それに、いまの赤司くんの話だと、性欲と恋愛は切っても切れない関係だと認識していると見受けられます。それならば、どういうわけか降旗くんに性欲を刺激されているきみは、彼に恋をしているのだと考えることはできませんか?」
「セックスに恋愛は必要か?」
 うわ、なんかひどいこと言い出した。とはいえ、熟年カップルは恋心が家族愛に変化して穏やかな愛のかたちになったりするものですから、一概にひどいわけではないかもしれません。
「ええと……必須条件ではないかもしれませんが、あったほうがよいのではないかと。少なくとも愛情はあるべきでしょう」
「恋愛があるからセックスがあるのか、セックスがあるから恋愛が生じるのか、それが問題だ」
 なにどっかの戯曲のパロディみたいな言い回ししてるんですか。
「おまえはどちらだと思う、テツヤ」
「えーと……まあ前者でしょうか。より好ましいあり方だという意味で」
 体からはじまる恋もありますが、前者のほうが現代の一般的な価値観にマッチしやすいと思われます。ていうかこれ、択一の問題でもないですよね。多分「どちらも十分にあり得るし、実際に起きている現実である」というのがもっとも正答に近いのではないでしょうか。降旗くんに至っては、後者の流れで赤司くんに惚れたようなものですし。赤司くんとのセックスがすばらしいというだけが理由ではないでしょうが、赤司くんとセックスをするようになったから――それに伴い彼と一緒に過ごすようになったことで――結果的に赤司くんを好きになったのだと思います。……だとすると、ここは自分の考えとか一般論とかは脇に捨てて、セックスがあるから恋愛がはじまるんです! と力強く断言しておくべきところだった?
 失言だったかと僕が胸中で自分に舌打ちしていると、赤司くんが口元に指をあててなるほどというように小さくうなずきました。
「ふむ……おまえもそういう意見か」
「赤司くんは後者ですか?」
 価値観の問題は置いておくとして、もしそういう考えだとしたら降旗くんへの恋愛感情の発生を説得しやすいので、いっそそう信じていてほしいくらいです。
「いや、おまえの言うとおり、恋愛からセックスが派生するのが、多数派の好むところという意味で一般的だと考える。多数派の支持するものが常に正しいとは限らないが、便宜上、前者の考えを正しいと仮定しよう。論理学においてある命題が真であるならば、その待遇もまた真だ。しかし逆や裏は必ずしも真ではない。すなわち、『ある者に恋をしているならば、その者に性欲を感じるものだ』という命題を真であるとしたときに言えるのは、『ある者に性欲を感じなければ、それはその者に恋をしていない』だろう。『ある者に性欲を感じたならば、その者に恋をしているのだ』と言えるものではない」
 赤司先生がハーレクインのみならず恋愛論理学の講釈まで垂れはじめました。正直意味がわかりません。命題とか待遇とか、高校の数学で出てきた気がしますが、恋愛を数学や論理学で語るのはさすがに無理があるのでは。少なくとも僕は無理です。そもそも理系の脳みそしていませんし。
 なんでこんな哲学問答みたいな話に転がり掛けているのでしょうか。赤司くんとの会話は本当に疲れます。まともな内容なんてほとんどないにもかかわらず単語や表現だけは無駄にハイレベルなせいで、火神くんはもう完全に置いてけぼりになっており、ひとり蚊帳の外でぼけっと座っています。いえ、僕だってもはやついていけていないのですが。助けて緑間くん!……と叫び掛けましたが、頭脳に優れるというだけで緑間くんに助けを求めるのは酷な話です。彼は元々恋愛免疫が低い上に、変人ではありますが赤司くんみたいに突き抜けているわけではなく、一応常識に根ざしたひとではありませすので、このような爛れ切った恋模様と気色の悪いハーレクインアタックに晒されようものなら、本気で寿命が縮んでしまいかねません。僕と火神くんは確実に縮んだと思います。
 と、先ほどの会話のダイジェストが唐突に頭の中を流れ、僕はふと気づきました。
赤司くんはさっき言いました、「おまえも同じ意見か」。おまえ《も》。この場ではほかに火神くんがいますが、言語の壁により仲間はずれ状態なので、先ほどの妙な命題に対する火神くんの意見は表明されていません。よって赤司くんは、僕と火神くん以外のほかの誰かの意見を参照してこのような話題を持ちだしたと考えられます。
「あの……赤司くん、もしかして誰かに相談しました? その、降旗くんとのこと」
 まさか旧知で仲がいいからって緑間くんあたりに相談していないでしょうね。それは間接的な傷害行為に等しいですのでやめてあげてほしいところです。
「相談したというわけではないが……実は知人に指摘を受けたんだ、僕が彼に恋愛感情を抱いているのではないかと」
 なるほど、他人に指摘された結果としての疑問だったのですか。それなら「自覚したわけではない」との発言も納得できます。他者からの指摘によって自分の気持ちに気づくというのは往々にしてあり得ることですが、彼の場合、指摘されてもなお気づかないというか納得できていないようです。もしかして数学的に証明されないと納得してくれないのでしょうか。だとすると彼が恋心を認める日は永久にやって来ないと思います。なんて面倒くさいのでしょうか。赤司くんが降旗くんに恋をしているとうまく証明する方法が存在するのでしょうか。ええと……背理法でも使うとか? やり方忘れたので無理です。ていうかこの単語を頭に呼び起こしたこと自体数年ぶりですよ。恋愛沙汰に使えるとも思えませんが。まあ赤司くんが面倒くさいことはわかりきっているので、いまさらな嘆息ではあります。
 それより、『知人』という幾分濁した言い回しが気になります。僕たちの共通の友人に対してこのような呼称は用いないと思いますので、少なくとも緑間くんの可能性は外れたとみていいでしょう。被害を受けなくて何よりです。羨ましいです。
「ということは、その知人さんに話したんですか、降旗くんとのこと」
「ああ。おまえ同様信用の置ける人物だ。テツヤのことももちろんあてにはしていたが、多角的に意見を集めるのも重要かと考え、おまえとは違うタイプの人物に話をしてみた。相談を目的に会ったわけではないが、そのような話の流れになったのでな」
 彼がヒントのつもりでこう語ったのかはわかりませんが、ここで僕はピンと来ました。
「もしかして、京都に行ったときに?」
「そうだ」
「高校のご友人ですか?」
「友人というか、先輩だ。先日洛山に招かれたのは僕だけではなかった。玲央と小太郎も来ていた」
 先輩と言いながら名前呼び捨てですが、赤司くんなので気にするところではありません。
「れおとこたろう……ええと、実渕さんと葉山さんでしょうか?」
「そうだ」
 赤司くんの出した個人名に僕が姓を当てはめると、さりげなく復帰した火神くんが感心したように言います。
「黒子、よく覚えてんなー」
「忘れちゃったんですか?」
 有名な方々ですし、インパクトもなかなか強烈でしたから、忘れるほうが難しいと思うのですが。
「や、もちろんわかるけど、フルネームがうろ覚えでよ。苗字聞いてピンと来た」
「顔思い出せます?」
「ええと……なんか姉ちゃんみたいなのと……もうひとりは……顔はだいたい出てくるんだけど、なんて表現したらいいんだろな。あんまでっかくないやつ」
「多分正解でしょうね」
 お姉さんはオンリーワンな存在感で間違えようがないので確定として、洛山の無冠の五将の残るふたりで大きくないほうというと消去法で葉山さんになります。葉山さんも平均値からすれば十分大きいのですが、ほかとの比較では大きくないということになります。
 僕たちの間で顔と名前が一致したと判断したのか、少しの間黙っていた赤司くんが再び口を開きました。
「僕は先週の中頃から京都に赴いていた。最初は週末のみの予定だったんだが、大学の講義が空けられたので、せっかくだからと早めの出張を申し出た。高校へはOBとして、臨時のアドバイザーと在校生へのカンフル剤的な意味で呼ばれたんだが、久しぶりに玲央たちに会って懐かしかったので、高校での用事を終えたあとに三人で食事をした。小太郎が関西の大学に通っていて一人暮らしをしているから、彼のアパートに上がり込んでな。積もる話はいろいろあったが、この年頃にありがちな話として、俗にいう恋バナが持ち上がった。玲央がその手の話を好むんだ」
 ということは、この米ぬかよりも打っても響かない恋愛オンチに恋心を意識させるに至った立役者は実渕のお姉さんですか。さすが女性はそっち方面の強さが男とは質的に違いますね。
 ……間違いの指摘は受けませんからね、火神くん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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