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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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思い出にかわるまで 13

※描写は非常にぬるいですが、火黒が致しています。


 まあ要するに何が変化だったかと言うと。
 ひとつは、俺たちの間でなかばタブー扱いになっていたバスケが、戻って来たということ――あいつが、俺たちがバスケを取り戻したということ。これは純粋に喜ばしいことだ。もちろん昔とは程遠い拙さだし元通り動けることはないだろうが、失ったと思っていた大切なものを再び手にすることができたのだ。
 そしてもうひとつ――こちらが問題なのだが――は、あいつの入院前にはキスなんてしていなかったのが、これを機にするようになった、ということだ。入院中に何度かしたことはあったが、お互いにはっきりと意識的にしたのは、久々にバスケをして帰ったあの日がはじめてだった。
 思えばこれがまずかったに違いない。
 この時点で予感はあったのだが、あとはもう芋づる式というやつだった。あいつが虚弱な体で、しかも中身は高校生だって、わかってたはずなんだけどな。

*****

 ある日、俺はあいつと寝た。これまでのような文字通りの意味ではなく、性的な意味で、だ。あいつの記憶にはないが、退院後しばらくしてまた元通りの関係――再会から入院以前までの関係という意味だが――になってから、身体的な接触が増えた。前々から手をつないだりひっついて寝たりと、よくよく考えれば十分接触が多かったわけだが、あの室内体育館での一件を経てた後からは、そこにキスが加わるようになった。あの日洪水のような流れの中でしてしまった深いキスは別として、挨拶の度を越した口づけが習慣化した最初の頃は、それでも中学生のおつき合いみたいな軽い口づけで済んでいた(この時点ですでに友人としての範疇を超えているのはわかる)。しかし段々とエスカレートして、いつしか舌を絡めてお互い唇を貪り合うようになっていた。あいつは覚えていないはずだが、退院後はじめて意識的に交わしたあの口づけ以来、変に積極的だった。俺も俺で何かタガが外れたとでもいうのか、多少のためらいと罪悪感を残しつつも、気づけばいとも簡単に友人としての一線を越えていた。黒子の不調と入院を経て一旦はすべてスタートラインに戻ってしまったと思っていた関係が急速に回復するのを感じて高揚したのかもしれない。高ぶった気持ちのまま耳や首筋など、つい唇以外の場所も味わった。あいつも同じように触れてきた。性感と呼ぶにはあまりにぬるい感覚だったが、気分が煽られ、心地よかった。癖になったとでも言うか、その後はこういった行為までもがキスに付随するようになった。
 要するに時間の問題だったのだ。俺たちがあと一歩を踏み越えるのは。
 そしてある週末の夜、俺の部屋でベッドに腰掛けて他愛もなく話をしていたら、なし崩しに触れ合ってキスをして――気づけば次第にそんな雰囲気になっていた。どちらかといえば向こうから誘ってきたかたちだった。そのくせ、こちらから触れるとわずかに体を強張らせた。記憶が高校生で止まっていることを考慮すれば、そういった方面に明るくないのは理解できなくもなかった。……実を言えば、あいつはこのとき本当に怯えていたのだが、それが判明したのは翌朝のことだった。
 いずれにせよ、ぎこちなさはあったものの、あいつは嫌がらなかった。むしろ歓迎するように、くすくす笑って甘えてきた。その様子があまりに子供っぽくて、一抹の罪悪感に駆られた。
 きみが気持ち悪くないなら、もっと触ってほしいです。その、いままでより、もっと。誰かの肌と直に触れあう機会って、あまりなくて。ないならないで大丈夫なんですけど、やっぱり、たまに……。変なこと頼んでしまってすみません。僕は卑怯ですね。きみが断れないと踏んで、こんな頼みごとをしている。すみません、すみません……。でも、火神くんにお願いしたいんです。きみに触ってほしいんです。きみに触れたいんです……。
 薄いながらも性欲は残っているらしく、ときに切ない思いをせざるを得ないようだ。俺も男としてわからないではない。ただ、あいつが本当に欲しがっているのはむしろ人肌なのだろうと思った。みんなが遠い、と不安を口にしたときのあいつの顔が脳裏をよぎる。あいつの負った記憶障害は、意図せずともひととの間に距離をつくらせる。人恋しくなることもあるだろう。精神的な距離をなくせないなら、せめて身体的な距離だけでも埋めて、満たして、一時であれ紛らわせてやりたいと思う。
 服の下に手を差し入れ、指の腹で背のくぼみをたどるように撫でる。あいつは気持ちよさそうに目を閉じた。互いの体温を混ぜ合いながら、上衣を脱がせる。あいつも協力的に動いてくれた。
「はっ……あ、ぁ……んっ……」
 あいつの口を吸っていた唇を徐々に下げていく。あばらがうっすら浮いたわき腹が痛々しい。ことさら優しく、毛づくろいのように舐めてやると、小さくも濡れた声が漏れ聞こえた。
 そのまま体をたどってさらに降りていき、下着をずらしてやると、あいつのものに唇を触れさせた。大腿部がびくりと震える。
「か、がみ……くん……」
「ん……いいから。させろよ」
「でっ、でも……このままだと……」
 と、あいつはふいに我に返ったように神妙な顔になった。
「あ、あの……ゴムとか、その、必要なものとか……用意してなかったと思います。ど、どうしましょう……」
「あ、ああ……まあ、そのへんは……なんとでも」
 少しばかり平時の感覚に戻ったことでどことなく気まずさを覚えつつ、ベッドサイドの引き出しを開けた。俺の動きにつられてあいつの視線も動く。幅の薄い箱を取り出して見せる。コンドームの箱だ。引き出しの中にはほかにボトルやチューブが入っているが、あいつの位置からは見えないだろう。
 いい年をした男の寝室にあったところで何の不思議もないアイテムだが、あいつは何か勘繰るだろうか。気にするだろうか。
 ばつの悪い思いで俺が沈黙していると、あいつは心底申し訳なさそうな声で言った。
「何から何まですみません」
「ん。それより続けるぜ?」
「あの……ゴム、しなくて、大丈夫でしょうか?」
 あいつはそろりと自分のものを指さした。いや、そこはさすがに気にしなくていいんじゃ……とあいつの変な気遣い呆れてしまった。もしかしてどんなときでもかぶせなければならないと思っているのだろうか。
「オーラルだぞ?」
「で、でも……」
「いいから。……このままさせろって」
 あいつのちょっと焦った声を遮ってそれだけ言うと、中心を片手で支えつつ口に含んだ。さんざんキスや、愛撫に近い接触を繰り返した間柄だ、いまさら嫌悪感はない。が、緊張はした。これまで体のあちこちを手や唇で触れてきたものの、直接的な刺激を加えるのははじめてだ。あいつがけっして健康な身でないことを考慮すると、あまり無茶はできない。焦らしてやろうとの意図ではないが、様子を窺いながらなので、必然的に弱い刺激を長々と与えることになる。
「あ、あ……ぁ、ん……」
 刺激が緩い分、反応も鈍く遅い。が、感じているのは間違いない。少しずつだが変化が現れている。
「か、かがみ、くん」
「痛いか?」
 顔を上げると、うろたえきった表情のあいつと目が合った。片手で口元を覆っている。声を抑えようというより、手の位置が所在ないという印象だ。あいつは素直に答えてきた。
「いえ、あの……気持ち、いい……です」
「そうか」
 先端を舌先でつつくと、今度は両手を降ろしてシーツを握り締めた。
「あっ……うぅ……。あ、あの、火神くん、僕、何をしたらいいですか?」
「ん?……そのままでいいぜ?」
「手とか……きみに触ってたほうがいいんでしょうか? それとも触っちゃ駄目ですか? すみません、こういうときどうしたらいいのか、その、よくわからなくて……」
 ムードもへったくれもないが、その無知に逆に背徳感を覚える。好きなようにしてろと曖昧な指示を出しても余計困惑させるだけだと感じ、あいつの右手を取って俺の頭に触らせた。あいつはちょっと戸惑っていたが、刺激を感じると反射的に髪を掴んできた。なんとなく勝手がわかったのか、あいつは俺の頭を両側から支えるようにして指を差し入れ、感じると時折やんわりと力を込めていた。
「す、すみません……その、こんなことまで、してもらって……うぅ……」
 語尾の最後に混じった湿っぽい声にぎょっとする。ずず、と鼻をすするような音まで聞こえる。
 口を離して見上げると、薄闇の中、あいつの目尻に涙が溜まっているのがわかった。生理的なものだけではなさそうなその様子に俺は慌てる。
「お、おい……」
「あ、すみません……痛いとか嫌とかでは全然ないです。ただ、火神くんにこうしてもらえることが、嬉しくて……」
 あいつはすんすんと鼻を鳴らし、指の背で左右交互に涙をぬぐった。この程度のことで感激するのか……。あまりのいじらしさに、俺はしばし呆然としてしまった。
「まったく、おまえってやつは……」
「火神くん、火神くん……」
 思わずあいつの頭を撫でてから、少し深めにくわえた。軽く前歯が当たるとびくりと一瞬硬直したが、すぐに反応を返してきた。
 浅い呼吸が耳に響く。頃合いかと思っていると、あいつがぼそりと言った。
「あの……そろそろ……」
「出していいぜ」
「ん……でも」
 遠慮するなと言おうとしたが、先にあいつが不安を口にした。
「僕、あまり体力に自信がないので、その……ここで満足してしまうと、もたないかもしれません」
 何だ、そんなことか。別にいいのに。
「無理しなくていい。それならそれで構わねえから」
「嫌です」
「俺のことならいいから」
「僕が嫌なんです」
 きっぱりとした口調で主張してきたかと思うと、次の言葉を紡ぐときには再び遠慮がちになる。
「もっと……きみと触れ合いたいんです。……駄目ですか?」
「……んなわけねえだろ」
 俺は体を起こすと、左腕をあいつの背に回し、ゆっくりとマットへ倒した。あいつは俺の首に両腕を引っ掛けるような格好でぎゅっと目を閉じた。右手をあいつの太腿に掛けると、いまさらながら確認する。
「なあ……このまま抱いちまって、本当にいいか?」
「はい、はい、抱いてください……!」
 あいつは感激したような声でそう答えると、腕に力を込め、背が浮くほどに俺に抱きついてきた。
「抱いてください、抱いてほしいです。僕、火神くんに抱いてほしいです。火神くん、僕を抱いてください」
 耳元で何度もせがまれる。あまりに素直でストレートな言い方にはかなりぐっと来るものがあった。しかし俺には引っ掛かるところがあり、尋ねてみた。
「でもおまえさ、その……溜まってんなら、逆のほうがよくねえか? 俺はどっちでもいいぜ?」
 すると、あいつはちょっと困ったような顔をした後、ふるりと首を横に振った。
「お気遣いありがとうございます。でも……僕、うまく動けないと思うんです。その、やり方がわからないとか、経験が浅いとか、そういう話ではなくて……」
「……そっか、わかった」
 申し訳なさそうに呟くあいつを見て、この質問はよくなかったと胸中で舌打ちした。他覚的にはわかりづらいというだけで、こいつは間違いなく体が不自由なのだ。こんな状況でさえわが身が思うようにならないというのはもどかしいだろう。
「……ごめんなさい、僕はきみに対して、あまりできることがないと思います」
 しゅんとした顔に心が揺さぶられる。その姿に惹かれるまま、俺はあいつのこめかみにキスをひとつ落とした。
「いいって。おまえに触れられるだけで十分だ」
「火神くん……」
「体、つらかったらちゃんと言えよ」
「はい」
 改めてベッドに背をつけさせると、片足を持ち上げた。慣れない姿勢にあいつは緊張しているようだったが、人肌に触れていたいのか、しきりに俺の肩や背に腕を伸ばしていた。
 本人の言うとおり、こんな状態の体ではそうそう他人と自由にはできないのだろう、その手のことを覚えたばかりのガキかと言いたくなるくらい、あいつは行為に夢中になっていた。飢えを満たすかのように。あいつが自意識の上では高校生だということを考えると、実年齢にそぐわない見た目の幼さも手伝って、悪いことをしているような気がしないでもなかった。重度の記憶障害を受容して生きるあいつはある面では誰よりも大人びていると言えるのかもしれないが、経験を積むことができないせいか、やはり子供っぽい面も見受けられる。大人になることを拒んでいるのではなく拒まれている。十七歳の初夏にあいつは縫い留められてしまった。
 暗闇の中で、あいつは数えきれないくらい俺の名を呼んだ。後になって気づいたことだが、相手の名前を絶えず呼んでいないと、自分が誰とセックスしているのか、わからなくなるかもしれないと考えたのだろう。部屋の照明を落としたときあいつは何も言わなかったが、暗い中で事に至ったのは俺の浅慮だった。
 できるだけ丁寧に抱いたつもりだ。小食な上に事実上運動ができない体はやせていて、少し力を込めたら壊してしまいそうな気がした。加えて、運動機能に目立った障害がないといっても、あいつの体は事故前と同じようには、あいつの思い通りにはならない。自分の体をコントロールしきれないことへの不安と恐怖が、あいつの胸には絶えず渦巻いているに違いない。時折妙に力んでしがみついてきたのは、増幅された落下感や浮遊感が怖かったのだろう。なるべく恐怖は与えたくなかったが、こればかりはどうすることもできなかった。
「んぁっ……あっ、あ……火神くん、火神くんっ……」
「悪ぃ、きついか。待ってろ、すぐ――」
 あいつは時間を掛けてなんとか受け入れたものの、かなり苦しそうだった。やはり無理があったかと退こうとすると、その動きを察したあいつが力の入らない手で俺の肩を掴んだ。
「んっ……いえ、大丈夫です」
「無理すんなよ。どくから」
「あ、いや……いかないで、かがみくん……」
「お、おい……」
 あいつは俺の腰に両脚を巻き付けて引き留めようとした。そして、いやいやをするように頭を左右に振る。
「あの……えと、大丈夫ですから。だから、このまま、続けてください。お願いです……」
「……わかった」
 脚だけでなく腕も俺に首に巻きつけてくる。このまま退こうとしても木にぶら下がるナマケモノみたいになるに違いない。少し迷ったが、続けることにした。
「前、ちょっと触るぞ」
「はい」
 下半身に手を伸ばして刺激を加える。
「あ、は……や、んっ……」
 しばらくすると力が抜け、するりと腕が落ちていく。
「あっ、あっ、あっ……か、かがみくん、かがみくん、かがみくんっ……」
 軽く揺すると、あいつはたまらないといったふうに声を上げた。嬌声とはとても言えない、必死さの滲む健気な声だった。
 再び静寂が訪れるまでにそれほど長い時間は掛からなかったが、かなり気を遣ったこともあり、体感的には何時間も続いたように感じられた。
 ひと通り行為が終わり、疲れたのだろう、あいつは満ち足りた顔で眠りについた。二十代の青年に似つかわしくないあどけない寝顔を見て、俺はいたたまれない気持ちになった。そして不安に駆られた。あいつの記憶は半時間と続かない。目を覚ましたときにはすべてを忘れている。それは仕方のないことだ。だが覚えていないのに、誰かと行為をした痕跡が体にあったら、あいつをひどく驚かせることになるのではないか。怯えさせるのではないか。そのことが怖くて、俺はその夜一睡もできなかった。

つづく

 

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