赤降でなおかつ、赤司の飼っているオス猫×降旗の飼っているオス犬というビーストラブです。擬獣化ではありません。設定的には大学生赤降の未来みたいな?
適当かつご都合主義な設定
よくわからないがすでに出来上がっている赤降。社会人。ペットOKのアパートで一緒に暮らしている。降旗が実家で飼っていた犬を連れてくる→その後赤司が親戚から子猫を一匹引き取る、といった流れで二人+二匹の同居生活に。
コウ:降旗の飼っている犬。オス。柴っぽい雑種。大きめの小型。初老。去勢はしてなかったけど病気で精巣摘出した。おとなしくて臆病。犬だけどネコかもしれない。
セイ:赤司の飼っている猫。オス。雑種。白と黒のバイカラー。普通の大きさ。青年。去勢済み。クール。運動能力が高い。猫だけどネコじゃないらしい。
コウとセイは、降旗→「お兄ちゃん」、赤司→「パパ」と認識。コウが降旗父を「お父さん」と認識しているため、赤司は「パパ」になった。降旗と赤司は、ペットに話しかけるときは互いに「パパ」「お兄ちゃん」と呼び合う。
降「パパに抱っこしてもらいな」
赤「お兄ちゃんが呼んでいる。行きなさい」
みたいな感じ。
よろしかったらどうぞ↓
アパートとマンションの中間ほどの規模の集合住宅の一室、表札のないその部屋を訪れていた黒子は、膝の上でまったりと寝そべる猫の脇腹を撫でてやりながら、向かいに座る降旗と会話を交わしていた。降旗に出された紅茶と、黒子がおみやげに持ってきた火神レシピのシフォンケーキをつつきながら。降旗の緩い胡座の上には、隙間にフィットするようにして、柴やビーグルほどの大きさの犬が丸まっている。どちらもここの家主である赤司と降旗のペットである。より正確には、猫の飼い主が赤司で、犬の飼い主が降旗というように所有及び責任の所在が分かれているが、普段はふたりで一緒に世話をしている。
犬の名前はコウ。大学進学と同時に一人暮らしをはじめた降旗が最初の長期休暇に帰省した折、何の予告もなくいきなり実家の中を走り回っていた犬である。息子が家を出た寂しさに飼いはじめたということだった。名前の単純さはそこに由来しているらしい。ネーミングが災いしたのかは定かではないが、たいそう臆病な性格で、降旗がたまに帰ってくると、怖がってサークルの内側に引きこもっていた。降旗に懐いたのは、彼が就職活動を終え実家に顔を出す機会が増えてからのことだった。就職後しばらくしてアパートを替えようと思ったとき、なぜか大学時代につき合うことになった――本当になぜなのかいまだにわからない――赤司にルームシェアという名の同棲を誘われたのだが、そのときはまだそんなことなど考えていなかった降旗は、嘘にならない迂遠な辞退の表現として、「実家で犬飼ってるんだけど、最近じーちゃんとかばーちゃんの介護の関係で親が忙しくってさー、犬の世話十分みれてないみたいなんだ。だから、俺、次に引っ越すならペットOKな物件にしようと思ってるんだ。でも赤司、犬好きじゃないだろ? ごめんな、ほんと。一緒に住みたいって言ってくれて嬉しいのはほんとだよ?」と言った。だというのにどういうわけか二ヶ月後、ペット飼育可の家族用アパートに引っ越すことになっていた。月の終わりの休日、だらだらと寝ているところにいきなり引越し業者がやってきて、あれよあれよと家財道具を撤収され、住所を告げられるままに見知らぬアパートを訪れると、すでに見慣れた赤司の姿と、その胸にカチンコチンに固まって抱かれる愛犬の姿があった。犬質をとられた! と降旗が胸中で叫んだのは言うまでもない。赤司の外面は完璧だったようで、降旗の実家からは「光樹とコウをよろしく」との挨拶をもらってきたらしい。主人に輪をかけて臆病なコウだが、新しい同居人に逆らってはならないというのは本能で察したらしく、また生来おとなしく従順な性質ということもあり、どれだけ緊張と恐怖で動きがガチガチになっていようとも、彼の言うことはよく聞いた。彼のほうも意外と面倒見がよく、そろそろシニアの餌に替えようかという年齢の成犬をかわいがった。とはいえ、コウはいつまで経っても赤司に抱き上げられるとぬいぐるみのように固まってしまう癖が抜けないでいる。赤司は別に気にしていないようだが。
さてもう一匹、同じ食肉目ではあるが、科の違う愛玩動物である猫が彼らの家にやって来たのは、それから一年ほどあとのことだった。猫の名はセイ。これまた何の予告も前触れもなく、ある日突然赤司が親戚の家から引き取ってきた。自分の実家の犬を受け入れてもらった手前、文句は言えなかった降旗だったが、それとなく、なぜ猫を飼う気になったのかと本人に尋ねてみた。いわく、「もうひとりほしくなった」。降旗は彼の妙な答えに首を傾げつつ、子猫の愛らしさにノックアウトされ、特に揉めることなく家族を増やすこととなった。名前については、赤司がおもしろがって中二きわまりないネーミングセンスを発揮しようとしたのだが、見かねた降旗が「名前はシンプルなほうがいいって。それが親の愛情ってもんだよ。コウを見てよ。もう超単純。この子もさー、あんまひねらないほうがいいって。ほら、セイとか。呼びやすいしかわいいじゃん?」と説得をしたらあっさり「じゃあそれにしよう」で決まってしまった。その後、「セイとコウかぁ……成功って感じで縁起いいね」と呟いた降旗に赤司が「性交?」と台無しな解釈を真顔で返し、十秒後に意味を把握した降旗が脱力したことは言うまでもない。赤司本人に悪気はないだけに、まさしくがっくりがっかり来るしかなかった。
気の小さいコウは幼い子猫にさえ怯えて逃げ惑っていたが、セイの容赦ない甘えっ子ぶりに次第に諦めたというか悟りを開き、年寄りなりにちびっこの遊びにつき合ってやるようになった。成獣となったセイは子猫のときとは別猫ようにクールになってしまったが、相変わらずコウにはべったり甘えている。また飼い主と同じく外面がよいので、客である黒子には愛想よく抱っこされている次第である。一方コウは来客に最初少々怯え気味で、早々に降旗の膝に避難した。そのため現在のような配置で話をはじめたのだった。
黒子が彼らのアパートを訪問したのは、降旗から「うちの子のことでちょっと相談があるんだけど」と話を持ちかけられたからである。ペットの様子をうかがう目的もあり、直接彼らのすみかにやってきたというわけだ。これまでの話を聞く限り、ふたりと二匹は仲睦まじく家族生活を送っているようだったが……。
「コウくんとセイくんが交尾?」
楽しげにいまの生活を語る降旗の顔が少々青ざめたと思ったら突然出てきた『交尾』の単語に、黒子は目をぱちくりさせた。とりあえず最初に思ったのは、光樹くんと征くん(降旗はプライベートで赤司をこう呼んでいる)のセックスの隠喩でしょうか、ということだった。しかし、人間界における下世話な話ではないようで、降旗は膝の上で丸まるコウの背を撫でながら、真剣な表情で続きを語った。
「うん……最初はただのじゃれあいだと思ってたんだけど……どう考えてもセイのほうがそれっぽい動きしてるし、目撃したの一度や二度じゃないし……」
「それってつまり、セイくんがコウくんに乗っかるんですか?」
「う、うん……体格差大分あるんだけど、コウが伏せた状態のとき、セイがこう……後ろから」
と、降旗はコウの尻あたりに自分の手をかぶせ、筒を持つようなかたちで丸めた。不恰好だが、黒子は彼が何を伝えんとしているのか理解した。
「なるほど。猫の交尾の姿勢ですか」
「俺、猫のことあんま知らないけど、多分そんな感じ」
「ということは、少なくともセイくんのほうはその気があるんでしょうね」
隅に置けませんね~、と赤子に語りかけるような優しげな調子で、しかしとてもではないが子供向きではない内容をセイに語りかける黒子。何のつもりなのか、セイは意味ありげな視線を黒子に送った。黒子はセイの喉に触れながら降旗に尋ねる。
「きみらはこの子たちと一緒に寝ていたりしますか?」
「人間の布団で寝かせることはないけど、夜に寝室に入ってくることはあるよ。布団とかテーブルに乗ったりいたずらしたりしなければ自由に移動していいよって感じで躾けてあるから。まあ、セイは猫だから割とあっちこっち高いところにも乗っちゃうけど、コウは猫みたいにジャンプ力ないし、年寄りだから、そんな冒険もしないかな」
「聞くまでもないでしょうが、きみは赤司くんと一緒に寝てるんですよね。一緒の布団で」
「そ、そうだよ」
大学時代からすでに赤司との関係を知られてはいたし、相談を聞いてもらったこともあるが、改めて堂々と質問されることに妙な気恥ずかしさを覚え、降旗は声を上擦らせた。黒子はからかうでもなく、代わりにはあー……と呆れたようなため息をついた。
「……飼い主の行動を真似してるだけじゃないですか?」
ガーン! と音が聞こえそうな勢いで降旗が下顎を思い切り下げた。続いてわたわたしながら取り繕う。
「バ、バックはそんなにやらないぜ!? そもそも最後までやること少ないし! いちゃいちゃで終わることが多いもん!」
なお降旗の言ういちゃいちゃとは、性器の挿入を除くあらゆる接触である。挿れないだけで濃厚なペッティングはやってんでしょうが、と黒子は冷めかけた紅茶と同じくらいの生温いまなざしで降旗を見た。
「そんな情報聞いてませんよ。ていうか、四足の動物は普通バックです。人間みたいにバリエーションありませんから。向かい合ってとか座ってとか無理があるでしょうが」
「あ……そ、そうか」
「きみらは正常位や対面座位あたりがお好みなんでしょうけど」
「え」
「抱きついてチュッチュするのが好きなんでしょう?」
「な、なんで知ってんだ!?」
「知ってはいません。推測です。ま、いましがた知ってしまったわけですが」
うろたえはじめる降旗に、まあ落ち着いてください、というように黒子が左手を掲げぞんざいなジェスチャーを示す。
「飼い主が楽しげに、しかも気持ちよさそうにそんなことしているのを見て、この子たちも試したくなったんじゃないですか?」
コウくんやセイくんが侵入しても、気づかずというか構わずやることやってるんでしょう? 言葉には出さず黒子が視線だけで確認してくる。降旗は、あう……と苦しげでありながら頓狂な声を出すと、なんてこったとばかりに額を押さえた。
「そんな……こいつらオス同士とかいう以前に、犬と猫だぜ? しかもコウはじーちゃんの域だし」
「性別・年齢・種の三重苦ですか。でも、ペットなら別にいいんじゃないですか? 子孫残す使命もないんでしょう? ふたりとも玉とられちゃってますし」
黒子はセイをひっくり返すと、股間を確認した。オスの性器だが、睾丸はない。コウは年寄りくさく(事実年寄りであるが)、動こうともせず降旗の腿に顎を乗せて安らかな息を立てている。時折耳がぴくぴく動いてはいるが。
「コウは去勢じゃなくて病気が原因だけどな。あのときはまじで死んじゃうんじゃないかって家族中で心配したよ」
「玉をとるかタマをとるか、ですか」
「音声で聞いてもわかんないからな、それ」
珍しく品のない冗談を無表情でかます黒子に、今度は降旗が呆れたため息をついた。
「赤司くんは知ってるんですか? 彼らの交尾の件」
「いや……俺からは報告してない。もしかしたら赤司は赤司で目撃したことあるかもだけど、向こうがそういう話をしてきたことはない」
「なんで相談しないんです?」
「もし知らなかったらショックを受けるかもしれないと思って。赤司、こいつらめっちゃかわいがってんだよ」
「そうらしいですが……なんか想像できません」
黒子が虚空に視線をさまよわせながら、困ったような戸惑ったような表情をつくる。あの赤司が犬猫にメロメロな姿を思い浮かべようとしているのだろうか。飼い主馬鹿ってわけでもないんだけどな、と降旗が断りを入れる。
「猫かわいがりとは違うんだけど、節度をもって愛情注いでる感じ」
「子供みたいに?」
「そう、そんな感じ。だから下手に相談できないんだよ。だってショックだろ? 子供ふたりが合体の真似事してたら」
俺だってショックだったさ。降旗がこめかみを押さえる。
「まあでも、近親相姦では絶対にないわけですし」
慰めにならないフォローを入れる黒子。セイを見下ろし、あんまりお兄ちゃんに心配かけちゃいけませんよー、と甘ったるい声で忠告する。セイは愛想よく鳴いてみせたが、他人の命令を聞くような従順さは持ち合わせていないので、ただのリップサービスだろう。
「そういえば、セイくんのほうがコウくんに懐いてるんですっけ?」
「まあどっちもどっちだけど、セイのが積極的に飛びついてるかな。若いしね。親子というか、じいちゃんと孫というか。コウは俺に似たのかすっげー臆病で、子猫のセイにすらびびって逃げまわって震えてたんだよ、最初。セイがあまりにしつこいのと、コウ自身が年なこともあって、最終的にコウがされるがまま状態になって落ち着いたってところかな」
降旗の説明に、黒子は納得がいったとばかりに大きくうなずいた。
「飼い主とペットって似てくるらしいですね」
「俺はマグロじゃないぞ?」
「コウくん、全然動かないんですか? セイくんに乗っかられてるとき。嫌がったりも?」
「そもそも何が起きているのかわかってないかもしれない。相手オス猫なんだから、そんなことしてくるとか思わないだろ。コウはオスだし、それ以前に犬なんだから」
「この子たち、普段どんな感じでいちゃいちゃしてるんですか?」
「見てみる? っつっても人間の期待に応えてなごなごしだすかはわかんないけど。……セイ、お兄ちゃんとこおいで。コウも待ってるぞー」
セイを呼びながら、降旗はコウの前脚を掴んでおいでおいでと動かした。すると、セイが黒子の膝の上でくるんと寝返りを打って立ち上がると、一足飛びで降旗の膝の横までやってきた。
「……あ、行きましたね。さすがのすばやさです」
「コウ、眠いとこ悪いが、セイの相手してやんな」
と、降旗はセイを抱き上げると、自分の横のスペースに置いた。まだ眠いようで、老犬は置かれたときの姿勢のまま動かない。が、若い猫は構わずコウにじゃれつきだし、前脚をぺろぺろとなめはじめた。コウは嫌がらず、されるがままに脚を預けている。セイは前脚のみならず、コウの眉間やマズルの毛づくろいをし、さらには耳の中にまで舌を突っ込んだ。
「なるほど。仲良しさんのようで」
「うん、仲はいいんだ。よすぎるくらいなんだ」
「あー……降旗くんと赤司くんもこんな感じでいちゃついてるんだなあと思うと、いろいろ感慨深いものがありますね」
「ちょっ……なに妄想してんだよ!?」
「いちゃいちゃしてるんでしょう? それとも最近レスだったり?」
「し……してる、けど……」
答えにくそうに、けれども不仲と思われるのも心外なのか、律儀に答えを寄越す降旗。黒子は、そうでしょうともそうでしょうとも、と勝手に納得して首を縦に振っている。と、マグロを決め込んでいたコウが不意に頭を起こし、セイの頭を舐めた。
「あ、コウくん、されっぱなしかと思ってましたが、ちゃんとコウくんのほうからも舐めてあげるんですね。かわいいじゃないですか」
「うん、この光景にはすごい和むんだ。コウもセイもかわいいなー」
「ええ、本当に癒されますねえ」
これぞお花畑、というように実にのほほんとした空気の中、人間ふたりは思わずにっこり微笑んだ。
……と、それで終われば実に和やかなヒーリングシーンで済んだのだが。
ふいにセイがコウの後ろ脚のほうへ向かったかと思うと、コウが巻き尾なのをいいことに後ろから尻にしがみつくような姿勢で組み付いた。黒子は一瞬目を見開いたあと、降旗に視線を送った。
「……あの、もしかしてこれが?」
「うん……例の交尾っぽい動き」
はあぁ……と降旗が片手で顔を押さえる。コウは斜めに崩れて伏せているが、セイは気にせず四肢を突っ張って体を緊張させている。
「確かにこれは……そんな雰囲気がプンプンと。でもコウくん余裕の表情ですね」
「まあ、格好っていうか体勢の真似だけだから、コウ的にはいつものじゃれあいだと思ってるんだろうな」
おまえもよくやるよ、えらいえらい、と降旗はコウの頭を撫でて褒めた。ぎろり、とセイが降旗を睥睨で威嚇する。攻撃はしてこなかったが。
「お~、怖。絶対これ、邪魔すんじゃねえって思ってるよ」
「まあ、セイくん的にはお取り込み中でしょうからね……。それにしてもセイくん……猫がネコを放棄するとはこれいかに。コウくんは犬なのにネコですし」
「ヤなこと言うなよ……」
「やっぱ飼い主に似るんでしょうか」
と、黒子はそろそろとした動作で二匹が接触している部分をのぞき込み、ほっと息を吐く。
「去勢しておいてよかったですね。何かの間違いで入っちゃったらコウくん大惨事ですよ。猫のアレって大変な構造らしいので。犬は犬で抜けなくなるらしいですが」
「むしろ去勢したせいでセクシャリティが妙な方向に逸れたのかもと思わないではないけど……」
これが人間のエゴの末路か……と降旗がぼやく。しばらく交尾のような動作をしていたセイだが、やがて飽きたのか、あるいは彼としては完遂したということなのか、コウの上から降りて頭のほうへ戻り、甘えるように鼻の周りを舐めだした。コウもまた舌を出して舐め返す。さながらキスでもしているかのようである。
が、突然コウが珍しく機敏な動作で立ち上がると、首を傾げ耳をひくひくと動かし、尻尾を振りはじめた。視線は窓の向こう、続いて玄関へと移る。
「あれ、コウくんどうしました?」
「多分赤司が帰ってきたんだ。音とかにおいでわかるみたいで、気づくとわたわたし出すんだよ」
降旗も立ち上がると、リビングの引き戸のストッパーを外して開けてやる。
「コウよかったなー、パパ帰ってきたのか。セイもパパのお出迎えしてやりな」
犬一匹が出入りできる隙間が開いたところで、コウはちぎれそうな勢いで尻尾を振りながら玄関へと走っていった。続いてセイが、優雅な足取りでコウを追った。降旗と黒子は微笑ましそうに二匹を見送った。
「コウくん、赤司くんに懐いてるんですね。最初の頃、あんなに怯えて硬直してたのに」
「いまでも赤司に抱っこされると固まるけどね」
「え? いまだに?」
「うん。なんかもう、そういうふうに学習しちゃったみたいなんだ。赤司に抱かれてる間は固まってるって」
「でも赤司くんのこと大好きみたいですね、あの喜び方からすると」
がちゃりと重いドアが開く音が小さく響いたかと思うと、キュインキュインという犬の甘え声が聞こえてくる。が、程なくしてそれはピタリと止み、代わりに足あとが近づいてくる。
「パパおかえりー」
ごくナチュラルにそんな挨拶で出迎える降旗の声は甘い。休日出勤を終えて返ってきた赤司だが、疲れた素振りもなく、平然としている。
「テツヤ、来ていたのか」
「はい。お邪魔して――」
います、との語尾が紡がれることはなかった。
リビングに入ってきたスーツ姿の赤司は、借りてきた猫どころか死後硬直まっただ中の死体のごとく固まったコウを片腕で胸に抱いていた。それだけでなく、彼の頭にはセイが前脚を引っ掛けぶら下がるような格好で乗っていた。休日のお父さんを連想させるその姿に、しかし黒子は、
セイくん頭が高い!
……と明後日な驚き方をしたという。
黒子が赤司・降旗ファミリーの平和な日常を見せつけられてから半月ほど経過したある週末――
『黒子ー! う、うちの子が、うちの子が……! セイとコウが! なんか正常位っぽい体勢で絡み合ってたんだけど!? なんかセイ、腰振り習得してたんだけど!? ど、どういうことだろこれ!?』
降旗から慌てふためいた近況報告の電話がもたらされた。黒子は実に面倒くさそうなため息を隠そうともせず電話口で思い切り吐き出したあと、冷めきったトーンで尋ねた。
「……前日の夜にまぐわったんじゃないですか? 飼い主ふたりが」
『え……? ええと……ど、どうだったかな……』
老いたオス犬コウと若きオス猫セイ。年の差、種族、性別の垣根を超越した彼らの愛情の行く末がどうなったのか、それは飼い主だけが知っていればよいであろう。