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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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思い出にかわるまで SS1-1(青峰)

「思い出にかわるまで」のサイドストーリーその1です。青峰中心で、後日談+過去回想で構成する予定。現在の話はコメディ調、過去話は暗めになると思います。火黒はラブラブ。青峰はお兄ちゃんみたいな感じです。
本編既読を前提に書いていますので、よろしくお願いします。

 

 火神が帰国してから、季節は一周と少しが巡った。母国とは十年ほど離れていたが、町並みはそれほど変わっていなかった。真新しかった誠凛高校の校舎は、風雨で表面が汚れていたが、まだまだ新設校と言ってよい新鮮さを保っていた。黒子とはじめて出会った街で、場所こそ違えど、十年の時を経て再会した。あまり変化を感じなかった懐かしい街で、黒子との再会はしかし火神にとって天地がひっくり返るくらいの出来事だった。空白の時間だけではない距離が両者の間に横たわり、お互い手を伸ばしあっても掠るどころか、その姿さえ見えない日々が続いた。たった一年でその構図が激変するはずもなかったが、ともに過ごした時間と、尽くした言葉と真心は、不変のように思えた互いの立ち位置を少しだけ変えたかもしれない。どちらに向かって進めば相手に近づけるか、その方向だけは見えたような気がした。
 日曜日の正午近く、本来の主を欠いた黒子の自宅では、住人ひとりとその連れひとりがキッチンのテーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルの上にはミンチやニラ、キャベツなどが混ざった塊を入れた大きなボウルが真中にひとつ、そして対面して座る黒子と火神の手元にそれぞれひとつずつ、水の入った小さなボウルが置かれている。両端には、大きめの浅い皿が可能な限り並べられ、その上には子供の握り拳ほどの大きさの白い物体が整列している。テーブルの表面は白い粉で汚れ放題だ。
「うー……やっぱりうまくいきません」
 手の中の白い皮がぐしゃぐしゃになっていく姿を見ながら、黒子がうなる。彼らはいま、昼食の支度をしている最中だった。つくっているのは餃子。中身となる餡はすでに火神が用意したので、あとは皮にくるんでいくだけという、単調だが面倒くさい作業をこなせばよい。袋を破って取り出した市販の焼き餃子用の皮から、一枚をめくりとって片方の手の平に置き、スプーンで適量掬った餡を真ん中あたりに乗せる。ボウルの水で濡らした指先を皮の縁に沿って這わせ、半分に畳み端から端へひだをつくっていく。この繰り返しだ。火神が慣れた手つきで黙々とこなしていくのとは対照的に、黒子はまず手順からして無秩序になりがちで、皮とスプーンをそれぞれの手に持ち、スプーンを水のボウルに突っ込んで首を傾げるという、奇妙な失敗をしていた。合間合間に火神が気づけば、そのつど次の行動を教えてやるのだが、ずっと見張っていてはいつまで経っても食べられるものができないので、時々口を出す程度だ。黒子は手順の失敗についてはなかば諦めているのか、混乱すると手を止め火神のほうに視線を送り助言を待つようになった。おかげで黒子の分の皮の山はなかなか低くならなかった。もっともいま彼が苦戦しているのは、行動の順序ではなく、自身の手先の拙劣さだった。指先が思うように細かく動かせず、ひだをうまく形成できない。力を入れすぎて餡を潰したり、皮を破ったりと、完成品と失敗作の割合が拮抗しているのが現状だった。
 火神は二袋目の皮を取り出しながら、顔は下に向けたまま眼球の動きだけで、向かいの黒子を一瞥した。
「無理にひだつくらなくていいぞ。不器用なのは仕方ねえんだし。それに、見た目ブサイクでも味は変わらねえよ。水つけたらそのまま半分に畳んでくっつけちまえ」
 火神が妥当なアドバイスを送るものの、黒子は眉をしかめる。
「でも見た目が悪いと食欲なくなりません?」
「ひだなし餃子程度なら問題ないだろ。おまえが食欲なくすって言うなら、おまえがつくった分は俺が食えばいいだろ。おまえには俺が包んだ分を出すようにするし」
 と、火神は自分がつくった餃子が置かれた皿を指さした。機械で整えられた冷凍物のような整然とした同質性はないが、だいたいどれも同じようなかたちをしており、ひだもきっちり折られている。
「いえ、自分の分は自分で責任を取らないと」
「がんばるのもほどほどにしとけ。疲れて食欲なくなったんじゃ意味がない」
 火神の忠告に、しかし黒子はちょっぴり悔しげに火神の皿の餃子たちと自分の手の中にある片栗粉まみれの白い物体を見比べずにはいられなかった。
「むー……火神くんやっぱり上手ですね。どうやってやってるんですか? もっと間近でお手本見たいです」
 実際にくるんでいるところを近くで見せてほしいと、黒子が椅子から立ち上がろうとした。が、火神がそれを制する。
「あー、いい、いい、座ってろ。俺がそっち行くから」
 火神は席を立つと、食器棚の隣に置かれた丸椅子を足で引き寄せ、黒子の座る椅子の後ろまで移動させた。そしてそこに腰を下ろすと、背後から黒子を抱き込むようなかたちで背もたれ越しに密着し、腕を前に回した。
「火神くん?」
「同じ向きのほうがわかりやすいだろ」
 そう言うと、火神はひとつ見本をつくって見せた。次に、皮を一枚取り餡を乗せると、黒子の左手に置いてやる。そして彼の右手に自分の手をかぶせると、
「こう、両方の親指と人差し指で皮の端をこんな感じにつまんでだな……。手首あんまり反らすな、やりにくいぞ。大丈夫、親指の付け根にうまく餡が乗っかってれば、よっぽど落ちないから」
 指を摘まみ実際の動きを体感させながら、ひだをつくって見せた。少し不格好だが、黒子の数々の失敗作及び一応の成功作よりはるかに餃子らしいかたちのものが出来上がった。
「あ……できました」
 あまりにも華麗な手際だったので、黒子は感動するよりも呆気にとられた調子で呟いた。
「もっかいやるか?」
 肩越しに黒子を覗き込んで尋ねる火神。
「お願いします」
 黒子はその申し出を受け取ると首を火神の顔のほうへ回し、ありがとうございますの代わりとでもいうように、彼の唇に触れるようなキスをした。火神は驚いた様子もなく、平然としてふたつめのレクチャーに入った。
 その調子で三つ、四つとつくっていくと、黒子が珍しくちょっと息まいた声で言った。
「なんだか少し、要領わかってきたかもしれません。次ひとりでやってみます」
「おう、やってみな」
 今度は火神のほうから、ちゅっと音を立てて、労いと励ましのキスを黒子の額に送った。与えられる体温といたわりの気持ちが心地よくて、黒子はほんの数秒目を閉じていたが、すぐに何でもなかったかのように通常運転に戻ると、新しく皮を手に取ろうとした。
 と、そのとき、インターホンの高い人工音が響いた。
「あ、誰か来たみたいですね」
「出るのか?」
 黒子は手を止めると、テーブルに腕を突っ張って体重を支えつつ立ち上がった。
「僕ひとりなら居留守にしますが、いまは火神くんがいるので大丈夫でしょう。でも、カメラで確かめてからにします」
 片栗粉まみれの両手をそのままに、ダイニングの入口の壁に設置された通話器のほうへ歩いて行く。火神は布巾を手に取ると、黒子のあとを追った。
「俺が出るか?」
「いえ、ここ僕のうちなので。火神くんが出たらびっくりされますよ。背、大きいですし」
「まあ、それもそうか」
 黒子が玄関前のカメラから送信されるやや荒い映像を確かめる傍らで、火神は彼の粉っぽい手を布巾拭ってやった。
「え、これって……」
 驚いた声を上げつつ、取り急ぎ大雑把に片栗粉の払われた右手を持ち上げる黒子。通話ボタンを押し、いま出ます、少し待っていてください、と応答する。言い方が、来客相手にしては若干砕けていた印象を受け、知り合いなのだろうかと火神が顔を上げる。
「おい、黒子?」
 火神のほうに注意を払わず、黒子は玄関へと続く廊下の扉を開いて出ていってしまった。遅れながら火神も映像を見る。
「ん? こいつは――」
 黒子が消えていった扉を見やると、その先から玄関が開かれる音と、二人分の人の声が聞こえてきた。
 黒子は玄関のドアをゆっくり開けると、二歩ほど先に立っている来訪者を見上げた。その人物の顔を確かめるためには首を持ち上げなければならないと、ドアを開く前からわかっていた。
「あおみね……くん? ですよね?」
 火神と同じくらい背の高い、日本人にしては肌の色の濃い青年を前に、黒子は確信を持ちつつも疑問調で尋ねた。
「おう。久しぶりだな、テツ。わかってもらえてよかったぜ」
 青峰だ。黒子の記憶の中の彼は高校生のままなので、容姿は完全には一致しなかったが、特徴や面影ははっきり見てとれた。だから、目の前の人物が青峰であることは間違いないと感じる。だが、黒子は少し戸惑いを見せた。
「ええと……」
 その困惑の出所を、青峰はすぐに察知した。
「あー……ええとな、だいたい二年ぶりだ。と思う」
 短い返答だが、そこにはいくつかの意味が内包されている。まずは文字通り、彼らが最後に顔を合わせてから約二年の歳月が流れたということ、それから、青峰は黒子の事故後少なくとも一回は彼に会ったことがあるということ。そして、そうだということは、青峰は黒子の状況をある程度把握しているということ。
 黒子はそれらを読み取ると、一歩引き、どうぞ中へ、とジェスチャーで示す。
「そうでしたか。ということは、説明なしで大丈夫ですよね?」
「変わりないならナシでいい。俺長い説明嫌いだし。よくなっ……てるわけないよな」
「そうですね、相変わらずです。多分きみが今日来ることは事前に連絡をもらっていたと思うんですが、いまのいままですっかり忘れていたようです。というか、いまも思い出せません。すみません」
「おー、ほんとに相変わらずだな。ま、悪くなってねえならいい」
「病気じゃないので進行しませんよ」
 青峰を招き入れたあと、黒子は玄関を施錠し、ドアチェーンを掛けた。青峰は玄関のスロープ(黒子の事故後にリフォームで設置されたものだ)の横に、高校生が部活で使用するくらいの大きさのスポーツバッグを置き、黒子のほうを振り返った。そして、十代の頃よりむしろ縮んだような印象の、黒子の全身を眺める。
「どうだテツ、ちょっとは重くなったか?」
「どうでしょう。体重はそこまで頻繁に測らないので、手帳を見ても最近のはわからないかもしれません」
「確かめていいか」
 と、青峰は両腕を黒子のほうへ軽く突き出した。黒子は一瞬疑問符を浮かべたが、すぐに意図を理解し、ためらいの表情を浮かべた。
「あの……」
「抱き上げたりしねえよ。ちょっと持ち上げるだけ」
「……はい」
 許可を取ると、青峰は膝を曲げて腰を落とし、黒子より目線を低くした。そして正面から黒子の腰と背に腕を回して抱き締めると、つま先がわずかに浮く程度に体を持ち上げた。予想はしていたものの、自分の意思の外からもたらされる浮遊感が怖くて、黒子はぎゅっと青峰にしがみついた。ほんの少し恐怖感があったが、すぐに親しい相手の体温が間近に与えられることに落ち着きを感じはじめた。
「怖くないか?」
「大丈夫です」
「そうか」
 青峰は黒子の足をタイルに付けさせたが、体を離すことはせず、玄関につながる廊下に座り込んだ。そして、大人が小さな子供に対してするように、自分の膝の上に黒子を乗せ、脱げかけたスリッパの位置を正してやる。
「っつーかおまえ、軽くね? まあ、前からこんな感じだったけどよ」
 膝の上に抱えられた黒子は、背中を腕で支えられているものの、もう少し安定がほしくて、青峰の首の腕を巻きつけた。
「こんなものじゃないですか? 運動量少ないですし、あまり重くても健康に悪いでしょう。肥満は病気の元です」
「そんなこと言ってるから大きくなれねえんだよ」
「もう大きくなりませんよ。さすがの僕でもそれくらいは理解しています」
「いや、おまえ見てるとまだ大きくなりそうな気がしてだな」
「なに親戚のおじさんみたいなこと言ってるんですか」
 黒子に指摘され、確かにそんな気分かもしれないと青峰が認めかけていると、
「そうだぞ。そいつその顔でアラサーとかいう詐欺っぷりだぞ。惑わされるな青峰おじさん」
 唐突に飛んできた思わぬ声に、反射的に反応する。
「誰がおじさんだ!」
「あ、火神くん」
 青峰に続き黒子も声のほうを振り返る。ダイニングの扉から数歩出たところで、火神が呆れたような、けれども何か微笑ましい光景でも見たような微妙は表情で、ふたりを見ていた。
「いや、黒子抱っこして体重確かめる姿とか、どう見ても久しぶりに甥っ子に会ったおじさんそのものじゃねえか。こいつの感覚だとひと回りくらい上なんだし、もうおじさんでいいだろ、青峰おじさん」
「おい、俺はまだまだ若ぇっての」
 火神は話の相手をしつつ玄関に足を進め、黒子たちの横に位置取ると、おまえら延々玄関でしゃべってるつもりか、と独り言のようにぼやいてから続けた。
「自分が高校のときのこと思い出してみろよ。三十近い男なんてオッサン扱いだっただろ」
「ならてめえもオッサンだろっ。火神おじさんよぉ」
「なんでいきなりいがみ合っているんですか。何年経っているのかはわかりませんが、少なくともいまのふたりが高校生でないことは僕にもわかりますよ。いい大人が何やってるんですか。なんかこういうところは成長してないという感じがします、火神くんも青峰くんも」
 さすがに甥っ子というほどではないが、ふたりに比べ明らかに年若く見える容姿の黒子がため息をつく。と、そこで青峰がはたと止まる。黒子の肩越しに火神の顔を注視して。
「……ん? 火神?」
「何だよ」
「あー! 火神ぃ!」
「だから何だよ」
 うっとうしそうに応対する火神を指す青峰の人差し指はわなわなと震えていた。黒子を支える必要がなければ、一発くらい頭をはたいていたかもしれない。
「こっ……の、バカガミ! てめえ何勝手に電撃引退してんだよ! そんなに美しく死に花を咲かせたかったのか! だったら俺が手伝ってやったっつーの! なんで次の試合まで待てなかったんだよ!? そしたら俺が華々しく散らせてやったのに! 生き返ってもっかい戻って来い、美しくトドメ刺してやっからよぉ」
 同じプレイヤーとして、また昔からの因縁浅からぬ交流関係をもつ者として、青峰は火神の引退について思うところがあるのだろう、なんでおまえがこんなところにと問うより先に、引退に関する理不尽な文句が飛び出てくる。
「死んでねえ! 死ななきゃ引退できないって、どんな悪魔のリーグだよ! グラディエーターだってもうちっとまともな職場環境だったろうよ!」
「ろくに対戦もしないまま辞めるとは、考えようによっちゃ卑怯だぞ。チーム戦績はうちの負け越しだったんだからよ」
「チームはチームだろ。俺ひとりでどうこうなるかっ」
「殊勝な発言かましてんじゃねえよ、余裕のつもりか馬鹿エースが!」
「メディアには故障のことちゃんと発表しただろーが!」
 青峰の剣幕につられて火神のテンションも上がっていく。口論と呼ぶレベルに達しないただの言い合いだったが、間に置かれた黒子がもぞりと身じろいだ。
「火神くん、青峰くん、ちょっと声が大きいです……」
 少し苦しげに言いながら、黒子が両手で耳を塞ぐポーズを取る。ふたりは、黒子が強い刺激の処理が苦手であることを思い出し、途端にボリュームを下げた。
「あ、悪い」
「だ、大丈夫か、テツ?」
 ふたりして黒子の顔を覗き込む。火神は、黒子がぎゅっと瞑っていた目を開くのを見計らい、手を差し伸べた。
「悪かった。しばらく静かにしてるからな? ちょっと疲れてるだろうし、先に部屋に行ってろ。気分悪かったら寝てていいから。あ、手は洗えよ? 部屋が粉だらけになるからな」
 言いながら黒子の手を引き、背を支えながら起こしてやる。片栗粉で汚れたエプロンを外してやったあと、火神は黒子の自室を指さした。
「あとは俺がやっとくから、おまえは休んでろ」
「はい。あ、あの、青峰くんは……」
「あー……おまえに会いに来たんだろ? あとでおまえの部屋に行かせる。それでいいか?」
「はい。すみません、僕、火神くんに言ってなかったですよね?」
「それはいいから。とりあえず引っ込んどけ」
 なんだか申し訳なさそうな顔でまだ何か言いたげな黒子に言い聞かせるように、火神は彼の前髪を上げ、額にキスを落とした。いい子だから、とでも言うように。
「ん……」
 黒子は目を閉じて素直にそれを受け取ると、パタパタと少し不規則な足音を立てて洗面所へと向かった。火神に言われたとおり手を洗っているのだろう、水が流れる音が聞こえてくる。その後、また足音がして、自室へと消えていった。
 ふたりの一連のやりとりを、青峰は少々呆気にとられながら傍観しているしかなかった。時間差で、いまのはいったいなんだったんだ? という疑問がいまさらのように湧いてきた。

つづく



 

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