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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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天帝の逆鱗? 4

 現実を受け入れることを脳が拒否した結果、僕は心地よい眠りの世界へと飛び込むことに成功しました。これでストーリー進行という大役から降りることができたわけです。あとはよい夢でも見ながら、今日一日で積もりに積もった疲労を癒すべく、心身を休めることにしたいと思います。続きは火神くんにお任せしようと思ったのですが、予定調和的オチが見え見えないま、そもそも話自体続ける必要性はないと考えます。あとはストーリー外で僕が赤司くんに謝罪をして制裁を受ければそれでめでたくおしまいです。物語が終了するのか僕が終了することになるのかはわかりませんけれど。
 そんなわけで人生最後になるかもしれない安らぎの腕に抱かれてこようと思います。それではおやすみなさい。ぐう。

――火神、体を貸せ。
――は?
――いいから貸せ。緊急事態だ。
――え、お、おい。暴力はよくないと思うぞ?
――おまえが同意すれば暴力には当たらない。
――いや、暴力に同意する気にはなれねえんだが。
――おまえの意見など必要ない。同意だけしろ。
――それは同意じゃねえ。
――早くしろ。こっちはどうかなりそうなんだ。
――ちょ、あ、赤司!? どういうことなんだ、説明しろ!
――性欲を刺激された。
――へ!?
――勘違いするなよ、おまえにじゃない。降旗にだ。
――だったら降旗のとこ行けよ。
――現状、そういう気にはなれない。しかし性欲は感じている。それもかなり。速やかに解消する必要があるレベルだ。よって火神、協力しろ。
――ちょ、え、そ、それって……。
――僕とセックスをしろ。いますぐ。
――無理! 無理だから!
――やってできないことはあるまい。元はといえばおまえとテツヤが愚かな企てをしたせいだろう。責任は取ってもらう。
――ま、待て待て待て待て待て!?

「ぴぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 僕の喉から迸ったのは、多分幼少時以来だしたことのないようなおかしな悲鳴だったと思います。
 ひどい光景が繰り広げられていました。
 異様なまでの色気を搭載した赤司くんが慌てる火神くんを押し倒し、跨っていたんですけど!? しかも肌色率高っ! なんですかあれ、なんですかあれ!?
「く、黒子!? 黒子!? 大丈夫か!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ……な、なんですかいまのビジョン!? ゆ、夢!?」
 自分の声がはっきりと自分の耳に届いたことを感知したとき、僕は自分の意識が浮上していることに気づきました。目が覚めてしまったようです。なんということでしょう。もう目覚めたくなかったというのに……。覚醒してしまった以上、僕はこの先も語り手としての仕事をしなければなりません。なんて憂鬱な。しかしあのような恐ろしい夢を見続ける勇気がなかったのもまた事実です。……ええと、いまの夢……でいいんですよね。過去に目撃した光景を脳が再生していたというわけじゃないですよね。記憶にある限り、火神くんと赤司くんがセックスしているところなんて見たことないですもん。あれは僕の脳が勝手につくり出した妄想に過ぎないのでしょう。……なんて悲惨な妄想をするんですか僕の脳みそ。いっぺん頭蓋から取り出して洗濯機に放り込み漂白剤につけたほうがいいのではないでしょうか。
 ほんと、あり得ないですよ。なんであのふたりがセックスする夢なんか……
――ああ、テツヤ、来たのか。実は火神とセックスをして……
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!? ひ、うっ、わ、わぁぁぁぁぁ!? ぴぎっ、ぴぎょ、ぴぎゃっ、あぁぁぁぁぁ!?」
 赤司くんのこの台詞、夢ですか、それとも現実ですか!? どっち!?
 ほとんど錯乱状態の僕は、両手でこめかみのあたりを抑え、時折ブレスを挟みながら悲鳴を上げ続けました。何の意味もなさない行動ですが、何かせずにはいられなかったのです。
 転げ回る勢いで悶絶する僕に、聞き慣れた声が降ってきます。
「黒子!? おい黒子!? 大丈夫か!?」
「かがみ、くん……?」
 火神くんの顔が目の前にあります。心配そうにのぞき込んでくれています。どうやらベッドで仰向けに倒れたらしい僕を腕に抱きかかえ、介抱してくれているようです。彼の姿を確認し、そしてにおいや熱を感じると、僕は現金にも大きな安心に包まれ、ついさっきまで脳内を占拠していた不穏な映像は、まるで霧が晴れるようにあっという間に消え去っていきました。夢というのは覚醒すると忘れてしまうことが多いらしいのですが、まさにそうだと実感しました。
「どうした、怖い夢でも見たのか?」
「は、はい……。なにやらとんでもない悪夢を見ていたような……」
 印象的な夢、衝撃的な夢というのはのちのちまで覚えていることもありますが、このときは、僕はもう自分が見た悪夢の内容をほとんど忘却していました。ただ、自分がけっして楽しくない夢に見舞われていたことはぼんやりと感じていました。想起を試みましたが、ノイズに阻まれ無理でした。何かこう、思い出してはいけないような……?
 僕がぼけっとしていると、火神くんが元気づけるように頬を撫でてくれました。
「でもまあ、目ぇ覚ましてくれてよかったぜ。どうしたんだよ、いきなり気絶して。……って、そうか、すまん。今日すでに一回ぶっ倒れてたよな。疲れてるとこ来てもらって悪かったな」
 倒れた原因の第一は疲労ではなかった気がするのですが、寝起きの頭ではあまりものを考えられませんでした。しかしとりあえず火神くんが悪いわけでないことは理解しています。
「い、いえ……元はといえば僕のせいなので」
 なんとなくそう言ってみたものの、そもそもいまどういう状況なんでしたっけ? と首をひねります。火神くんが降旗くんを家に送り、そのあと僕に電話をしてきて――
「大丈夫か? 頭痛いとか気持ち悪いとかねえ?」
「ちょっとだるいというか、疲労感に包まれていますが……体調が悪いというわけではありません」
 まとまらない思考の中で話しかけられると集中力が切れてしまうのですが、心配してくれる火神くんへの対応のほうが優先です。大丈夫だと答えたあと、僕は空中分解した思考をまた一から組み立て直すことを試みました。と、火神くんが遠慮がちに口を開きます。
「そうか……。あの、起きたばっかのとこさっそくで悪いんだが……赤司がだな」
「赤司くん……。そうだ、赤司くん! 赤司くんは!?」
 そうだ、思い出しました! 僕の行動が原因で赤司くんの不興を買い、火神くんがとばっちりを受けている最中でした。そのとばっちりというのが、何か僕にとってとてつもなく不穏だったような気が……。
 せわしなく周囲を見回しますが、肝心の赤司くんの姿がありません。視界に鎮座していればその威圧感に恐れ慄くしかない存在感の彼ですが、いないならいないでまた不安を掻き立てられます。死角から忍び寄ってこられそうな恐怖感を覚えるのです。
「あ、赤司くんはどこですか!?」
「あそこ」
 ぴっ、と火神くんが人差し指で示します。その先にはリビングの家具として定番の、人工皮革の張られたソファと強化ガラス製の透明なローテーブルのセットがありました。一見したところ誰も座っていませんでしたが、よく見るとソファの背もたれの向こう側に赤いものが小さく揺れていました。赤司くんの頭頂部でしょう。やけに座高が低いと一瞬不思議に思いましたが、どうやらソファではなく床に直接座っているようです。しかしそれはそれで不可解です。ソファがあるのになぜわざわざ床に? より一層不衛生だと思うのですが。
「赤司くん……?」
 僕がそろそろと近づきましたが、赤司くんは気づいていないのか無視しているのか、こちらを振り返ることも返事をすることもありませんでした。ソファの周囲は何やら混沌としていました。まず周囲に新聞が敷かれています。ソファにもテーブルにも床にも、一面に。日付を見ると本日の夕刊でした。多分この部屋の中で購入したのでしょう。枚数的に二部分はあると思います。新聞の海の中、赤司くんはどうも書き物をしているようでした。なぜか日本語ではなさそうな言語を聞き取りづらい音声でぶつぶつと呟きながら。しかも彼、裸です。いえ、よくよく見ると下着は穿いていました。地味な紺ベースのペイズリーのトランクスを。あれ、赤司くんてトランクス派でしたっけ? 一瞬どうでもいい疑問がよぎりました。本当、心底どうでもいいですね。彼はきっちりと床に正座をし、背筋をぴんと伸ばした上で、右手に構えたペンを動かしています。
 な、何なんでしょう、この一種異様な空間は。意味不明にもほどがあります。
 ソファの後ろで僕が文字通り引きかけていると、火神くんが僕の肩を両手で掴み、盾にするみたいに前方にちょっと押してきます。大きな図体を僕の背中に隠れさせるように。犬に怯えているときの行動と同じです。火神くん、すっかり怖がっています。
「なあ、あいつなんとかしてくれねえか? 怖くて近づけねえんだよ」
 確かに怖いです。得体の知れない不気味さが漂っています。だって意味がまったくわかりませんから、目の前に広がっているこの光景。いったいどう解釈すればいいのでそうか。理解できない、ということはこの世でもっとも恐怖を掻き立てる要因ではないかと思いました。
 とりあえず、比較的簡単そうな疑問から解決しようと考えます。
「あの、なんで赤司くん、裸なんですか……? 服なりガウンなりありますよね?」
 ついでに火神くんも裸です。いえ、パンツは穿いていますけど。なんでふたりして下着一枚なんて姿してるんですか。ここがそういうことをしてもよいお部屋なのはわかりますが……い、いや! よくないですよ! 全然よくない! なんで赤司くんと火神くんが下着姿なんですか!?
 混乱が蘇りそうになる直前、火神くんが僕の耳元でひそひそと答えました。赤司くんに聞こえないようにしているのか、かなりの小声の上、怯えが混じっています。
「なんかよくわかんねえけど、ここに着いてからしばらくするとテーブルで妙な作業はじめて、そのあと急に脱ぎだしてよ、めっちゃ怖かった。なんか延々ぶつぶつ言ってるし、変な文字書き続けるし。もしかして黒ミサとか降霊術とか悪魔寄せとか、呪いの儀式の類なのか……? 気持ち悪いし怖いしで止めることもできねえ……。なあ、ひょっとして悪霊に取り憑かれてるのかあいつ……?」
 言われてみれば、狐に憑かれているようにも思える姿です。コインがないのでこっくりさんではなさそうですが。そういえば赤司くん、中学のとき時代遅れにもこっくりさんをやって青峰くんや黄瀬くんを怖がらせていましたね……。懐かしい思い出です。思えばみんな若くてかわいかったです。
 と、実にどうでもいい回想をしてしまったのは、僕の中に現実逃避したいという欲求があるためでしょうか。
「まさか……。悪霊だって逃げ出しますよ、あのひとからは」
「そうだよなあ……」
 それもそうかとうなずく火神くんの前で、僕は唐突に脱衣しはじめました。まずは上半身裸になり、それからボトムスに手を掛けました。そこで火神くんから制止が入ります。
「おい、なんでおまえまで服脱ぐんだ。静かに混乱してるんじゃねえよ」
「だって火神くんも赤司くんも脱衣済みじゃないですか。僕だけ服を着てたら変です」
「いや、明らかに服を脱いでる俺らのほうがおかしいからな?」
「正しさとは畢竟、多数派が握っているものです」
「気をしっかり持て黒子」
「無理です、だって僕はジャポネーゼ! アメリカ育ちの火神くんとは違うんです、長いものには巻かれます!」
 ちょっとばかり勢いをつけてそう答えると、僕は潔く綿パンから脚を抜きました。これで彼らと同じく、パンツ一枚になりました。火神くんと同じでボクサーパンツです。お揃いのデザインのものも持っていますが、今日はバラバラです。
「それ英語じゃねえぞ?」
 火神くんが明後日の突っ込みをしてきましたが、さくっと無視します。
 赤司くんが怖くて僕より前に出られない人のことは置いておき、僕はそろりと足を進めました。リビングスペースのようになっている空間に踏み込み、テーブルとソファの間で床にじかに座っている赤司くんの横に立ちました。
「赤司くん……? こんばんは?」
 返事がありません。黙々と何かを書く手を止めません。また謎の言語をつぶやき続けています。とんでもなく気味の悪い光景です。火神くんが悪霊を疑うのも無理からぬことかもしれません。僕は彼の横に膝をついて視線を下げると、彼の眼前に手を差し出し、ひらひらと振りました。視線の先が遮られるので、これならさすがに気づくでしょう。
「もしもーし? 赤司くーん?」
「うん?……ああ、テツヤか。こんばんは」
 赤司くんは人当たりのよい穏やかな笑みとともに夜の挨拶をしてきました。変なところで育ちのよさが表れています。服装はまったく上品ではありませんけれど。怒っている印象は受けませんが、素直に解釈すべきではないでしょう。腹に何を抱えているのかわかったものではありません。赤司くんに攻撃的な気配がないことに逆に警戒感を覚えながら、僕は恐る恐る尋ねました。
「こんばんは。あの、赤司くん、いったい何をして……」
 と、言いかけたところで、僕ははたと止まりました。ローテーブルの上に置かれたいくつかの道具を見て。
 黒いフェルト生地の長方形の上に置かれた、やや黄ばんだ縦ライン入りの用紙、それを止める文鎮。紙にはずらりと漢字が並んでいました。平仮名がひとつもありません。中国語か万葉仮名?……と思ったところで、微妙に読めることに気がつきました。
 觀自在菩薩行深般若波羅蜜多時……
 意味はまったくわからないけれど読めてしまうこの不思議。ついでにこれを唱えるお坊さんのありがたくも眠くなる声が幻聴として聞こえてきました。
 大乗仏教のもっとも有名な経典のひとつ、般若心経です。ということは、赤司くんが不気味に呟いていた謎の呪文も、般若心経の読経だったのでしょうか。そういえば、どこか聞き覚えがあったような……?
「これ……写経? ですか?」
 赤司くんの右手には筆ペンが握られていました。グッズからすると、写経をしていたと見受けられます。火神くんが恐れていた赤司くんの妙な儀式の正体はわかりました。キリスト教文化圏育ちの火神くんが写経を知らないのは仕方のないことでしょう。日本人だって知らない人は知らないでしょうから。とはいえ、なぜ赤司くんがラブホで写経をしようと思ったのかは依然として激しく謎です。写経って、そろそろお迎えが来ることを考えはじめたおじいちゃんおばあちゃんがやるイメージなんですけど……。いえ、若くて健康な人がやったところでまったく問題はないのですが。
「あの、なぜ写経を……?」
 呆気にとられている僕に、赤司くんが仏像じみたアルカイックスマイルとともに言います。
「ああそうだ写経だ僕はいま写経をしている一心不乱に写経に没頭している写経はいいぞテツヤ心が落ち着くいや実に落ち着くそんなわけでいま僕はとても心穏やかだすばらしい」
 早口かつ一息でそう説明してくれました。いえ、写経していることは見ればわかるので、なぜこんな行動を取っているかについて説明してほしいのですが。
 しかし、とりあえず彼がかつてないほど混乱を極めていることは一発で理解できました。表情とは裏腹に、まったく落ち着いていません。
「ず、ずいぶんと抹香臭い趣味をお持ちですね……。赤司くんらしいといえばらしいですけど」
 趣味かどうかは不明ですが、赤司くんの嗜好が若者らしくないことは知っているので、彼が写経をすること自体はそこまで驚くに値しません。グラビアアイドルに狂っているほうが怖いです。それにしても、やっぱり意味がわかりません。なんでこんなところで写経しようなんて思ったのでしょうか。怪訝に感じつつ、僕は改めて周囲を見回しました。赤司くんの体の左側には、何枚もの写経済みの紙が積まれていました。僕は彼の体を越えて腕を伸ばし、何枚か手に取りました。まじまじと観察すると、紙はかなり汚くなっていました。達筆といえるような文字もありますが、大きさがまちまちだったり、振戦がありありとうかがえる文字、書き損じ、誤字、墨の滲んだ痕など、およそ彼のイメージとはかけ離れた無秩序がそこに展開されていました。それだけでも、彼の心中がまったく穏やかでないことが見て取れました。
「なんだかやけに字が乱れているような……。赤司くんて、字、結構きれいだったと思うんですが。硬筆と毛筆の違いですか? 筆は普段の生活ではあまり使いませんもんね」
 そういう次元の話でもないだろうという気はしましたが、ダイレクトに下手とか平静を欠いているとか指摘するのもはばかられたので、そうコメントしてみました。赤司くんは筆ペンの先にキャップを付けてテーブルの上に置くと、腕組みをしてううむと首を傾げました。
「いや、普段はもう少し丁寧に書けるのだが……いまは駄目だ。落ち着いてきたと思っていたのだが、いましがた書いたこれらの文字を見るに、やはりまだ心が乱れているようだ。それでも最初の頃よりはずっといい。写経は精神の安寧を求めるのに持って来いの手段だと思う。だから平静を取り戻すためにこうして一心不乱に写経に励んでいたというわけだ」
 本人の言うとおり、テーブル上の書きかけの般若心経はいくつかの文字が縦線から大きく外れていたり、震えていたりしました。また、僕の手元にある写経の何枚かは、墨が盛大に飛び散った……というより墨汁をぶちまけたんじゃないかと思えるような黒い染みがついていました。
「これはまた……おおいに乱れてらっしゃるようで……」
「ああ。墨が飛び散って大変だ。墨汁を使わなくて正解だった。いや、旅用のセットだからどのみち筆や墨汁は持ち歩いていないのだが」
 旅のお供用の写経セットなんてあるんですか。知りませんでした。
「それ筆ペンですよね。なんで飛び散るんですか?」
「つい力が入って握り潰してしまうんだ。これで五本目だ。危うくシャツを汚すところだった。墨は落とすのが大変だからな」
「それで脱いでたんですか……」
「そうだ」
 どうやら、衣服を汚さないために裸になっていたようです。確かに墨の汚れは厄介です。しかしまだ疑問は残ります。
「なんで下まで?」
「自分の指先の力を制御できないことに気づき、下のほうにまで飛び散らせるのも時間の問題だと考えた。スーツは高価だからな、あまり汚したくない」
「じゃあ、周囲に広げられた新聞紙は、床を汚さないようにとの配慮ですか」
「そうだ。個室から新聞を購入できる施設でよかった」
「まさか半裸というかパンイチで写経する赤司くんを目撃することになるとは……」
「かれこれ一時間ほど写経に専念したから、かなり平静が戻ってきた。やはり写経はいいものだ」
 赤司くんはこのように主張していますが、ラブホでパンツ一枚になって写経に励むという行為自体、落ち着いている人間のすることとは思えません。もっとも、ふたりが下着姿がであるというただそれだけの理由で服を脱いだ僕には、ひとのことをとやかく言う資格などないでしょうが。
 僕は自分がやってきた方向を振り返ると、ソファの後ろでいまだ怯え気味の火神くんに声を掛けました。
「火神くん、怯えなくても大丈夫ですよ。これは写経と言って、仏教において経典を書き写す行為です。変な儀式ではありません。なんといいますか、まあとっても文化的な行為なんです。特にカルト的な意味もない、ごく一般的で世俗化されているとさえ言える宗教行為です。キリスト教徒が、たとえ熱心でなくてもたまには聖書を読むみたいなものです」
 このたとえはあまり正しくない気がしますが、とにかく悪意的な儀式の類でないことが伝わればいいと思い、そう説明しました。火神くんはまだ警戒心が抜けない様子ですが、そうなのか……? と呟きながらそろそろと近づいて来ました。素直でかわいらしいことです。
 赤司くんは正座のまま火神くんのほうへ体を向けたかと思うと、
「ああ、そうだ、よかったな火神、テツヤが来たぞ」
「お、おう?」
「ではさっそくセックスするといい」
 また藪から棒にとんでもない命令をしました。慈悲深いとさえ感じられるきれいな笑顔で。これには僕も火神くんも口をあんぐり開けました。
「は……?」
「はぁ……?」
 いったい何を言ってるんですかこのひとは。
 固まっている僕に赤司くんが続けて命じます。
「相手をしてやれテツヤ」
「ちょ、ちょちょちょ、待ってください、何ですかいきなり!?」
「赤司おまえ、頭大丈夫か!?」
「なんだ、おまえたち現在レスなのか?」
「失敬な! 原則、最低週二は確保しています!」
 赤司くんのトンチンカンな質問にきっちり答えてしまったのは、そのような誤解を持たれるのは心外きわまりないからです。
「そうか。いいことだ。僕は引き続き写経に励む。僕の存在は壁の染みだとでも思って、ふたりの世界に浸かり、獣のようにまぐわって構わない。さあ励め」
 何の説明もなく、僕と火神くんにセックスせよを命じる赤司くん。まったく意図が理解できません。なんでしょうこれ、僕たちに対する嫌がらせ……? いや、それにしてはぬるいです。僕は赤司くんの見ている前で火神くんとセックスすることにたいした抵抗はないのですから。むしろ想像すると興奮し、あれ、これご褒美? と勘違いしていまいそうなくらいです。
 とはいえ、相手の真意がまるでわからないというのはやっぱり気持ちが悪いものです。
「おい、赤司、どういうつもりだてめえ」
「あの、さすがに事情を理解しかねるのですが……」
 ふたり揃って説明を求めるのですが、赤司くんは聞いてくれません。
「テツヤが戸惑う気持ちもわからないではない。しかし説明の優先順位はさほど高くないと考える。御託よりさっさと行動に移るべきだ。テツヤ、火神がセックスをしたいようだから、まずは解消させてやれ」
「おい!?」
 驚いたらしい火神くんが思わず犬歯を剥き出しにします。僕は僕でびっくりしてしまい、またしても混乱に襲われました。
 赤司くんがこのように言うということは、火神くんは赤司くんに対し、セックスをしたがっているような言動を見せたということなのでしょうか……!?
「かっ、かっ……火神くん!? 赤司くんになんか言ったんですか!? せ、せせせせ、迫ったんですか!? やっぱりやっちゃったんですか!?」
 ああぁぁぁ、いまはっきり思い出しました。僕が気絶する前、赤司くんはベッドで潜って寝ていて、しかも裸で(下着はつけていたのかもしれませんが)、起きたと思ったらなんかものすっごい色気垂れ流してて、いかにも事後ですな雰囲気を醸しながら、火神くんとセックスしたみたいなことを言っていました!
 ど、どういうことなんですか!? 火神くん、やっちゃったんですか!? 大丈夫だったんですかこんな宇宙人と合体して!? 体爆発しませんでしたか!?
 僕が衝撃に戦慄いていると、火神くんが今度は僕に向かって歯茎を見せつつ叫びました。
「んなわけねーだろ! やっぱりってなんだやっぱりって! 疑ってたのか!? さすがにそこは信じろよ! この世でもっともありえねえ!」
「だ、だって、ふたりともパンツ一枚だし、火神くんは汗掻いてはあはあしてたし、赤司くんは色気むんむんだし……これで何もなかったっていうほうがおかしくないですか!?」
 火神くんの汗はすでに引いていますが、赤司くんのほうやよくよく見るとまだ目がどこか熱っぽく、背筋をぞくぞくさせるような色香をそこかしこに放出しています。この状態で写経という宗教的な行為をしていたとは……恐ろしく背徳的に感じられます。そこがまた官能を刺激するのではないでしょうか。
「いや、これには事情があってだな……。あいつがあの状態なのは、電話越しの会話がおまえに届いてたなら察しがつくかもしれねえ。俺のほうは――」
 火神くんが言いかけたところで、赤司くんが口を挟みます。
「早くしろ。おまえたちのことだ、結構ねちっこいのだろう? 邪魔をするような野暮な精神は持ち合わせていないが、あまりに長い場合、中断させるから心に留めておけ」
「待て赤司、どういう了見だ。なんで俺らにセックスしろなんて言うんだ」
「セックスしたいんだろう? 早く済ませてくれ、本題は別にあるんだ。うだうだしていると、不本意だが僕がおまえを抜くぞ。まったくもって甚だ不本意だが背に腹は代えられない」
 嫌そうに眉をしかめながら赤司くんがとんでもないことを言い出しました。そんな気遣いは無用です、火神くんの性欲はすべて僕が受け止めますので。
「何言ってんだおまえ!? っていうかそれ脅迫じゃねえか!」
「おまえ、降旗のアパートの前で欲情しただろう?」
「えっ……」
「か、火神くん!? やっぱり!?」
 赤司くんにムラムラ来ちゃったんですか!?
 僕は直接目にしていませんが、降旗くんのアパートの前で、赤司くんと降旗くんが大変盛り上がっていたことは電話越しに伝わってきました。男は即物的ですから、そのような場面を見てしまった場合、たとえ目撃対象がタイプでもなんでもなかったとしても、性欲が湧き上がってしまうことがあります。
「いや、だからあり得ねえって。こんな恐怖の根源に欲情するわけねえだろ」
「な、なら……まさか降旗くんに……!?」
 それはなおさらショックです。降旗くんは友達なのに……。
 青ざめる僕の口を、火神くんが大慌てで塞ぎにかかります。僕は彼の大きな右手に顔の下半分を覆われるようなかたちになりました。ひそひそ声ながら気持ちは怒鳴っているんだろうなとうかがえるトーンで火神くんが注意します。
「馬鹿! 冗談でもこいつの前でそういうこと言うな! こいつらがいちゃついてるの見てたら、おまえとセックスしたくなったってだけだよ!」
「え?」
 僕とセックスしたくなった?
 思わず目をぱちくりさせました。いえ、嬉しいんですけど、僕その場にいなかったですよね……?
 などとちょっぴり気の利かないことを考えていると、火神くんに代わり赤司くんが説明を続けました。
「大方雰囲気に当てられたのだろう。あのときは僕もどうかしていた。だから刺激してしまった詫びに解消させてやらねばと思い、この部屋を借り、取り急ぎテツヤを呼び出したわけだ。まあ本題はこれではないのだが、まずは火神の性欲を発散させてやることが最優先事項だと考えた。よってテツヤ、火神とセックスをしろ」
 ええぇぇぇぇぇ!? なんですかこのオチ!? 予想外すぎるんですけど!?
 じゃあ、じゃあ……赤司くんが言っていた「火神とセックスをして――」の続きって……。
「ええと、もしかして赤司くんが最初に言おうとしてたのって、『実は火神とセックスをしてもらうためにおまえを呼んだんだ』……とかそんなことだったのでしょうか?」
「そう言ったのだが、なぜかおまえは寝てしまった。そんなに疲れているのか。悪かったな、呼び出して。しかし必要性があってのことだ。幸い火神は体力が充実しているだろう。おまえがマグロでもセックスくらいできるのではないか。早くはじめろ。あまり待たせては火神もつらかろう」
 赤司くんは再び写経用の筆ペンを右手に持つと、びしっとベッドのほうを指しました。なんと罰当たりな。
 しかし、自分の性的な雰囲気が火神くんを刺激してしまったことを悪いと思い、性欲を解消させるためにパートナーである僕を呼び出し、ラブホまで用意するなんて……もしかしてこれ、赤司くんなりの気遣いというか優しさなのでしょうか。確かにいまの赤司くんからは怒気のようなものは感じられません。手の込んだ嫌がらせと解釈することもできなくもないですが、なんかそういう感じでもないんですよね。言っていることは無茶苦茶ですが、本人は至って真面目な様子です。彼の思考回路は永久に理解できる気がしません。
「それ自体はやぶさかではありませんが……」
「ああ、施設代は僕が受け持つから心配はいらない」
「いや、お金の心配をしているわけでは」
「ってか赤司! おまえ俺らになんか話があるんじゃねえのか。なんで俺と黒子のセックスのが優先なんだよ」
 僕はちょっと乗り気になっていたのですが、常識人の火神くんはまったく納得できていないようです。いえ、僕も別に赤司くんの思考を納得できているわけではないのですが。何考えて生きてるんですかね、このひと。
「煩悩は理性的思考を妨害する。僕はこのあとおまえにある程度の思考活動を求めるつもりでいる。しかし人間は簡単に煩悩を追い払えるものではない。ならば煩悩を昇華させることによって消滅させるのが最善だと考える」
「だからって目の前で友人知人をセックスさせるか普通!?」
「常識から少々逸脱した行為であることは理解する。が、常識に囚われるあまり物事の優先順位を見誤るのはときに悲劇的な結果を生み出す。人生においては固定観念を打ち破る勇気を求められる場合もある」
「なんかありがたそうなお説教してくれてるけど、明らかに狂ってるからなおまえの主張!?」
 えー……。
 ちょっと収拾がつかなくなってきたので、僕が一旦話をまとめることにしました。
 パンイチの男子大学生三人がラブホのカーペットの上で正座をし膝を交えるというシュールな光景の中、僕は神妙な面持ちで事情を要約しました。
「……ええと、つまりこういうことですか。赤司くんは僕と火神くんに話があるけど、火神くんがムラムラしていては落ち着いて話せそうにないから、まずは一発抜いて沈静化させ、それからゆっくり話したいと思った、と」
 一応理屈が通ってなくもないですが、発想がぶっ飛びすぎていて正直ついていけません。
 なお、火神くんが脱いでいたのは、赤司くんからの墨被害を避けるためであり、呼吸が荒かったのは、写経をする赤司くんの不気味な様子に耐えかね、気を紛らわすために室内で腕立て伏せやら逆立ち歩きやらしていたためらしいです。怖いから筋トレに逃げていたとのことです。食材と調理器具があったらきっと料理に逃げていたことでしょう。
 それから、赤司くんが入浴したのは写経で飛び散った墨を洗い流すためであり、その後少しばかりひと休みするつもりだったのが、予想外に疲労が溜まっていたため、そのまま無意識のうちに潜って眠ってしまったらしいとのことです。まあ、性欲で悶々としながら写経してればそりゃ疲れますよね……。確認していませんが、お風呂で処理をしたために疲れたのかもしれません。それにしてはまったくすっきりした顔ではありませんけれど。むしろフラストレーション全開です。
 事情を聞けばなるほどと思うのですが、言語化されない限り、あの状況から事態を把握することは不可能だと思います。そんなことができたらもはやエスパーです。僕が混乱して倒れたのも仕方ないというものでしょう。
 赤司くんはやはり腕組みをし、ちょっとそわそわした様子です。
「ああ。性欲を漂わせている人間が横にいては僕が落ち着かない」
「おまえがそれを言うのかよ……」
 どうやら赤司くんは降旗くんの危険な色香を吸い込んだ影響がまだ続いているようで、安全弁の外れた火炎放射器のごとく、自らもまたお色気を放っています。こんな赤司くん、はじめて見ました。とても色っぽく、それでいて爆発物のような危険を感じます。
「別におまえに性欲を刺激されることは一切ないが、いまは僕も平静を欠いているから、連鎖反応になったら嫌なんだ。直接的原因でないのは明白とはいえ、おまえに誘発されるのは非常に不愉快だ。だからさっさと解消しろ、迷惑だ」
「自分で連れ込んでおいてそれ言うか。だいたい、おまえがムラムラ来てるのはどう考えたって俺のせいじゃねえよ」
「むしろ赤司くんのムラムラが周囲に伝播しそうな勢いですね……」
 赤司くんははっきり言葉にして認めようとはしませんが、このメンツの中で現在断トツでムラムラしているのが赤司くん自身であるのは明白です。
 しかし彼はなおも冷静な表情のまま僕に命じます。
「テツヤ、恋人の義務だと思え。早く火神を落ち着かせろ」
 赤司くんこそ、降旗くんへの義務を果たしていないと思うのですが。いえ、彼らの認識ではふたりは恋人ではないのですが……。しかしセフレではあるのですから、やっぱり性欲を解消させてあげる義務はあるのではないでしょうか。とはいえいまこのへんに突っ込むとややこしくなりそうなので、口に出すのはやめておきました。
「赤司くんが一番落ち着いていないのでは? とりあえず服着ましょうよ」
「話をする段になったらきちんと着衣する。おまえたちがセックスしている間は写経を続けるから、いま着る意味はない」
「いや、セックスはいいから。っつーか、おまえがいるのにできるわけないだろうが」
「だから僕のことは壁の染みだとでも考えろ」
「こんな存在感のある染みがあってたまるか!」
「では壁の花か、観葉植物だとでも。残念ながらテツヤの体質は真似できないが、読経を控えればほぼ音源とはなり得ない。安心して無視し、励むといい」
「存在感レベルの話じゃねえ!」
 もはや赤司くんの頭には、僕と火神くんをセックスさせることしかないようです。ここまで思考が単純化されるとは、赤司くん、相当キていると見て間違いないでしょう。
「火神くん、赤司くん相手に口論しても勝ち目がありませんし、第一無意味です。諦めるのが大人の対応というものです」
「諦めて済むならそうするけどよ……どうすんだよこの状況」
 弱りきる火神くんに、僕が冷静かつ真面目に提案します。
「すべての事情を把握したわけではありませんが……とりあえずひとつずつ消化していくのがベターでしょう。そんなわけで火神くん、まずは僕とセックスしましょう」
 そう言って、僕は火神くんの首に腕を引っ掛けました。一発やらないことには赤司くんが納得してくれそうもないのですから、話を効率的に運ぶにはこれが一番だと思います。
「おい!? なんでそうなる!?」
「発情中なんでしょう? 放っておいたら苦しいのでは?」
「いや、とっくに萎えてるから! こんな異様な状況で欲情が続くわけねえだろ! むしろ萎縮するわ!」
 火神くんの空気を読まない発言を受け、僕は彼の下着のウエストを引っ張り、中をのぞき込みました。本人の申告通り、火神くんの火神くんはおとなしいものでした。
「……あ、本当ですね。火神くん、やっぱり繊細ですよねえ」
「おまえらが図太すぎるんだよ……」
 僕と赤司くんを交互に見やる火神くんはたいそうお疲れの様子です。僕に下着を引っ張られても、もはや抵抗しません。
「火神、本当に大丈夫なのか。遠慮はいらないぞ」
「遠慮じゃねえよ」
「むしろ僕のほうが火神くんの裸にムラムラしてきました」
「やめてくれ」
「そうか。なら火神、責任をとってテツヤとセックスをしろ」
「無茶言うな! っつーか、自分のこと棚に上げて他人の責任追及すんなよ。あんな降旗放置して――あ」
 言い掛けたところで、火神くんは今度は慌てて自分の口を手で覆いました。赤司くんの前で降旗くんの名前を出すことを恐れているようです。自己の失言に対する後悔の浮かぶ火神くんの視線の先では、赤司くんがうつむいていました。
「降旗……」
 しばらく微動だにしなかったあと、ふいにゆらりと肩を揺らしたかと思うと、膝立ちになってテーブルに向き直りました。
「あ、赤司くん? どうしました?」
「失礼。ちょっと写経を」
「え?」
「いや、原因がわからないのだが、なぜか降旗のことを考えるとひどく心が乱れるんだ。以前からある現象なのだが、今日はとりわけひどい。実は、この不可解な現象についておまえたちに相談したいと思い集まってもらったのだが……僕自身がこの調子ではうかうか話題にも出せないな。困った……」
 片手で額を抑え、赤司くんが大きくため息をつきました。ここまで露骨に困り切っている赤司くんの姿は貴重です。
「は、はあ……」
「まあいい。下手に考えると余計煩悶が増す。とりあえず写経することにしよう」
 独り言のようにそう言うと、彼は再び写経に取り掛かりました。邪魔をするのもはばかられ、僕と火神くんはそろそろと彼から距離を取り、ソファの後ろ側まで移動しました。
 写経する赤司くんの裸の背中を眺めながら、火神くん相手にぼそっと呟きます。
「心が乱れるっていうか……赤司くん、どう見たって欲情してますよね」
「もしかしてこれ……赤司的なオナニー?……なのか?」
「なんという新ジャンル……」
 写経を自慰の代わりにするなんて聞いたことがありませんが、まあ赤司くんならアリかもしれません。といっても本人にそんな意識はないのでしょうが。彼はあくまで心を落ち着けたくて写経をしているのだと思います。先ほどの発言からすると、目の前に降旗くんがいないのになぜ性欲を刺激され続けているのかわかっていない様子でした。ということは、赤司くんの自意識ではいまよくわからないけどムラムラしていて、それをなんとか治めようと努力しているわけです。そう考えると、必死に写経に励む彼の姿は涙を誘います。
「赤司くんが色気垂れ流しになってるのって、もしかしなくても、降旗くんの誘惑にムラムラ来た余波が続いているせいでしょうか」
「あー、そうかもな。あのときのあいつ、まじで我を失ってたっつーか、フェロモンに吸い寄せられたオスって感じだった。文字通りクラクラしてた」
「降旗くん……いったい体から何を散布しているのでしょうか」
「さあ……」
 赤司くん限定で絶大な効果のあるフェロモンでも振り撒いているのでしょうか。
「赤司くん、降旗くんとちゃんとセックスしておけば、こんなことにはならなかったのでは」
「まあ、あいつなりに降旗を思ってのことなんだろうが……」
「それにしても、降旗くんとセックスしないとあんな状態になっちゃうんですね、赤司くんってば……。最初に図書館で強引に迫ったのも、わからないではないです。これは解消したくもなるでしょう」
 相談されたときの口ぶりは冷静だった赤司くんですが、実際は結構切羽詰まりながら降旗くんに迫ったのかもしれません。降旗くんを見るだけでこんなに性欲を刺激されるのだとしたら確かにつらいでしょう。降旗くんの立場からしたら大変な恐怖だったと思いますが。
「あいつ……どんだけ降旗に性欲刺激されるんだろうな。っつーか、あの赤司をこんなにしちまう降旗が怖ぇ」
 恐れ入るとばかりに火神くんが肩を震わせました。
 そうですね、ある意味赤司くんに対する絶対的な勝利カードの持ち主ということになるでしょう。でも降旗くんもまた赤司くんに魅了されているのですから、結局おあいこかもしれません。もうさっさとセックスしてくださいよ……。
 そう考えたところで、ふと気づきました。赤司くんが降旗くんに欲情するように、降旗くんもこうなっているとしたら……アパートにひとり残された彼はいま、どうしているのでしょうか。とてもかわいそうな想像しか浮かばないのですが……。

 

 

 

 

 

 

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