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『黒子のバスケ』の二次創作小説置場。pixivに投稿した作品を保管しています。腐向け。主なCPは火黒、赤降。たまにシモいかもしれません。

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やりすぎのレクチャー 2

 僕が耳の裏や首筋を舐めたり、おへそに指の先を差し込んだり、脇を撫でたり、乳首を押しつぶしてみたりと、ごく一般的でおもしろみのない、きわめてオーソドックスな愛撫を施していく間、蛇に睨まれた蛙どころかメドゥーサに石化させられた元人間のごとく硬直していた降旗くんでしたが、下着のウエストに手を差し込んだところで、ばた、と緩慢に足を動かしました。一応キックのようです。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 駄目! 絶対駄目! ほんと駄目だよこんなの!」
 重ね重ね申し上げておきますが、僕は降旗くんの体を一切拘束していません。体の中央辺りに乗っているので体重は掛かっていますが、手足は自由に動かせるはずです。しかし彼はアイマスクをつけたまま。視界が暗いことに困惑している様子は見受けられるのですが、自分から外そうとはしません。そういうふうに調教でもされているのでしょうか。それとも、自力で外せることに気づいていない? あるいはその発想さえない? 何にせよ、降旗くんはここに至るまで抵抗らしい抵抗がありませんでした。怯えて固まっているだけでした。軽く意識が飛んでしまったのかと少々心配していたので、彼が大声を上げて抗議をしたことには、驚くというよりむしろほっとしました。
「どうして? 疑問点をひとつずつ明らかにしていくことが、解決への第一歩でしょう」
 しれっと答える僕に、降旗くんが震える声で抗弁します。
「でも、だってこれ……! う、浮気じゃん!?」
「降旗くんは赤司くんとおつき合いしていたのですか?」
 浮気という考えが出てくるということは、それが成立しうる関係を結んでいるという意識があるということでしょう。つまり交際関係にあると。性感染症を持ち込まないために特定の相手以外と接触しない旨の約束を交わすセックスフレンドも存在するとは思いますが。
「それは大変です。僕、間男ですか。赤司くんに殺されちゃいますね」
 赤司くんの現状の認識だと浮気は成立せず、僕が殺害対象になることは考えにくいですが。なんかむかついたという理由で感情のままに殺しにかかってくる可能性はなくはないですが、彼は一応理性的だし疑問点は順次解決したいタイプのひとなので、その前になぜ降旗くんと僕がセックスをしたことによって自分の感情が掻き乱されるのかといった点について悩むと思います。降旗くんに貞操義務なんてものがなく、彼が僕とセックスしてはいけない道理がないことも理解するでしょう。その程度には、僕は赤司くんを信用しています。心配なのは、果たしてこの程度で彼の感情が乱されてくれるかということです。
 僕があまり一般的でない懸念を抱いていると、降旗くんが真っ当な意見を述べました。
「いや、おまえが! おまえこれ浮気だろ! 火神はどうしたんだよ!」
 そうですね、これが僕の完全なる独断だったらそうなるでしょう。
「何言ってるんですか。降旗くん、火神くんに相談したんでしょう? 火神くんだって事情を把握しているに決まってるじゃないですか」
「そ、それって……」
「はい。火神くんも了承済みです」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
 はい、火神くんにもこの件は事前にお話してあります。もちろん止められましたけど、彼にはやる気に満ち溢れる僕を阻む術がなかったのです。止められなかったということはすなわち同意してくれたと同義ととらえてよいかと思いますので、浮気には該当しません。うん、実に平和的ですね。
「火神くんは寛大ですし、僕のことも降旗くんのことも信頼しています。僕と降旗くんがこうすることについて、彼は何も心配していないんですよ。間違いなんて起きようがないんですから」
「いままさに起きていますけど!?」
「必要な措置だから問題ありません。こんなのノーカンです。浮気になんて当たりません。火神くんはむしろ友人を助けるために手を尽くすべきだと、応援してくれたくらいです」
「なんだそれ!?」
 このへんは少々事実をねじ曲げていたりしますが、気にせずに。概要は合っています。少なくとも火神くんに何の相談もなく行動しているわけではありません。
「そんなわけで僕と火神くんの仲についてはご心配なく。至って良好ですし、ここで僕がきみと寝たところで関係に亀裂が入ったりはしません。そんなに浅い仲でもないので」
「な、なにそれなにそれ!?」
「火神くんと僕、どっちがお相手するのがいいのか悩んだのですが、赤司くんに体格が近いのは僕のほうなので、僕に決まりました。いや、赤司くんに比べると大分貧相ですけど。火神くんだといろいろ大きいので、降旗くんが怖がっちゃうかなー、と。火神くんのほうが優しいんですけどね」
 僕の普段の手順は初心者にとっては多少刺激が強いかもしれません。今回は封印するつもりでいますけど。火神くんの基本手順にならったかたちで進めたいと思っています。火神くんほんと優しいので。……ああいけない、思い出すと抱いてほしくなってしまいます。僕はタチ、僕はタチ、僕はタチ……。よし、セルフマインドコントロール終了。
「あ、きみの話によりますと、赤司くんもとっても優しいみたいですね。安心してください、これはレクチャーです。ひどいことはしません。赤司くんが優しくて、彼とのセックスを想定するのなら、僕もまた優しくしますよ。彼のセックスを見たことはないので、僕なりのやり方にはなりますけど」
 ウエストに突っ込んだままの手を更に奥に差し込みます。降旗くんが肩を前後に動かし逃れようとしますが、僕の体重が掛かっているのでまったく体をずらすことができません。
「くろ、こ……や、やめ……」
「まあ、まずは愛撫ですよね。これは重要です。さっきからやってますけど。お互い触りっこするのがいいと思うんですが、今日は降旗くん緊張の極みみたいですから、僕がサービスしましょう」
 左の首筋に唇を寄せ、ちょっとだけ強めに吸いました。降旗くんはあからさまに肩をすくめ体に力を入れました。アイマスクをしていますので見えませんが、目を固く瞑っていることでしょう。
「ひゃっ……」
 僕の唇が離れると、彼は慌てて唾液の残る部位に手を這わせました。はじめて自発的に腕を持ち上げたかもしれません。
「あ、そんな心配しなくても、痕つけたりはしていないです」
 アイマスクを取ったところで、鏡がなければ確認できない位置です。降旗くんはしきりに不安そうに首に触っていました。そういえば、降旗くんの体にはキスマークが見当たりません。ここ数日赤司くんとしていないのでしょうか。それとも普段から痕は残さない習慣なのでしょうか。ちなみに僕の体にも現在そういった痕はないと思います。今日この日のため、清らかな体を演出するべくしばらく禁止していたのです。そういうのがはっきり見えてしまうと、AVを見ながら脱衣したとき、降旗くんがたじろいでしまうかと考えてのことです。この作戦が終了したら解禁となりますので、その暁には火神くんに思う存分あちこち吸っていただきたい所存です。期待していますね、火神くん。
 ……ええと、僕は降旗くんを抱ける、僕は降旗くんを抱ける!
 洗脳完了。どうも火神くんに抱かれたいスイッチが入りやすくていけません。性的な雰囲気になるとどうしてもそっちの思考になってしまうんです。自分の残念な思考回路と闘いながら、僕は降旗くんの下着の中をまさぐりました。まずは手の平で軽く押さえてみます。生温かいだけで、静かなものです。いえ、むしろ萎縮しているような。
「あー……やっぱ反応してませんね。精神面がもろに反映されるタイプのようで」
 指で円をつくりやんわりと握り込んで前後に動かしてみます。降旗くんはしゃっくりのような声を上げたあと、がたがたと震えはじめました。泣きの入った声で僕に訴えます。
「や、やめてくれよ黒子……こ、こんなことして、何がわかるっていうんだよ……」
「だから、赤司くんが怖いのか、男性とセックスするのが嫌なのか。相手が怖いという要素があると、後者が判然としないでしょう? だから僕で試してくださいということです。僕なら怖くないでしょう? 知らない相手ではないし、その気になれば押しのけられますし。僕、きみの自由を奪ったりしていませんよ?」
「こ、怖いよ……黒子、なんか怖い……」
「アイマスク外します? いまの状態だと、赤司くんを想像する余裕なんてなさそうですから」
 結局降旗くんはアイマスクを自分で外すことさえできませんでした。僕が指先でバンドの部分を引き上げアイマスクを取ると、降旗くんは眩しさに顔をしかめましたが、視界が開けたことで少しだけ脱力しました。顔をのぞくと、思ったとおり、目元が涙で濡れています。本当に泣いていたようです。僕は鼻が当たるくらいの距離まで彼に接近すると、彼の両の頬を手で包み込み、極力優しい声音で言いました。
「ほら大丈夫、僕ですよ? 暴力振るったりしませんし、力も強くありません。体重もきみと同じくらい。怖くないでしょう?」
「あ……あ……」
「もうちょっとがんばってみましょうか」
「そ、そんな……」
 浅く速い呼吸の中、苦しげに短い言葉を返す降旗くん。時折ひゅうと喉が鳴ります。涙に濡れた顔と怯えきった表情が扇情的です。とってもイケナイ光景です。残念ながら僕は大丈夫ですが、人によってはたまらなく劣情を刺激されるのではないでしょうか。
 僕は降旗くんの震える肩に右手を置き、間近でささやき声を落としました。
「ねえ降旗くん。赤司くんとセックスするとき、いつもこんなにガチガチに緊張してるんですか?」
 赤司くんの名前に反応したのか、降旗くんは顔を上げると、ふるふると頭を横に振りました。
「し……してない、と……思う。緊張は、どうしても、するけど……あ、赤司は怖くないよ。セックスのとき、あいつ、すごい、優しいから……」
 途切れがちになりながらも、意味のある文を紡ぎました。内容はまあ……赤司くんに満足しているというような感じのものでした。降旗くんは赤司くんとのセックスを怖いとは思っていないと主張します。……よし、あとちょっと。
「そうですか。ということは、降旗くんは赤司くんが怖いからうまくセックスできない、というわけじゃなさそうですね」
「え……」
「それなら、緊張してしまう原因は恐怖ではなく、きっとほかにあるんですよね。いま降旗くん、すごく緊張していますけど……それは怖いからですか?」
「そりゃ怖いよ。な、なんでこんなことするんだよ、黒子……」
「そうですか。まあ慣れない相手ですからそれも仕方ないでしょう。でも、一年もセックスしている赤司くんが相手でも、やっぱり緊張しちゃうんですよね。それも怖いから? いま僕相手に感じているみたいに?」
「それ、は……」
 ここで再び降旗くんのものに直接刺激を与えました。彼はびくっと体を痙攣させ、目尻に涙を溜めます。
「く、くろ……」
「やり方は少々強引だとは自覚しますが、僕も物理的、身体的に強硬なことをしているわけじゃありませんし、身体能力でいったら赤司くんよりはるかに脅威は低いはず。なのになぜ、きみは赤司くんより僕を怖いと思うんでしょうね?……僕のことが嫌いだから、触られるのが嫌?」
「そ、そういうわけじゃ……」
 降旗くんは緩く首を左右に振ってから、言葉に詰まってうつむいてしまいました。このまま考えこんでしまいそうな雰囲気ですが、
「なぜでしょうね。きみへの問いなので、僕は答えを知りません。もっとも、いまはあんまり思考に向く状況じゃありませんね。……あとでゆっくりしっかり考えてみてください」
 そうささやいてから、僕は手を動かしました。まったく反応がないわけではありませんが、緊張の度が強すぎるせいか、下のほうはかなり集中力散漫です。下着を完全に取っ払ってしまっても、脚を持ち上げても、彼はほとんど抵抗しません。友人の僕に対し乱暴な手段に訴えるのがはばかられるのか、精神的な硬直が身体にまで及んでいるのか、いずれにせよ、彼はこういうとき動けなくなってしまう傾向があるようです。泣きながら嫌がっているのに、行動はおとなしいのです。現在はどうかわかりませんか、赤司くんとの最初のセックスもこんな感じだったのでしょうか。だとすると、赤司くんは相当辛抱強く降旗くんとの関係を進めたのでしょう。でなければ降旗くんがここまで信頼するようにはならないと思うのです。まあ、彼がストックホルム症候群的な絆され方をしている可能性もなきにしもあらずなのですが。
 半べその降旗くんに罪悪感をつつかれつつ、やるときはやる男な僕は、せっせと手を働かせました。が、なんというか、多分徒労に終わりますこれ。病気かと疑いたくなるくらい縮こまってます。いくらびびっているとはいえ、ここまでとは……。赤司くんの苦労が忍ばれます。
 このまま続けても詮ないと判断した僕は、彼の左脚を自分の肩に引っ掛けると、更に奥のほうへ手を滑らせました。たどり着いたくぼみにぐっと中指の腹を押し当てます。一際大きく彼の体が跳ねました。
「ここも、触り合ってはいるんですよね?」
「黒子、それはやめっ……」
 降旗くんが制止の声を上げ、ばたばたと脚を暴れさせました。とはいえぬるい動きですので無視できてしまうほどです。仰向けだと彼も苦しいでしょうし僕も支え続けるのはつらいので、ころりと横向きにしてしまいました。背もたれのほうに背後を向けさせたので、視線の先は床という状態です。たいした高さではありませんが、寝そべっていると高低差は結構強く感じられるものです。床への落下の恐怖があるのでしょう、彼は再びおとなしくなりました。僕はソファのアームを開くと、中からローションのボトルを取り出しました。量は十分。今日の午前中、家中のローションを抜かりなく補充しておきました。準備は万全です。
「ローション使うのでちょっと冷たいかもしれません。でも冷水ってわけではないので、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ」
 焦らしや言葉でのプレイを実施する予定はないので、宣言通り、すぐにローションのキャップを開け、指に絡めました。多少体温になじませましたが、少しひんやりとした感触の残る状態で濡らした指を差し込みます。
「うっ……」
「なるべく楽にしていてください。大丈夫、ゆっくりしますから」
 横向きのまま、頭の下に敷いてあるクッションをぎゅっと握る降旗くん。目も固く瞑って耐えています。なんと危険な香りのする仕草と表情でしょうか。赤司くんよく耐えられるなあと、少しだけ彼を見直してしまいました。なお、なぜ僕がこのように平然としているかというと、畢竟僕は火神くんでないと反応しない体だからです。けっして不能なわけではありません。これが火神くんだったらタチとかウケとかどうでもよくなって、ひたすら快感を与え合いたいという思いだけが頭の中で大炎上していることでしょう。……でもやっぱり火神くんに抱いてほしいのが本音です! 抱いて火神くん僕を抱いて!
 ああいけない、このままでは降旗くんを抱けない……! 僕はタチ、僕はタチ!
 自分の中の相反する素質を抑え込みながら僕は何度目になるかわからない自己暗示を掛けました。このたゆまぬ努力が泣かせるでしょう?
 僕は衛生のため、使い捨てのキャップをボトルに取り付けると、その先端を少しだけ差し入れ、ボトルの側面をゆっくり押します。中の液体がじわじわと侵入していきます。
「あっ……や、つめたっ……」
「ちょっとだけ我慢してください。じきに温まりますから」
 全体の三分の一ほどの量を何回かに分けてじっくりと注入します。中から液体が逆流してくるくらい十分に濡らしたところで、まずは試しに小指だけ挿れます。大丈夫そうだったので人差し指に変えました。ちょっと馴染ませてから今度は中指……というように段階を踏みます。ローションによって内壁が潤んだ感じがするのがなんとも淫靡です。彼は折り曲げたまま閉じた膝頭を震わせています。何かが侵入する感覚への抵抗感は少ない様子だったので、次に内部を探ることにしました。中指が完全に埋まる手前で留め、関節を軽く曲げて圧を加えながら、内壁に指を這わせていきます。
「位置的にはこのへんでしょうか。ちょっと押したり擦ったりしますね。痛くはないと思いますが」
 降旗くんの体格を考えるとこの程度の浅さでいいだろうと根拠もなくアタリをつけ、指の腹を気持ち強めに押し付けます。何度か移動させたところで、
「あっ」
 反応が上がりました。なるほど、このへんですか。心得ました。
 強めに押しながらついっと指の腹を滑らせます。降旗くんは喉から短い悲鳴を上げながら、肩をびくびく跳ねさせます。彼の指先が沈み込むクッションが深い皺を描いています。かなり体に力が入ってしまっていますが、中で小さく動かすことに支障はありません。引き続き刺激を与えることにしました。彼のきつく閉じた目の端から涙が落ちていきます。表情は苦悶が目立ちますが、どこか蕩けているようでもあります。
「ひぅ……」
「ある程度慣れてはいるみたいですね、ここの感覚。慣れないうちは感覚自体よくわかりませんから。一度知っちゃうとヤバイですけど。気持ちいいですよね~、ここ触られると」
 ここを押さえられたら気持ちよくなるのは当たり前ですよ、というつもりで軽口を叩きました。ほら、感覚を共有できる仲間がいると心強いかなって。別に降旗くんがおかしいわけじゃないですよ、男なら誰もが気持ちよくなるんです。開発は必要ですけど。それのほら、僕のほうが断然エロい体してますから、大丈夫ですよ! もう火神くんに埋めてもらわなきゃどうにもならないってくらい。あと火神くんもたいがいエロいので大丈夫です。何がどう大丈夫なのかよくわかりませんけど。
 降旗くんは挿入の経験こそないようですが、その手前までは赤司くんとしているようで、まあなんと言いますか、いわゆる「あ、開発されてるな」という感じの反応です。ちゃんと快感を拾えるようになるにはコツというか慣れが必要ですので。
「く、くろこ……おねがいだよ、やめて……ああっ!」
 彼はもじもじと緩く膝を交互に動かしつつ、縋るものを求めるように片手を宙にさまよわせました。その手もじきにだらりと床に向けて落とされ、浅い呼吸音が小さく響いて来ました。
「気持ちよさそうですね……うぅ、見てると僕も挿れてほしくなっちゃいます。はあ……結局ネコなんですよね僕……でも、ここではがんばっちゃいます」
「うっ……ふ、あ、あぁ……」
 ああ、駄目です、僕のほうまで疼いてきてしまいました。火神くん、僕の後ろをいじってくれませんかね。いろいろ辛抱たまらない状態になってきました、僕のほうが。ちょっと本来の目的とは逸れますが、僕は降旗くんの左の太腿に跨り、会陰のあたりを少しだけ擦り付けさせてもらいました。あんまり紛れないというか、むしろ逆効果でしょうかこれ……。
 降旗くんのほうはと言いますと、泣いているというか鳴いているというか……な状況です。少なくとも肉体的には気持ちがいいのだと思います。相変わらず緊張していますが、先刻より力は抜けてきています。無意識の反応だとは思いますが、そのほうが楽だし快感を得やすいと知っているのでしょう。
 大分柔らかくなってきたので、僕は彼に差し込んだ人差し指と中指をわずかですが逆方向に動かそうとしました。
「すみません、ちょっとだけ広げていいですか?」
「あぅっ……」
「大丈夫、無茶はしませんので」
 気持ちのいいところは常に押して差し上げるように気を配りつつ、浅いところを広げるような動きをします。降旗くんは歯を食いしばってその感覚に耐えていますが、ときどき甘ったるくくぐもった声が漏れてきます。
 しばらくいじっていて感じたのですが……これ普通に入りますね、きっと。赤司くんの赤司くんが非常識なサイズでなければ、普通に挿れることができると思います。その程度には馴染んでいます。狭義のセックスには至っていないという当事者からの証言がなければ、絶対に経験があると判断していたことでしょう。そう確信を持てるくらいには、慣れた感じがします。感触がこう……物欲しげと言いますか、期待していることがわかると言いますか……ああ、挿れてほしいんだな、と察知できます。僕の指は比較的細いですし、降旗くんにお約束したとおり、無茶な動かし方はしていませんので、このくらいは彼にとって厳しいものではないと思います。つまり、彼は赤司くんとのセックスでこの程度の状態になった経験があるのでしょう。それも偶発的に一度や二度というわけではなく、習慣的に。
 ……。
 …………。
 ………………。
 ええと、いま自分の血の気が引く音が聞こえました。あまりの由々しき事態を目の当たりにしたことによって。
 ちょ、えっ……あ、赤司くん!? きみ、この状態まで降旗くんをもっていった挙句、お預け食らわせてるってことですか!? なんというひどい焦らしプレイ。かっ、かっ、かわいそう、これはかわいそうです! ここまでやってるんなら、もう挿れてあげてくださいよ! こんなになってるのに挿れてあげないとか、それもういじめですからね? 何やってんですかあのヘタレ。ここまでやっておきながら、その先に進めなくてウダウダしてるとか。好きな子は大事にしたいってことですかそうですか。でも、気を遣っているつもりなのかもしれませんが、それは逆に残酷です。僕が火神くんにこんなことされたらとっくにキレて襲いかかっていると思います。いや、いくらなんでも降旗くんが赤司くんに襲いかかるのは難易度高すぎると思いますけれど。っていうか僕だって嫌ですよ、赤司くんを襲うなんて。怖いとかいう以前に、不気味で嫌です。あんなのと合体するとか恐ろしすぎる。だって人間かどうかもあやしいじゃないですかあのひと。もし本当にエイリアンで、地球人とは生体レベルで相性が悪く、合体した瞬間に局部が謎の化学反応を起こして体が爆発したらどうするんですか。恐ろしい。あれとつながりたいだなんて、降旗くんはとんだ勇者です。
 ……失礼しました。ちょっとフラストレーションが溜まっていて、愚痴っぽくなりました。
 と、ここで僕は赤司くんの話を思い出しました。降旗くんは赤司くんに対し、あまり意見や要求を言わないそうです。あのひとにおいそれとお願いなんてできるものじゃないのはわかりますが……降旗くん、このあとどうしてほしいのか赤司くんに伝えられていないんでしょうね。赤司くんは頭のいい馬鹿であり、同時に人類の色恋については絶望的に鈍感で明後日な解釈ばかりして、ベッドにさえそれを持ち込んでいるっぽいので、はっきり告げなきゃわかってくれないと思います。恥ずかしいのはわからないでもないですが、ここはいっそ「挿れて」とはっきり言うべきです。その恥ずかしさもいずれ新たな快感になりますから! 
 とはいえ、降旗くんは後ろでは感じていますが、前のほうはやっぱりいまいち元気がないので、そこの反応を基準に赤司くんが降旗くんの快感を測っているとすると、いくら降旗くんが挿入を希望したところで赤司くんは躊躇するかもしれませんが……。となると、降旗くんの息子くんを活発な子に変えることを考えなければならないのですが、どうも彼は恐怖を感じたり緊張していると――本人の表現を借りると、びびっていると――反応が悪いようです。とてつもなく。でも彼が赤司くんに対して感じる恐怖の大部分の正体は、僕や火神くんの推測が正しければ、赤司くんに対する恋愛感情だと思われます。いまは頭も体も勘違いをしてしまっているのでしょう。そこを自覚し、勘違いを解いてあげれば、ちゃんと反応するようになり、念願のセックスに至れるのではないでしょうか。問題は、降旗くんの誤解をどう解くかということですね。
 長考している間であっても奉仕の精神は忘れない僕です。自分でも気づかないうちに指を出したり抜いたりと、行為を思わせる動きをしていました。太さも感触も全然違いますけど。降旗くんはかなり焦れているようで、頬を紅潮させ涙を滲ませ、苦しげな、それでいて熱っぽい呼吸を繰り返しています。なかなか扇情的な光景ですが……これ以上は本気でかわいそうです。
「あの、降旗くん……ここまで来ると、体のほうはもう、挿れてほしいって感じじゃないですか……?」
「え? や、やだっ……! やめっ……!」
 僕の言葉をどうとらえたのか、降旗くんははじめて抵抗らしい抵抗を見せました。いまだ震える腕をソファにつき、上体を起こすと、僕の体を押しのけようともがきます。無論、快感でへろへろになっているため、力なんて幼稚園児のパンチほども出ていないのですが。
「くろこ、ほんと、たのむから……それはやめて……」
「大丈夫ですよ、慌てなくても。わかってます、降旗くんは赤司くんにしてほしいんですよね」
 心配せずともこの先には進みませんよ。さすがに降旗くんがかわいそうすぎます。だって彼、赤司くんに抱かれたくて仕方ないんですよ? そこは守ってあげなければいけません。弱いながらも彼なりに必死で抵抗を見せているのは、赤司くん以外のひとにされるのは嫌だという強い思いがあるからでしょう。
「赤司くんがいいんでしょう?」
「あ、あかし?」
 赤司くんの名前に降旗くんは強い動揺を見せました。瞳を揺らし、唇をわなわなと震わせます。
「はい。赤司くんじゃないと嫌なんですよね。こういうことは、赤司くんとじゃないと無理なんでしょう? どうしてそう思うのか、自分でわかりますか?」
 いまここで回答を出すことは期待していませんが、この問いが彼の心に響くことを祈ります。……それを願うには、ちょっと追い詰めすぎてしまった気がしないでもないですが。
「あ、あかし? あ、あか、あかし……赤司……赤司……!」
 降旗くんは前髪を右手でくしゃりと握り締めると、まばたきを忘れて目を見開き、壊れたオルゴールのようにひたすら同じ音を紡ぎだしました。赤司、赤司、とひたすら赤司くんの名前を呼んでいます。助けを求めているという雰囲気ではありません。ただただ縋っているような印象です。それが一番自分にとって安心できるものだというように。
「降旗くん? 大丈夫ですか? これ以上は何も――」
「ふ、ふえぇぇぇぇぇぇん! あ、あ……赤司ぃぃぃぃぃぃぃ!」
 な、泣かしてしまった!
 いえ、もうずっと彼は断続的に泣いていたのですが、これは恐慌状態といっていいレベルです。小さな子が混乱したりびっくりしたときに、お母さんお母さんと泣き叫ぶようなものです。張り詰めに詰めていた緊張の糸が切れてしまったのでしょうね……。
「ふ、降旗くん……」
「あかしー! あかしー! あかしー! ひっ、く、え、えぇぇぇ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
 成人男子が子供のように大泣きする光景を目の当たりにしたのははじめてです。やっぱりやりすぎてしまったでしょうか。レクチャー失敗?
 でも、ここで赤司くんの名前を連呼するということは、つまりは、ねえ……?
 錯乱して誰かに縋りたい心境で、全面的に恐怖感を覚える相手の名前をひたすら呼んだりするでしょうか。普通は、一番頼れると思う人を、自分にとって安全基地と呼べる人を求めるのではないでしょうか。降旗くん、わかりますか……?
 目元を手の甲で拭いながらえぐえぐと泣き続ける彼にこれ以上パニックを与えないよう、僕はそろそろと彼の肩に手の平を置きました。これまでは意図的に性的な含みを持たせて触れていましたが、いまはまったくそういう意識はしていません。なので彼も特に怯えませんでした。というより、気づいてもいないといったほうがいいでしょうか。泣き声は小さくなってきましたが、彼はいまだ赤司くんを呼び続けています。それ以外考えられないとでもいうように。僕は謝罪と労りを込めて彼の背を撫でました。
 と、そのとき。
 背後から影が差したかと思うと、大きな手が僕の手首を音もなく掴みました。
「そこまでだ」
 おや、邪魔が入ってしまいましたか。僕の役目はここまでのようです。
 そんな怖い顔しないでください。僕は悪役を引き受けただけです。僕は誰かさんと違って降旗くんに性欲を刺激されることは絶対にないと言い切る自信があるので、このような暴挙に打って出られたのです。何なら証拠にパンツ脱いでみせましょうか? 御覧くださいこの萎えきったままのしおらしい僕を。僕は元々ネコな上に、火神くんにしか反応しないんですよ。なのでこれ以上はどのみち無理なんです。きみが止めに入るまでもなく。つまり僕は究極の安全牌というわけです。
 はい、僕は降旗くんを抱くことはできません。最初からわかってましたよ。だから涙ぐましいほどに自己暗示を掛け続けたんです。でないと途中で心が折れそうでしたから。結局無駄でしたけど。まあこれでいいんですが。これも当初の計算通りですので。予定通り授業を進められるなんて、僕って優秀な先生でしょう? ちょっと降旗くんをいじめすぎちゃったかなと、反省しないではありませんけれど。でも、荒療治に乗り出さないと永久に膠着状態だと思うんですよ、このバカッポゥ。



 

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